【ACADEMY】ゲーム声優になるための7つの実践的なステップ

声優かつコーチのJD Kelly氏が,声優志望者に実践的なアドバイスを提供する

【ACADEMY】ゲーム声優になるための7つの実践的なステップ

※この記事は,ゲーム業界での生活についての見識や,ゲーム業界に入るためのアドバイスを学生に提供する企画「Get into Games」の一環です。

 映画・音楽業界に匹敵する巨大な世界的ビジネスとして,ゲーム制作には多くのことが求められる。ストーリー重視でプレイヤーとの感情的なつながりを大切にするゲームが増えるにつれ,質の高い音楽,脚本,演技がより重要になってくる。

 声優かつコーチのJD Kelly氏は,あるゲームの焦点が声優に当たっていると思えなくても,その分野でのチャンスは豊富で多様だとしている。

 「『Half-Life』のように主人公が声を発しないゲームでも,ほかの声優が周りの世界を作り上げる必要があり,それによって無口な主人公の立場になれます」とEGX 2023のゲーム声優によるパネルディスカッションで彼は説明した。

 「名前付きのキャラクターに共感し,感情移入する『The Last of Us』のようなタイトルや,プレイヤーキャラクターの声を選べる『セインツロウ』のようなタイトルがあります。「バルダーズ・ゲート3」ではカスタムキャラクターの声を使うか,ほかの仲間キャラクターになってプレイするかを選択でき,キャラクターはそれぞれの背景を持つので,声優は複数の異なる方法を取らなければなりません」

 プレイアブルではない端役キャラクターの声,クリーチャーボイス専門の役者,あるいは予告編やアワードショーのナレーターやアナウンサーなど,可能性は広がっている。また,鼻声みたいな1種類の声しか持っていないことを悩んでいたとしても,そういった役に就けるだろう。

 声優はKelly氏が「世界で最高の気分」と表現するほど楽しく,自宅スタジオからのリモートワークも可能な参入しやすい職業だが,マイクを持ってキャラクターになりきる以上のことも求められる。ここでは,声優を職業として目指す人たちに向けて,最高の仕事をするための最高の条件だけでなく,長期的に声優を続けるための7つの実践的な注意点を紹介する。

  1. 健康に気をつける
  2. 適切なマイクとオーディオソフトを使う
  3. 部屋を防音する
  4. 練習,練習,練習
  5. 外部の力を借りて学び続ける
  6. 自分自身を宣伝する
  7. 声の仕事を見つける



1. 健康に気をつける


 ゲーム声優は,叫び声や怒鳴り声が多い役も担当する過酷な仕事だ。2016年から2017年にかけてのSAG-AFTRA声優ストライキでは,声のストレスに関する安全と健康への懸念も重要な理由の1つになっていた。

 「自分自身を大切にしなければ,筋肉を痛めたり,腕を折ったりするのと同じように,声を痛めることもあります」とKelly氏は語った。「何時間も叫び続けていて,痛みを感じ始めたのなら,中断して休息を取り,様子を見なければなりません」

 彼はまた,声優の声を楽器に例えて,セッション中のケアと定期的な水分補給を含むアフターケアの両方が必要だと述べた。冷たい水は声帯に負担をかけ,熱いお湯は声帯を刺激するので,常温かぬるま湯を勧める人もいる。声優として,できるだけ多くの仕事を引き受けるのを我慢することは難しいかもしれないが,セッションとセッションの合間に回復のための休息日を設けることも重要だ。

 Kelly氏は,声優にとってメンタルヘルスも同様に重要だと付け加えた。結局のところ,基本的にパッドで覆われた部屋で独り言を言っているような仕事は,非常に孤立しかねない。

 「自分自身の感情やほかの人物の感情を紐解く旅に出ることが多く,自分を高め,信じ,励ましてくれるサポートシステムを持つことは助けになります」と彼は説明する。


2. 適切なマイクとオーディオソフトを使う


 声優はマイクの前に立つのが仕事だが,具体的にどのようなマイクが必要なのだろうか。AAAゲームに関わりたいのであれば,アナログ音声を録音するXLRマイクが不可欠だが,これはコストが高く,XLRケーブルをつなげるレコーディングミキサーのようなオーディオインタフェースも必要になる。Kelly氏は,特にこれから始める人であれば,USBマイクを否定しないという。

「自分自身を大切にしなければ,筋肉を痛めたり,腕を折ったりするのと同じように,声を痛めることもあります」

 「RoadやShureのような企業は最近,本当に優れたUSBマイクを,まさに競争力のある環境で作ってきました」と彼は説明する。「インディー業界でも,企業の宣伝でも,ときにはテレビの仕事でも,とても効果的に機能します。スタート地点としては最適です。予算が限られているのであれば,100〜200ポンド(約2〜4万円)くらいで良いUSBマイクを手に入れられるでしょう」

 声優には,自分の声を聞いたり再生したりして,自分の声の聞こえ方を確認することが求められる。さらに重要なのは,キャスティングディレクターやボイスディレクターにどう聞こえるかを意識し,よりうまくコントロールできるようになることだ。そのためには,デジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)と呼ばれるデジタル音声を処理するソフトウェアが必要となる。Kelly氏はAdobe Suite(現Creative Cloud)の一部であるAdobe Auditionを使っているという。これは高価な選択肢だが,MacのAudacityやGarageBandなど,手頃な価格の,あるいは無料の選択肢もたくさんある。

 「また,効果的な使い方を紹介したYouTubeの動画もたくさんあります」とKelly氏は付け加えた。「多くのマイクは,独自のDAWとセットになっています。だから,もしあなたが技術的なアップグレードや,新規参入に向けた購入を考えているのなら,それを見る価値があるでしょう」


3. 部屋を防音する


 良いマイクを使っても,反響の激しい部屋で録音しては意味がないので,部屋を適切に防音することが不可欠だ。

 Kelly氏が勧めるInstructablesというサイトには,手頃な値段で自作スタジオを作るためのヒントがたくさん掲載されている。自室以外にも,食器棚のように一部を切り離す形や,単に毛布をかけられるように手すりを設置するというのもある。

 「もちろん稼げるようになれば,適切な音響パネルや特注ブースに投資することも考えられますが,最初からやるのはかなりの出費になります」と彼は付け加えた。「私が最初に始めたときは,タオルを干すための3面物干し台を持っていて,その上に布団を掛けてちょっとしたバリアを作り,マイクの周りには枕を置きました。そして,それは機能しました」

 「映画俳優のLiev Schreiber氏は,映画撮影の合間に,ホテルの部屋で声優の仕事をたくさんこなしてきました。日中は映画のセットで働き,ホテルの部屋に戻ると,小さな枕の砦で声優の仕事をするのです。ハリウッドやテレビで活躍するレベルの人でもそうしているのですから,私たちにもできるはずです」


4. 練習,練習,練習


 声優の仕事を得ることは頻繁ではないかもしれないが,たとえオーディションを受けていなくても,毎日マイクの前に立つ練習をすべきだ。

 「そうすることで精神的な障壁が取り除かれるのです」とKelly氏は説明する。「本番で『怖くて自分にできるか分からない』と思うのではなく,『毎日やっているのだから,これが普通だ』と思えるようになります」

 毎日の練習は,それが習慣にすることであり,仕事があるときにだけセットアップするのではなく,常にマイクと録音の準備ができていることを意味する。スタジオのスペースが常態化することで,毎回設置したり撤収したりする必要がなくなり,精神的な障壁がまた1つ取り除かれる。

声優のJD Kelly氏
【ACADEMY】ゲーム声優になるための7つの実践的なステップ
 Kelly氏はまた,声優に可能な練習の例を挙げ,そのうちのいくつかは早口言葉であった。重要なことの1つは,例えば「I never said she stole my money(私は彼女が私のお金を盗んだとは言っていない)」という文章で,特定の言葉を強調するようなものだという。

  • I never said she stole my money ― ほかの人がそう言ったのかもしれない
  • I never said she stole my money ― 彼女にお金が譲られたのかもしれない
  • I never said she stole my money ― メールに書いてあったのかもしれない

 「ひとつひとつの単語を強調することで,文章の意味はまったく変わってきます」と彼は説明した。「それが台本を見るときの能力なのです。どのように台本を解釈しますか? キャラクターがその瞬間に望んでいるものの核心をつかみ,メッセージを伝えるために適切な場所を強調するにはどうすればいいでしょうか?」


5. 外部の力を借りて学び続ける


 自分の考えで練習することは重要だが,Kelly氏はその限界に達することは避けられないとも警告している。1人で学べることは限られている。

 「コーチング,授業,共同作業など,どんなものでもいいです」と彼は言う。「知識を得られる場所があれば,そのたびに知識を得ましょう。地元の劇団の練習グループや,安全な雰囲気の仲間内で,失敗をしたり,声を試してみたり,いろいろなキャラクターを演じたりすることで,役者として成長します」

 世界から逃げ,自分の想像で声を出すことも声優の魅力かもしれないが,より重要なのは外に出て,世界を経験することだとKelly氏は語る。

 「もしあなたが声優や一般的な俳優で,外に出てあまり人生を経験していないとしたら,感情的な経験を引き継ぐために,何を頼りにすればいいのでしょうか」と彼は言った。「人生経験を積めば積むほど,他人に共感できるようになり,登場人物の立場になって考えられるようになり,一般的な生活や人生の歩みについて,さらに多くの共感と知識を得られます」


6. 自分自身を宣伝する


 声優になる理由はマイクの前でキャラクターになりきることだが,それは実際の仕事のほんの一部にすぎない。ほとんどの声優は,そもそも仕事を得るためにオーディションを受けているだろうが,それでも声優は経営者としての意識を持つ必要がある。

「自分自身を露出しないのなら,彼らはどうやってあなたが良い役者だと知るのでしょうか?」

 「自分自身の宣伝をして,こんな風に講演をしたり,コンベンションに行ったりしなければいけません」とKelly氏は語る。「実際にステージで話していない時間は,インディーデベロッパと肩を並べたり,名刺を渡したりして,もっと仕事をもらえないか相談したり,ほかの声優と話したり,業界関係者と話したり,一緒に時間を過ごしたりするのです」

 直接会って話すだけでなく,オンラインで存在感を示すことも重要であり,それにはショーリール(デモ映像)付きの優れたウェブサイトや,SNSでの連絡,あなたのサービスのデジタル店舗などが含まれる。

 「もしあなたがそのようにせず,自分自身を露出しないのなら,彼らはどうやってあなたが良い役者だと知るのでしょうか? あなたの能力を知る方法は? あなたにできることを知る方法は?」


7. 声の仕事を見つける


 自分自身を宣伝することは重要だが,すでに確立されていない限り,ゲーム開発者や企業があなたに声をかけてくるとは思わないようにしよう。ほとんどの場合,あなたは仕事を求めているはずで,最良の方法はタレントWebサイトを利用することだ。

 Kelly氏は,MandyBackstageStarNowを勧め,これらは大手タレントサイトよりも会費が手頃で中堅だと述べた。

 「年間約100ポンド(約2万円)で,企業の仕事,ゲームの仕事,アニメーションの仕事を探せます」と彼は語る。

 また,これから始める人に向けてCastingCallという無料サイトも勧めてくれた。このサイトでは,有料のインディータイトルに出演できることもあるが,声の仕事の種類はファンプロジェクトやファン吹き替えであることが多く,しっかりとふるいにかける必要がある。しかし,これは素晴らしい学習リソースでもある。

 「あなたのオーディションはそこにアップロードされ,誰でも見て,聞くことができます。ほかの人の演技に耳を傾け,彼らがやっていることを知り,何が良くて何が悪いのか,静かすぎるのか騒がしすぎるのか,キャラクターに対するさまざまな解釈を考えられます」

 そして,これはゲームの声優としてのキャリアを得ることが目的かもしれないが,コマーシャルや企業案件も含め,どんな仕事でも引き受ける覚悟が必要だ。

 「商業的な仕事はやりたくないと思っているかもしれませんが,そういう仕事であれば,雇用が途絶えているあいだも業界で活動できます。ゲームに関わるために,仕事を続けていけるお金が得られるなら,やる価値はあるでしょう!」

※この記事は,特集企画「Get into Games」の一部です。そのほかの講演やパネルディスカッションはこちら,求職者に最適なACADEMYガイドの選りすぐりはこちら(いずれも英文)。

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