【ACADEMY】ゲーム向けライティングPart2:専門家によるアドバイス
昨日,ゲーム向けライティングに関する2部構成の特集の第1部を公開し(関連記事),5人の著名なライターにビデオゲームにおけるストーリーテリングの歴史について簡単に説明してもらった(※登場したのは4人)。
今回はその続きとして,5人のライターがそのキャリアの中で学んできたことを紹介する。まず,ゲームのライティングは,他の形式よりもさらに共同作業的であることを理解する必要がある。
ライターはチームプレイヤー
一般的にライターは孤独な職業と考えられているが,プロのライターの多くはコラボレーションによって利益を得ている。ジャーナリストは優秀な編集者を求める。小説家は優秀なエージェントやパブリッシャと仕事をしたがる。彼らは原稿をより良くする方法を見つけようとする。映画やテレビ番組は,多くの場合チームで制作され,経営者や俳優を含む多くの関係者と仕事をすることが義務付けられている。このような関係は,険悪であったり,まさに機能不全に陥ることもある。
ゲームでのコラボレーションの条件は,同業で最も複雑な映画よりもはるかに広く,深いものだ。映画は脚本から始まり,その脚本は制作中に大きく変更される可能性があるが,プロジェクトの要となるものだ(あるいはそうあるべきもの)。
しかし,ゲームでは,一般的に脚本はプレイヤーのインタラクションよりも重要ではない。ゲームプレイが最優先される。プレイメカニクスは反復的かつ実験的である。ゲームは,映画よりも制作中に多くの点で変化するものだ。つまり,ゲームライターは常に使われずに終わる作品を作り続けたり,デザインの変化に合わせてシーンの書き換えを繰り返したりしているのだ。
また,ゲームには高価で有名な声優がよく登場するのだが,映画など成熟した芸術の世界から来た彼らは,質の悪い台詞には我慢がならない。ゲーム制作における彼らの重要性は,キャラクターの成長に大きな影響を与えるので,ライターもそれに対応する必要がある。これは必ずしも悪いことではない。多くの俳優が,脚本家チームにとって有益な経験の宝庫を携えているのだから。
テレビ,演劇,そして近日発売予定のA Plague Tale: Requiemなど数多くのゲームの脚本を担当しているJedidjah Julia Noomen氏はこう語っている。「主に1人で仕事を行うタイプの人は,ゲームでの仕事は難しいでしょう」
No Man's SkyやMetro Exodusのライター,Greg Buchanan氏はこう付け加える。「他の分野からゲームに参加したライターは,自分がより大きなチームの一員であることを理解するのに苦労することがよくあります。(現在では)シナリオを重視する人たちと一緒に仕事をすることになりますが,必ずしもシナリオが第一の関心事であるとは限らないのです。プロジェクトの方向性が頻繁に変わることに柔軟に対応することが不可欠です」
さらに氏はこう語る。「若手のライターがすぐに身につけるべきスキルは,オフィスでの基本的な振る舞いでしょう。ライティングチームに所属し,他のステークホルダーと一緒に仕事をするのであれば,人との付き合い方や,避けられない衝突にどう対処するかを知っておかなければなりません。小説を書くような作家とは違います。そういった作家はほとんどの作業を1人で行い,編集者やエージェントとのやり取りは最後になることが多いのです」
「また,ゲーム会社はそれぞれ違いますので,その会社の特徴を見極めることも重要です。決まっているアイデアと,議論の余地があるアイデアを見分けられるかどうか。ゲームディレクターや会社のリーダーにとっては,ほんの些細なことが実はとても重要だったりするのです」
Boyfriend DungeonのデベロッパであるKitfox Gamesの創設者兼クリエイティブディレクターであるTanya X Short氏は,最高のライターであっても,最も価値のある資産の2つは柔軟性と「解決志向の謙虚さ」であると語る。
主に自分1人で仕事をするタイプの人は,ゲームの世界で働くのは難しいでしょう -Jedidjah Julia Noomen氏
「台詞の一部を書き換えることは,美術のやり直しや機能のリメイクよりも常に安上がりであることを,全員が認識する必要があります」と氏は語る。「だからといって,あなたの価値が下がるわけではありませんし,あなたの作品の価値が下がるわけでもありません。しかし,ビデオゲーム制作の反復プロセスにおいて,あなたが手直しをする可能性が最も高いことを意味します。それがゲームライターであることの現実なのです」チームで仕事をするライターは,しばしば慎重に戦いを選ぶようにと諭される。しかし,上層部から降ってきたひどいアイデアを押し返すだけの力を,ライターが持ち合わせていないことがよくある。
「上層部が下した潜在的に有害な決定を押し戻す力は,後期段階の資本主義に個々に耐える能力に直接関係しています」と,An Airport for Aliens Currently Run by DogsとWitch Strandingsの作者で作家のXalavier Nelson Jr氏は語る。
「人々は家賃を払わなければなりません。そして,作品に害を与える何千もの目に見えない決定や,作品をもっと良くできたかもしれないアイデアの取りこぼしが,作家の門前に置かれることになります。これらは,実際には彼らの手には届かなかったのです」
プレイヤーのインタラクティブ性を考慮したライティング
ゲーム開発における共同作業の親密さは,ビデオゲームの基本的な性質,つまり観客の参加によってもたらされる。演劇では,幕が上がると,観客は舞台がどのように着飾られているかを見る。50年代のポップミュージックが流れる学生寮の部屋が目に入れば,物語の舞台,そしておそらくその性質がよく分かるだろう。このようなディテールの正確さには,歴史的な正確さもさることながら,より重要になるのは物語のトーンを設定するために細心の注意が払われることだ。
ゲームでも,同じことが言える。しかし,プレイヤーはその寮の部屋をつつき回すことになるのだ。部屋にいる人たちに話を聞いたり,持ち物を調べたり,罠を仕掛けたりすることが求められるかもしれない。他の場所を探索するために部屋を出ることもある。ある程度までは,プレイヤーが自由に動き回れるかどうかが,ゲームの成功の鍵を握っているのだ。
ゲームライターの仕事量は倍増し,いや,もっと正確に言えば,想像力とストーリー力が試されることになる。ゲームは,演劇と同じように前に進まなければならない。しかし,その一方で,プレイヤーはアクションの中心であり,ただ面白いものを見たり聞いたりするだけでなく,面白いことをさせなければならないのだ。
「ゲームライターとして,拍子やテンポ,キャラクターの動きを計画する際には,さらに多くのことを念頭に置かなければなりません」とShort氏は語る。「観客の体験は,直線的で受動的なメディアよりもずっと多面的なのです」
アクションゲームは,作家にとってとくに難しいものだ。ダイアログの多くはミッションの指示に終始し,プレイヤーと主人公の間に共感を生み出そうとしても,過激で容赦のない暴力が支配する体験では限界がある。
「テレビや映画の脚本では,アクションはキャラクターとイコールだという言い伝えがあります」と語るのは,Heavenly SwordやLost Words Beyond the Page,リブート版Tomb Raider三部作などの脚本を数多く手がけるRhianna Pratchett氏だ。「キャラクターが何をするのかに注意を払うことで,そのキャラクターが誰であるかが分かるからです」
「しかし,ゲームでは,アクションはまったく別のデザイン部門の仕事であり,必ずしもあなたがキャラクターでやりたいことを気にしているわけではありません。彼らは自分たちの目標を持っています。プレイヤーに楽しい体験をさせたいと考えているのです」
Short氏はこう付け加える。「ゲームデベロッパの間では,連続殺人犯のためのライティングにはもう飽き飽きしているいうことは,一般的に知られていると思います。善人になって冷静になり,悪人を殺すというのは,定番のファンタジーです。しかし,作家としては,それは面白い運動ではありません」
ナラティブへの拒絶反応
しかし,ゲームデベロッパやパブリッシャは,多くのプレイヤーがナラティブやキャラクター,プロットに関心を示さないことを痛感している。また,アクションの邪魔になるものには積極的に敵対する人もいる。これはただ敵を大量に撃ちたいだけの人にとっては,至極当然の視点なのだ。
「多くのプレイヤーは,(基本的な指示が)対話の範囲であることに満足しています」とBuchanan氏は語る。「彼らは,キャラクターの成長や,より大きなプロットのような,論外に深いものには必ずしも関心がないのです」
「それがゲームをおかしくしています。物語をあからさまに表現することに抵抗があるプレイヤーもいます。ストーリーに興味がない人が本を買うことはないでしょうが,ゲームをプレイする人の多くは,自分なりの楽しみ方を求めて,そのようにプレイするのです。その結果,ときにはゲームプレイの方向性に関連する対話の機能的側面を最適化して,そこに全力を尽くすのではなく,人々をじらしてより深い物語性に誘うほうが良い場合があります」
ゲーム向けライティングの未来
ゲームシナリオが大幅に改善され,ライターやシナリオデザイナーの採用数が増えたからといって,それ以上の進歩が不要になるわけではない。一般的に,ゲーム開発チームにおいて,ライターの賃金は他のプロフェッショナルより低い。
「『言葉は安い』という格言がありますが,ある程度はそのとおりだと思います。しかし,私が個人的に目撃したのは,ライティングのプロが部屋にいると,彼らの視点がゲーム体験全体を結びつける転機につながることがあるということです。それは,文字どおり何百万ドルもの価値を生むことになるのです」
我々は,連続殺人犯のために文章を書くのはうんざりしています。善人であり,落ちついて,悪人を殺す ― ライターとして,それは面白い仕事ではありません -Tanya X Short氏,Kitfox Games
「しかし,ゲームライターが個々にゲームに与える影響力を考えると,目に見えるゲームライターの数はかなり少数です。それは悲しいことであるだけでなく,スタジオが閉鎖されたり,仕事がなくなったり,ゲームが悪い評価を受けたりすると,彼らにとっても危険なことになるのです。ライターというのは,多くの場合,あらゆる段階でそれを救おうとしていた熟練のプロフェッショナルです。それを履歴書に書いて,キャリアを継続することを正当化するのは困難です。彼らは,ソーシャルメディアや企業向けソフトウェアの会社に就職できるプログラマとは違いますし,給料もそのプログラマよりずっと低いのです」ゲームデベロッパやパブリッシャが犯しがちなもう1つの間違いは,プロジェクトの終盤にライターを連れてきて,アクションにもっともらしい物語を重ねようとすることだ。
「ライターを早い段階から参加させることが重要です」とPratchett氏は語る。「ライターの仕事の多くは目に見えないものです。ライターは物語の本体を作っています。ゲームディレクターがプロジェクトの後半になって,『よし,素晴らしいストーリーを書いてくれ』とライターを雇うのは良い考えとは言えません」
ゲームライティングが抱える大きな課題は,教育レベルではほとんど無視されたままのスキルであることだ。「ゲーム開発を勉強している人たちから聞く大きな不満の1つは,文章や物語のデザインについてあまり教えられていないことです」とNoomen氏は語る。
「ゲームデザインを学ぶ学生は,ライターでなくとも,それらの基本的な知識を持っているはずです。物語設計はとても重要で,物語がゲームデザインにどのように適合するかを考えるだけで,ゲームデザイン全体に対する理解が深まりまっす」
「つまり,教えるレベルで断絶があるのです。ゲームライティングとは何かということを後輩にもっと教えるようになれば,就職の際,潜在的なデベロッパとしての価値が高まるはずです。
私が話を聞いたライター全員に,ゲームの世界で活躍しようとしている若いライターへのアドバイスを尋ねてみた。すると,「ゲームがどのように作られているかを理解することが,絶対に重要です」という答えが返ってきた。
たとえば,自分でストーリーを作りたいと考えているライターの場合,ゲーム開発の他の部門のスキルがないために,思い留まることがよくある。しかし,ゲーム制作のツールは使いやすくなってきている。
「何十年もの間,ライターはプログラミングなどを恐れていました」と Short氏は語る。「しかし最近は,プログラミングは思ったより少なくて済み,あっても学ぶのはそれほど難しくありません。我々の文化では,プログラミングは天才だけができる奇妙な魔術のようなものと思われていますが,実際はそうではないのです。世の中にはたくさんのツールがあるんです」
NelsonJr.は,初心者への一般的なアドバイスをまとめている。「他の分野の語彙をできるだけ広く学ぶこと。ゲームライターとして,ゲーム開発のコストや仕組みを理解することで,自分の言葉に命を吹き込むことができるようになります」
「私が最も役に立つものだと分かったのは,チームの規模や予算に関係なく,ゲームに命を吹き込むために必要な他の分野の言葉や視点,語彙をたくさん理解していればいるほど,より良い仕事ができ,より良い問題解決をできるようになるということでした。これまで約70本のゲームに携わってきましたが,ゲーム開発という技術全体に興味を持ち,言葉を話して,他の分野への配慮を知ることができたことは,非常に貴重だったと言えるでしょう」
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