【ACADEMY】Supermassive Gamesによるナラティブ駆動ホラーにおける3つのルール

Develop:Brightonで,The Dark Pictures AnthologyのクリエイティブディレクターであるWill Doyle氏が,意味のある選択肢をデザインすることについて語ってくれた。

 ここ数年,Supermassive Gamesは,プレイヤーが自分で物語を書くことができる選択駆動型のインタラクティブゲームの傑出したメーカーとしての地位を確立している。

 ギルフォードに拠点を置くこのスタジオは,Until Dawn,The Quarry,The Dark Pictures Anthologyなどのタイトルで,その物語デザインと分岐するストーリーラインで批評家の称賛を浴びてきた。

 The Dark Pictures Anthologyは,2019年のMan of Medanから始まった,Supermassiveが毎年リリースしているシネマティックホラーのシリーズだ。ゲームは1つのストーリーを追うものではなく,3タイトルはそれぞれ独立したストーリーとなっており,アンソロジーはどの順番でも楽しむことができる。

Will Doyle氏
【ACADEMY】Supermassive Gamesによるナラティブ駆動ホラーにおける3つのルール
 Develop:Brighton 2022にて,The Dark Pictures AnthologyのクリエイティブディレクターであるWill Doyle氏が,本シリーズに関するいくつかの知見を披露してくれた。The Dark Pictures Anthology "と題された講演では,このシリーズについての見解が語られた。Doyle氏は,「Crafting Interactive Narrative Games」と題した講演で,ナラティブ主導のアドベンチャーゲームの制作プロセスや,ゲーム集にさまざまなタイプのホラーを作り出すためにスタジオがどのように取り組んでいるかを説明した。


結末の創造


 アンソロジーの各ゲームは,1人の主人公の物語を追うのではなく,ある時点で全員がプレイ可能になる一連のキャラクターたちが登場する。各キャラクターにはそれぞれストーリーがあって,プレイヤーは彼らの運命を選択することができ,それがゲームの進行に影響を与える。

 「ある意味,物語の登場人物というより,監督としてプレイしているようなものです」とDoyle氏は語る。「もし,登場人物の1人が気に入らないのであれば,そいつを殺せばいんです」

 「ゲーム内で何人が生きようが死のうが,ストーリーはかなりまともなプレイを体験できるように設計されています。キャラクターが死んでも,ストーリーはそのまま進行するのです」

 Doyle氏は,これを具体的に示す例を提示した。プレイヤーは,あるエリアを探索してパズルを解きながらゲームの一部を進めていくのだが,ある時点で決断を迫られることになる。これは,複数選択肢の決定であったり,クイックタイムイベントであったりと,何らかのプレイヤーの入力によって解決され,その成功・失敗がストーリーに影響を与えていく。

 「これが結果を生むのです。プロットグラフ上の別の道に押しやったり,物語の後半で何かに影響を与えるスイッチを入れたりするのです」

Man of Medanの各キャラクターはプレイ可能であり,その選択は将来の出会いに影響を与える
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選択に関する3つのルール


 Doyle氏は,プレイヤーの生死を左右する可能性のある決断を下す際に,デベロッパが守るべきと考える3つの主要なルールを挙げ,まずは「公平性」から説明した。

 Supermassiveのデザインに影響を与えたロールプレイングゲームの中には,プレイヤーがほとんど説明もなくゲームオーバーになるシナリオに遭遇してしまうような,不公平な選択もあったそうだ。Doyle氏がこれは避けるべきだとアドバイスした。

 「ゲームは公平な選択肢を提供しなければなりませんし,間違った選択をして恣意的に死ぬようなことがあってはなりません」と氏は語る。「悪いアクションは何らかの形で予兆があるべきで,私の意思決定にはスキルの要素があります」

対照的な選択肢を提示することが重要です。効果的に同じ目的を果たすような選択肢を提示しても意味がありません

 氏はあとでこう付け加えた。「選択肢の意味を明確にすることはとても重要です。NPCを使って,ダイアログで何が問題なのかを説明してから選択させるのもいいかもしれません。対照的な選択肢を提示することが重要です。どちらかも同じ目的を果たすような選択肢を提示しても意味がないのです」

 Doyle氏はさらに,その対照的な選択肢には明確な「正解」がなく,プレイヤーが選択肢の間で悩むのがベストであると述べている。

 次のルールは「ドラマ」だ。ストーリーに説得力があり,葛藤があり,ドラマチックな展開があり,満足のいくエンディングを迎えられるものでなければならない。

 「プレイヤーは,物語の最も重要な展開に関与していると感じられると効果的です」とDoyle氏は語る。「メインストーリーをただ発生させ,その細かい枝葉にまつわる選択肢だけを形にしてしまうと,プレイヤーがドラマティックな均衡を形成する能力を奪ってしまうことになります」

 ドラマは重要だが,デザイナーはゲームが語ろうとするストーリーを完全に脱線させるような選択肢を避けるべきだ。

 「最初のシーンで主人公を殺す機会を与えるのは,とてもクールに聞こえるかもしれませんが,実際はストーリーを奪っているだけでしょう」と氏は語る。「可能な限り,世界の行動だけでなく,キャラクターに影響を与えるような選択をするようにしましょう」

 Doyle氏は,すべての選択肢が完全に極端な生死を分けるものである必要はなく,プレイヤーの興味を引き,物語を支配していると感じられるような小さな決断であってもよいと付け加えた。

 また,「プレイヤーの疲労を軽減させるために,そういった選択肢と並行して風味のある小さな選択肢を提供することも重要です」と語る。「そして,もっと重要なのは,キャラクターをロールプレイできるようにすることです」

The Dark Pictures Anthologyでは,プレイヤーはクイックタイムイベントで重要な決断を下し,成功した場合と失敗した場合の結果が対照的であるようにしている
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 最後のルールは「エージェンシー」だ。プレイヤーは自分の選択がストーリーにかなりの影響を与えていると感じることができるようにし,自分の意見に関係なく展開するイベントをただ見ているだけではいけない。

 「選択肢や行動によって結果が変わるようにすることが重要です」とDoyle氏は説明する。「もし,私がクローゼットに隠れることを選択したら,キャラクターは,私がその選択をしたあと,できるだけ早く,クローゼットの中に隠れるようにする必要があります。もし私が何かを言うことを選択したら,私が選択したフレーズは会話の中でできるだけ早く出てくるべきで,最後に出てくるようではいけません」

 Doyle氏はさらに,ゲームが分岐する場合,何らかの方法でインタフェース上でそれを知らせることが重要であると説明した。Doyle氏は,Until Dawnでの例として,プレイヤーが重要な決断を下す際にバタフライ効果のアニメーションを使用することを挙げた。The Dark Pictures Anthologyでは,カラスが画面上を飛び交うことでプレイヤーにそれを伝えている。

 「このようなツールがないと,プレイヤーはしばしば,選択はあまり重要ではないと思い込んでしまうでしょう」と氏は語る「Hidden Agendaをテストしたとき,ゲームの一部しか見ていないにもかかわらず,自分の選択は重要でないと言う人がいたのです。しかし,波及効果のあるインタフェースを追加したところ,そのようなフィードバックはなくなりました」

 最後に,Doyle氏は,ホラーを実装する際のヒントとして,予測可能なものにならないような方法で露出やジャンプスケア(※音や映像で驚かせる手法)を使用することについて話してくれた。

 「怖いものを見るたびにその怖さが失われていきますので,モンスターや恐怖の元となるものをゆっくり見せるようにするといいでしょう」

 「ジャンプスケアは賛否が分かれるところです。使いすぎると文句を言われますし,まったく使わなければ怖くなくなります。ですから,緊張感を高めて恐怖が起こる直前に,「ああ,安全だ」と思う一瞬を入れて,その後,予期しないときに突然襲ってくるようなものが一番効果的なのです」

 氏はこう締めくくった。「ホラーゲームは緊張感を高め,そして壊すものですので,観客が怖がるべきタイミングを知らせることが大切です。主人公は視聴者の器です。画面の中の彼らを通して生きているのですから,彼らが本当の恐怖を体験する瞬間を作り出すようにしましょう」

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら