EAはどのようにビデオゲームの作り方を変革しているのか

グループGMのSamantha Ryan氏が,デベロッパが作りたいものに対して,より透明で,よりオープンであろうとするEAの取り組みについて語る。

 昨年末,EAでは,経営陣に小さな,一見するとごく些細な変化が起きていた。

EAはどのようにビデオゲームの作り方を変革しているのか

 EAの各スタジオのグループ責任者であるグループジェネラルマネージャーを,CEOのAndrew Wilson氏に直属させたのだ。これは,EAのリーダーと,実際にゲームを作っている人たちとの距離を一歩縮めるという,その1つの目的のために行われた動きだった。

 「目標は,スタジオのリーダーたちに,より強い発言力を与えることです」とBioWare,Full Circle,Maxis,Motive,そしてシアトルの新スタジオのグループGMを務めるSamantha Ryan氏は説明する。「私のように,20年以上にわたってスタジオの現場に携わってきた者が持っている知識は,苦労して得たものです。その知識によって,EAの幹部がスタジオのニーズをより身近に感じられるようになれば理想的ですね」

 Ryan氏は,ビデオゲームのベテランだ。当初はマーケティングを担当し,Shadow of Mordorの開発会社Monolithを率いたあち,Warner Brosの開発・制作担当SVPに就任,Batmanの開発会社RocksteadyやMortal Kombat のスタジオNetherRealmといった巨大チームを監督してきた。

 現在,氏はBattlefieldやレースゲーム,スポーツタイトル以外のEAチームを率いる任務を負っている。これらのスタジオでは,ゲーム開発に対するEAの新しいアプローチのいくつかを見ることができる。

 おそらく,最も明らかな変化は,制作しているいくつかのゲームに見られるだろう。Full CircleはSkateシリーズの復活に取り組み,MotiveはホラーゲームDead Spaceのリメイクに取り組んでいる。これらは,EAが以前から手を引くことを決めていたフランチャイズだ。カルト的な人気を誇るものの,たとえばFIFAやF1のような商業的なポテンシャルには欠けている。

Dead Spaceは,Skateと並んで,EAの復帰作となるIPだ
EAはどのようにビデオゲームの作り方を変革しているのか

 「SkateとDead Spaceは,どちらも長い間,ファンからの要望があったものです」とRyan氏は指摘する。「たくさんのクールなフランチャイズがありますが,そのすべてを復活させることはできません。しかし,強力なデベロッパ集団が特定の情熱を持ち,ファンも同様に情熱的であることが分かれば,運命が収束することがあるのです。私はリーダーとして,そのような収束を探し,見つけたら,実現するよう努力しています」

 ここでは,「強力なデベロッパ集団が特定の情熱を持ったとき」こそが重要な転換点なのだ。Ryan氏は,EAがスタジオに対して,トップから降りてくる決定ではなく,自分たちが取り組みたいゲームを決めるという意味で,より多くの自主性を与えてきたと語る。

 「人は,自分がやっていることにワクワクしているとき,最高の仕事ができるものです。人間にはそういう習性があります。チームでも同じです。情熱的なデベロッパほど,良いゲームを作ることができるのです。 Star Wars: Squadronsのクリエイティブリーダーを訪ねたとき,彼が子どもの頃に描いたスターファイターのコックピットの中にいるような絵を見たのを覚えています。その情熱の深さには驚かされました」

 「ゲーム業界の黎明期には,誰がゲームに携わるかについて,より軽率な判断がなされることがありました。しかし,ゲームがより複雑になり,プレイヤーの嗜好が多様化するにつれ,チームの情熱と経歴が,開発するゲームの種類を補完することがいかに重要であるか,この業界に長くいる我々はこれまで以上に理解するようになっています」

 これは確かに,我々が慣れ親しんだEAとは違うようだ。World of WarcraftでもLeague of LegendsでもDestinyでも,ブレイクする作品があれば,EAがいずれかのチームに自分たちのバージョンを作るように指示するのは必然のように感じられる。EAは,人気のあるものを見て,より大きく,より良く,より成功するものを作ろうとするのだ。

