Square Enix CollectiveがPowerWash Simulatorのパブリッシングを喧伝しない理由

新リーダー,Timea Edvi氏に話を聞いた。

Square Enix CollectiveがPowerWash Simulatorのパブリッシングを喧伝しない理由

 ファイナルファンタジーを作った会社のインディーズパブリッシング部門であるSquare Enix Collectiveに最後に話を聞いてから,もう6年が経った。

 我々が彼らから話を聞かなかっただけだ。我々がインディーズパブリッシングについてどれだけ書いているか,またCollectiveは元GamesIndustry.bizの編集者で発行人であったPhil Elliott氏が立ち上げたという事実を考えると,これは非常に驚くべきことだ。

 正直なところ,我々の何人かは,この部門が自然に消えていくものと思っていたのかもしれない。大企業がパブリッシングレーベルを立ち上げ,その後,規模を縮小したり,ひっそりと閉鎖したりするのはよくあることだ。それは目的を果たしたからであり,優先順位が変わったからでもある。Activision Blizzardのパブリッシング・レーベルSierraを覚えているだろうか? あるいは,GameStopのGameTrustあるいはSega Searchlightはどうだろうか?

 そして2022年,Battalion 1944の開発元であるBulkhead(Collectiveの初期の成功例の1つ)が,同社との関係を断ち切った(関連英文記事)。そして今年初め,Elliott氏はModern WolfのCEOに就任するために退社した(関連英文記事)。

 しかし,我々は十分に注意深く見ていなかった。なぜなら,Square Enix Collectiveは健在であるだけでなく,700万人以上のプレイヤーを獲得した大ヒットインディーズゲームPowerWash Simulatorのパブリッシャであることが判明したからだ。Futurlabのヒット作はもちろん知っていたが,スクウェア・エニックスがパブリッシングを担当していたとは知らなかったのだ。

「驚いていませんよ」と,2月にElliott氏の後任として就任したスクウェア・エニックスのインディーズパブリッシング担当ディレクター,Timea Edvi氏は語る。

スクウェア・エニックスのTimea Edvi氏
Square Enix CollectiveがPowerWash Simulatorのパブリッシングを喧伝しない理由
 「でも,なぜか分かりますか? それは,我々のDNAの中にあるもので,私はこのチーム全員を代表して,常にデベロッパとゲームに焦点を当てたいと考えているからです。Collectiveのことはあまり考えません。もちろん,我々はそれを誇りにしています。しかし,それは意図的なもので,ゲームとその背後にあるチームに焦点を当てたいから,Collectiveのブランドは重視しないのです。それは今も続いています」

 それは称賛に値することだが,デベロッパを中心に据えることは,完全に背景からフェードアウトすることを意味するわけではない。そして今,Square Enix Collectiveは,その近況を我々に知らせ,新しいリーダーを世界に紹介することを熱望している。

 Edvi氏はCollectiveにとって新しい存在ではない。彼女はスクウェア・エニックスに7年以上在籍し,その大半はインディーズゲームのブランドやマーケティングに携わっていた。

 そして,彼女はゲームマーケティングのベテランでもある。Edvi氏は,ハンガリーのさまざまなスタジオで,デジタルリアリティを含むマーケティング職として,ゲームのキャリアをスタートさせた。Wii,3DS,Wii Uの発売を手がけるなど,東ヨーロッパ全域でXboxや任天堂のマーケティングやPR活動をサポートする代理店に勤務したこともあるという。その後,スペインに移って, GameloftでDespicable Me: Minion Rushなどの人気スマートフォン向けタイトルのプロモーションをサポートした。そして,スクウェア・エニックスから声がかかるようになったのだ。

 「私はいつも,マーケティングディレクターやブランドディレクターになれたかもしれないと感じていました」Edvi氏は,純粋なマーケティングからの脱却についてこう説明する。「しかし,私は常に,マーケティングだけでなく,ゲームを作ることに興味があったのです」

 「Philと私は,チーム全員と一緒に,ゲームの発掘,マーケティング,パブリッシングに密接に取り組んでいました。私は常にその一員だったのです。この機会が訪れたとき,私はこう思ったのです:『私はこれができる,これをやりたい』と。インディーズチームが我々に何を求めているかという話をすると……,その1つに,必ずマーケティングのサポートや,どうすれば目立つことができるかということが挙がってきます」


我々は,多様なチームを惹きつけ,参加させたいと考えています。私自身は,もっと多様なキャラクターが登場するゲームを作りたいと考えています

 「ときどきは,マーケティングの仕事をして,「よし,これはいいアイデアです。プレイしてみたいですね。しかし,市場はあるのでしょうか?」みたいなことを言います。我々がゲームを見るときに最初に尋ねるのは,それを実際に作ることができるのか,ということです。それとも,できたらいいなと思うだけなのでしょうか? 次に,どうすればそれを販売して,彼らや我々のために利益を上げることができるのかということです。素晴らしいゲームでも,時代遅れだと感じることがあります。そのような場合,我々は彼らにこのフィードバックをするようにしているのです」

 スクウェア・エニックスは昨年,とくに欧米において,Crystal DynamicsやTomb Raiderなどといった欧米の主要スタジオやIPを売却し,大きな変化を遂げた(関連英文記事)。しかし,Edvi氏は,それがCollectiveに影響を与えることはなかったと語る。

 「我々の日常は変わっていません」と氏は語る。「実は,Crystal Dynamicsとは,Tomb RaiderをテーマにしたPowerWash SimulatorのDLCで一緒に仕事をしました。そして,それは彼らが弊社の一員であったときと変わらないものだったのです。開発だけでなく,コミュニケーションも含めて,多くのサポートをしてくれました」

 前回,我々がCollectiveに話を聞いたのは,たしかにずいぶん前のことだが(関連英文記事),Collectiveはインディーズデベロッパに昔のEidosのIPを提供して遊んでもらうようにしていた。その結果,2018年にFear Effect Sednaがリリースされたのだ。しかし,それらのIPがEmbracerのものになったことで,それはもう不可能になった。Edvi氏は,Collectiveはとっくにその考えを超えてしまったのだと説明する。

 「当初,我々は多くの道を探っていました。Collectiveの核心は,インディーズデベロッパとそのゲームを愛する人々のコミュニティをどのように支援するかということです。次に,業界の変化に対応するだけでなく,その流れに乗るにはどうしたらいいかということです。ご存じのように,インディーズゲームの領域では,ゲームの制作にそれほど時間がかからないため,物事がより速く進むのです」

 「3つめは,さまざまなレベルのゲーム制作に興味を持つチームをどのように見つけ,サポートするかということでした。学生チーム,経験豊富なチーム,大手パブリッシャの仕事を離れて集まった業界のベテランなどです。我々は,これらすべての道を探っていました」

 「『使えるIPはこれだ』という当初のやり方からは,ずいぶん離れてしまいました。以前は,コミュニティが何をサポートするか投票するような仕組みもあったのです。当時,Kickstarterがゲームの大きなアクセラレーターだった頃は,我々もKickstarter にも取り組んでいました」

 「今は,チームに焦点を当て,関係を構築し,ゲームの制作,パブリッシング,マーケティングを支援するという戦略に着地しています。PowerWashは,これらすべての学習と長年の進化の現れです。しかし,我々は立ち止まるつもりはありません。というのも,インディーズゲーム業界では,戦略を立ててそれを貫くことはできないからです。我々は,常に変化し,学び,チームをサポートする新しい方法を模索し続ける必要があります」

スクウェア・エニックスは,元Crystal Dynamicsの同僚とチームを組んで PowerWash Simulator XのTomb Raider DLCに取り組んでいる
Square Enix CollectiveがPowerWash Simulatorのパブリッシングを喧伝しない理由

 つまり,Square Enix Collectiveは,他のインディーズパブリッシングレーベルと少し似ているのだ。では,一体何が違うのだろうか?

 「スクウェア・エニックスは,マーケティングや資金調達の面で我々をサポートしてくれています」とEdvi氏は説明する。「スクウェア・エニックスは,このようなインディーズに特化した事業展開を好んでいます。PowerWashのようなスクウェアとは思えないユニークなゲームを提供しているからです」

 Edvi氏はPowerWash Simulatorのことをよく口にするが,その人気の高さを考えれば理解できることだ。しかし,氏は,これがFuturlabの成功であることを強調すり。

 「Futurlabの成功は,Futurlabが築き上げたコミュニティのおかげです。Kirsty(Rigden氏),James(Marsden氏),マーケティングチーム,コミュニティマネージャー,Discord……コミュニティとの関わり,つながりがすべての源です。人々はこのゲームを,リラックスするために訪れる幸せな場所として捉えています。我々は,同じように感じている多くのインフルエンサーを巻き込み,彼らのオーディエンスにそれを示すことができました。そして,それを土台にしたのです」

 「制作過程では,多くのことを学び,協力し合いました。彼らは我々にフィードバックを与えて,我々は彼らにフィードバックを与えるというように,行ったり来たりしていたのです。私にとっての成功は,彼らがより良くなるようサポートすることと,スクウェア・エニックスという強力な後ろ盾を得たマーケティングでした」

 Square Enix Collectiveの次のゲームは,今年後半に予定されているLittle Goody Two Shoesだ。そして,同社はその次に来るものを探している。

スクウェア・エニックスから期待されないようなユニークなゲームを常に探しています

 「我々は世界の隅々まで行ってあらゆる種類のゲームを探しています」Edvi氏は語る。「我々は常に,スクウェア・エニックスから期待されないようなユニークなゲームを探しているのです」

 ということは,JRPGには興味がないのだろうか?

 「おそらくそうですね」と,氏は認める。「しかし,JRPGを作っているチームを怖がらせたくはありません。JRPGであっても,十分に異なるものであれば,うまくいく可能性があるからです」

 実際,Edvi氏は,プロジェクトと同じくらい,チームも重要だと語る。「多様なチームを惹きつけ,巻き込みたいというのが本音です。私自身は,もっと多様なキャラクターが登場するゲームを作りたいと考えています。しかし,必ずしもキャラクターである必要はありません。たとえば,PowerWash Simulatorにはキャラクターはいませんが,誰でもプレイできますので,とてもインクルーシブなゲームになっています。それを目指していきたいですね」

 今,ある種のビデオゲームにとっては厳しい状況となっている。とくにインディーズゲームでは,現在の経済情勢を反映してか,人々が消費に慎重になっているためだ。しかし,Edvi氏は前向きである。

 「我々には,スクウェア・エニックスの一員であるというセーフティネットがあります」と氏は語る。「経済的な面だけでなく,その他の面でもサポートがあるのはとても幸運なことです。しかし,同時に,世の中にはとても厳しいのです。財布の中身は小さくなり,ゲームは贅沢品になっています。2008年の金融危機のときもそうでした。当時は,ビジネス全体が厳しい状況にあったため,多くの人たちとともに私も職を失いました」

 氏はこう締めくくる: 「しかし……多くの人が,逃げるようにゲームに夢中になります。そして,同じようなゲームを何度もプレイすることに飽きた人もたくさんいます。それが,我々にできることです。もちろん,価格についても検討する必要があります。どうすればもっと手に取りやすい価格にできるのか,どうすればゲーマーが購入を決断するときに価値あるものにできるのか,十分なコンテンツを提供できるのか。とくにインディーズには素晴らしいゲームがたくさんありますので,目立つことはとても難しいのです。しかし,私はそれをチャンスととらえて,チームにもそのようにとらえる力を与えるように心がけています」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら