【ACADEMY】あなたのゲームのマネタイズ方法は(EUと英国で)まだ合法か?

Lewis SilkinのFleur Chenevix-Trench氏とNick Allan氏が,ゲーム開発者とパブリッシャが注意すべき最近のEUと英国の消費者法改正について解説する

【ACADEMY】あなたのゲームのマネタイズ方法は(EUと英国で)まだ合法か?

 最近,EUと英国の立法府が活発な動きを見せており,お互いを凌駕しようと,ことあるごとに新しい法律を導入している。また,ゲーム業界に関連する規制活動や取り締まりも活発化しており,消費者規制当局はテクノロジーやスタッフへの投資によって能力を高めている。

 こうした動きは今後も衰えることがなさそうなので,さらに多くの法改正が行われる可能性があり,規制当局もさらに関与する準備を整えている。

消費者法の規制による新たなリスクを軽減するためには,マネタイズ方法の見直しが求められる可能性がある

 EUと英国の消費者法制委員会はデジタルの世界に注目しており,ゲーム業界は規制当局の最重要課題となっている。ゲーム開発者とパブリッシャは,この状況を把握し,自分たちのマネタイズ方法がコンプライアンスに適合しているか,あるいは今後の変更によってそれを維持できるかを確認する必要がある。

 とくに,規制当局には新たな権限が与えられ,罰金は大幅に増加しており,彼らはサブスクリプションモデルや,ユーザーインタフェースにおける,いわゆる「ダークパターン」を注視している。

 消費者法の規制による新たなリスクを軽減するためには,マネタイズ方法の見直しが求められる可能性があり,プレイヤーの信頼とロイヤリティを勝ち取るために,最適な形を先導する企業も出てくるだろう。

 心配する必要があるのは,英国を拠点とするパブリッシャだけではない。GDPR(一般データ保護規則)と同様に,消費者法はパブリッシャの所在地にかかわらず,英国とEUのプレイヤーを保護するために適用される。

 では,何が新しくなり,何に気をつける必要があるかを見ていこう。


【ACADEMY】あなたのゲームのマネタイズ方法は(EUと英国で)まだ合法か?


英国で新しく制定された消費者法とは


 英国の立法府は,消費者分野における新しい法律の導入において,EU諸国の立法府と比べて遅れをとっている。これは,英国の消費者関連法がすでにかなり幅広く,規制当局の指導があれば,進化するオンライン世界に合わせて,かなり迅速に柔軟性を持たせられるからかもしれない。例えば既存の法律では,不公正な行為や誤解を招くような行為を禁止しており,どのような行為が問題となるかを判断するうえで,競争市場庁(以下,CMA)に幅広い権限が与えられている。

 しかし,多くの研究,影響評価,協議を経て,英国政府はデジタル市場・競争・消費者法案を議会に提出することを決定した。

 2023年4月25日に公布された法案は,既存の競争法および消費者規制に加えて,抜本的な新しいデジタル分野の規制を導入しており,とくに不公正な慣行を規制する現行の英国消費者法に取って代わるものだ。現時点では草案であり,まだ法律として成立していないので変更されるかもしれないが,来年中には実質的に今の形で成立する可能性が高い。

 消費者法およびゲーム業界の観点から,注目すべきポイントは以下の通りだ。

規制当局の直接的な新しい権限と罰金


 CMAは新たに,苦情を申し立てたプレイヤーに補償金を与えられるようになり,消費者保護法違反に対して金銭的な罰則を直接科す権限を持つことになる。とくに,グローバル年間売上高の最大10%(EUにおける同様の制裁金を凌ぐ)という高額な制裁金の可能性が注目されている。これは書類上,GDPRのリスクさえも上回る大幅な増加であり,すべてのゲーム業界における取締役会の議題として,しっかりと扱われるべきだ。

 法案はまた,裁判外紛争解決に関する規定も含んでおり(消費者が企業に対して行動を起こす能力が高まることを意味する),CMAのデジタルマーケットユニットを法定化することとなる。

 これほど高額な罰金が待ち構えている以上,消費者法を遵守しないことは,もはや選択肢ではなくなっている。CMAのリソースが高まっていることで,執行リスクも増すだろう。

サブスクリプションに関する新ルール


 サブスクリプションモデルは,提案された新法のもとで,はるかに規制が強化される。この法律にはサブスクリプション(および無料トライアル)についての新たな規則が含まれ,より具体的にはサブスクリプション情報,リマインダー,通知,解約に関する規則が含まれる。

  • 契約前の情報

 契約前の情報については,消費者に「契約前重要情報」を提供することを含む,より詳細なルールが新たに設けられる。この情報には,自動更新の仕組み,最初の試用期間後に適用される料金,支払額と頻度,プレイヤーが解約する方法の詳細などに関する情報を提供することが,(とりわけ)義務付けられている。

  • リマインダー通知

 支払いが6か月ごと,またはそれ以上の頻度で行われるサブスクリプションについては,少なくとも6か月に1回は督促状を送付しなければならない。これは,(支払いの頻度にかかわらず)最初のサブスクリプション更新時にも送付が必要だ。支払いの頻度が6か月に満たないサブスクリプションは,更新のたびに督促状を送付する必要がある。

 これらの督促状では,サブスクリプション契約が継続されること,プレイヤーが契約終了の手続きを取らない限り,更新料の支払いが発生することを説明しなければならない。督促状には,更新料の支払期日と,プレイヤーが支払うべき金額だけでなく,前回の支払額と比べて価格が上昇した場合の詳細や,消費者が次回の支払い義務を負う前に契約を終了する方法の詳細についても記載しなければならない。また,これらの督促を実施する時期についても,詳細な規定がある。

  • 契約の終了

 解約も容易でなければならない。消費者はサブスクリプション契約を終了するために,不合理な手段を講じることなく,1回のコミュニケーションで解約できるべきだ。

  • クーリングオフの権利

 消費者は,新たにクーリングオフの権利(クーリングオフ期間中に,いかなる理由でも違約金なしで解約できる権利)を持つことになる。また,これらの権利に関連する契約前情報を,消費者に提供しないことは犯罪行為となり,情報提供の不履行が同意や共謀,あるいは怠慢によって起こった場合,会社役員は責任を負う可能性がある。

 したがって,もしあなたのゲームが何らかの形の有料更新サブスクリプション(または無料トライアルに続く有料サブスクリプション)に基づいているなら,この遵守のために実務をアップデートする必要がある。

新ルールのその後


 法案には,モバイルゲームと最も関連の深い,偽のオンラインレビューの公表を防止するための新たな規定(後述するEUのオムニバス指令でカバーされているものと同様)が盛り込まれると予想されていた。今回の法案はオンラインレビューに関する規定を含まないが,政府のプレスリリースによると,そのようなルールが導入される可能性がある。

 法案には,国務長官が不公正な「禁止行為」を新たに追加する権限が含まれており,オンラインレビューに関する規則が制定されることを予想できる。

 また,消費者保護事件についても,競争事件と同様,集団的救済制度の導入を求める声がある。現在の法案には,そのような精度は含まれていないが,利害関係者は法案の改正を注視し,事態の推移を見守る必要がある。

 これが導入されれば,権利を侵害されたプレイヤーの集団が,法案に基づく義務を遵守していないゲーム会社に対して集団訴訟を起こすという,現行の消費者法に規定されているよりも効果的な手段が生まれる。

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EUの最新情報


 EUの立法府は,2020年1月に「オムニバス指令」を導入し,ブレグジット後すみやかに消費者法の軍拡競争を開始した。今となっては少し古いニュースだが,前述した英国の新たなDMCC法案との相関関係(関係がない場合もある)を踏まえて,再考する必要がある。

 消費者法およびゲーム業界の観点から,注目すべきポイントは以下の通りだ。

EU規制当局に新たな権限と罰金


 英国の新法案と同様に,オムニバス指令は高額の罰金を導入している。加盟国は,特定の広範な違反に対して,企業へと罰金を科すことを認めなければならない。ほとんどの場合,罰金の最高額は違反が発生した加盟国における事業者の年間売上高の少なくとも4%,または売上高情報が入手できない場合は少なくとも200万ユーロとしなければならない。

 また,オムニバス指令は,消費者が不公正な商慣行によって損害を被った場合に,個人的な救済権を与えている。

新ルール


 オムニバス指令は多くの新規則をもたらしており,最新の話題ではないので詳細は省くが,ハイレベルでの変更はオンラインにおける消費者向けの透明性に焦点を当てたものだ。

 興味深いことに,オムニバス指令は英国の法案では扱われていない新たなルールを導入した。例えば,商品ランキング,オンラインレビュー(英国の法案には含まれていないが,近い将来に扱われることが予想される),マーケットプレイス,パーソナライズされた価格設定,値下げなどについてだ。

 英国とは異なり,EUの消費者は新しい集団的救済指令のもとで,集団的救済の権利も与えられている。つまり,米国の集団訴訟のような規模にはならないだろうが,EUの消費者法を遵守していない事業者に対する集団的請求が増える可能性がある。

新ルールのその後


 英国のDMCC法案とは異なり,オムニバス指令はサブスクリプション慣行には言及していない。しかし,このような問題は,ある程度までは,現地の法律やより広範なEU消費者法によって,すでに対処されている。

Nick Allan氏はLewis Silkinのパートナーだ
 しかし,EUの立法府は現在,オムニバス指令に具体的なサブスクリプションルールを盛り込まなかったことを後悔しているようで,英国の新法案に負けず劣らず,EUの立法府によるサブスクリプション慣行に関するさらなる法改正は期待できそうだ(後述)。

 また,英国をはじめ,各国で長年議論されてきたルートボックス(ガチャ)問題についても触れておきたい。英国のルートボックスに関するワーキンググループは先日(UKIEを通じて),待望の有料ルートボックスに関する11の業界原則を発表した。これは今のところ自主的なものだが,今後1年程度で業界による遵守が広まらなければ,英国政府は最終的に法制化するかもしれない。

 これまで,ルートボックスに関する規制は,ギャンブル法に最も関連する問題とみなされてきた。しかし,代わりに消費者法のもとで扱われる可能性は十分にあり,そのほうがより適切だと私たちは主張したい。


英国やEUでは今後どのような規制が導入されるのか


 英国の立法府は今のところ新法案に満足しているようだが,CMAが既存の広範な英国消費者法に基づいて精査する新たな分野がいくつか出てくると思う。これらの新しい分野のひとつは,CMAが「オンラインチョイスアーキテクチャー」と呼ぶもので,より広範に世界中で「ダークパターン」と呼ばれているものだ。

 ダークパターンとは,意図的であれ無意識であれ,プレイヤーを特定の(有害な)決定や行動に導く可能性のあるデジタル環境や,ユーザーインタフェースのデザインのことである。例えば,プレイヤーがゲーム内のポップアップを通じて,ゲーム内課金をするよう圧力をかけられたり,惑わされたりした場合,これに該当するかもしれない。

Fleur Chenevix-Trench氏はLewis Silkinのシニアアソシエイトだ
 CMAは,オンラインチョイスアーキテクチャーの問題を解明するために,さまざまなディスカッションペーパーやエビデンスレビューに時間と資金を費やしてきた。また,有害なオンラインチョイスアーキテクチャーに焦点を当てた「コンプライアンスアドバイス」を示す英国企業向けのオープンレターを発行した。

 したがって,英国のDMCC法案にはダークパターンやオンラインチョイスアーキテクチャーに関する具体的な規定は含まれないかもしれないが,現行法に基づく規制措置がとられることは間違いない。

 EUの立法府もオンライン上の操作における慣行を懸念しているが,英国とは異なり,これらの慣行に対する具体的な法制化を検討している。ダークパターンは,すでにデジタルサービス法(DSAとして知られる)で禁止されており,EU域内のプレイヤーへと提供される多くのビデオゲームに適用される。EUは今後,消費者法の分野でこの規則をより広範に拡大することも視野に入れている。

 EU委員会は現在,「デジタルの公平性に関するEU消費者法の適合性チェック」に関する公開協議を終えており,その結果,ダークパターンとサブスクリプション慣行がさらなる法改正の最重要課題であることが示唆されている。コンサルテーション回答者の88.7%がWebサイトやアプリのデザインが分かりにくい,または欺瞞的だと指摘し,69.4%がサブスクリプションの解約が困難だとしている。


マネタイズ方法を見直すべき主な論点


 つまり,多くの法律が変わっている! しかし,現実的に言えば,ゲーム開発者やパブリッシャが気をつけるべき問題は何だろうか。ここでは,あなたが尋ねるべき質問のいくつかを紹介する。

偽のレビュー


  • 消費者レビューを許可しているか。許可している場合,そのレビューが本物だと確認する方法は?
  • 消費者/ユーザーレビューの内容に関する監視ポリシーはあるか
  • あなたの監視ポリシーが,肯定的/否定的な消費者レビューを歪める可能性はあるか

オンラインチョイスアーキテクチャー/ダークパターン


  • あなたのゲーム,Webサイト,アプリは消費者を操作しているか(フォントの大きさやボタンの色など,一見すると何の変哲もないことかもしれない)
  • ゲーマーにプレッシャーや影響を与えて,長時間のプレイや購入を誘発しているか
  • ゲームはどのように収益化されるか。その仕組みは消費者にとって最初から明確か
  • 基本プレイ無料コンテンツは本当に無料なのか
  • さまざまな製品を販売している場合,製品リストをどのようにランク付けしているか
  • 購入オプションがある場合,UXは明確か。それともおとりや選択肢の過多,感覚的な操作があるか
  • 仮想通貨をどのように使っているか
  • どのようにユーザーとコミュニケーションしているか。複雑すぎないか?
  • プロンプトやリマインダーをどのように使っているか。それらは役に立っているのか,それとも嫌がらせになっている可能性があるか
  • あなたのUXはパーソナライズされているか。それを消費者は知っているか?

サブスクリプション


  • サブスクリプションの仕組みは?
  • 料金は明確か。それとも「隠れた」料金があるか
  • サブスクリプションは自動更新されるか。その場合,いつ,どのように消費者に伝えるか
  • サブスクリプションのリマインダーをどのように使っているか
  • ユーザーはどのようにサブスクリプションの更新を終了できるか
  • サブスクリプション料金を支払っているにもかかわらず,長期間にわたり非アクティブのユーザーについてはどうするか

そして最も重要な質問


  • もしあなたがプレイヤーだったら,ゲームやWebサイト,アプリのインタフェースを使う時に,少しやりにくさを感じたり,混乱したり,あるいは操作されていると感じるか

消費者法はあらゆる種類の慣行を包含している。そのような慣行を法的に正しい側へと引き込むために,あなたができる小さな変更があるかもしれない

 特定の慣行を取り締まる法律は存在しないかもしれないが,消費者法はあらゆる種類の慣行を包含する広範な法律だということを忘れないように。そのような慣行を法的に正しい側へと引き込むために,あなたができる小さな変更があるかもしれない。

 リスクベースのアプローチをとりたい場合は,立法と規制の焦点が現在どこにあるのか,この記事を読めば分かるだろう。しかし,消費者規制に関しては,ゲーム会社はまさに規制の最前線にいるため,どのように変化していくかを常に把握しておこう。

 オンライン規制のエコシステムは,ますます複雑になっている。デジタル時代は多くの問題を投げかけ,立法府や規制当局はそのギャップを埋めようと躍起になっている。この記事では,最近の消費者法改正の一部を取り上げたが,とくにデータ保護(英国の児童保護規制など)やオンラインセーフティ(議会を通過中の英国オンラインセーフティ法案EUのデジタルサービス法など)の観点から,さらに重複する改正も(できれば矛盾しないように)行われている(今後も行われる)。

 立法府や規制当局はこれまで,あまり連携してアプローチをとっていないので,ゲーム業界の企業は,どのような現実的な変更を行う必要があるのか,あるいは大問題に巻き込まれるリスクがあるのか,全体像を把握する必要がある。現在では非常に高額な罰金も存在するので,もはや評判の観点からだけではない。


Nick Allan氏は法律事務所Lewis Silkinのパートナーであり,インタラクティブエンターテインメント業務を担当している。商業,知的財産,規制の問題について,ゲーム会社に定期的なアドバイスを行っている。Fleur Chenevix-Trench氏は,ロンドンにあるLewis Silkinのデジタル・コマース・クリエイティブチームのシニアアソシエイトだ。メディアエンターテインメント分野のクライアントと定期的に仕事をし,商業,消費者,規制に関するさまざまな問題についてアドバイスしている。

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