【ACADEMY】ゲームを作らずにゲーム業界に入る方法

マーケティングから資金調達,コミュニティマネジメントまで,直接の開発職以外にも多くの役割やキャリアがある

【ACADEMY】ゲームを作らずにゲーム業界に入る方法

※この記事は,ゲーム業界での生活についての見識や,ゲーム業界に入るためのアドバイスを学生に提供する企画「Get into Games」の一環です。

 ゲーム業界について考えるとき,自然に私たちはゲームを作っている人や会社のことを考え,高度な技術的スキルを持つ人だけが関わる業界だと思いこんでいる。しかし,イギリスだけでも70億5000万ポンド(2022年の英国コンシューマゲーム市場評価額に基づく)の産業なので,中核となるゲーム開発以外にも,業界を構成する多くの活動がある。

 ゲーム業界への就職に興味はあるけれど,技術的スキルが足りないと悩んでいる人にとっても,クリエイティブかつ自分に合った仕事がたくさんある。EGX 2023で行われたパネルディスカッションには,さまざまな仕事に就いている人々が集まり,中には他業種とつながりのある組織に所属している人もいたが,彼らの日常はまさにゲーム業界の一部であった。




ゲーム業界における技術職以外の仕事


 では,ゲーム業界でゲーム制作以外のキャリアを希望する場合,どのような仕事があるのだろうか。パネリストの経歴を見ると,ゲーム会社に資金を提供したり,ゲームのマーケティングやPRをしたり,ゲームやゲーム業界でのキャリアに興味を持つ人を増やすためのコミュニティを作ったりする仕事があるようだ。

●ゲームのための資金調達


 特にチームを編成したり,長年の研究開発を必要としたりする場合,ゲーム制作には資金が必要となる。資金を提供してくれる組織は多数ある。

Nicole Stewart Rushworth氏
 Chris Filip氏は英国映画協会のUK Global Screen Fundで国際事業開発ファンドマネージャーを務めており,映画やテレビ,ゲームなどスクリーンに関わる領域全体に資金を提供している。

 「私の日常業務には,申請書を読み,人々が何を言いたいのかを理解し,そこにチャンスを見出すことが多分に含まれています。それは業界に関わる多くのものを読み,業界の方向性を知ることでもあります」と彼は語った。

 同様に,最先端デジタル技術のイノベーション機関であるDigital Catapultでマーケティングディレクターを務めるNicole Stewart Rushworth氏の仕事には,企業のプロジェクト資金調達を支援することが含まれており,VRやARだけでなく,そのほかの新興技術にも関わっている。

 「VRヘッドセットを試したとき,私は恋に落ちてしまいました」と彼女は言う。「それ以来,私はとても幸運なことに多くのプロトタイプを体験する機会に恵まれ,部屋に人を集めて『これで何ができそうか? これをどのように披露しようか?』と話し合いました。というのも,私たちの仕事の大部分はそれを人々に見せることであり,人々から資金提供を受けることで,皆がより多くのものを作れるのです」

●ゲームPR


 ゲーム制作と同じくらい重要なのは,そのゲームをプレイしたいと思うオーディエンスを確保することであり,ゲームPRは情報発信に不可欠だ。それは単に広告を出したり,メディアやインフルエンサーの注目を集めたりするだけでなく,ポジティブなコミュニティを構築することでもある。

Ella Hagi氏
【ACADEMY】ゲームを作らずにゲーム業界に入る方法
 代理店のYrs Trulyでキャンペーンディレクターを務めるElla Hagi氏の仕事は,クライアントによって異なるが,キャンペーンを考えたりデザインしたりといったクリエイティブなものを多く含んでいる。

 「コンテンツクリエイターをリサーチし,TikTokerを見つけてビデオを作ったり,キャンペーンの計画書を作ったり,イベントをやったり,動画のためにディレクターにインタビューしたりしています」と彼女は語る。「けれども,Eメールは私の生活の中で不変のものです。日々やることは変わりますが,始まり方は同じです。席に着き,受信トレイを整理して,ToDoリストを作り,優先順位に沿って1日を過ごします」

●コミュニティマネジメント


 コミュニティマネジメントは一般的に,開発者がプレイヤーコミュニティとつながることに関連しているが,これはビジネス面でも同様に重要である。

 Hub175は,学生や卒業生を対象とした包括的な大学間コミュニティネットワークであり,交流イベントを通じてゲーム業界への就職を支援することに重点を置いている。

 「私はロンドンでコミュニティを作りたいと思っていました。ゲーム業界はコミュニティがすべてであり,人々が一緒になって楽しむことがすべてなのでぴったりでした」と設立者でCEOのTanya Kapur氏は語る。「学生や新卒など,まさに誰もがクリエイティブな興味や情熱を探求できる場所を提供しています」

 インディーデベロッパはゲーム開発で孤立しがちなので,Northern Ireland Screenの資金提供によるコワーキングスペースであるThe Pixel Millのような空間は,地元の開発者が出会い,協力し,互いに学べる貴重な環境となっている。プログラムプロデューサーのLeela Collins氏は,ワークショップの運営や資金援助など,さまざまな活動でこのコミュニティをサポートしている。

●非開発職で求められるスキルとは


 前述したような仕事には,日々の仕事や責任において大きな違いがあるが,汎用スキルが非常に重要だという点は共通している。これには,コミュニケーション能力,対人能力,時間管理能力などが含まれる。

 まめに働けることは,さまざまなクライアントと関わりながら1日に多くの役割をこなす仕事や,Eメールの受信トレイの整理整頓を必要とする仕事では特に重要となり,後者はパネリスト全員に共通する。

Tanya Kapur氏
【ACADEMY】ゲームを作らずにゲーム業界に入る方法
 「コミュニケーションは多くの事柄に結びついているので,私にとって最も重要なスキルです」とCollins氏は語る。「私はさまざまなタイプの人とのコミュニケーションが可能で,一緒に働くインディースタジオだけでなく,資金力のある人々からの信頼と信用も得られるので,人脈作りの一環として,できるだけ多くの人と知り合いになっています」

 Hagi氏は付け加える。「ゲーム業界で働いていると,汎用スキルを嘲笑し,技術的スキルこそ価値があると言う人が出てきますが,プロセスをスムーズにするためには,専門の技術的スキルを持った人の周りに汎用スキルを持った人が必要です。それがサポート職の魅力でもあります。私たちは奇妙でバラバラな経験を持って業界に飛び込み,ゲーム制作を促進できるのです」

 プロジェクトに資金を提供する多くの人たちと働くRushworth氏は,期待値の管理も自分の仕事にとって重要だと補足した。

 「それは人脈を作ることであり,クライアントがドアをノックしているときに,断固としてノーと言えるようになることでもあります。自信を持ってノーと言うためには,時間と練習が必要です」

 だが,たとえ汎用スキルがあっても,結果を出すためにはより専門的な知識も必要となる。例えば,資金調達のための申請書を読む際には,ビジネスや財務の基礎を理解し,基本的な計算ができたり,エクセルのスプレッドシートが読めたりすることが求められるとFilip氏は説明した。

 コミュニケーションとは,単に人と話せるだけではなく,あなたの考えを理解させるということでもあり,ツールはそのための最も効果的な手段になり得る。以前はゲーム開発に関わっていたFilip氏はこう語る。「エクセルやパワーポイントを使って,自分のアイデアを理解させたい相手に対して,それを伝えられることには価値があります。私は自分の意見を理解してもらうために,今でも日々ツールを使っています」

●サポート職に就くためのアドバイス


 これらの仕事は直接ゲーム制作に関わるものではないが,それでもKapur氏はゲーム開発について学ぶために,Hub175が運営する未経験者向けのゲームジャムへと参加することを勧める。

 「それによってプロセス全体について多くのことを学べますし,自分の創造性を生かしながら,より理路整然と,かつ違った方法で物事を考えられるようになります」と彼女は説明した。「また,チームワークやプロジェクト管理といった汎用スキルを学ぶうえでも非常に重要です」

 Hub175のジャムでは,スピーカーの講演や指導にも力を入れており,参加することで必然的に身につくスキルだけでなく,さらに多くのことを学べる内容になっている。

Chris Filip氏
【ACADEMY】ゲームを作らずにゲーム業界に入る方法
 「ゲームジャムに参加するなら,ほかの参加者と話しましょう」とFilip氏は付け加えた。「ジャムの目的のひとつは,ゲームに没頭するだけでなく,つながりを作ることです」

 このような機会を見つけ出すのは難しいかもしれないが,Collins氏はこうやって自分の仕事で成長してきたという。連絡し,イベントに行き,人脈を広げることは,ほかの機会につながる場合もある。

 「私がワークショップを愛していることをコミュニティに示したかったので,Discordでオンラインコーヒーモーニングを始めたんです」と同氏は説明した。「そのおかげで,業界で必要とされていることへの理解を深め,コミュニケーションをとることができ,信頼性を高められたと思います」

 その後,同氏はNorthern Ireland Screenのワークショップを運営し,参加者に質問を投げかけて,人前で話すことに挑戦してもらうアンカンファレンス(オープンな会議)を企画した。

 「人脈作りとは,ただ助けてくれる人を見つけることではなく,関係を築き,互いに学び合い,支え合うことなのです」と同氏は付け加えた。

 Hagi氏はその意見に同意しながらも,業界関係者に声をかける際は目的を持って行動するようにアドバイスした。

 「誰かに時間がほしいと言われ,1日のうち30分も時間をあげたのに,その人が何を望んでいるのかよく分からないときは最悪の気分です」と彼女はまとめた。「人々に近づいてアドバイスを求めるのはいいことですが,自分が何を求めているのかをよく理解しておきましょう」

※この記事は,特集企画「Get into Games」の一部です。そのほかの講演やパネルディスカッションはこちら,求職者に最適なACADEMYガイドの選りすぐりはこちら(いずれも英文)。

GamesIndustry.biz ACADEMY関連翻訳記事一覧

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら