Reggie Fils-AimAimé氏が語る未来

前任のニンテンドーオブアメリカ社長Reggie Fils-AimAimé氏が,ダイバーシティの向上,業界を形成する技術,そして任天堂がSwitchに続く方法についての考えを述べた。

 2004年の任天堂のE3プレスカンファレンスで初めてステージに登場したとき,Reggie Fils-AimAimé氏は主要なビデオゲーム事業を率いる有色人種として珍しがられた。

 2022年になっても,状況はあまり変わっていない。

 回顧録「Disrupting The Game」の出版に続き,我々はThe GamesIndustry.biz Podcast関連英文記事) でReggie(氏は「Fils-AimAimé氏」と呼ばれることを好まない:関連英文記事)に話を聞き,この業界,とくに経営者レベルにおいて,現在問題となっている社会的弱者について氏の考えを聞いた。

 「業界にとって非常に残念なことであり,より大きな問題を浮き彫りにしています」と彼は語っている。「私は,この業界がダイバーシティ,つまり1人ひとりが自分らしさを発揮して仕事に取り組むという,最も広い意味でのダイバーシティにコミットしていると信じています」

Reggie Fils-AimAimé氏
Reggie Fils-AimAimé氏が語る未来
 「ゲーム業界は,このようなダイバーシティを受け入れることでは非常に遅れていると思います。経営陣にも,主要なデベロッパのリーダー層にも,そのような人は見当たりません。さまざまなゲームでそれを見つけるのは,信じられないほど難しいことです。黒人で肌の色,髪の縮れ,その他が特殊だった私にとって,キャラクターを私に似せるのは難しく,そうであってはならないのです」

 ダイバーシティをめぐる議論では,ゲームにあまり登場しない背景を持つ人々が,チーム内に自分の人種や性別(あるいはその両方)の人がおらず,会議室で孤独であることに不満を表明することがよくある。Reggieは,自分がニンテンドーオブアメリカを率いた最初の黒人アメリカ人であり,マリオメーカーの執行委員会のメンバーであり,出席した業界協議会のシニアリーダーで唯一の黒人だったことを意識しつつ,自分にもそういう瞬間があったことを認めている。

 しかし,最大の瞬間は,実はE3でのデビューの日であった。

 「誰も私のことを知らなくて,観客が埋まっていく任天堂のステージの脇のエリアに行ったのです。たまたま私が背の高い黒人で,下に黒いTシャツを着てスーツを着ていたので,セキュリティと勘違いした人がいました。それは残念なことで,確かに心に引っかかり,今も続いています」

 「しかし,ある時期から,自分が唯一の黒人の顔であることを認識し,その状況に慣れるだけでなく,その状況を教えるために使うようになりました。任天堂のものであれ,業界のイベントであれ,どんな場合でも,我々はもっと多様で,ユニークな経験をもたらす幅広い個人を必要としているということを,私が参加したイベントや活動の範囲全体で強化するために,それを教えられる瞬間として利用することにしたのです」

 氏はこう付け加える。「社長や最高経営責任者より下の階層にダイバーシティがないと,ある時点でトップリーダーの役割を果たせるような人材のパイプラインが見えてきません。そのレベルのダイバーシティが1段階もしくは2,3段階下がっているとは思えませんので,かなり時間がかかるのではないかと心配しています。まだ実現していません。残念ながらそう言うほかありません」

 業界のダイバーシティの欠如をめぐる議論は,ある意味,職場の問題で批判にさらされる企業が増えていることと関係している。これはあらゆる差別,ハラスメント,虐待を包含しており,ニンテンドーオブアメリカでは給与や待遇の面で格差があるという報告さえあり,Reggieは2019年に引退する際にはそうではなかったと主張している。

社長や最高経営責任者より下には,そのようなトップリーダーの役割を果たすことができる人々のパイプラインが必要です

 任天堂の元幹部は,このような問題を発生させうる企業文化が根本原因であり,その責任はリーダーにあると信じている。

 「社員が最高の仕事をするためには,リーダーは自分たちが作り出し,永続させている文化についてよく考える必要があります。私は,ニンテンドーオブアメリカを率いていたとき,非常にポジティブな方法で文化を形成してきたと自信をもって言えます。しかし,残念ながら,効果的な文化が形成されていない企業の例があまりに多いのです。そして,これはゲーム業界に限ったことではないと思いますが,このような悪い文化を永続させる例があまりにも多いと思っています」

 「どのような会社であっても,具体的に説明することが大切だと思います。その問題が組織的なものなのか,それとも限られた数の問題なのかを理解することが,本当に重要なのです。そして,我々は皆人間であり,リーダーはすべての部屋にいることはできませんので,文化がとても重要になります。残念ながら,理解し,前向きに取り組まなければならない個々の従業員の問題は常に存在します。しかし,重要なのは,特定の組織で起きているシステム上の問題があるかどうかなのです。これは,リーダーが相当な時間をかけて考えなければならない問題です」

 ポッドキャストの後半では,ゲームビジネスの将来像について,とくにテクノロジーに焦点を当てながら,さまざまな議論を展開した。最初にこの話題になったのは,ビデオゲームがよりメインストリームになるにはどうしたらいいかという話だった。これは氏がDSやWiiの発売でReggieが見てきた任天堂の変化と似ている。

 この2つのゲーム機は,ゲームの利用者を劇的に広げたが,その後,利用者はどこにでもあるスマートフォンに移行し,ゲーム専用のデバイスはほとんど必要なくなった。このような状況の中,ビデオゲームはWiiのような瞬間を再現できるのだろうか? Reggieは楽観的だが,なにかまったく新しいものを生み出す高品質のコンテンツが必要だと語る。

 「たとえば,The Last Of Usのようなゲームの物語性を,現在の最高のAIと機械学習で活用し,最終的に物語主導型でありながら,完全にオープンワールドの体験のような,ジャンルを融合した,まったく異なるものを作り上げられたらどうでしょうか? 私の希望は,例として,そういうコンテンツが追求されるようになることです」

Reggie Fils-AimAimé氏が語る未来

 「もう1つは,ゲームとして永続性のあるものを作るにはどうしたらいいかという,荒唐無稽なアイデアです。プレイヤーは,ゲームの中でさまざまなアプローチや冒険をできます。しかし,永続的であるがゆえに,あなたがその地域を探索する際に行ったことに偶然出会うこともあり,あなたが最初にその場所にいたときとは異なる経験をすることにつながるのです」

 「私は,この業界が持っている継続的な創造性を促進し,スマートデバイスではできないような新しくユニークな体験をし続けることを可能にしていくのは,このような取り組みのであってほしいと願っています」

素晴らしいゲームが提供するものに比べると,コアな体験はまだ十分ではありません……。私は楽観的ですが,これは信じられないほど難しいことです

 永続性についての彼のコメントは,Improbableなどの企業が主導するクラウドコンピューティングの推進を思い起こさせる。Midwinter EntertainmentのScavengersは,雪に残る足跡から他のプレイヤーがそのエリアにいたかどうかが分かるという,マルチプレイヤーシューティングサバイバルゲームを実現し,Bossa StudioのWorlds Adriftは,難破船を発見したら,それはデベロッパが仕組んだ舞台装置ではなく,プレイヤー間の過去の戦いの結果であるという世界を予告して,想像力に火をつけようとした。

 しかし,この分野では多くのつまずきを見ていた。Improbable自身も,メタバースを追求するためにゲーム開発専用スタジオから手を引いた(関連英文記事)。クラウドコンピューティングを探求して成果を出せなかったのは同社だけではない(関連英文記事)。多くの人が信じている可能性を実現するのになぜこれほど時間がかかるのだろうか。

 「私の観点では,問題はこれらです。まず,これを構築するには,本当に優れた技術的なプラットフォームが必要になります」とReggieは語る。「企業の多くは,これらを実現するために独自の技術プラットフォームを構築しようとしたり,実際に構築していますが,それは信じられないほど困難なことです。彼らがそうしたがる理由の1つは,自分たちのビジョンを実現するために,誰かのプラットフォームや技術に縛られたくないからではないでしょうか。多くの企業がこの道を進んでいますが,それは非常に困難で,経済的にも疲弊します。これが第一のハードルになります」

 「2つめのハードルは,ゲームプレイ自体に説得力がなければならないことです。異星で誰かの足跡や船を偶然発見したという以上のアイデアが必要です。私が見たコンテンツでは,そこが不十分でした。優れたゲームが提供する体験やストーリーの観点に比べ,コアとなる体験が不足しているのです。私は楽観的ですが,それは非常に難しいことなのです」

 Reggieが業界の発展に寄与すると考えている技術の1つに,ブロックチェーンがある。彼は,この技術は「単なるイネーブラ」であり,これを利用するのは「最終的には,素晴らしいゲームでなければならない」と強調する。

Reggieは,ブロックチェーンの反発を,任天堂の岩田聡社長でさえGDCの基調講演で警告した,無料プレイゲームに対する最初の怒りになぞらえている
Reggie Fils-AimAimé氏が語る未来

 我々はこの時点でブロックチェーンに対する感情を明確にした(関連英文記事)。また,Team 17(関連英文記事)やGSC Game World(関連英文記事)などの企業が発表時に受けた反発により,NFTの計画をすぐに撤回するなど,多くの消費者がブロックチェーンに対して抱いている感情も同じだ。Reggie氏は,マイクロトランザクションと関連するゲームプレイのループが無料プレイの初期に出現したときに見られた「同様の反発」になぞらえている。

 「岩田聡氏がGDCで無料ゲームについてコメントし,業界にとって大きな危険性があることを指摘したのを覚えています。しかし,現在では,素晴らしい品質の無料ゲームも存在します。ゲーム内マネタイズのループがあり,ファンは……たぶんコンテンツにお金を使うことに満足する人はいないかもしれませんが,衣装やそのようなものにお金を使うことには抵抗がなく,そこから楽しみを得ているのです」

変化を遂げる業界では,分裂的な要素が見られる。そして基礎となる技術が完全に証明されていないため,詐欺や悪徳業者がそれに便乗するのです

 「産業が変化を遂げるとき,分裂的な要素があることがあります。(そして)基礎となる技術が完全に証明されていなかったり,選別されていなかったりするため,その状況を利用した詐欺や悪質な業者が存在するのです。私はインターネットが普及し始めた頃,詐欺や問題があったことを記憶しているくらいには古い人間です」

 「また,環境問題についても,解決しなければならない問題です。すべてのブロックチェーンが環境を破壊するわけではありませんが……。確かに,まだ実証されていないことはたくさんあり,ここ数週間で見たブロックチェーン環境におけるさまざまなプラットフォームの価値の大幅な損失は,この技術がまだ未熟であることを物語っています。しかし,だからといって,この技術を完全に脇へ追いやり,実質的な価値も何もないと言い切る理由にはならないと私は考えています」

 ゲーム業界に関して言えば,問題の大部分は,ブロックチェーンなしでは不可能なことができることを証明するタイトルがまだ存在しないことだ。この分野の申し子であるAxie Infinityでさえ,本質的にはポケモンの反復であるが,ポケモン自体は25年以上前から似たようなことをやってきている。赤と青の間で取引されるモンスターは,すべて独自のステータスとID番号を持っており,何度取引されても元のトレーナーの名前を覚えている。これは1996年のことで,ブロックチェーンは存在していない。

 「おっしゃるとおりです」とReggieは語る。「私は,人々が集まってくるには,テクノロジーを活用した,本当に楽しくてクリエイティブな体験ができるユースケースが必要だと言ってきました。もし,ポケモンと他の5つのジャンルやゲーム体験の長所を融合させた体験があったらどうでしょう。今では,1つのゲームや体験に留まらず,さまざまな面白い体験に触れることができ,それが面白さや説得力につながっていきます」

 氏は,キャラクターを育成し,他のプレイヤーと販売または交換することができ,しばしば金銭的価値を得ることができるゲームについて,また,よく言われる相互運用性の約束について,さらに話を続けた。 ― あるエンジンやゲームコードから別のものに,最も基本的なアセットを取り込むことの複雑さを考えると,一部のデベロッパは疑問を呈しているが。

1996年以来,ブロックチェーンなしで,ユニークなステータスとトレーナーIDを持つモンスターを取引できるようになった
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 このようなレベルの相互運用性が漠然とした可能性になる前に,乗り越えなければならない障壁が非常に多くある。人々が売っているブロックチェーンゲーム用の夢は ―現時点では夢であり,人々はそれを強く売っているのだが― 短期的な期待を抱かせる長期的なビジョンである。

 「私はそうは思いません」とReggieは語る。「VRでも同じようなことが言えます。VRの没入型体験がゲーム業界を席巻し,これまでで最も魅力的な体験ができるようになるというビジョンを人々が売り込んでから,どれほどの時間が経ったでしょうか。そのビジョンを実現するのは非常に難しいことでした」

 「なぜなら,最終的にユニークで差別化された,魅力的で楽しいコンテンツをプレイヤーに提供することができれば,そのようなタイプの体験には価値があると思うからです」

 最後に,かつて勤めていた会社の展望について尋ねてみた。 ― とくに,Switchから次のプラットフォームへの移行が現時点での「主要な焦点」であるという任天堂の最近のコメントに照らしてだ(関連英文記事)。

 これは,同社が以前から苦労してきたことだ。WiiとDSは障壁を取り払い,同社がこれまでなし得なかった成功を収めたが,その後Wii Uと3DSはその勢いに乗れず,失敗した。Switchの後継機は同じ運命をたどらないようにできるだろうか?

 Reggieは,業界の歴史上,このような転換を成し遂げた企業はほとんどないと指摘する。2つだけ,ソニーが初代PlayStationの成功を受けてPS2を発売したことと,任天堂がゲームボーイとゲームボーイアドバンス(氏はこれらをまとめていたが)の成功を受けてDSで携帯ゲーム機事業を立ち上げたことは例外だと語る。

 「ですから,成功したプラットフォームから次のプラットフォームに移行することは,信じられないほど難しく,挑戦的であることを認めましょう」と氏は語る。

 「任天堂とSwitchに特化すると,同社はSwitchがまだライフサイクルの半ばであるという見解も語っています。そうであれば,Switchのコアビジネスの勢いを持続させるために,今後4,5年で何をするかを考える必要があります。そして,それを追いかけて,将来はどうするのかということです。かなり大仕事なるでしょう」

 「コンテンツパイプラインとプレイヤーを惹きつけてやまないコンテンツについて,何よりもまず考えなければならないと思います。ある世代のライフサイクルを維持するために有効だった歴史的な戦術は何だったのか,歴史を振り返る必要があると思います。これには,中期的なアップグレードから価格設定や価値に関する考え方まで,あらゆるものが含まれます。しかし,基本的には,コンテンツパイプラインが存在する必要があります」

 「私は,この業界に積極的に参加し,投資家として,またアドバイザーとして活動しています。そして,人口動態の変化や地理的な機会,技術がどのように進化し続けているかを意識すること,これらはすべて,任天堂のような企業がSwitch以降のシステムを発売するために考える必要があることだと思います」

 インタビューのすべては,こちらから(関連英文記事),またはお好きなポッドキャストプラットフォームで聞ける。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら