「24Frameの邪道経営哲学」第2回:パブリッシャになるときの哲学
「気がつけば14年目」
2022年の10月5日をもちまして,気がつけば我々24Frameも創立13年を迎え14年目に突入しました。長く続けていると実に色々なことがあるもので,前回は突然仕事がなくなったときの我が社の哲学をお届けしました。
ただ,困ったことに(あるいは幸いにも?)仕事はなくなっても人生は続きますので,我々はこの先のことを考えねばなりません。「この先のことを考える」とは,「今までのことを考える」ことと表裏一体であります。ですので今回は,今まで積み上げてきたものを振り返り,我々の新たな射程距離を設定することに挑戦してみたいと思います。
ともあれゲーム制作を14年もやっていますと我々も結構な数の作品に関わってきていたりします。それを一から振り返っていると時間(誌面)がいくらあっても足りませんので,思い切って直近の作品から振り返っていきましょう。
「ゲームの販売元(パブリッシャー)になる」
まずこの作品は「今までメタルマックスシリーズを知らなかった人たちに世界観の魅力を伝える」ということを命題にしております。商品そのものが宣伝素材,みたいな側面を持つ訳ですね。
そのためゲーム性は必然的に「カジュアル」よりとなり,その中で端正に仕上げていこう,というお題目があったわけです。
そのように内容面で挙げる目的とは別に,もう一つここには大きなテーマが存在していました。それは自分たちがパブリッシャとして責任を負う,ということです。この作品はそもそもどこかの会社に頼まれて発案したものではなく,「自分たちにとって今これが何よりも必要だ」という思いから発起したもの。開発資金を初の銀行借り入れで調達し,完全自己責任での実行。そういう意味では今までとは違って「仕事」という側面は少なく,逆に今まで以上に重い意味を持つものでありました。
「資金調達とクローズドβテスト」
まず,初報からリリースにおけるまでの発見。ここでまず我々は「クローズドβテスト」というものを実施しました。どういうことかというと,Steamの商品ページを開設し,そこで開発中のビルドをプレイしてくれるプレイヤーを募ったのです。応募は思ったよりも多くきまして,最初は50人程度の実施予定だったのですが,最終的にはその数倍での実施,しかもプラットフォームはSteamですから世界各国を相手にこれが実行できたわけです。
全世界同発,というのは国内においても大手ではある種の常識になりつつあります。以前のように母国語での開発が終わって,それを改めて各言語にする際の課題を洗い出して,という考え方だと簡単においていかれ,UIにおける単語の文字数などは最初から英語は元よりFIGS(French,Italian,German,Spanish)を始めとした世界の主要言語についてあらかじめ考えておかねばなりません。あらゆる単語が長大化する傾向にあるドイツ語(例えば「邪道経営哲学」はManagementphilosophie des Bosenになってしまいます)などは特に。
「グローバル同時発売」
そして,これによりβテストの本来の目的である「多種多様なPC環境でどの程度相性の問題が出るか?」ということの検出,さらには「我々が想定しない不満がどの程度出るか?」をミニマムながら全世界規模でリサーチすることができました。
そんな風に準備はしつつも,まだ油断はできないのでリリース形態はあくまで「アーリーアクセス」です。これは「有料のβ版」とも呼ばれ,あくまで開発中の部分が残るものを有料で配布するというシステムです。最初から「完全完成版」を用意せずに,プレイヤーからのフィードバックを吸い上げながら完成版を作っていく,という形式です。
「アーリーアクセス」
ローンチの結果次第ではやはりそこで開発資源の投下が終わってしまい(要はスポンサーが降りてしまい)一旦リリースしただけで実質終了というケースもママ有ることだったりします。そういった意味ではローンチですべての勝負が決まるという部分は従来と根本の部分ではあまり変わらず,その後も回収を続けていけるかは母体となるパブリッシャの体力次第,という部分もこれまた従来どおりでもあるのです。
しかし,上手くいった場合は実験的なゲームをプレイヤーと共に育てていく,という経験が実現される,不思議かつ現代的なシステムと言えるでしょう。
METAL DOGSでは実験性というよりも堅実さのために採用したアーリアクセス形式でしたが,ローンチはある程度うまくいきまして,発売後の週にはSteamの話題の新作売上ランキング1位と2位を我が社の関連タイトルが飾る,という稀有な体験もさせていただきました。
「ロングテール」
そしてコンシューマ版も無事にリリースされ,販売も目標数をクリアし,まずはよかったと胸をなでおろしていたところに,グッドニュースとバッドニュースが届きます。
まず,グッドニュースはSteamでの販売は「リリース初速がすべて」ではないということでした。
コンシューマ版のリリースでSteam版が少し伸び,売り上げが入ってくる。その後もセールのたびに多少の売り上げは立ち,極端に言えば24Frameという会社の収益構造にも変化をもたらし始めます。
「権利表記」
それもあったので,自らの混乱を取り除くという意味でも,今回も相当慎重に順を追って整理して書いているつもりでおります。
さらにその中止に至る流れの中,「METAL DOGS」では権利表記の書き換えという特殊な事象が起こりました。これにより名実ともに我々は「METAL DOGS」の販売会社,パブリッシャとなったわけです。これによる影響は多岐にわたりますが,端的に言うと我々はゲーム開発者(デベロッパ)からゲーム販売者(パブリッシャ)となり,全面的にそのタイトルに対して責任を負い,いいことも悪いこともすべて受け止める立場となったわけです。しかし,この可能性の拡大は半端なく,目の前に目も眩むほどの未来の分岐を感じています。
「そしてようやく見えてくる今後」
これらも踏まえつつ,我々としてはここまでに出てきた「資金調達」「クローズドβテスト」「グローバル同発」「アーリーアクセス」「ロングテール」といったものをベースとして拾い上げながら,最終的に「自分たちは今まで何をしてきたか」という問題に答えを出すことで初めて「我々の今後」が見えてくるように思っています。そして「ゲーム会社の今後」といったお題目を採用した場合,それは往々にして「我々はいかなる作品を作るべきか」という作品主義的な議論になりがちなのですが,色々なものが多様化している現代においては,恐らくその前に「どの形式でどのように作るべきか」がより重要になっていると感じます。そういった意味では現在ゲーム業界においても無視できないタームとなりつつある「サブスクリプション」「資本提携」とも無関係ではいられません(事実,我々もそういった事象への接近遭遇を経験しています)
とはいえ,まあそんなこんなをすべて踏まえてから発進することもこれまた不可能なわけです。なので身近な話として,最後は我々
の行っている「METAL DOGS」のアップデートの状況をどうぞ。