Arma 3映像の悪用による捏造情報に対抗するBohemiaの戦い

広報担当のPavel Křižka氏が,ゲーム映像が実際の戦争映像として悪用されることに対するスタジオの対策について語る。

Arma 3映像の悪用による捏造情報に対抗するBohemiaの戦い

 去る10月に,ウクライナの大砲がロシアの戦車を攻撃しているように見えるビデオクリップがソーシャルメディアで話題になった。この映像は,ソーシャルメディア上で何千回も共有されている。

 ただ,1つだけ小さな問題があった。この映像は本物ではなかったのだ(参考URL)。

 実はこの映像は,チェコのスタジオBohemia Interactiveが制作したミリタリーシミュレーションArma 3のゲームプレイ映像だったのだ。

 このゲームが紛争地域の映像の偽造に使われたのは,今回が初めてではない。過去には,アフガニスタンやシリアでの紛争,イスラエルとパレスチナの軍事行動などの映像の偽装にArma 3が使用されたことがある。インドとパキスタンの架空の戦争の映像の偽造に使われたこともある。ウクライナ戦争の映像だけでさえ,実際にArma 3の映像であることが判明したのは今回が初めてのことではないのだ。

 Bohemiaはもう十分だと判断した。11月,同スタジオは,一般ユーザーやメディアが,戦場の映像が本物か,それともゲーム内で作成されたものかを見分ける方法をまとめたブログ記事を公開することにしたのだ(参考URL)。Arma 3がこのような形で使用されていることについて,同スタジオが公的に言及したのはこれが初めてだった。

Pavel Křižka氏,Bohemia Interactive
Arma 3映像の悪用による捏造情報に対抗するBohemiaの戦い
 広報担当のPavel Křižka氏は,GamesIndustry.bizの取材に対し,「我々は,非常に長い間,これらのビデオに対処してきました」と語る。「ほとんどがArma 3からで,以前はArma 2からでした。Arma 3は,主にソーシャルネットワーク上で,実際の戦闘状況の映像のような動画を作成するために多用されています。それに対応することが非常に多くなってきています」

 「しかし,最近はもちろんウクライナ戦争の影響で,こうした動画が大きな人気を集めています。我々は,この問題を認知しており,それに対処していることを示すために,公式に反応する必要があると感じました。また,一般の人々や,ときにはこの映像をリアルに受け止めてしまうメディアに対しても,啓蒙を図りたいと考えたのです」

 「ブログ投稿は,我々が問題を認識していること,我々のゲームがフェイクニュースの拡散に使われ,戦争のプロパガンダに使われることを喜んでいないことを示すことが主な目的でした。ゲームの大きな宣伝だと思う人もいるかもしれません。それは事実ですが,確実に,我々にとってはほとんどマイナスです」

どのデベロッパも自分のゲームがこのような形で使われることを望んでいません

 この映像はソーシャルプラットフォームでフェイクニュースを広めるために使われ,しばしば巨大なメディア機関も騙されるが,Křižka氏はこれらの映像の起源は一般的に言ってあまり罪はないと言う。つまるところ,ソーシャルメディア上で注目を集めようとしている人たちがいるにすぎないのだ。

 「YouTubeで再生回数を稼ごうとする人たちから発信されるものです」

 「彼らはプロパガンダを広めるつもりはなく,ただ自分のYouTubeチャンネルを大きくしたいだけですので,動画にクリックベイトのタイトルを使っています。問題になるのは,それがバイラルになったとき,あるいはメディアや国家機関が,その動画を,それとの実際の戦闘を表すと思われるものとして受け止めたときです」

 このようなことは,もうずいぶん前から行われている。Bohemiaは,10年近く前から,YouTube,Instagram,Twitterなどのプラットフォームと連携して,これらの動画が削除されやすくなるようにフラグを立てようとしてきたという。

 「どのデベロッパも自分のゲームがこのような形で使用されることを望んでいません」

 「このプロセスは終わりがなく,非常に非効率的でした」とKřižka氏は語る。「プラットフォームのオーナーとのコミュニケーションに時間がかかり,最終的には特定の動画が削除されるかもしれませんが,そのときには別の動画が10本アップロードされているのです」

 その結果として,Bohemiaは近年,事実確認機関やロイター,AFPなどのメディアとの接触を始めており,このような誤報に対抗しようと試みている。

 「このような動画に対抗する方法は,我々の観点からは最良の方法です」とKřižka氏は語る。「これらの組織やメディアは,効果的に戦うためのより良いツールやリーチを持っています。少なくとも週に1,2回は,このようなファクトチェッカーと連絡を取っています。一般的には,彼らが動画を送ってきて,それがArma 3のものなのか,それとも他のゲームのものなのかを確認するよう求めてきます。これはかなり効果的でした。しかし,アップロードされる動画をすべて削除することはできません。現在でも終わりのない作業です」

 Take-Twoやコナミのような企業が,YouTubeのようなプラットフォームから流出したゲームプレイやトレイラーの映像をすぐに削除できることを考えると,実際の戦争の映像のように描かれたArma 3の映像についても同じことが言えそうに思われる。しかし,Křižka氏は,問題があるのは必ずしも動画そのものではなく,むしろその膨大な量にあると説明する。

 「今回はまだ大きなものにフラグを立てていますが,最近のインターネット全体では,このような動画が何百,何千と存在しているのです。我々にとっては,とても大変なことです。YouTube,Instagram,TikTokなど,すべての動画に目を通してフラグを立てるには,十分なキャパシティがありません」

 「まず第一に,我々はゲームデベロッパです。自分たちの仕事に集中する必要があります。また,難しいこともあります。たとえばYouTubeでは,動画にクリックベイトのタイトルが付いていても,動画の説明文の奥や動画の最後に,実はこの動画はゲームから収録されていると書かれていることがあるのです。ほとんどの人は動画の説明文を読みません。ですから,それすらもどうしようもないんです。この場合,非常にデリケートな作業になります」

大手報道機関ですら,Arma 3のゲームプレイを現実の戦争映像と勘違いしているため,Bohemiaはファクトチェッカーと協力して,これらのビデオを特定しようとしている
Arma 3映像の悪用による捏造情報に対抗するBohemiaの戦い

 Arma 3がこのような形で使用されているのは,Arma 3の設計の結果であるという主張がある。このゲームは,現代戦のリアルなシミュレーションであり,ユーザーはMODによってゲームを思いどおりに変更し,調整できるようになっている。しかし同時に,これが戦争映像の偽造ビデオに使われることを可能にしているのだ。

 「我々はこの状況を非常に残念に思っています」とKřižka氏は語る。「これを止めることは不可能ですので,私が言えることはこれ以上ないでしょう。しかし,戦うことはできます。我々はベストを尽くしています。デベロッパにとって,ゲームは彼らの子供であり,誰も彼らの努力の結晶がこのような邪悪な方法で悪用されるのを見たくはないのです」

 現在,BohemiaはArma 4と,軍事シムの第3版と第4版の間の「飛び石」ゲームとなるArma Reforgerを開発中だ。Armaが戦争映像の偽装に使われた問題を考えると,同スタジオがゲームに対するアプローチを変えるのかどうかを問う必要がある。短い答えは「ノー」だ。

これを止めることは不可能です。しかし,それに対抗することは可能です。我々は最善を尽くしています

 「現時点ではArma 4について多くを語ることはできませんが,それでも間違いなく,人々が自分の好みどおりに修正できるオープンでクリエイティブなプラットフォームになるでしょう」とKřižka氏は語る。「Arma 4は,新しいEnfusionエンジンを搭載しており,よりオープンな改造が可能です。EnfusionとEnfusionを搭載するであろうゲームでは,Enfusion Workbenchと呼ばれるものをユーザーに提供します。これは,当社のデベロッパも使っているツールセットです。我々は,コミュニティがゲームを好きなように変更できるような,非常に強力なツールを提供する予定です。Arma 4は違った形で改造が可能になりますが,まだ何年か先の話です」

 氏は続ける。「フェイクニュースを流したり,プロパガンダビデオを作ったりするために,我々の製品を悪用することをできるだけ難しくする方法について考えていきます。今のSteam Workshopでは,違法なMODがあると削除されます。しかし,もしMODが合法であれば,プロパガンダビデオに使われたからといって,それを削除することは絶対にしたくありません。我々は,人々のクリエイティブな自由を大切にしています。そして,それが悪用されるのは本当に残念なことです」

 このような使われ方をしたゲーム会社は,Bohemiaだけではない。2月にロシアのウクライナ戦争が始まると,ウクライナのMiG-29が侵入してきた飛行機を倒す映像がソーシャルメディアで広く共有されるようになった。このパイロットは「キエフの亡霊」と呼ばれ,少なくとも6機のロシア軍機を撃墜したとされ,ウクライナ軍の士気を高める役割を担った。彼らもまた存在しなかった。映像は2013年のビデオゲームDigital Combat Simulatorのものだったのだ。

Bohemia Interactiveは,あまりにも小さなスタジオなので,不正流用された映像を見つける専門のチームを持つことができず,会社全体でそのようなクリップに常に目を光らせているという
Arma 3映像の悪用による捏造情報に対抗するBohemiaの戦い

 Bohemiaは,自分たちのゲームが実際の映像として誤用されることに対して,おそらく最も長い戦いの1つを繰り広げてきている。そこで,同じような状況にある企業に対してのアドバイスをお願いしてみた。

 「それは場合によりますね」とKřižka氏は語る。「ゲームによっては,改造が容易でないものもあります。ゲームのバニラコンテンツが戦争のプロパガンダに使われている場合,エンドユーザーのライセンス契約に違反している可能性が高く,法的には,悪意のあるものを削除するほうが簡単かもしれません。しかし,ゲームの改変が可能である場合は,より困難になります」

アップロードされる動画をすべて削除することはできません。終わりのない作業です

 「この場合,より困難です。しかし,メディアやファクトチェッカーと連携する我々のやり方は,大量の動画があちこちに出回るような場合には,最適な方法だと思います。何十本かくらいの動画であれば,1つ1つ戦っていくのがゲームスタジオの能力の範囲であることは間違いないでしょう。しかし,我々の場合,それは不可能です」

 Armaのゲームプレイ映像の悪用というのは,明らかにスタジオを大いに悩ませるものだが,Bohemiaにはこの対策に取り組む特定のチームがあるわけではない。むしろ,その責任は会社全体に広がっている。

 「基本的に,スタジオの全員がこの問題に取り組んでいます」とKřižka氏は説明する。「我々はゲームに関する動画をたくさん見ていますので,デベロッパであれ,マーケティング担当者であれ,誰かがそのような動画を見ると,我々に知らせるフラグを立てるのです。もちろん,法務部もありますが,彼らはこのような事態に対処しています。しかし,毎日毎日インターネットを閲覧して,そのようなことだけを仕事にしている人は,ここにはいません。我々は,ゲーム開発の仕事により集中しています」

 Křižka氏は,Bohemiaが何人かのスタッフや,これを処理するためのチームを雇うこともできると認めつつ,ゲーム業界のほとんどの会社と同様に,十分な労働力を持たず,勝てる戦いに集中する必要があると語る。

 「そうすることもできるのですが,ご存じのとおりです」と氏は語る。「多くのゲームスタジオがそうであるように,我々も十分な人材を確保していません。そして,専門的なデベロッパを雇う必要があります。さらに,我々のために何人かの労働者と契約することは,大きな戦い。あまりに多くの戦線で争うことになるでしょう」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら