【ACADEMY】私は生き残る:ゲームスタジオのための強靭化戦略

Fundamentally GamesのElla Romanos氏が,設立したばかりのデベロッパが厳しい時代を生き抜く可能性を高めるためのヒントを紹介する。

【ACADEMY】私は生き残る:ゲームスタジオのための強靭化戦略

 ゲームスタジオの立ち上げと運営について考えるとき,それが大変なことであることは承知している。ゲームはクリエイティブな視聴者主導のプロセスであり,成功の保証がないことも知っている。経験,スキル,反復,そして決意は長い道のりだが,どんなに物事がうまくいっても,どんなにチームやゲームが優れていても,山あり谷ありの日々を送ることになる。ビジネスやゲームの構築は,AからBへ一直線に進むものではないのだ。

 そのような道のりの凸凹を少しでも和らげるには,どうしたらいいのだろうか? 厳しい時期を乗り越えて,良い時期を最大限に活用できるよう,長く生き残り続けるために何ができるだろうか?

 この記事では,私が3つの事業と15年間のゲーム業界での経験を通して学んだビジネス強靭化の重要な側面をいくつか紹介したいと思う。


限られた情報の中で意思決定する


 これは,ビジネスを経営する者にとって避けられない課題だ。自分が下した決断がもたらす影響は,しばらくは現れないかもしれないし,場合によっては元に戻すのが難しいかもしれない。しかし,その影響は大きなものであり,すべての情報がない中で決断しなければならなかったり,あなたが抱えるジレンマに対して簡単で明白な答えがなかったりすることもあり得る。

 このような事態に対して,ビジネスの強靭性を高め,ミスのリスクを低減しつつ,決定を誤った場合の影響を軽減するために取れる,いくつかのアプローチがある。

自分の決断のあとに起こりうるシナリオを考え,成功と失敗の両方を想定して事前に準備しておくことが重要だ

 私は,「意見はしっかり主張するが,緩やかにまとめる」アプローチをとっている。これは,具体的には,あなたが決断したことに対して責任を持って決定権を有し,入手した情報から最善の結論を導き出すと同時に,集めた情報や他の人の主張にも耳を傾けて,自分の考えを変えることを厭わないということを意味している。

 そのために必要な主なスキルは,議論すること,交渉すること,そして聞くことだ。また,自分を信じながらも,学ぶ姿勢,間違っていることを認める姿勢,そしてあきらめない気持ちも必要だ。

 さらに,自分の決断のあとに起こりうるシナリオを考え,成功と失敗の両方を想定して事前に準備しておくことも重要だ。実際にどのような影響が出るのか,どのように把握すれば問題を早期に発見できるのか,また,影響が出た場合にどのように軽減するのかを考えておくのだ。こういったものは極度のストレスがかかったときに計画を立てるよりも,前もって計画を立てておくほうがずっと良いからだ。


全体像を把握する


 自分の目標や,この仕事を始めた理由を見失わないようにすることは大切だ。しかし,疲れているとき,忙しいとき,決断しなければならないことやトラブル対応,やらなければならないことがたくさんあるときは,目の前のことに集中してしまい大局を忘れがちになるものだ。

 困難に直面したとき,一歩下がって「なぜ」と問うことが大切だ。自分が行動している解決策に再考が必要な場合もあり,細部にこだわりすぎて,そもそもなぜ何かを始めたのかを忘れてしまっている場合もある。私のチームメンバーは,私が「一歩下がってみよう」と言うのを何度も聞いてうんざりしているかもしれないが,定期的に再確認することは,課題に対してより良い,あるいはより効率的なアプローチを見つけるために本当に役に立つのだ。

 もう1つ,とてもシンプルなテクニックだが,6か月先の自分を想像して,その文脈の下ででこれから下すべき決断や進むべき道について考えることも有効だ。そうすることで,目先のことだけにとらわれず,将来のことも考え,現在行っている決定や活動がどのような影響を及ぼすのか,その時自分はどうなっているのか,ということを確認できるのだ。これによって,緩和策を練ることができ,場合によっては意思決定や行動そのものを変えることもできる。


生き残るだけで十分な場合もある


 ビジネスを始める人は皆,成功したいと願っているものだ。これは通常,常に成長し,前進し続けたいと願うことを意味する。それは良いことであり,それがビジネスの原動力となる。

 しかし,物事が計画どおりに進まず,時間がかかったり,思ったように実現できなかったりすることもある。そして,時には本当に厳しい状況に陥り,どうやって乗り越え,軌道に乗せるか分からなくなることもある。

 そんなときは,ただ生き残るだけで十分なこともある。ただ進み続けること,そのために必要なことを何でもすること,それがあなたにとって必要なことだ。生き残り,困難な時期を乗り越え続けることで,元の軌道に復帰してビジネスの成長を推進する機会を得ることができる。

 ここで大切なのは,このようなことが起こりうることを受け入れ,諦めず,自分を責めたり過去にこだわることなく(前に進む方法を学ぶことは別として),進むべき道に集中することだ。


一緒に旅をする仲間をつくること


 ビジネスが成功するのは,1人の力によるものではない。常に複数の人が,さまざまな形で全体の成功に貢献しているのだ。

 ビジネスにはさまざまなタイプの人が関わっている……。

  • ビジネスパートナー。1人でビジネスをすることは考えられない。なぜなら,責任や説明責任を共有し,ビジネスの課題について率直に話し合える相談相手を持つことは,レジリエンスを高めるうえで本当に重要なことだからだ

  • チーム。自分の仕事をするだけでなく,一緒に仕事をしていけるようなチームを作ることが重要だ。異なる視点からの意見,あなたとお互いを助け,サポートできる人たち,そして異なるスキルや経験を持つ人たちを揃えることによってのみ成功の可能性は高まるのだ

  • メンターやアドバイザー。日常業務とは別の立場で,偏りのないフィードバックや一歩下がって大局を見る機会を与えてくれる人,異なる視点を提供できるスキルや経験を持つ人がいることは,とくに大きな決断や困難な状況にあるときに,非常に貴重なことなのだ

 生産性の高いチームは,単に適切な人材を選ぶだけでは生まれない。チームがあなたのビジョンを理解し,会社の大志に関与し,チームメンバーが行動する権限を与えられるような文化を構築することによって生まれるのだ。

 良いリーダーとして,モチベーション,心身の健康,相互尊重,ワークライフバランス,トレーニング,チームメンバーの役割やキャリアをサポートすることに投資することは,チームがより貢献し,あなたが日々の細かい仕事ではなく,ビジネスのマネジメントに専念できるようになることを意味する。そして,そのようなチームメンバーは,あなたが問題を早期に発見し,それに対処するのを助けてくれるのだ。


ビジネスは個人的なもの


 ビジネスの強靭化は,個人の強靭化にも依存する。あなたが持続できなければ,ビジネスにも支障をきたす。しかし,自分の限界を知り,ビジネスが個人的にストレスの多いものであることを受け入れて,それに対処する方法を見つけることも必要だ。

 燃え尽きないこと,もっと働けば解決すると思わないこと。また,自分自身の引き金や偏見を知り,物事をやり過ごすことを学ぶ必要がある。そして,責任を負い,自分の間違いを認め,受け入れる必要があるのだ。

生産性の高いチームは,単に適切な人材を選べばできるわけではなく,チームがあなたのビジョンを理解できるようなカルチャーを構築することによって実現する

 応援してくれる家族や友人がいることは,本当に大切なことだ。あなたを応援するときと,働きすぎだと言ってくれるときが分かる人が理想だ。しかし,ビジネスパートナーも重要だ。

 ビジネスや経営について十分に理解しているだけでなく,自分の状況を気にかけてくれる人,ストレスや責任を共有できる人,わめきたいときやサポートが必要なときに話を聞いてくれる人,間違った方向に進んでいるときに教えてくれる人がいるということは,ビジネスだけでなく,自分自身にとってもとても大切なことなのだ。

 また,自分の長所と短所を把握し,トレーニングを受けたり,他の人を雇ったり,あるいは特定のことに一生懸命にならなければならないことを受け入れたりと,どんな方法でもいいので,短所を緩和する必要がある。あなた自身はなにもかもが得意でなくてもかまわないし,何でも自分でやる必要はないが,そのようなことを実行するための計画をきちんと立てておく必要がある。

 ビジネス強靭化とは,混乱が起こることを受け入れ,それに適応して,ビジネスを継続させることだ。ストレスを吸収し,自分の弱点を知り,それを受け入れ,何事にも対応できるようにしておくことである。

 また,柔軟性を持って大局を見据えること,そしてビジョンと戦略,戦術の違いを理解しておくことも大切だ。とくに,ゲームのようなヒット商品主導で進化の速い市場では,何度もピボットや変更を余儀なくされるかもしれないが,ビジネス強靭化のテクニックは,そのような場合でも正しい方向に進み続け,完全に脱線してしまう可能性を減らすのに役立つのだ。


Ella Romanos氏は,ライブゲームパブリッシャFundamentally Gamesの最高執行責任者(COO)だ。

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