【ACADEMY】やってはいけない:ゲームをソフトローンチする際に避けるべきこと

AppQuantumのSergey Ryabtsev氏とAlina Zlotnik氏は,キャンセルされたプロジェクトでの失敗を振り返り,モバイル無料プレイスペースでのソフトローンチに関するアドバイスを共有してくれた。

【ACADEMY】やってはいけない:ゲームをソフトローンチする際に避けるべきこと

 この記事を読んでいる方は,ソフトローンチとは何か,なぜそれが必要なのかを知っている可能性が高い。そこでここでは,すでに知られたことに焦点を当てるのではなく,デベロッパやパブリッシャがモバイルゲームをローンチするときによく犯す間違いに焦点を当ててみたい。

 今回は,当社のポートフォリオの中で最終的にキャンセルされたゲーム「Love & Flowers」を例に,その問題点と解決策を説明する。

 ソフトローンチとは,全世界での発売に先立ち,限定されたユーザーにゲームをリリースし,寄せられたフィードバックに基づいて製品を改善することだ。

 ソフトローンチを行うことで,コストを削減し,ゲーム制作を継続する価値があるかどうかを判断できる。なぜこの段階でエラーが発生するのかをよりよく理解するために,既存のアプローチについて説明しておこう。


ソフトローンチで最も人気のある国はどこか,そしてその理由は?


 PocketGamer.bizによると(参考URL),5年前,モバイルゲームのソフトローンチの72%はカナダで行われたそうだ。なぜだろうか? 答えは簡単で,視聴者の観点からすると,カナダは米国に似ているからだ:英語を話し,支払い能力を持ち,米国に近い場所に位置している。Tier-1地域やそれに近い地域のユーザーの行動を分析することが不可欠だ。早ければ早いほどよいだろう。

AppQuantumのプロデューサー Alina Zlotnik氏
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 この用語に馴染みのない人のために説明しておくと,国の階層とは,経済(およびその他のいくつかの要因)に基づく地域の異なる分類を指す。各階層(通常はTier-1,Tier-2,Tier-3について話す)にはそれぞれ長所と短所があり,異なるテストに使用される。この言葉は,ユーザー獲得にも使われる。

 しかし,これは必ずカナダでゲームを試せということなのだろうか? もちろん,そうではない。もしあなたのゲームがアジア専用に設計されているのなら,欧米諸国でテストするのは無駄だ。収集した情報は,リリース後の正しい洞察力を提供しない。それに,潜在的なプレイヤーが使用するデバイスを考慮する必要がある。たとえば,アメリカやヨーロッパではiOSが普及しているが,アジアではAndroidが主流だ。

 ソフトローンチのすべての段階を実施し,確実な結果を得るためには,多くのプレイヤーを惹きつける必要がある。たとえば,2022年現在で14億人の人口を抱えるインドでマネタイズを開始すれば,ダウンロード数を大幅に増やすことができる。しかし,ほとんどの住民がAndroidを使用していること,欧米に比べて支払い能力が大きく劣るという2つの問題が残っている。マネタイズのテストに関しては,「人が多ければ,お金も多い」という法則は通用しないのだ。

 同時に,このようなテストに必要な完璧なユーザー数を計算することは不可能だ。ただ,覚えておいてほしいのは,プレイヤーの数が少なければ少ないほど,結果の精度が落ちるということだ。だから,テストに依存するべきではない。


ソフトローンチのための一般的なルール


 平均値に関して言うと,専門家の中には,通常,このような概算の数字に誘導される人もいる。

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ときが経つにつれ,最終製品のターゲットとなるはずの国でも,テストが行われるようになった。たとえば,ソフトローンチの各段階で,以前はカナダ,イギリス,ヨーロッパ諸国であったものが,アメリカでもテストされるようになったのだ。当初,これはかなり実験的な判断だったが,もはや今では,このアプローチも軽率とは言えない。

 もちろん,各ステージに共通するTierでテストするほうが,やはり安上がりで便利なのだが。

  • 技術面の品質設定には,Tier-3の国々(フィリピン,ブラジル,インドネシア)を使用する
  • 適切なリテンションメトリクスを形成するためには,Tier-2国のユーザーを多数巻き込むといいだろう(カナダ,オーストラリア,ニュージーランド)
  • 収益化を最適化するには,ターゲットに最も近い視聴者を惹きつけるために,Tier-1 の国に注意を払う必要がある(英国,米国,および多くのヨーロッパ諸国)

 しかし,いつも闇雲にルールに従っていると,本当に退屈になってしまう。新しいもの(しかも信頼できないもの)を利用しようとする試みは,成功した発見と大きな利益をもたらすかもしれない。標準的なプロセスに対する型破りなアプローチは,モバイルゲーム業界を一変させる可能性がある。まず,リスクを取る価値があるかどうかを判断するために,市場を徹底的に研究する必要がある。軽はずみな判断は,ときにプロジェクトの中止を含む,不愉快な結果を招くことがあるのだ。

 Love & Flowersのプロジェクトがなぜ中止になったのか,どうすれば回避できたのかを知りたい人は,ぜひお付き合い願いたい。


Love & Flowersのソフトローンチ:失敗から学ぶこと


 Love & Flowersは,当社の内部スタジオで開発されたモバイルゲームだ。Cooking Diaryに触発されたチームは,ちょっと変わった設定のタイムマネージメントゲームを作ることにした。ちょっとした市場調査を行った結果,花屋がメインテーマとして選ばれた。こうしてアイデアも予算も決まり,いよいよプロジェクトがスタートした。何が問題だったのだろうか? 

AppQuantum プロデューサー Sergey Ryabtsev氏
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 まず,時間管理というジャンルについて,いくつかの事実を紹介する。

  • 人気のピークは2018〜2020年
  • 興味深い傾向:毎年,収益面で大きくリードしていたゲームは1つだけだった。2018年はCooking Diary,2019年はDiner Dash Adventures,2020年はGrand Hotel Maniaだった
  • 設定の中で絶対的なリーダーとなっているのはレストラン,次いでホテルで,これはまだ遅れている
  • すべてのプロジェクトで,米国でのアプリ内収益が最も高い。Hungry Hearts Diner以外は,主にアジア市場向けに作られており,そこからすべての利益を得ている
  • 2022年,世界でリリースされ,20万ドルの収益を達成したゲームはまだ1つもない。しかし,アジア市場にはそのようなプロジェクトがいくつも存在する


間違い1. 急ぎすぎ


 チームは,極めて短期間でL&Fのゲームを作りたいと考えていた。3〜4か月で高い制作レベルのプロジェクトを作ることは,確かにチャレンジングな仕事だが,同時にかなりモチベーションが上がる。

 しかしながら,技術的な面では,その制作スピードの速さゆえに,ゲームの完成度にはほど遠かった。そして,ソフトローンチの過程で,ゲームの多くの部分を修正する必要があることが明らかになった。なぜなら急いでいたため,市場分析が正しく行われていなかったからだ。


間違い2.市場の競合分析が不十分


 Love & Flowersはずっと,本能的に作られていた。市場調査を行っても分析した対象は,設定だけだった。原案になる類型が見つからなかったため,チームはターゲット層やジャンルの特徴を理解しないまま花屋にこだわることになったのだ。結果的に,7〜8人の小さなチームが,内容的にもディープメタ的にも非常に厳しいジャンルに挑戦することになった。こうしたやり方は,当初からかなり異論が出るものだったかもしれない。

 パブリッシャとしての失敗談だが,互換性のある製品をリリースするには,長い時間をかけて徹底的に開発する必要があり,この考えをチームに伝えるのが間に合わなかった。彼らは新しいアプローチで素晴らしいゲームを作ろうと本当に意気込んでいたのだが,適切な分析ができなかったために,いくつもの失敗を犯してしまった。


間違い3.プロジェクトのベンチマークの不在


 最初のテストを実行する段階になったとき,我々は目標とする指標を持っていなかった。ただゲームをできるだけ良くしたいという思いだけだった。このアプローチでは,そもそも具体的にどの指標を修正する必要があるのか,どれが市場の要求に合致しているのかが不明確になっていた。こうして我々は,リテンションという大きな問題に直面することになったのだ(下のグラフを参照)。

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間違い4.特定の指標に焦点を当てずにゲームを修正する


 最初のテストのあとでゲームの多くの側面を修正する必要があることが明らかになった。長期的なリテンションの低さ(コンテンツによる),最初のレベルでのユーザー流出(バランスの調整),そしてマネタイズの追加も絶対に必要だった。このような騒動があったため,プロジェクトに利益をもたらす変更とそうでない変更を明確にすることが難しくなっていた。アプリはバージョンごとに徐々に改善されていたが,それらの改善の主な理由を把握することはほぼ不可能だった


間違い5.物語のための物語(または機能のための機能)


 タイムマネジメントというジャンルのゲームの多くは,何らかの物語性を持っている傾向がある。L&Fも例外ではなく,ゲームにはそれなりの筋書きがあった。しかし,それはゲーム内のイベントに裏打ちされたものではなかった。物語は予期せぬ展開を見せ,登場人物たちはそれについて議論するが,ゲームそのものには何ら影響を与えなかった。さらに,そういった文章は短時間で書き上げられ,チームはそれを推敲することはなかったのだ。

 その後,簡単な実験を行った。オリジナルのゲームと台詞のないバージョンを比較したのだ。ゲームからストーリーが削除されても,定着率やセッションの長さには影響はなかった。このように,新しい機能には目的があることを確認する必要があることが浮き彫りになった。


間違い6.テストは米国のみで実施


 前述のとおり,最初のテストはTier-1諸国ではなく,ブラジルやインドなどで実施するのが合理的だ。そうすることで,より多くのデータを,より少ない費用で収集することが可能になる。実験のために, LOVE & FLOWERSは,アメリカだけでテストを行っていた。その結果として,仮説と変化を検証するために,予想以上に多くの費用がかかることが判明したのだ。

米国でのクリエイティブテスト指標
【ACADEMY】やってはいけない:ゲームをソフトローンチする際に避けるべきこと

 最終的に,Love & Flowersは中止となった。

 ソフトローンチでは,どんなに成功しそうなプロジェクトであっても,すべての段階を徹底的に考えることが重要だ。ソフトローンチに至ったゲームがすべて成功すると保証されているわけではないことは,言及しておく価値がある。プロジェクトによっては,スケールアップできなかったり,デベロッパが誤った判断を下したり,メトリクスが望ましい値に達しなかったり(場合によっては低下することも)することがある。そのような場合は,身を引き締めてこれ以上の開発を中止する必要がある。

 この段階でのプロジェクトのサポートは非常にお金がかかる。ゲームを離陸させるか少なくとも浮揚させることができるような,唯一の適切な解決策を見つけることを期待してお金を使う余裕が,誰にでもあるわけではない。

 Love & Flowersのような運命を避けるにはどうしたらいいだろうか?

  • 計画を立てる。次の数回のアップデートのロードマップがあるはずなので,あなたのチームはテスト結果を待つ必要はない
  • 急がない。新しい変更を導入する前に,現在の変更の結果を待つこと
  • すべての変更を同時にテストしない。1回のアップデートで,相互に関連する複数の機能を変更しないこと。そうしないと,結果に影響を与えた正確な要因について,正しい結論を導き出すことができない
  • 時間がない場合は,異なる指標に影響を与えるいくつかの機能をテストするほうがよい
  • 製品に執着しすぎない。悪い指標でゲームを復活させようとするよりも,プロジェクトをキャンセルしてお金を無駄にしない方が合理的かもしれない

 我々がLove & Flowersのケースから学んだことが,このような問題を回避するのにも役立つことを願いたい。クールなゲームを作ろう。そして,ソフトローンチの重要性を忘れないでほしい。


Sergey Ryabtsev氏とAlina Zlotnik氏は,ともにAppQuantumのプロデューサーだ。Ryabtsev氏はゲーム開発で5年以上の経験を持ち,ジュニアゲームデザイナーからプロデューサーの役割まで登り詰めた経験がある。Zlotnik氏は,QA,ゲームデザイナー,プロデューサーとして7年以上ゲーム開発に携わっている。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら