「株式会社24Frameの内情暴露日誌」第31回:日本音楽発展原論@インターネット(≒海でなく池かも)


ベッドルームで眠らないという贅沢


僕にとってはこれがベッドルーム音楽の最高峰ですが,今やネットではまともに聞けない逸品となっております
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 1990年代には「ベッドルームミュージック」なんて言葉が流行りまして,これは要するにヘッドフォンで夜中に部屋で一人で聞く音楽,みたいな意味です。打ち込みの一般化と先進国(という言葉があったんです,昔)の景気が良い反動で内面世界って大事だよねというありきたりな問題意識から来たものなんですが,要するに内製的で内省的な音楽ということです。

 まあこの辺りではネットの音楽への影響などはほとんどなく,ネットで音楽を聞くなんてのも夢のまた夢。その後iTunesが始まって流通の形が変わってアルバムって単位が形骸化する,なんてのはみなさんご存知の通り。


ネットの海で逆に閉じてゆく世界


日本ではユーザーが音楽を作り出したのはやっぱここですよね
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 ハード面の変化はここでは置いておいて,内容の変化について。
 この辺りまでは洋楽・邦楽なんて言葉もまだ元気で,極端に言うといかに洋楽の替え歌を作るかってことに邦楽のトレンドがあったりした訳ですが,2000年辺りにネットが汎化するとその内容に奇妙な変化が起こり始めます。

 そしてネットで色々なものが聞きやすくなって邦楽と洋楽は融和していくかと思いきや,ますます別のものになっていくという変化。


真のディーヴァの登場


当時,ドラえもんの歌でさえここまでこれをフィーチャーしていませんでした
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 なんでみんな洋楽の替え歌をやっていたかというと,極端に言えば日本の音楽って圧倒的にサウンドフォーマットとかじゃなくてメロデイと歌詞が大事だったってことだと思います。で,ユーザーが気軽に自分の音楽をシェアし始めるとその歌詞とメロディの個性が尖りまくってくるという現象が起こります。同じ時代にもちろん世界中にギターを弾いている人はいるわけですが,そういう肉体性よりも圧倒的に初音ミク,ということになるわけです。

 そこで僕が「おぉ」と思ったのは,「どら焼きは主食にならない」という圧倒的に卑近なパンチライン。こんなん歌詞にしていいんや,という喝破がそこにあり。それからは近くの中国語教室に通うとか,上司がうるせえとかそういう話になっていくと。


真の日常を女神が歌う


初音ミク以降も様々なディーヴァが時に人格を伴いながら顕現してきます
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 ここまであけすけな歌詞ってあまりなかったと思っていて,まあ仕事で音楽をやっているとかっこいいことしたくなるんだと思うんですよね。でも,そういう自意識なんかもともと持ち合わせてないよ,という人々がクリエイターのスターダムに(かっこよさを見返りとして求めるんじゃなく,共感性のシェアというお題目で)ガンガン登っていくわけですよね。

 確かに「追いかけても追いかけてもつかめないもの」とか「ダイヤモンドだな」とか「ただの浮気をかっこよく歌う」とかよりも,そっちのほうがはるかにアガれる,ということにみんな気づいちゃったわけです。そういう歌詞に同調するときって,聞いてる側もちょっと自意識が背伸びしてましたもんね,僕も。それはそれで気持ちよかったですけど。


日本すごすぎワロタ


こんな複雑な曲すごすぎん? と僕は思いました
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 ここに来て洋楽の替え歌時代は終わりを告げ,日本の独自性がさらに炸裂していくわけです。さらに考えればネットの効能は「薄く世界中とつながる」ことではなくて「近いけど微妙に遠い」文化圏のつながりを強化する,ということだったんだなと思い至ります。

 その傍らでビヨンセとかデュア・リパとかリゾみたいな人たちのサウンドフォーマット方面からも超人化著しいって話もありますけどそれは置いておきます。

 メロディと歌詞の複雑化って意味では日本のプロ,メジャー界隈もすごくて,米津玄師とか最近のボカロPとか,かつてからすれば正気じゃない数のアイデアが詰まっているように感じます。


煮詰まった先に見えるもの


近所に住んでるけど話したこともない二人,だったんじゃないかと僕は勝手に思います
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 「世界中じゃなくて比較的近所の知り合いが増える」のがこの界隈で一番威力を発揮しているネットの効用だとするなら,その最たるものはやはりYOASOBIでしょう。

 これは音楽の内容というより「ネットがなければ本来つながりようもなかった人たちがチームになっている」ということがこの論にトドメをさすと思います。

 PのAyase氏とVo.のikuraさんはインスタなんかからも分かるようにそのカルチャーがまったく関係ない二人です。それがいい感じにお互いを抑制しつつも拡大してマリアージュ,というのは一つの大いなる結果ですよね。

 各人の才能は言うに及ばず,それをオーバーグラウンドに押し上げて偶発的な接続を築いていく。こりゃまるで脳神経ていうかニューロンだぜ,という気持ちで僕は今日もネット経由で音楽を聞いてます。ネットは広大。でもそんなに広い必要ある? とか考えながら。それでは皆さん,また次回!

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