確かに,市場のトレンドは意識する必要があります。しかし,だからといって,すべてのトレンドをやみくもに追いかける必要はないのです

 Ryan氏は,彼女のスタジオは,ゲーマーを刺激するものに追いつくために努力しているが,それは単に流行を追いかけるだけではいけないと語る。

 「私は,デベロッパたちと一緒に,自分たちが何者であるか,なぜ自分たちがユニークであるのかを理解する手助けをしています」

 「そう,我々は皆,市場のトレンドを意識する必要があるのです。プレイヤーもゲームも常に進化しています。しかし,だからといって,すべてのトレンドをやみくもに追いかける必要はありません。BioWareは,強力なストーリーを持つ素晴らしいシングルプレイヤーゲームを作ることができます。Full Circleは,どこでも誰でも自由に遊べるデジタルスケートパークを作ることができます。それぞれがユニークで,自分たちに忠実であれば,より強力なスタジオになるはずです」

 このように,理論上では素晴らしいことだが,そこには確実に商業的な現実が存在する。EAは,株主を満足させなければならず,利益を上げなければならない大企業だ。デベロッパが情熱を持ってゲームを作れるようにすることと,AAA級の開発で生じる商業的なプレッシャーのバランスをどのように取っているのだろうか? 

 「我々のスタジオは,かなり現実的だと思います」とRyan氏は語る。「彼らは成功したいのです。つまり,クオリティを提供する必要があります。また,自分たちの作品が評価されることも望んでいます。つまり,多くの人が遊びたいと思うようなゲームを作らなければならないのです。その両方ができれば,商業的な成功は容易に手に入れることができます」

 Ryan氏が統括しているもう1つの変化は,「ラディカル・トランスペアレンシー」と呼ばれるものだ。これは,EAが開発のごく初期段階にあるゲームを公開し,制作プロセスのかなり早い段階でフィードバックを得る機会を増やすものだ。

 「成功するチームは,自分たちが作っているものに対して確信を持っており,強力なクリエイティブセンターからスタートします」とRyan氏は語る。「また,物事に近づきすぎる可能性があることを認識する必要があります。開発中にプレイヤーに対して透明性を保つことで,チームはできるだけ早い段階でフィードバックを得ることができます」

 「20数年前,私がプロデューサーとして初めて手がけたNo One Lives Foreverでは,デベロッパがいかに視野狭窄に陥りやすいかに気づきました。同じような品質のゲームであっても,なぜプレイヤーはあるゲームを買い,別のゲームを買わないのか? 面白いとはどういうことか?」

 「こういった疑問から,心理学やプレイヤーの動機づけを学んだのです。これらは,デベロッパに『楽しさ』という概念を語るための洗練された言語を与えてくれる素晴らしいツールです。しかし,時が経つにつれ,我々はより多くのツールを必要とするようになりました。今日のゲームでは,コードもコンテンツも1000倍の規模になり,チームも数百人規模の大きさになっています。ゲーマーも驚くほど洗練されてきています」

「そういったものを実現するために,開発チームに徹底的な透明性とプレイヤーとの協力的なアプローチを採用させることで,ゲームをプレイヤーに提供する方法の現状を変えているのです。これは,時間をかけて進化してきたプロセスです」

 「Mass Effect Legendary Editionの開発中,BioWareはファンによるコミュニティカウンシルを結成し,正しい方向性を確認しました。また,Dead Spaceでは,Motiveがライブストリームを開催し,開発中の映像を紹介しました」

 「UGCランプやジャンプ台を作ることができるなど,革新的な要素を持つ永続的なマルチプレイヤーゲームであるSkateでは,さらに過激なアプローチが必要であると分かっていました」とRyan氏は語る。「我々は,ゲームを非常に早い段階でプレイヤーに提供する必要がありました。このアプローチは,Full Circleの全面的な努力によるものです。彼らは,このような初期のプレイテストにプレイヤーを募集しています。もちろん,そんなことをすれば,みんな口をそろえて言うでしょう。だったら,なぜオープンにして,彼らにさせないのか? と」

EAは新作Skateのプレα映像を公開している
EAはどのようにビデオゲームの作り方を変革しているのか

 Ryan氏は,EAが,最近のプレイヤーは開発プロセスをより理解しており,プレαコードを見せることは,以前ほど怖くはないことが分かったと語る。

 「この時代,プレイヤーはかなり洗練されています。なぜテクスチャのないアセットや未完成の機能から始める必要があるのか,バグがあることは分かっています。それでも,彼らは協力したいと思うのです。EAの中には,このアプローチに不安を抱く人もいましたが,プレイヤーからのポジティブなフィードバックを受けて,今ではそのメリットを理解してくれています」

 Ryan氏がEAスタジオで行っている文化的な変化は他にもある。多くの企業と同じように,EAもより多様な人材を集め,ゲームがより多くのオーディエンスに受け入れられるようにしようとしている。これは,The Simsの開発会社であるMaxisですでに顕在化し始めている。

 「我々デベロッパの目標は,人々が楽しめるような素晴らしい体験をすることですが,世界にはさまざまな人々がいます」とRyan氏は語る。「代名詞,性的指向,肌の色,文化的なイベントやアイテム,あらゆる種類の生活体験など,ゲームにおける表現において,我々のMaxisスタジオは業界をリードしており,それは社内からも発信されています。昨年度の採用者の60%は女性でした」

 「デベロッパがプレイヤーのニーズに応えるためには,プレイヤーの気持ちになって考える必要があります。思想の多様性,性別,年齢,人種,性的指向,地域……これらすべてが,新しいアイデアをもたらすのに役立ちます。多様性がなければ,プレイヤーのユニークなモチベーションを理解することは難しいのです」

 Ryan氏は,プロトタイピングによって,チーム内で最後の大きな変化を実現している。Warner Brosでの経験をもとに,EAでは,コンセプトを完全にコミットする前に,チームにもう少し時間を与えて,いろいろなことを試し,何が面白いかを発見させるようにしているという。

 「この業界に長くいればいるほど,学ぶことが多くなり,まだ学んでいないことに気づかされます」とRyan氏は続ける。


EAの中には,我々の透明なアプローチに不安を感じていた人たちもいましたが,今ではその人たちもそのメリットを理解しています

 「AAA級の大作ゲームとなると,制作に長い時間がかかります。実際,新しいチームや,とくに革新的なことをやろうとしている場合,より長く,より無駄のない運営をすることが有益なこともあるのです」

 「Warner Brosにいた頃に学んだこともあります。Batman: Arkham時代を振り返ると,人々はRocksteady がこれほど素晴らしいスタジオになった理由は何かと尋ねていたものでした。幸いなことに,彼らに当てはまる同じ要素は,多くのチームに当てはまります」

 「まず,才能が重要です。どんな才能でもいいというわけではなく,優れたチームダイナミクスを持つ才能が必要です。スポーツと同じで,適当にスーパースターを集めてチームを作ってもダメなのです。良いチームには,お互いの信頼関係を築くための時間が必要なのです」

 「第二に,デベロッパのコアな経験が重要です。一般的に,スタジオは得意分野を持ち,芸術的な技を磨くことで強くなります。ゲームのスタイルには,経験者でなければ分からないニュアンスがたくさんあります。その知識は,苦労して得た貴重なものです。だからといって,新しいことに挑戦して成功できないわけではありません。皮肉なことに,デベロッパは自分の成功に囚われてしまい,自分の領域外のことをやろうとすることがあります。彼らが新しいことをやりたいという気持ちは本当によく分かります」

 「また,あるスタイルのゲームから別のスタイルのゲームに飛び移ることがいかに簡単に過小評価されるのかも知っています。もしそうするならば,3つめの要素である『時間』はとくに重要です」

 そして,RyanがEAに入社した際に紹介したのが,プリプロダクションに対するRocksteadyのアプローチだった。

 「Rocksteadyは,長い時間をかけて何度もプロトタイプを作り,新しいことを試して,何が楽しいと感じるかを見つけ出していました」と氏は続ける。「また,私が一緒に仕事をした中で,α/β版で何か月もかけて何度もゲームを改良した最初のチームの1つでした」

 「私がEAに入社したとき,プリプロダクションやファイナライズの期間を長くすることに皆が慣れるまで,少し時間がかかりました。プロジェクトの途中から参加すると,理想的なスピードで対応できないことがあります。しかし,新しいプロジェクトが始まると,ゲームプレイのプロトタイプを早く作る方向にシフトし,より多くの時間を改良することに費やせるようになったのです。確かに,ゲームは難しいので,いつもうまくいくとは限りません。しかし,我々は学び,成長しているのです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら