Minecraft Marketplaceから得たUGCビジネスの教訓

プラットフォームの5周年を記念して,MicrosoftのAaron Buckley氏とGamemode OneのSean Davidson氏が,ユーザー生成コンテンツの収益化に対する実践的なアプローチについて説明する。

 大ヒットゲームMinecraftのユーザー作成コンテンツを収益化するための公式手段であるMinecraft Marketplaceは,今月で5周年を迎えた。

 発売以来,Marketplaceには,17億以上のコンテンツがダウンロードされ,クリエイターコミュニティによって5億ドル以上の収益が生み出された。

 現在,295のパートナーおよびパートナー組織があり,そのうち43はMicrosoftとMojangから100万ドル以上の報酬を得ている。

 「Marketplaceにおける我々の目標は,すでに非常に情熱的な活動をしているクリエイターコミュニティに力を与え,Minecraftで新しい体験を作り出すことでした」とMinecraft Creator Marketplaceの責任者であるAaron Buckley氏GamesIndustry.bizに語ってくれた。「我々は原則として,彼らが作品を収益化し,Minecraft のプレイヤーにサービスを提供することで自分自身や家族を養うことができるようにする必要があると判断しました。そして我々が行うすべてのことの中心にクリエイターを置くことによってこれを行ったのです」

Aaron Buckley氏
Minecraft Marketplaceから得たUGCビジネスの教訓
 Buckley氏は,この「クリエイターを中心に据える」という言葉を,我々の会話の中で何度も繰り返していた。その一例として,氏はMarketplaceの報酬体系を挙げていた。Buckley氏によれば,プラットフォームホルダーの利益を抜いても,クリエイターは利益の半分以上を手にできるそうだ(たとえば,AppleはApp Store版のゲームから30%の収益を得ることができる)。

 氏は,収益化された他のユーザー生成コンテンツ提供の具体的な名前は挙げていないが,Marketplaceが,クリエイターである子供から搾取していると批判されている(関連英文記事)Robloxのようなユーザー生成コンテンツ主導のビジネスといかに著しく異なるかを理解するのは難しいことではない。

 「MicrosoftとMinecraftにとって,子供たちのオンライン上での安全確保は最優先事項です」とBuckley氏は語る。「Minecraftは,E for Everyoneのゲームです。とくに,これらの体験の多くが有料であることを考えると,安全で適切なコンテンツを提供するために余分な努力をすることは,コストに見合うものだと考えています。これはプレイヤーを守るため,(率直に言って)Minecraftを守るため,そしてクリエイターコミュニティーを守るためです」

 そのために,Minecraft Marketplaceは,YouTubeやTwitch,Robloxのようなユーザー生成コンテンツプラットフォームよりもずっと閉鎖的なシステムになっている。

Microsoftは,Minecraft Marketplaceに追加されるすべてのコンテンツを審査している
Minecraft Marketplaceから得たUGCビジネスの教訓

 「我々は,Minecraft Marketplaceに対して,非常に実践的なアプローチをとっています」とBuckleyは語る。「我々は非常に慎重にコンテンツをキュレーションし,最高のMinecraftクリエイターの代表となる高度に審査されたクリエイターコミュニティを持っています」

 「その結果,新しい高品質なプレイヤー体験が得られるだけでなく,非常に完成度の高いクリエイターコミュニティが形成されます。また,Marketplaceに投入されるすべてのコンテンツを発売前に審査しており,その結果,高い信頼性とプレイヤーの安全性を実現しています」

 Buckley氏によると,7人のフルタイム従業員からなるチームが,Marketplaceにアップされるすべてのコンテンツが,Microsoftの納得できるものであることを確認しているとのことだ。これはE for Everyone評価のゲームとして大丈夫かどうかから,キーロガーやウイルスが埋め込まれていないかなどまでをカバーしている。そして,何か見落としがあった場合は,チームが責任を問われるとしている。

我々はチームを PR 問題ゼロにすることを目標としており,それが成功のための最低基準だと考えています -Aaron Buckley氏

 「Microsoft側では,OKRと呼ばれる目標設定プロセスを使用しており,PR課題を0にすることをチームの目標としており,それが成功のための最低ラインだと考えています」とBuckley氏は語る。「これまでのところ,大きな問題に遭遇することなく,非常に幸運でした」

 Minecraftの視聴者の多くが子供であることを考えると,こうした問題を回避することの重要性はかなり高まっている。

 「もし,何らかのPRスキャンダルに直面するなら,子どもの安全が危険にさらされるようなことは,おそらく最も脅威的な出来事でしょう」とBuckley氏は語る。「そして,そのようなリスクを回避できたのは,審査があったからです」

 このような実践的なアプローチは,よりオープンなプラットフォームで制作されるコンテンツの量には対応できないが,Buckley氏によると,企業が社内で制作するよりも質の高いコンテンツを制作できるのだという。

 「これはすべて,我々のクリエイターとMinecraftのための持続可能な長期的な未来につながっています」とBuckley氏は語る。

Sean Davidson氏
Minecraft Marketplaceから得たUGCビジネスの教訓
 その証拠として,氏はパートナー組織を挙げている。Marketplaceのパートナーには,単独のデベロッパもいるのだが,このゲームに専念する大規模な事業者もおり,中には独自の人事部門を持つところもある。Gamemode Oneは,26人のフルタイムスタッフを抱える,Marketplaceの中でも大きなパートナー組織の1つだ。Gamemode OneのマネージングディレクターであるSean Davidson氏は,「持続可能」という言葉を使って,MicrosoftとMojangからチームが受けたサポートについて,問題が発生した際のオープンなコミュニケーションラインから,Marketplaceの新しい技術や機能に取り組む際のチームのニーズへの配慮に至るまで,称賛の声を上げている。

 「彼らは多くの点で我々に力を与えてくれました。ゲーム内のMarketplaceであるにも関わらず,我々のような規模のデベロッパでは得られないような新しい機会を与えてくれたのです」とDavidson氏は語る。

 たとえば,Gamemode Oneは,Sonic the Hedgehog,How to Train Your Dragon,Pac-Manなどの大手パブリッシャや知的財産と繰り返し仕事をしていた。

MinecraftMarketplaceでは,パートナーであるクリエイターが有名ブランドと仕事をできる
Minecraft Marketplaceから得たUGCビジネスの教訓

 同時にGamemode Oneは,Minecraft Marketplaceの開発に特化している。このことは,同社がビジネス全体を1つの関係性に依存させることに抵抗がないことを物語っている。

 「MojangやMicrosoftと直接コミュニケーションをとることで,うまく対応できています」とDavidson氏は語る。「もし,信頼関係で解決しなければならないことがあれば,我々はその橋渡しを強力かつ安定的に維持するためのコミュニケーションと能力を持っています」

 「もし,このようなものがなかったら,今のような規模に成長することはできなかったと思います。我々は,Marketplaceの中で自分たちが快適に過ごせるような規模にしました。26人のチームとしてここに来たのではなく,あくまでもMarketplaceのために作られたチームなのです」

 Robloxで見られたように,ユーザー生成コンテンツのエコシステム内で運営されるビジネスと,それらのサブビジネスの人々がどのように扱われるかについて,より大きなエコシステムが持つ責任には長らく疑問が残っている。Buckley氏は,MicrosoftがMarketplaceのパートナーに対して「高い倫理基準」と,ビジネス慣行,倫理,人権,公正な労働慣行を定めた「パートナー行動規範」を求めていると述べ,審査プロセスを再度指摘した。

 ユーザー生成コンテンツ主導の体験(またはメタバース)に取り組む他のデベロッパが,Minecraft Marketplaceから何を得られるかについて,Buckley氏は主要な論点に立ち返った。

 「我々が得た主な教訓は,クリエイターとプレイヤーを中心に据えることです」と,Buckley氏は語る。「クリエイターが非常に高いレベルでプレイヤーにサービスを提供できるようにし,プレイヤーに安全な方法でそれを行うようにすれば,そこから良いものが生まれてくるでしょう」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら