【月間総括】任天堂の次世代機に対する考察と,PS6での大幅な路線変更への提言

 今月は任天堂の決算について述べたい。

 任天堂の第2四半期決算は大幅な増収増益であった。ただ第2四半期3か月では伸び率は大幅に鈍化した。これは第1四半期が「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の発売で過去最高になった反動によるものだ。そのため業績的には,やや弱かったという印象だ。ただ7年目のゲーム機としてみた場合,かなり健闘しているとも言える。第1四半期でも用いたグラフを見てもらうと,分かりやすいだろう。

任天堂決算資料より(東洋証券作成)

 Switchの販売が上期はわずかながらプラスに転じている。
 一般的には「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」の効果と思われているが,以前も指摘したようにソフトの発売から2か月が経過してもSwitchの販売は好調で,古川社長も謎と話していた動きになっている。

 なお上記の数字には「Nintendo Switch(有機ELモデル) マリオレッド」の売上は含まれていない。マリオレッドは10月6日発売なので,含まれないのは当然と思うかもしれない。しかし一般的な着荷基準では小売店の倉庫に到着すれば売り上げと認識されるので,9月末には初回分は小売側に到着しているのである。
 収益認識基準の変更もあり,東洋証券の推測で30万台程度は第3四半期にズレたと考えている。

 どちらにせよ,2023年上期はゲームのライフサイクル的にも特異な動きをしたことは間違いないと言えるだろう。
 第3四半期は前年比で30〜40%の減少を想定しているので,さすがにプラスの維持は難しそうだ。それでも第3四半期には,「Nintendo Switch Lite あつまれ どうぶつの森」が投入されるなど,日本ではそれなりに健闘した。

 任天堂はゲーム機のライフサイクルの終盤で何を行えば落ち込みを抑えられるか,分かりつつあるように思う。
 過去,Wiiの終盤で任天堂は着地が業績計画を下回ることが続出した。これはWiiの販売が落ち込んだことを踏まえると,同一モデルを継続的に売ったのでは時間経過ともに買う理由が乏しくなったためだと考えられる。筆者が提唱する形仮説ともマッチしていて,デザインを変えると販売が増加することとも一致する。

 これらを踏まえると,ハードに勢いのある状態で次を考えるべき時期に来ているように思う。ただPC市場を見ていて思うのは,Switchのコンセプトを真似たと思しき製品が複数発売されるようになっていることだ。
 これらの製品は,PCゲームを遊ぶという位置づけだが,デザインや遊び方はSwitchに類似している。ゲームソフトでゲーム機を買うという従来の常識では,こういったゲーム機(PC)が登場する理由が説明できない。Switch類似品はゲーマー向けPCよりも性能で劣るのでわざわざ購入する必要がなく,ゲーマー向けPCでいいはずだ。価格というのなら安価なPS5やXbox Series で良いとなるはずなのに,ニーズがあると見るから複数のメーカーが参入しているのである。

 また,スマートフォンの台頭で携帯ゲーム機はなくなると思われたが,2023年現在でもSwitchはメインストリームである。ユーザーからも好評だ。

 ネットでは,ゲーム機が売れる条件として性能と価格が連呼されているが,性能に変化がなく,価格が上昇(日本のみ)した新型PS5の販売は好調に推移している。性能強化ではマスに売れないことは明らかである。

 PS5の上位バージョンの報道も出ているが,デザインやサイズを考えると,PS5 Pro(仮称)がPS5の現状を覆せるか,かなり難しいと思う。少々話が逸れた。現時点で次世代機がどのようなものになるかはまだ分からないが,以上のことを考えると任天堂は次世代機で著しい高性能を追求しない方が良さそうである。

 幸い,任天堂はPSのようにユーザーに優越感を与えるようにマーケティングしていない。次世代機も幅広い人たちをターゲットにするだろう。ならばSwitchの路線を活かしつつ,デザインを一新するのが良いのではないかと,筆者は考える。

 形仮説を再度まとめておくと,

(1)ゲーム機に見えるデザイン
 多くの人に理解して頂いたと思うが,PS5はゲーム機に見えない。売れ方がインテリアのようになってしまい,筆者の若干想定外だった部分もあるが,結果としてゲームソフトが売れないことにつながった。
 一方,Switchは誰が見てもゲーム機であり,1.3億台ものセールスを達成し,ソフト販売も今上期は販売増が続いている(ソニーグループと任天堂で基準が違うため比較できないことに注意が必要)よって次世代機は少なくともゲーム機に見える必要がある。外見とストレージの容量設定を誤った結果,ソフト販売が低迷したPS5の悲劇は何としても避けるべきだろう。

(2)厚みや狭額縁に対するユーザーの感応度は高い
 Switchやスマートフォン,タブレットそしてテレビは狭額縁になるほど販売は改善した。次世代機では本体の厚さは薄く,ベゼルも狭いほうが良いと考える

(3)性能は極端に高い必要はまったくない
 Wii Uのころは高性能化してサードパーティを呼び込む必要性があると思われていた。だが,Switchには「Call of Duty」も「Final Fantasy」も「サイバーパンク2077」も出ていないが,ユーザーには人気で1.3億台のセルインである。

 現状,日本語で適切な言葉がないので,筆者の造語になってしまうが,今後はDLSSやFSRのような「仮想性能」による高解像度ゲームソフト動作が増えるだろう(超解像では単なるアップコンと言われるため,4Kを表現できるという意味で仮想性能とした)。そうなると,TFLOPSレベルの性能を持つCPUやGPUは意味を成さなくなるはずだ。

 なお,先月も書いたが,AAAタイトルはハードの牽引効果が限定的で勝敗には影響がない。Switchが売れたからマリオやゼルダが売れたのであって,逆ではないのだ。サードパーティにしても,ソニーからの支援を受けたうえで,任天堂の次世代機に出さないと客に買われないのである。サードパーティがPS5のヒットを当て込んで苦しくなった2023年の経験を活かさず,今後もSIEの支援に頼るのであれば,仕方のないことだが,今後の資本市場で評価されるだろう。

 以上となるが,任天堂がどのような施策を2024年に打つか,楽しみである。


 残りは2024年の展望に少し触れたいと思う。東洋証券では12月27日に「鬼が笑わない 〜2024年の大予想〜」と称したセミナーを開催した。
 後日アーカイブも掲載されるので,東洋証券のYouTubeチャンネルを参照してほしい。

 ここでも触れたが,世間で心配されているほどPS5の2024年は悪くはないと思う。在庫も多く,販売計画は達成が困難だった2023年度に比べると状況は改善するだろう。その一番の理由は,2024年度のPS5の販売計画は恐らくかなり現実的なもの(東洋証券では1850万台想定)になるはずだからだ。

 ソニーグループのゲーム事業のバランスがおかしくなったのは,PS5の販売台数を2500万台という著しく高い事業計画立ててしまったことにある。
 背景にはPS5は素晴らしいゲーム機で,PS4を下回っているのは半導体不足で必要量を作れなかったからだという考え方だ。しかし現実はそうでないことを示しつつある。
 旧型を上回る新型PS5のセールスだが,それを持ってしてもPS4以上の結果を産み出せそうにない。

PS3〜5の新型発売前後の推移 (ファミ通調べ)

 12月20日にPS5の実売が累計5000万台を超え,ブラックフライデーセールは過去最高だったと発表もあった。アメリカにおける11月の実売は2桁減だったようなので,この矛盾する動きから推測するに,旧型が不人気で新型PS5が好調だったと考えた方が良さそうだ。

 これは,新型PS5は状況を打破できないにしても旧型よりは売れるだろうと筆者が予想した通りになったと言える。おそらく十時氏やソニーのIRは第3四半期決算時に新モデルの成功を高らかに強調するはずだ。

 繰り返しになるが,旧型PS5は大きすぎてゲーム機に見えない。よって小型化されれば状況は改善されるだろうと予測し,現状はまさにそうなったと言っていいと思う。

【月間総括】任天堂の次世代機に対する考察と,PS6での大幅な路線変更への提言

 ここ3年ほどPS5の批判をしているので,筆者がゲーム事業を過激に批判する人間だと思っている人も多いかもしれない。だが実際には,理論に基づいて単純に予測しているだけなのである。

 ジム・ライアン氏の退任が決まった今,SIEは現実的な数字を出しやすい環境になっているので,十時氏は今後無理をしない方針を貫こうとするだろう。

 ただ戦略ミスは戦術では挽回できないので,PS6までいかに凌ぐかに重点が移るはずである。そして先月も指摘したが,PS6ではこれまで行ってきた極一部のユーザーの優越感を維持するのかどうかが焦点になるだろう。この30年間でゲームビジネスは巨大な規模になった結果,PSプラットフォーム上でビジネスを展開するサードパーティは数百億円を超える膨大な開発費をどう回収するかが課題になっている。

 サードパーティとの対話を通じて感じるのだが、ライフサイクル全体で1億台程度の普及台数では、巨額な開発費を回収するのが非常に難しいと認識されている。PS4までは,PC版やXbox One版も出すことで収益をあげられていた。しかし,PS5世代ではこれらを足しても膨れ上がった開発費を回収できるか不透明な状況になっている。このままPS6世代に移行したら,これらを足し合わせても膨れ上がる開発費を回収できなくなるだろうと,東洋証券では予測している。

 ソニーグループは,この問題の解決策を提示する必要がある。根本的な解決策を提示するのは難しいだろうが,PS6だけでもより販売台数を増やす方向に舵を切るべきだ。

 しかし,性能やソフトのラインナップで特定のユーザーの優越感を得るマーケティングとは相性が悪い。ここをどうするのか考える必要がある。東洋証券としては,PS6は小型軽量据え置き機とし,よりマス向けにビジネス展開を行うことを提案したい。小型軽量の据え置き機であれば,多くのユーザーにコンシューマゲームを楽しんでもらえるはずである。
 そうすれば,高性能化で開発費も肥大化し,ユーザーの期待を過大に膨らませてしまったビジネスから脱却できるだろう。

 2024年は現行機の中間期に当たると考えている。
 まだ性能のアップグレード路線は続くと思うが,その路線が誤りだったことを教えてくれることになるはずだ。そして,それはPS5の冬の時代がまだ続くことを示している。今回こそはPS3のようにハードが売れたから頑張った,で終わらせてはならないと思う。ソニーグループとSIEの路線変更が表に見えるようになるには,もう少し時間が必要そうだ。