【ACADEMY】モバイルユーザー獲得入門

AppQuantumのVladislav Samarin氏が,モバイルマーケティングの基礎について探る。ユーザー獲得部門の運営,代理店との協業,モバイルパブリッシングについても

【ACADEMY】モバイルユーザー獲得入門

 モバイルゲームシーンを制する方法は,ユーザーの注目を集め,あなたのモバイルゲームをワクワクしてダウンロードしてもらい,楽しんでもらうことに尽きる。しかし,モバイルゲームデベロッパとしてユーザー獲得キャンペーンを実施する際には,岐路に立たされるかもしれない。そこには,スタジオ内にユーザー獲得チームを設立したり,モバイルマーケティング代理店の専門知識を活用したり,モバイルゲームパブリッシャと協力したりする選択肢がある。

 各アプローチには長所と短所があり,選択すべき道はあなたの具体的な目標とリソースによって決まる。そこで,3つの方法を複合的に検討し,それぞれの利点と欠点を検証していく。


ユーザー獲得チームの責任を探る


 ユーザー獲得に対するさまざまなアプローチを比較する前に,ゲーム業界におけるモバイルマーケティングチームの仕事と,その運営方法について説明しよう。

 ユーザー獲得部門の目標設定はプロダクトから始まる。具体的にはゲームの目的とKPI(重要業績評価指標)を理解することであり,それによってマーケティング戦略が形成される。

ユーザー獲得の担当者はゲームとそのオーディエンスを知るだけでなく,プロジェクトのマネタイズについてもしっかりと把握しておく必要がある

 例えば,あるゲームが1年間で1億ドルの売上を目指す場合,会社はこの目標に基づいて年間計画を設定する。次にユーザー獲得チームは,この包括的な目標を達成するために,マーケティング費用とROI(投資利益率)を計算しながら小さな目標を設定する。

 主な仕事は,広告キャンペーンを最適化し,チャネルを分析し,利益を最大化しながらコストを最小化することである。しかし,これを達成するのは,いくつかのキャンペーンを準備し,広告予算を徐々に使っていくような簡単なものではない。

 トラフィックソースのアルゴリズムの仕組みを理解することは,パフォーマンス指標の改善のために入札を調整するタイミングや,キャンペーンのクリエイティブを置き換えたり,中止したりするタイミングを知るうえで非常に重要だ。キャンペーンを拡大するタイミングと,入札を削減するタイミングを見極めることが不可欠なのだ。基本的にユーザー獲得チームの成功は,これらすべての要素の相乗効果に基づいている。

 キャンペーンの立ち上げと最適化に加え,ユーザー獲得部門の仕事には,戦略的なプランニング,過去のデータの分析,広告プラットフォームとのコミュニケーション,購買における緊急事態の管理(進行中のキャンペーンでインストール単価が急上昇した場合の修正など)が含まれる。

 効果的なトラフィックを購入するため,ユーザー獲得の担当者はゲームとそのオーディエンスを知るだけでなく,プロジェクトのマネタイズについてもしっかりと把握しておく必要がある。ユーザー獲得キャンペーンを効果的に立ち上げ,管理するためには,インストール後の多様な日々においてゲーム内でユーザーがとる行動や,アプリ内課金における消費の実態を理解することが重要だ。この洞察は,今後の継続的な管理と,キャンペーンの準備の両方に影響を与える。

 広義には,モバイルゲームマーケティングにおいて,重要な公式はLTV(生涯価値) > CPI(インストール単価)である。大幅に簡略化され,多くの細かな差異を含んでいるが,それでも多くのマーケターにとって重要な指針となる。例えば,多くのパブリッシャでは,マネタイズチームのように生涯価値を高めることを中心として取り組む部門もあれば,ユーザー獲得部門のようにインストール単価を下げることに努める部門もある。このアプローチは有効だが,最良の結果は相乗効果によってのみ達成される。つまり,会社全体が協力して問題を解決し,成功を目指して互いに助け合うということだ。

 では,社内チーム,代理店,パブリッシャにおけるユーザー獲得の仕組みを見て,各アプローチの長所と短所を探っていこう。


社内ユーザー獲得チーム


利点


収益を分配する必要がない:社内にユーザー獲得チームを持つことは,PlayrixやNextersのようなモバイルデベロッパの規模にまで成長すれば,大きな利点となる。安定性と大量のリソースを自由に使えるので,マーケティングを自分自身で構築し,維持できるのだ。自社のゲームを誰よりも熟知し,収益を分配する必要がなく,自社のチームだけでトラフィックの購入を管理できる。

プロジェクトの知識:社内ユーザー獲得チームの第1の利点は,ゲームとの密接なつながりである。この密接な関係によって,トラフィック購入の結果に基づき,プロジェクトのアップデートを提案できる。彼らは,ゲームを強化するための戦略をマネタイズチームに提案でき,それによってユーザーのモチベーションを高め,ユーザー獲得キャンペーンのパフォーマンスを向上させられる。

長期的な投資:自社のユーザー獲得チームを編成し,アナリティクスやクリエイティブ制作能力を育むことは,現在のゲームだけでなく,将来のプロジェクトへの投資にもなる。これにより,スタジオの持続的な成長と発展のための基礎が築かれる。

欠点


コスト:社内にユーザー獲得チームを設立することは,直接的なマーケティング費用やクリエイティブ制作から,人材の雇用と訓練に至るまで,すべてに自社で投資することを意味する。モバイルゲームのマーケティング費用は,プロジェクト開発費の5倍から10倍と,かなりの額になることが多い。あなたは,そのような資金的コミットメントを事前に計画しなければならない。

必要なリソースの提供:社内のユーザー獲得部門の効率を最大化するには,AppsFlyer,Tableau,Amplitudeなど,マーケティングや製品分析に不可欠なツールをチームに備えることが重要だ。さらに,広告ネットワークとのコミュニケーション,共同投資プロセスの管理,クリエイティブの制作とローカライズを監督する必要がある。このプロセスには,時間,資金,専門知識が求められる。

トラフィックソースに関する専門知識が限られる:一般的に,社内にユーザー獲得部門を設立する場合,すべてを一手に担うことを期待して担当者が雇われる場合がある。このとき,最初は2つか3つの最も大きなソースを介してトラフィックを促進することが多い。その後,ユーザー獲得が一定の利益水準を達成すれば,チームを拡大し,新たなトラフィックソースを開拓するチャンスが生まれる。このアプローチは,担当者がすべての細かい事情をざっと把握するために必要な時間や集中力の不足につながり,困難が伴うかもしれない。


パフォーマンスマーケティング代理店


利点


多様なクライアントからの経験の蓄積:代理店は同時に何十ものプロジェクトを手掛けており,優れた代理店はさまざまなゲームジャンル・カテゴリのクライアントのポートフォリオをたくさん持っている。その結果,代理店のユーザー獲得担当者は広告キャンペーンを管理し,クリエイティブと仕事をするための,より広い視野を持っている。

特定の戦略と情報源に関する専門知識:大規模なモバイルゲーム開発者は,特定の専門知識を求めてパフォーマンスマーケティング代理店と契約することがよくある。これには,SKANトラフィックやWebからアプリへのコンバージョンのような,デベロッパが社内にノウハウを持たない分野が含まれる。

地域特有の専門知識:特定の地域からのトラフィックを獲得するために専門的な知識が必要な場合,現地の代理店に依頼することは有用だ。

クリエイティブ制作:代理店は広告クリエイティブを制作するだけでなく,プレイアブル広告やユーザー生成コンテンツ風クリエイティブなど,複雑なフォーマットも制作できる。

欠点


手数料:代理店は必ずサービス料を請求する。

ゲームに関する深い知識が少ない:一般的に,代理店は社内チームやパブリッシャほど深くプロジェクトに没頭できない。この制限は,代理店が複数のクライアントを同時に扱う外部チームであることに起因することが多い。

長い意思決定プロセス:代理店と関わることは,一般的により長い意思決定プロセスを経ることを意味する。そのため,戦略を練り,調整し,必要な承認を得るために,さらに時間がかかることがある。このようなスケジュールの延長は,市場の変化やゲーム需要の進化への対応を遅らせる可能性がある。

確立されたマーケティング部門の必要性:代理店との効果的なコラボレーションには,自社のマーケティング部門を持ち,KPIを設定し,代理店のパフォーマンスを評価するために必要なマーケティング指標を理解していることが欠かせない。さらに,接続されたトラフィック分析ツールと,AppsFlyerやAdjustのような質の高いモバイル測定パートナー(MMP)を持つことも重要である。これらの要素が整っていない場合,代理店のサポートには限界があるかもしれない。


モバイルゲームパブリッシャ


利点


包括的なプロジェクトへの参加と代理店レベルの専門知識の融合:パブリッシャが提供する専属のプロデューサーは,プロジェクト期間中,実質的にチームにとって不可欠なメンバーとなる。このプロデューサーはゲームを深く理解し,その改善に専念することで,マーケティングチームと開発者の双方へと効果的にビジョンを伝える。

Vladislav Samarin氏(AppQuantumのユーザー獲得責任者)
【ACADEMY】モバイルユーザー獲得入門
広告プラットフォームの専門知識:パブリッシャは多くの場合,大規模なリソースを持っているため,ユーザー獲得チームを,ペイドソーシャル,アドネットワーク,プログラマティック広告など,さまざまなソースに特化した専門グループへと分けられる。

大量のリソース:パブリッシャは一般的に,プロジェクトごとに大量のクリエイティブを制作できるが,社内のユーザー獲得部門にはその余裕がないことが多い。

資金格差への対応:パブリッシャは広告キャンペーンにも資金を提供する。これは多くのデベロッパにとって非常に重要であり,特に開発資金が枯渇し,マーケティングのための予算が残されていない場合はなおさらだ。また,特にゲームのローンチ1年目には,大量のトラフィックと収益を達成するために,効果的なゲームのプロモーションが欠かせない。

事業開発におけるメリット:一般的に大手パブリッシャは,店舗,広告ネットワーク,代理店,そのほかの請負業者の担当者との確立されたつながりを持っている。パブリッシャは収益化,製品開発,コミュニティ管理,技術サポートなど,ほかの側面もカバーできる。

欠点


収益の分配:最も明らかなデメリットは収益の分配であり,開発者は一般的に,ゲーム収益の30〜80%を手放すことになる。理想のシナリオでは,パブリッシャがゲーム全体の収益を増加させることで相殺されるが,プロジェクトが成長しない場合,この取り決めが大幅な収入源につながる可能性がある。

依存:パブリッシャへの依存は,特にパブリッシャがゲームへのサポートを打ち切ると決めた場合に問題となるかもしれない。これは,クリエイティブの納品やトラフィックを失うだけでなく,課金ユーザーを失う可能性もあり,収益の低下につながりかねない。

契約上の制限:パブリッシャとの契約は長期にわたることが多く,相互遵守のもとでの早期契約解消の規定が含まれていない場合がある。このことは,たとえパブリッシャに不満があっても,彼らが契約に違反していない場合,契約を簡単に解消できるとは限らないことを意味する。

潜在的なメリットとデメリットの両方を評価することは,その道があなたのゲームの長期的な目標やビジョンに合致しているかどうかを判断するうえで非常に重要だ

風評リスク:評判が疑わしいパブリッシャや,物議を醸すような行為で知られるパブリッシャと提携すると,ゲームと開発スタジオの両方の評判に悪影響を及ぼす可能性がある。

開発者の集中力と管理力の低下:ゲームがパブリッシャのアカウントに移されると,パブリッシャが最も注目される傾向がある。このため,プレイヤーはゲームがパブリッシャのものであり,実際の開発者は裏方に追いやられたと考えることがよくある。また,パブリッシャと提携すると,一般的にゲームのさまざまな側面に対して干渉しにくくなる。これには,サービスやトラフィックソースに関する決定,使用するクリエイティブの種類,ゲームのマーケティングやプレゼンテーションの全体的な方法などが含まれる。

 これらの要因から,パブリッシング契約を結ぶ前に十分に検討し,慎重に評価することの重要性が浮き彫りになる。潜在的なメリットとデメリットの両方を評価することは,その道があなたのゲームの長期的な目標やビジョンに合致しているかどうかを判断するうえで非常に重要だ。

 次の一手を考えるには,このような質問を自分に投げかけてみよう。どのようなマイルストーンを目指しているのか? いくら稼ぎたいのか,時間とお金を投資する準備はできているのか?

 これらの質問に対する答えは,プロジェクトの将来に大きく影響するかもしれないので,時間をかけて慎重に考えよう。


Vladislav Samarin氏は,AppQuantumのユーザー獲得責任者だ。ビデオゲーム業界で10年以上の経験を誇る。

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