【ACADEMY】ライブサービス用モバイルゲームのアップデートに必要なサウンドデザインのエッセンス

Unlock AudioのJon Ruse氏とElliot Callighan氏が,すでに大半の土台が出来上がっているゲームのサウンドアセットをアップグレードする際のポイントを説明してくれた。

【ACADEMY】ライブサービス用モバイルゲームのアップデートに必要なサウンドデザインのエッセンス

 ライブサービスゲームの増加により,ゲーム開発はますますクリエイティブなプロセスへと変化している。このようなゲームは,新しいコンテンツ(シーズンパス,DLC拡張,新チャプターなど)を導入することで,熱心なプレイヤーに,新鮮かつ親しみやすい体験を提供し続けている。また,ゲームの規模が大きくなればなるほど,そしてサポート期間が長くなればなるほど,ゲームを支えるクリエイティブなリソースに対するニーズは変化し,大きくなっていく。

 こういった環境では,開発中のスタジオチームに参加したばかりの人であれ,ゲームの拡張やアップデートのオーディオプロデューサーとしてアウトソースされた人であれ,ゲームのオーディオをゼロから作る場合とは異なるニーズや期待に応える必要があることに気がつくだろう。

 ここでは,すでに土台が出来上がっているゲームのサウンドアセットの拡張やアップグレードを任されたサウンドデザイナーに対して,アウトソーシングオーディオスタジオが推奨する重要な検討事項を説明する。


迅速な計画


 コアゲームがすでに稼動している場合,新しいコンテンツのスケジュールは短くて済む。ゲームのオーディオプロフィールの大部分はすでに作成されているのだから,当然と言えば当然だ。その一方で,新規コンテンツやリフレッシュコンテンツのニーズを満たすために参加する場合は,ゲーム開始当初からまったく新しいオーディオを考案する場合のような時間の余裕はない。

 まずは,すでに使用されているサウンドの種類を素早く把握することから始めよう。現在使用されているサウンドが,ゲームのスタイル(ファンタジー,ホラーなど)にどのように影響するか,またゲームにどのような特徴をもたらすのか? たとえば,最近手がけたMobile Legendsを例に挙げよう。Bang Bangでは,我々は2016年に登場したヒーロー,Francoのサウンドを更新するよう依頼された。

まずは,すでに使用されているサウンドの範囲について,重要な詳細を素早く吸収することから始めよう

 これはドワーフのキャラクターであるため,サウンドの中核は重く,土臭く,金属的でなければならないことは分かっていたが,彼のアビリティ,アニメーション,コスメティックに触発されて,レザーの下地のかさつく音,フックを投げるときにそれが複雑な鍛造物であることを伝えるチェーンの繊細な金属音,そして物理的衝撃,穏やかなゴア,攻撃成功時のコインのジャラジャラいう音などのサウンドに深みを加える追加レイヤーがあった。これらのニーズを前もって抽出することで,レコーディングと編集を要領よく行うことができ,その結果として,ゲームに自然に感じられるサウンドに素早く到達することができたのだ。

 もし,手持ちの音源に求めるサンプルがなく,ゼロから録音することになった場合,1つのエフェクトにこだわりすぎないことだ。セッションを開いて,あなたのアイデアのキャプチャをいくつかテストしてみよう。もし,最初の数回で期待するような結果が得られなかったら,次に移って他のことを試してみよう。アイデアを素早く試すほど,目標に到達するための理想的な発見に早く到達できるのだ。


リファレンスを超える


 古いサウンド資産をリフレッシュすることが目的であれば,このことは説明不要と思われるかもしれないが,繰り返し述べる価値のある原則だ。長い間使われてきたサウンドの膨大なライブラリがあるプロジェクトに参加する場合,プレイ ヤーが好きで象徴的だと感じるサウンドの完全性を守りつつ,現在のアクション,アニメーション,グラフィックス忠実度,ストーリー要素にサウンドがどうフィットするかを改善することが大切だ。

プレイヤーに愛されているものを守りながら,(既存の)サウンドを改善することに頭を使わなければならない

 ライブサービスのゲームは常に成長し,進化している。そのため,何年も前からある既存のキャラクターを調整することは,停滞に対抗し,プレイヤーを再び興奮させるために理にかなっている。

 我々の場合,Francoの以前のサウンドキットの参考資料と最新のゲームプレイサンプルが提供されたので,それを調整することを目指した。

 3つのスキルと1つの標準的な攻撃のキットで,Francoのサウンドをよりパンチのあるエネルギッシュなものにする一方で,反復しすぎてプレイヤーの疲労を招くような要素を排除したいと考えた。そこで,近接攻撃のコアに本物のドラムビートを使用することで,パンチ力をアップさせることに成功した。さらに,タンクタイプのキャラクターにふさわしい重厚感を出す方法を模索した。たとえば,Francoのウェポンスイングから最後のインパクトに至るまで,彼の攻撃の重さを微妙に表現するために,大きなシューという音がある。

 このように短納期でサウンドを開発する場合,サウンドライブラリが大きな資産となる。同クラスのゲームに匹敵するサウンドクオリティの基準値を早期に設定し,クリエイティブなプロセスをスタートさせることができるのだ。もちろん,サンプルは自分の好みに合わせて扱う必要があり,最終的な仕上げの段階で最終製品から削除することもある。しかし,スピードが要求されるゲーム制作において,これらのリソースは決して不利にはならない。

MoontonのMobile Legends: Bang Bang
【ACADEMY】ライブサービス用モバイルゲームのアップデートに必要なサウンドデザインのエッセンス


メディアに導かれるままに


 想像力の限界を超えるようなリッチで濃密なサウンドを作りたくなるかもしれないが,ゲームがどこでどのようにプレイされるかを常に念頭に置いておく必要がある。モバイルデバイスには技術的な制限があるため,ハイファイスタジオのヘッドフォンと比べてオーディオの体験に影響を与える可能性があるのだが,これを知っていれば創造性に集中でき,タイムラインの制約を感じずに済む。

スマホのスピーカーは音域が狭いので,どんな音であっても高音部や低音部にこだわるべきではないことが分かる

 スマホのスピーカーは音域が狭いので,どんな音であっても高音部や低音部にこだわるべきではないことが分かる。また,あまりに音を重ねすぎると,レイヤーのニュアンスが失われて鈍いサウンドになってしまう。あなたがプレイヤーに音疲れさせたくないのであれば,これはよくない選択だ。

 なんであれ作ったものは,実際に体験するのと同じ状況でテストすることが大切だ。そのためには,作成したサウンドをさまざまな携帯端末で共有し,スピーカーと一般的なヘッドフォンの両方でテストして,何を残し,何を削れば最大の効果が得られるかを判断する。

 ユーザーインタフェースの技術的な制約に加え,モバイルゲームでは,公共の場でゲームがプレイされる可能性があることを意識する必要がある。Francoの新サウンドにゴアエフェクトを追加すると言ったが,バスや公園など,他の人の声が聞こえる場所で時間をつぶす可能性があることを考慮して,マイルドさを強調した。つまり,不適当にならない程度でも,個性を出すのに十分なのだ。

 もう1つ,サウンドの完成度を確認するために,場所を変えたり,時間帯を変えたりして再生している。朝,自宅でコーヒーを飲みながら聴くと,エネルギーに満ちた素晴らしいサウンドが,夜になってオフィスの蛍光灯の明かりの下で聴くと,疲弊しているように感じられるかもしれない。何が必要なのかを知るためには,それほど多くのテストは必要ないのだが,より良いサウンドのゲームを作るためにじゃ,最初からそのプロセスを計画することが重要だ。


Jon Ruse氏はUnlock Audioでサウンドデザインと実装に携わっている。Elliot Callighan氏は作曲家とサウンドデザイナーで,Unlock Audioのオーナーだ。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら