日本のインディーズを支え続けた10年:BitSummitのストーリー

今週,京都の恒例行事として11回目を開催するにあたり,共同設立者のJohn Davis氏がイベントの成長と将来について語る

日本のインディーズを支え続けた10年:BitSummitのストーリー

 2012年当時の日本のインディーゲームに目を向けると,現在とは異なる姿が浮かび上がってくる。海外と比べて実力は遜色なかったが,私的で小規模な活動であり,国内外における商業的・文化的な意識に欠けていた。

 キュー・ゲームスは例外で,創業時からセルフパブリッシングに取り組み,のちにソニーとのパートナーシップによって,人気の「Pixeljunk」シリーズをPS3のインディーゲームにおける傑作の一つとして生み出している。スケジュールが空いていたこともあり,キュー・ゲームスはほかのスタジオと同じように,地元の京都でBitSummitという独立系クリエイターの努力の結晶を紹介するインディーゲームイベントを立ち上げた。

 ストーリーはもう少し複雑なのだが,それはイベントの共同設立者であり,さまざまな顔を持つJohn Davis氏が説明する(彼はコンサルタントとして働く傍ら,最近設立された日本のインディーゲームパブリッシャである集英社ゲームズのPRも担当している)。

 「PAXのようなイベントで海外に行く機会が少しあり,2000年代初頭から批評的にも財政的にも盛り上がってきたコミュニティを見ていました。しかし,同じことが日本では起こっていなかったのです」と彼は語る。

 「全員が非常に狭量で,自分の取り組みに専念していて,一緒に仕事をしたり,互いに宣伝し合ったりはしませんでした。大手デベロッパから小規模なスタジオへの大きな流出もありませんでしたし,流出があったとしてもグラスホッパー・マニファクチュアのような中堅スタジオでした。日本ではもともと同人や趣味の文化だったので,小さなチームが集まる機会は少なかったです」

「インディーズに行くことは,悪口のようなものだったと知っていますか。(中略)私たちは人々を集めて一緒に強くなろうと,“上げ潮はすべての船を持ち上げる”みたいなことをしようと思ったんです」

 「インディーズに行くことは,悪口のようなものだったと知っていますか。任天堂で働きたい,バンダイで働きたいと,皆が言います。だから私たちと(BitSummitの共同設立者である)James Mielke氏は,人々を集めて一緒に強くなろうと,“上げ潮はすべての船を持ち上げる”みたいなことをしようと思ったんです」

 パートナーシップや緊密な関係も,BitSummitの成功に寄与した。2013年に小さな会場で始まったイベントだが,ソニーが大々的にスポンサーとなったことで,参加者や報道関係者は勇気づけられ,その後の開催にも役立った。また,ほかのスポンサーがイベントの支援に前向きになることも保証された。

 4回目の開催時には,Unity,Cygames,Xbox,Devolver Digitalなどが主要スポンサーとなり,各社は初回から10年以上にわたって運営をサポートしている。イベントはスポンサーシップによって非営利で存続しており,開発者が作品を展示するテーブルスペースの費用はわずかなものだ。さらに,Indie MegaboothやTaipei Game Show,Day of the Devsなどのスポンサーシップを通じて,アジア全域のインディーデベロッパへと参加者を拡大している。

 日本における同種のイベントの先駆けとして,最初のショーの目的は,単純に人々を同じ部屋に集め,日本の独立系クリエイターの実力を国内外のメディアに示すことだった。

 2013年春に開催された第1回の終了時には,ファミ通のような日本のメディアだけでなく,WiredやKotakuからもレポートが寄せられ,イベントが広く認知された。業界内での密接な関わりのおかげで,SUDA51やValveがゲストとして参加し,ゲーム開発とSteamの内部構造について参加者にアドバイスしたことも大成功につながった。Davis氏は「イベントを前向きに進めるための大きな後押しになりました」と述懐する。

 BitSummitは,インディーデベロッパだけの小さなイベントから,その後の数年で30以上のスポンサーを持つ毎年恒例の大きなパブリックイベントへと成長し,行政の支援を受けて京都市勧業館「みやこめっせ」の3階で複数日にわたって開催されるようになった。設立当初は約30人の開発者が参加し,講演とデモプレイに分かれた1日限りのイベントだったが,今年は3日間で100本以上のゲーム(実行委員会が招待した90本とスポンサータイトルの合計)が出展される予定だ。

 また,今年は2016年以来となる7月に開催され,これは日本で最も有名な祭りの一つである伝統的な祇園祭の最盛期だ。イベントの参加者にとって京都がどれほど慌ただしくなったとしても,おそらくふさわしいことだろう。京都は伝統とモダンが融合した歴史的な都であるだけでなく,日本のクリエイティブな中心地でもある。通りを歩けば,日本の伝統的な建造物や神社仏閣と並んで,洗練された近代的なインフラやショッピングセンターを確認でき,日本のほかのどこにもない独特な魅力がある。

BitSummit共同設立者のJohn Davis氏
日本のインディーズを支え続けた10年:BitSummitのストーリー
 歴史的な建造物が保存されていることで,平時であっても街には落ち着いた雰囲気が漂い(清水寺のような最も人気のあるスポットで群衆をかき分けることができれば),今年の参加者は日本のインディーズの未来に飛び込む前に,歩行者天国となった市街地で日本の宗教的な伝統を楽しめる。

 京都は豊かな都市だが,京都が経済的にユニークなのは,伝統的なルーツとクリエイティブなルーツの両方で繁栄していることにある。京都は日本で3番目にスタートアップ企業が多い都市であり,着物を使った伝統工芸から,任天堂のような大手,キュー・ゲームスのような企業まで,あらゆるものがアイデアとコラボレーションに開かれているクリエイターの拠点だ。実際,2010年代初頭の日本では,インディーゲーム開発は一般的に閉鎖的であったため,Davis氏は京都と関西圏のクリエイティブな意欲が,イベントにおける最初の成功の要因だと評価している。

 「小規模で独立した伝統工芸を営む地元の企業がたくさんあります」と彼は説明する。「関西にはクリエイティブな精神が浸透していて,人々が自力で何かを成し遂げることを,あまり恐れていない場所だと思います。この地域のデベロッパを説得するのは難しくなかったですし,キュー・ゲームスと任天堂のような既存の関係もありました。最初のイベントのスポンサーにはなってもらえませんでしたが,全員と良い関係を築けましたし,リスペクトもありました。最初のイベントには,日本のインディーズや同人をたくさんパブリッシングしているPlayismのような会社と地元のデベロッパが参加しました」

 「もともと関西のイベントだったので,東京に広まるには時間がかかりました」と彼は続ける。「海外駐在員のコミュニティは常に緊密で,とくに(ゲームのローカライズ,パブリッシング,開発を手掛ける)ハチノヨンは東京に本社を持ち,多くの人を集める傾向があります。関西では毎週,イベントやミートアップが開催されていましたが,Alvin Phu氏(東京インディーズの設立者)のものと同じような雰囲気はありませんでした。しかし,もし私たちが東京で始めていたとしても,同じような反応を得られたかどうかは分かりません」

 Davis氏は現在,自ら設立したBlacksheep Consultingでのコンサルタント業,集英社ゲームズのグローバルPRマネージャーとしての仕事,そして日本とアジア全域の業界とともに,ささやかな起源から大きく成長したイベントのBitSummitに時間を使っている。では,BitSummitは実際にどのように開発者たちを支援して,より多くのプレイヤーにアプローチするためのプラットフォームを提供しているのだろうか。

 「インディーズにとって大きな可能性を秘めていると思います」とDavis氏は結論づける。

「関西にはクリエイティブな精神が浸透していて,人々が自力で何かを成し遂げることを,あまり恐れていない場所だと思います」

 「Epic GamesやUnityのような企業がオフィスを開設して以来,支援の手段が増えました。Kickstarterもありますが,Campfire(日本のクラウドファンディングサイト)からも支援を受けていて,フィールドは次の段階になっています。売上に関しては……」と彼は口ごもり,日本語においてはかなり難しいと呟いた。「Steamのようなサイトで収益を得るには,オーディエンスを見つけるのが難しいという世界共通の問題がありますが,今や日本のデベロッパも海外のクリエイターと同じハードルに直面しています。東京インディーズやBitSummitに行くたびに面白いゲームを見かけますが,金銭的な面で一番の障害になっているのは,マーケティングやプロモーション,ゲームを世に送り出すことです」

 今年のBitSummitは,7月14日に関係者向けのビジネスデイが開幕し,週末の15日と16日には一般公開される。BitSummitは,参加者全員と開発者自身のためにイベントを成功させ,みやこめっせの内外でお祭りを楽しんでもらうことに全力を注いでいる。

 「祇園祭からの流入があるのかは気になりますが,多くの開発者,とくに海外の開発者がイベントに参加してくれることに興奮しています。かなりユニークな状況ですし,素晴らしいゲームもあります」

 しかし,BitSummitを次の10年で,さらに大きく,さらに良いものにする計画がすでに存在していて,今あるスペースを最大限に活用し,関連業界や同人界のクリエイターのためのイベントにしていくつもりだという。

 「来年はみやこめっせを1フロアから2フロアに拡大し,より多くのクリエイターがアクセスできるようにするとともに,アナログゲームに進出したり,同人コミュニティをイベントに巻き込んだりしたいと考えています」とDavis氏は興奮気味に話してくれた。BitSummitは小規模なクリエイターを対象にしているが,スペースに対する需要は趣味のクリエイターと業界最大のイベントの間に隔たりを生んでおり,彼はこの動きによってチームが将来的に受け入れられることを願っている。

 「コミケや一般的な同人サークルと,BitSummitやTGSのようなイベントの間には境界線があります。漫画やコミック,イラストなど,ほかのイベントで見られるようなクリエイター中心のスペースが欲しいですね」

 この10年で業界は大きく変わったが,次の10年でさらに変わらないとは言い切れない。BitSummitが,作品を広める場をインディーデベロッパに提供し続けるだけでなく,より多くのクリエイターがそれぞれのゲームのオーディエンスを見つけることを可能にし,とくに日本のインディーズがグローバルなゲーム市場の中で,より大きな認知を得られることを望む。

 京都まで足を運べる幸運な人も,YouTubeやTwitchでイベントに関するトークを配信している人も,もしかしたら日本のクリエイティブで文化的な中心地から,お気に入りのインディーイベントを見つけられるかもしれない。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら