【ACADEMY】ビッグブランドとの仕事から得たライセンシングの秘訣

PortaやLegoなどのIPを扱ってきたClockStoneのTri Do Dinh氏が,ライセンスゲームのターゲット,入手,および作業についてアドバイスする。

【ACADEMY】ビッグブランドとの仕事から得たライセンシングの秘訣

 とくに,自分が強い感情を持っているフランチャイズであればなおさらだろう。私はClockStone Studioで,Bridge Constructor: Portal,Bridge Constructor: The Walking Dead,そして最近ではLego Bricktalesといったタイトルに携わることができて,本当に恵まれていると感じている。

 もちろん,これらすべてのプロジェクトに参加できたことは感激だった。しかし,ライセンスゲームに携わるのは簡単なことではない。大手IPホルダーとのコラボレーションには多くの作業が必要だが,我々は,いかにして企業パートナーに誇りを持たせながら,楽しく仕事をするかについて,多くのことを学んだ。ここでは,私がClockStoneで学んだベストプラクティスをいくつか紹介する。



適切なライセンシングパートナーを見つける


 ライセンスプロパティに取り組むうえで最も重要なのは,ゲームに適したライセンスを見つけることだと言えるだろう。ここで私が最初にアドバイスしたいのは,ゲーム業界だけでなく,それ以外の業界で起こっていることについても常にオープンであることを確認することだ。自分のスタジオの仕事ばかりに気を取られていると,自分のスタジオの仕事と重なるような機会を見逃してしまうことになりかねない。適切なパートナーを見つけるには,目と耳を広げて,潜在的なパートナーに関してアイデアを生み出す継続的なプロセスを促進しようとすることが前提条件となる。

 では,もっと具体的に,どのようにコラボレーションの可能性を見極めるかについてお話ししよう。まず,そのライセンスとあなたが提供できるものを結びつける概念的な切り口が必要だ。具体的な例を挙げると,PortalとBridge Constructorの場合だと,物理ベースのパズルと,一連のテストとしてのパズルに変換できるAperture Scienceの設定という出会いの場があった。それは2つの異なる種類のパズルゲームを1つの体験にまとめようというものだった。

ClockStone StudioのTri Do Dinh氏
【ACADEMY】ビッグブランドとの仕事から得たライセンシングの秘訣
 コンセプトの核となるクロスオーバーを特定することは重要だったが,それ以上に,このゲームを提案する前には,約60時間にも及ぶプロトタイピングに取り組んだ。ライセンスとクロスオーバーは,コンセプトとしては明確に機能するように思えたが,実際に正しいライセンスなのかどうか? それを知るためにプロトタイピングを行ったのだ。

 このようなプロジェクトにどれだけの作業リソースを投入するかを決めるのは,本当に難しいことだ。また,誰もがすべてのプロジェクトに深く関われるわけではないことも知っている。

 それでも,少なくともプロトタイピングを行って,自分が考えているコンセプトが実際に機能するかどうかを確認することを強くお勧めする。設計を掘り下げてアイデアがうまくいくかどうかを確認することは,適切なパートナーを特定したことを確信するのに役立つだけでなく,最終的に相手にアプローチする際に,より強力なピッチを提供できる。


パートナーシップと人脈


 経験豊富なパブリッシャやパートナーを持つことは,ライセンシングのコラボレーションを手配するために適切な人々と連絡を取るのに役立つ。ClockStoneの場合,当社のライセンスプロジェクトはすべて,当社のパブリッシャであるHeadup Games(現在はThunderfulの一部)が開始したものだ。

 これが唯一の有効なアプローチというわけではないが,彼らが我々に与えてくれたものをざっと説明することで,パートナーがあなたに何をもたらしてくれるのか,そして彼らがどのようにライセンス取得の手助けをしてくれるのかに焦点が当てられるだろう。

 パブリッシャは,長い時間をかけて多くの長期的な関係を構築している。デベロッパが数年おきにゲームを出すのに対して,パブリッシャはもっと大量のものを扱っており,彼らはプラットフォームホルダーやデベロッパなどといった,ゲーム業界のあらゆる側面と定期的にコンタクトを取っている。そのため,パブリッシャには人脈と信頼関係があり,潜在的なライセンスパートナーの注目を集めて,真剣に取り組んでもらうことがはるかに容易になるのだ。

もし,あなたが人脈やそれを構築する能力を持っていないのであれば,人脈を持つパートナーが必要だ

 「一緒に仕事をしたいパートナーにコンタクトを取れ」というアドバイスが役に立たないことは承知しているが,私がここで言いたいのは,もしあなたがコンタクトを取っていない,あるいはコンタクトを構築する能力を持っていないのであれば,コンタクトを持つパートナーが必要だということだ。

 もし,あなたが素晴らしいコンタクトリストを持っていて,イベントに行って握手をし,人脈を構築し続けるために実際に人に会うという重要な仕事をする時間があるのなら,それは素晴らしいことだ。そうしなさい。そうでない場合は,すでに多くの人脈を持っており,定期的に業界のイベントに出て人脈を築いているパブリッシャと提携することで,その負担を軽減できないかどうかを考えてみてほしい。パブリッシャが合わないという場合には,別の選択肢もある。コンサルタント会社や事業開発支援会社,または同様な会社などと連携することも検討してみてほしい。良い会社は,仕事柄,業界全体に素晴らしい人脈を持っており,アイデアを売り込んだり,適切なパートナーを見つけたりする際に,あなたを適切な人たちにつなぐ手助けをしてくれるだろう。


アプローチと売り込み


 我々がライセンスコラボレーションを始めるきっかけとなったプロジェクトは,Bridge Constructor:Portalだった。Valveとの最初のミーティングで,我々はピッチビデオと16ページのピッチドキュメントを提出した。この文書には,HeadupとClockStoneという会社,Bridge Constructorというブランド,そして我々の成功についての情報がほとんどで,実際のゲームコンセプトそのものについての情報はごくわずかだった。

 これは,単にゲームのコンセプトを提案するだけでなく,ビジネス的な側面も考えている老舗企業であることをアピールする価値があるということだ。だから,Headupのバックアップがあったことで,我々の信頼性を高めるのに役立ったのは確かだ。

 ゲームのアイデアを伝えるという点では,1分間の動画がほとんどを占めていた。このティザーは,モックアップのゲームプレイをPortalの実際の音楽に合わせてカットし,トーンを設定したものだ。1分というと短いようだが,このピッチビデオにかかった労力は膨大なものだった。

 構想に約1週間,プロトタイピングに60時間,Aperture Scienceらしくするためのグラフィックス変更に50時間,そしてキャプチャとカットに丸2日,合計169時間かかっている。だから,同時進行の作業で,大きく分けて2人がかりで4週間というところだろうか。このピッチ動画は,下記で実際に見ることができる。


 ピッチを作成する際に,いくつか重要なアドバイスがある。1つめは,自分が売っているものが何なのかを考えることだ。たとえば,あなたが取り組んでいるライセンスはユーモアがあり,それがあなたが提案するもののキーポイントであるとする。ゲームの仕組みは,あなたが売ろうとしているものの中で最も重要な部分なのだろうか? それとも視聴覚的な体験だろうか? 何であれ,その鍵となる部分を最もよく際立たせるような形式でピッチを作成する必要がある。

 もう1つの重要な要素は,IPを「理解している」ことを確実に示すことだ。担当したいIPの感情的な品質は何かを考え,IPにそのエッセンスを取り込む。たとえば,Bridge Constructor: Portalのピッチビデオは,Aperture Scienceのビデオのスタイルとユーモアを真似て作っっている。

 しかし,IPのファンであることやIPを理解していることを示すだけでは十分ではない。そのライセンスとあなたが提供するものとの合致するところに焦点を当てるべきだ。あなたには売るべきものがあるということを忘れないでほしい。

 もう一度強調したいのは,プロトタイピングを行うことはあなたのピッチの強化に大いに役立つということだ。クールなアイデアを提示するのもよいのだが,それが機能するというプレイアブルな証拠を持っていることは,ピッチを強化するのにとても役立つのだ。


IPを知る


 もちろん,ライセンス契約を結ぶだけでは十分ではない。自分が話していることが何なのかを知る必要がある。そのためには,プロセス全体を通してのリサーチと献身が必要だ。Lego Bricktalesの場合,我々の多くが子供の頃の思い出と深いつながりのあるレゴということで,全員がこのプロジェクトにとても興奮していた。というのも,レゴは我々にとって子供の頃の思い出に深く関わるものであり,また,巨大なブランドであるため,うまくいかなければならないというプレッシャーもあったのだ。

 リサーチに関しては,すでに存在するさまざまなレゴのゲームを見て,何ができていて,何がうまくカバーされていないのかを確認した。その結果,レゴのゲームはたくさんあるが,我々が考える「作る」ことが重要なポイントになっているものはないことが分かった。そこで,我々は,レゴを直感的に理解し,レゴの本質だと思うところからアプローチしてみた。

 もちろん,どのようにリサーチを行うかは,扱うライセンスによって異なる。ゲームシリーズであれば,ゲームをプレイするのは言うまでもない。コミックシリーズであれば,コミックを読むというように。

ここで重要なのは,これを一回きりの作業と考えず,継続的に没頭するプロセスとして考えることだ

 ここで重要なのは,これを一回きりの作業と考えず,継続的な没入型プロセスとして考えることだと思う。パートナーと一緒に仕事をする中で,そのライセンスについて何が重要か,どのように表現すべきか? そのあたりの軌道修正には柔軟であるべきだ。

 決定を下すたびに,これがパートナーの価値観を表しているかどうかを考える必要がある。IPに関する知識を継続的なプロセスとして扱うことで,これらの決定のそれぞれがより強力なコンパスを開発するのに役立つ。パートナーに,役に立ちそうな資料を追加してもらうとよいだろう。だがパートナーによって情報量や手を出す度合いが異なるので注意が必要だ。この場合,自分の方向性を見出すのには,IPに没頭する作業が不可欠となる。その際に,パートナーと一緒にプレイアブルビルドなどで確認し,必要に応じてさらに方向性をすり合わせていくことが必要だ。

 全体として,フランチャイズの魅力をよく理解していることが,とても役に立ってくるだろう。そのためには,マーケティング的な要素をすべて排除して,本質的な部分にまで落とし込む必要がある。Portalでは実験科学的な側面が,The Walking Deadでは閉所恐怖症的で常に脅かされているような雰囲気が,それぞれ明確に表現されている。そのため,我々は常に,そのIPの何が我々の注意を引き,我々を惹きつけてやまないのかを見極めて,それをゲームに反映させようとしているのだ。


開発時のグッドプラクティス


 ライセンス保持者との共同作業には,さまざまな不確定要素が絡むことを忘れないでほしい。つまり,現実的なタイムラインを把握し,それに基づいて計画を立てる必要がある。巨大なライセンスホルダーと組むと,物事はゆっくりと進むことになる。つまり,審査が必要であり,承認担当者のチェックに時間がかかることを理解する必要がある。会社によっては,同僚や他の部署,経営陣と,何がOKで何がNGなのかをクロスチェックしなければならないこともある。この場合も時間がかかる。この事実を受け入れ,それに応じて計画を立てよう。

 もちろん,ライセンス保持者と終始連絡を取り合って,同じ見解を持つようにすることが重要だ。コミュニケーションチャンネルを設定し,適切な人物を確保する必要がある。定期的なチェックインを行い,何が起きているのかについて話し合うようにしよう。透明性を確保する。ブランドガイドラインの遵守を確認するプロセスを確立してほしい。ただ,コミュニケーションと承認には時間がかかり,大企業ほどあまり速くは回転しないことを意識してほしい。

ライセンス保持者との協働には,多くの不確定要素が含まれることを忘れないでほしい。つまり,タイムラインを現実的にとらえ,それに合わせて計画を立てる必要がある

 コミュニケーションに関しては,できるだけ広義に解釈する必要がある。コミュニケーションとは,単に電話や電子メールを意味するものではない。コミュニケーションは,書くことや話すことを超越したものだ。スクリーンショットを共有することもコミュニケーションであり,ビルドを送ることもコミュニケーションだ。すべてのコミュニケーションにおいて,あなたは何を共有しているのか,そしてあなたがそれに何を求めているのかを明確にする必要がある。もしあなたがメカニクスに焦点を当てたビルドをプレースホルダのビジュアルで共有するなら,パートナーにそれを理解してもらうようにしよう。このビルドの目的はビジュアルスタイルのチェックではなく,メカニクスを改良することであり,それに対するフィードバックが必要であることを明確に伝えてほしい。パートナーが「なぜプレゼンがうまくいかないんだ?」とパニックにならないように。

 効果的なコミュニケーションを実現するためには,準備が重要なのだ。自分も相手も限られた時間しかないのだから,会議のずっと前からコミュニケーションについて考えておく必要がある。時間をかけて行う重要な仕事だからこそ,日々の仕事の中で,会議に先立って情報を収集し,取り寄せる時間を確保すべきだ。

 伝えるべき情報をちゃんと準備してあり,あなたの進捗状況や問題点,課題を明確に伝えて,どこに助けが必要なのか,そしてどうすれば相手が助けてくれるのかを明確にしよう。

 主要なライセンスとのコラボレーションは,威圧的なものであるかもしれない。しかし,自分にとって大きな意味を持つものの一部になれるのだから,エキサイティングなことでもある。リサーチや細部へのこだわり,巨大な企業組織と一緒に仕事をする方法を学ばなければならないが,その結果,自分がその一部であることを誇りに思えるようなものができるはずだ。


Tri Do Dinh氏は,ClockStone Studioのゲームデベロッパで,アニメーション,オーディオ,デザインなど,長年にわたってさまざまな役割を担っていた。最後に,2022年のタイトルLego Bricktalesでゲームディレクターを務めた。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら