バンダイナムコ 「ELDEN RINGは始まりにすぎません」

欧州CEOのArnaud Muller氏が,パブリッシャの日本製ポートフォリオの拡大,IPの創出,そして統合に直面してもプラットフォームにとらわれない姿勢を維持することについて語る。

バンダイナムコ 「ELDEN RINGは始まりにすぎません」

 数年前から,このサイトでは,バンダイナムコについて,欧州支社を通じて「欧米を攻略する」という同社の願望(関連英文記事),新規IPに注力する戦略(関連英文記事),そして最大の独立系スタジオと協力すること(関連英文記事)などを話題にしていた。

 今年,GamescomでバンダイナムコヨーロッパのCEOであるArnaud Muller氏と話したところ,欧米市場でのELDEN RINGの大成功によって,これらのすべてが集約されているように感じられた。

 フロム・ソフトウェアが開発したこのヒット作は,現在ヨーロッパで2022年に最も売れたタイトルであり,FIFA22やPokemon Legends: Arceusを上回っている。2022年6月現在,全世界で1660万本を販売しており,バンダイナムコで最も早く売れたゲームとなっている。

 ELDEN RINGは1200万本に到達するまでにわずか3週間しかかかっていない。比較として,DARK SOULS 3が1000万本を販売するのに4年以上かかっている(関連英文記事)。

 その成功は必ずしも驚くべきものではなかったが,その規模の大きさは業界を驚かせたのだ。バンダイナムコにとってELDEN RINGの成功は何を意味するのか,そしてパブリッシャの西洋の野望は達成されたのか,とMuller氏に尋ねると,その答えは平静を装ったものだった。

(ELDEN RINGは)非常にクオリティの高い作品になると予想していましたが,これほど多くの人に触れてもらえたことは非常に喜ばしいことです

 バンダイナムコの数あるヒット作の中から鉄拳を挙げつつ,「世界的な成功ではありますが,我々にとって初めての世界的な成功というわけではありません」と微笑む。

 鉄拳やこれまでのバンダイナムコのグローバルな成功との違いは,ELDEN RINGがこれまで主流ではなかったジャンル(DARK SOULSのような)で成功し,新規IPというカテゴリーに入ることだ。これは,今年IP Axis Strategyに9600万ポンドの投資を行ったバンダイナムコにとって(関連英文記事),非常に身近なテーマだ。

 「ELDEN RINGは,短期間で1650万本のセールスを達成し,非常に誇りに思っています」とMuller氏は語る。「また,フロム・ソフトウェアとの関係にも非常に満足しています。フロム・ソフトウェアとはDARK SOULSシリーズで一緒に仕事をしていましたが,ELDEN RINGはこのジャンルを新たな次元に押し上げました。オープンワールド,ゲームへの親しみやすさ,奥深さなど,明らかに我々のみならずファンの期待を超えています。大成功です。非常にクオリティの高いゲームになることは予想していたつもりでしたが,これだけ多くのユーザーに触れてもらえたことは非常に嬉しく,大変満足しています」

 「DARK SOULSは難しいシリーズだと思われており,ELDEN RINGも難しいゲームでした。しかし,ファンの皆さんにこの冒険を発見する方法をきちんと説明することで,この新作はより多くの人に触れられ,より身近なものになったと思います。ゲームの種類と位置づけの組み合わせですね。そして,それはとてもうまくいったと思います」

 Muller氏は,バンダイナムコヨーロッパが欧米でより良い存在感を示すために,まだ「プッシュ」していると語るが,1つのタイトルで成功を決めるのではなく,ポートフォリオ全体で進歩を示すことを熱望している。

 「今年のGamescomで展示したゲームを見ると,たとえば,集英社のIPでバンダイナムコがパブリッシングしているワンピース オデッセイという日本発のゲームと,その隣にあるPark Beyondが良い組み合わせになっていると思います」

 「Park Beyondは,昨年投資したLimbicのゲームです(関連英文記事)。最初のプレビューは非常にポジティブで,Limbicとの関係にも非常に満足しています。ここはドイツのスタジオで,ヨーロッパ発のIPクリエイティブで,欧米だけでなく日本の消費者もターゲットにしたグローバルなゲームになっています。そして,それに続いてThe Devil in Meは,Supermassiveと共同開発したゲームです」

 「これがバンダイナムコのポートフォリオです。日本発のゲームの組み合わせで,世界的な成功を収めたものもあれば,そうでないものもあります。そして,ヨーロッパからの独自のタイトルもあります」

Dark Picturesシリーズの4作めで,最初のシーズンファイナルとなるThe Devil in Meは今年11月に発売予定だ
バンダイナムコ 「ELDEN RINGは始まりにすぎません」

 バンダイナムコは,Dark Pictures AnthologyシリーズでSupermassiveと何年も一緒に仕事をしている。今年初め,SupermassiveはNordiskに買収されたが,Muller氏は「この関係には何の変化もありません」と語る。

 「我々は,彼らがNordiskとこのパートナーシップを見つけたことを非常にうれしく思っています。Nordiskは以前,Supermassiveに投資し(関連英文記事),互いに知り合いました……。彼らはNordisk Filmのスキルセットでトランスメディアアプローチにアクセスでき,おそらく資金調達能力もあるので,彼らは独自のゲームを作り続けることができます。我々は彼らとゲームのパブリッシングと配布を続けることができ,それえは彼らにとって素晴らしいことだと思います。ある程度の成功と資金を持って,ビジネスを拡大するための新しい横断的な能力を利用できるパートナーを持つことは良いことです。それは彼らにとっても,そして我々にとっても良いことです」

 2018年当時,バンダイナムコヨーロッパのマーケティング,デジタル,コンテンツ担当SVPであるHerve Hoerdt氏は,同社のゲームの50%を新規IPとする野望を語っていた(関連英文記事)。それ以来,彼はまた,AAAパートナーを見つけるために買収の影響についての懸念を共有した(関連英文記事)。

このような買収の広がりは,小規模なパブリッシャが世界最高のスタジオにアクセスする能力に影響を及ぼしています

 そして,2019年にLittle Nightmaresの開発会社であるTarsier StudiosがEmbracerに買収され(関連英文記事),今度はSupermassiveに買収されるなど,バンダイナムコはその面では不運続きなのは事実だ。Little NightmaresのIPはバンダイナムコに属しており,元の開発会社がなくても続けることができるが,Dark PicturesのIPはSupermassiveに属している。

 近年の業界を揺るがす買収合従連衡の流れは,バンダイナムコがこうした大手インディーズデベロッパと提携することを危うくする可能性があるかどうかをMuller氏に尋ねてみた。

 「バンダイナムコは,パートナーであるスタジオのIPを確保しなければならないと思っています。IPの確保とは,IPの創出やマーケティングに投資する際に,そのIPを開発するスタジオの将来に対して,ある種のセキュリティを確保することも念頭に置かなければなりません。これは,我々が取り組んでいることです」

 「このような買収の広がりは,小規模なパブリッシャが世界最高のスタジオにアクセスする能力に影響を与えることは承知していまっす。しかし,バンダイナムコには,こうしたパートナーシップを確保するための資金力があります。第一選択権,IPの所有権,スタジオの少数株主持分など,パートナーシップを確保するためのさまざまな手段を講じています。ですから,関係を確保する方法があるのです」

 Muller氏は,バンダイナムコヨーロッパにとって,欧米市場向けのIP創出を増やすことは依然として優先事項であるが,バンダイナムコヨーロッパが運営するさまざまな事業の垂直性を見れば,50%という目標は間違いなく達成されていると付け加える。

 「50%というのは興味深い数字で,欧米で自社コンテンツの50%を調達する必要があるという意味だ。その中には,流通から来るものもあれば,ヨーロッパでのパブリッシングから来るものもあり,IPの創出から来るものもあります。我々の目標は,欧米のポートフォリオの中で,IPクリエイションの部分を大幅に増やすことです。残りの50%は日本からのもので,日本の母体会社を通じて確保されています。そのため,50%のコンテンツは,いくつかのパートナーとの間で配信契約を結んでいます」

 Muller氏は,バンダイナムコが一部の国でスクウェア・エニックスやEAの販売代理店であり,Outright GamesやSupermassiveなどとも販売契約を結んでいることを指摘する。

バンダイナムコは,今年のgamescomでLimbicのPark Beyondを発表した
バンダイナムコ 「ELDEN RINGは始まりにすぎません」

 「そして残りは,Park BeyondやLittle Nightmaresなど,IPクリエイションイニシアチブから生まれる。というわけで,50%という数字は,実は昔からずっとあったもので,見る側によってはすでにあるものなのです」と続ける。
 「もちろん,ELDEN RINGの成功で日本からのゲームの比重は大きくなりましたが,その翌年にCyberpunk のようなゲームの配信契約を結べば,すでに50%を超えます」

 「問題は,その50%のうち,どれだけ自社IPによるクリエイションがあるかということです。そしてその部分こそが我々が伸ばしているところなのです。しかし,開発のタイミングは,ゲームによって3年から5年になります。そこで,いくつかの取り組みが実を結びつつあるところです。最初はLittle Nightmaresでしたが,今はPark Beyondです。また,モントリオールのスタジオ,Reflectorとのゲームも発表しています(関連英文記事)」

 「まだこれから出てくるゲームもたくさんあります。まだ発表されていませんが,欧米からの50%のIP創出のポットの一部を形成することになります」

クラウドゲームの発展により,将来的にはプラットフォームに関係なく,どんなゲームにもアクセスできるようになるでしょう

 IPの確保と創造に関する我々の会話の中で,とくに買収の統合の流れの中で,独占権の話題が出た。MicrosoftによるActivision買収が進み,Call of Dutyが独占になるかどうかが繰り返し話題になる中(関連英文記事),バンダイナムコはプラットフォームに囚われないことに非常に満足しており,それが変わるとは考えていないようだ。

 「Microsoftの戦略,ActivisionやBethesdaの買収について,私はコメントできません」と氏は語る。「彼らは,買収したゲームのポートフォリオを使って,やりたいことをやっています。私が心配しているのは,ファンがゲームにアクセスできるようにすることです」

 「クラウドゲームの発展で,将来は,どんな画面でも,どんなゲームにもアクセスできるようになると思います。それが未来です。ですから,PlayStationやXboxの家庭用ゲーム機を持ちであれば,どのプラットフォームでプレイしても,クラウド上のゲームにアクセスできるようになる日が来るはずです」

 「バンダイナムコの視点として,我々は常にプラットフォームに囚われず,今後もそうあり続けたいと考えています。我々のIPやゲームは,できるだけ多くのプレイヤーが,どのようなプラットフォームで遊んでいても,アクセスできるようにしたいと考えています。それは,モバイルでも同様です。将来的には,モバイルでもハイスペックなゲームをプレイできるようになると思いますので,より多くの人,より多くの国(現在家庭用ゲーム機が必ずしも存在しない国)で,当社のゲームにアクセスできるようになると思います。ですから,ゲーム機が何であるかはあまり重要ではありません。バンダイナムコは常にプラットフォームに依存しないことを望んできたと思います」

 最後に,Muller氏は,欧米や日本から来るものへの期待感を語ってくれた。

 「バンダイナムコヨーロッパは,独自のIPを開発し,バンダイナムコグループの中で欧米のポートフォリオの比重を高めることに注力していますが,日本からも素晴らしいコンテンツがたくさん来ているので,今後数年間にとても期待しており,ELDEN RINGはその始まりにすぎないんだと言いたくなります」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら