「24Frameの邪道経営哲学」第16回:1万通りのスキルを考える時の哲学
INUMEDAの謎の絞り込み
さて,我々が開発している,我々にとっても謎のゲーム「INUMEDA」は,ざっとまとめると以下のようになる,というのが前回までのお話でした。
- 24Frameの自主制作(インディ)として作られ
- 初日の売り上げが1本だった
- 集めた動物の組み合わせでスキルが発動する
- レトロコマンドRPG型のローグライク
- スキルの発生条件が1万通り以上
「スキルの発生条件が1万通り以上」
というのが,さらに一際クセ者&謎めいています。
作っている作品が我々にとっても謎であるという状況を打破しないことには,右往左往が増えて中々スムーズな進行は難しい……,いや,進行のペースが一般的ではないという所も含めてのインディーだろう,耐えろ,と自分に言い聞かせつつ,とにかく謎に向き合っていくんだ……。
という訳で今回はこの「発生条件が1万通り以上あるスキル」について考えていきたいと思います。
1万通りを超えるスキル
実際には何種類なのか,僕らも正確に把握できていません。しかしゲームは動いています。
本論に入るための準備として「集めた動物の組み合わせでスキルが発動する」という部分を説明しておくと,以下のようになります。
上記の形で発動するスキルが1万通りを超えているわけです。写真にあるように,「INUMEDA」のスキルは通常攻撃よりもはるかに強力な威力を発揮します。これの種類が多いというのは,単にいいことであるような気もします。
まあ数が1万もあると「それどうやって遊ぶんだよ」という謎も発生してきますが,それ以上にこれがより大きな「謎」へとつながっていく所以は,主に下記のような問題から発生してきます。
「1万通り」が引き起こす問題その1=「そもそも作れない」
通常の,メジャーゲーム開発の常識で考えるとこの「1万通り以上」という数字は以下の現象を引き起こします。
・その物量のプランニングは不可能である
・その物量のプログラミングは不可能である
・その物量のデバッグは不可能である
チームの規模にもよりますが,不可能だらけです。実際には理論上の不可能というものはあり得ないので「現実的でない」と言ったほうがいいかもしれません。
仮に運命が分岐して本件を「可能」にしたとしても,その後はおよそ商売にはなりそうにもありません。
これら各セクションの「不可能/非現実的である」の判断は,当然そもそもゲーム作品として制作不可能だという判断に直結します。故に普通の会社では制作が進行しません。そもそも会社の企画会議を通過しませんし,企画会議に提出さえされないかもしれません。
1万という物量は,1人が1日10個ほど作業を完了したとしても1000日がかかることを意味します。
それが,プランニング,プログラム,デバッグというセクション分あるので3セクションで3倍になる。つまり3000日です。
一般的にはこの「のべ作業日数」をスタッフの人数で割っていってスケジュールにするのですが,試しにこれを3人で作った場合,1000日,3年近くがかかった挙句にスキルシステムが完成するだけ,という実情が浮かび上がります。
上記はちょっと乱暴な計算ではあるのですが,普通の会社では前述の予感通り「商売にならない」という理由で,企画会議にかける間もなく却下,となるのは間違いないでしょう。これが「1万通り」という数字の持つ意味なのです。
問題その2:作ったとしても動かない
何とか動いているスキルを移動や戦闘と組み合わせたときに,まずやってくるのは「バグって全体が上手く動かない」という状態でしょう。ちょっと変だった(発動しなかったとか,エフェクトが壊れた)ならまだしも,最悪の場合はシステムがクラッシュしてゲームが強制終了します。
これは別にスキルが1万通りあろうがなかろうが,多くのゲームでプロトタイピングのときなどに現れ出ずる現象ですので驚くにはあたりません。
しかしスキルが1万通りあった場合,何が原因か,理論値ではその1万通りすべてを確認しなおす必要があります。実際にはそこまで極端なことにはならずにある程度の目星をつけながら調査を進めますが,まあ大変さが大幅にアップしていることは間違いありません。
これも結局さっきの議論と同じく「予算がかかりすぎる」という問題へと発展し,プロジェクトの中止へとつながっていくことでしょう。
問題その3:動いたとしても楽しめない
そのときにやってくるのは「1万通りのスキルがあっても,その遊び方がわからない」という問題です。
端的にこのゲームが10時間遊べるゲームとして設計されていた場合,1時間に1000通りのスキルに遭遇しながらゲームをプレイすることになります。1分に17通り,5秒に1回新たな組み合わせのスキルが登場します。
それが面白いかどうかと言えばある意味面白い現象ですが,楽しめるか,となるとこれは相当怪しいんじゃないでしょうか。
なのでこれも普通の会社であれば「何とか作りました」「何とか動きました」からのようやく訪れたユーザーテストなんかで「面白くありません」のフィードバックが繰り返され,やはりここでもプロジェクト中止の憂き目は逃れられそうにありません。
しかし実在しているという謎
上記を説明しながら,まあ大変ですよね,そんなものを作るのは……と思いましたが,ふと我に返ってよく考えたらこれはうちの作品「INUMEDA」の話でしたね。これはに改めてゾッとします。
大きな会社ではありませんから,企画の検討会議等もなく僕が言ったことが進行してしまったのだろう,いい加減な会社だぜ,という風にも見えるかもしれませんが,実情はそれとはまったく異なっていてなかなか強固な合議制です。
そして「作っても面白くはならないだろう」という予想もTGSのロケテストを見る限りは,必ずしもそうなっていないようでもあります。
結果としてこの状況が一番の謎,な訳ですが,その解を求めるには「これがなぜ,どのように制作されたのか」をもう少し掘り返してみる必要もありそうです。
また,現状のシステムに対しもういくつかのパターンでのアプローチが必要な余地もありそうで,この検討は現場では常に進行しているのですが,その詳細は次回以降に綴っていくとしましょう。乞うご期待!