【ACADEMY】Elden Ring:アクセシビリティとゲームデザインの違いについての考察

Kids Industriesのクリエイティブプロデューサー,Sarah Doyle氏がゲームデザインにおけるアクセシビリティのトレンドについて語る。

 フロム・ソフトウェアのElden Ringは大好評を博した。それをきっかけにゲームの難度に関する話題が批評家やファンの間で再燃している。

 ゲームの難度や「イージー」モードに関する話題は,ゲーマーの間に信じられないくらい大きな隔たりを生んでおり,アクセシビリティの問題も残念ながらこの物語に巻き込まれて誤解されているように思われる。そこで,Elden Ringを出発点として,アクセシビリティがいかに誤解されがちか,アクセシビリティとは何か,それが開発にとって何を意味するか,そして今後,前向きで包括的な会話をするためにはどうすればよいかを考えてみたい。

 シリーズディレクターの宮崎英高氏がPlayStationのインタビュー(参考URL)で語った言葉が,この議論の発端となっていた。「我々は,無理に難度を上げたり,そのために物事を難しくしたりすることはしません。プレイヤーには,知恵を絞り,ゲームを研究し,何が起こっているかを記憶し,失敗から学んでほしいのです。ゲームが不公平な罰を与えているように感じてほしくはありません。むしろ,困難な敵に勝利し,進歩するチャンスがあると感じてほしいのです」

Sarah Doyle氏, Kids Industries
【ACADEMY】Elden Ring:アクセシビリティとゲームデザインの違いについての考察
 「Soulsライクなゲームというと,難度が高く,参入障壁が高いと思われがちなのは理解しています。しかし,我々は,これらの課題を克服するために繰り返し挑戦するサイクル自体を楽しめるようなゲームデザインを心がけています」

 当然ながら,ファンからの即座の反応はシリーズの難度とゲームデザインを熱く擁護するもので,プレイヤーはボスを根気よく攻略する必要があり,Elden Ringの素晴らしさは,フロム・ソフトウェアの意図どおり,広大なオープンワールドで自由に,好きな場所に行けることにあるとしている。確かにこのゲームは,複雑なボスやその攻撃パターンを覚えて,それを使いこなすことで進んでいく,いわば切磋琢磨型のゲームだ。

 しかし,ここで問題なのは,実はそのことではない。

 アクセシビリティの要件を単純化しすぎた「イージーモード」に落とし込むことは,アクセシビリティとは何か,ある種の障害を持つゲーマーが実際に何を必要としているかを根本的に誤解しているのだ。誰もイージーモードを要求しているわけではない。


アクセシビリティ機能とは何か?


 最も単純に言えば,アクセシビリティ機能とは,プレイヤーが自分のユーザーニーズに合わせてゲーム体験をカスタマイズできるようにするゲーム内の機能またはオプションのことだ。

 この種の機能について考えるときに最初に思い浮かぶのは,色覚異常モードや操作法のリマッピングだろう。しかし,多くの一般的なオプションも,実はアクセシビリティ機能なのである ― たとえば,オーディオレベルや音楽をカスタマイズする機能などもそうだ。

障害者が競技に参加するために十分な速さで反応できるように,プレイデザインのレベルアップをもっと考える必要がある

 これらの機能は「アクセシビリティ」としては認識されていないかもしれないが,感覚的な問題を抱えるプレイヤーにとっては有益なものなのだ。多くのゲーマーは,これらの機能が誰のためにデザインされているかに関わらず,これらの機能を使用している。最も一般的なものは字幕だ。私自身は常に字幕を付けてプレイしている。背景で大きな爆発が起こっているときには,重要なディテールを聞き逃しやすいことがあるからだ。また,私はおっかないので,明るさを最大にしてプレイするタイプの人間だ(ええ,好きなように私を判断してください)。

 実際,UbisoftのDavid Tisserand氏はTwitterのスレッドで,Assassin's Creed Odysseyのプレイヤーの95%が,デフォルトでオンになっている字幕をオフにしていなかったと報告している(参考URL)。

 このような機能は,いつ自分自身が必要になるか分からない。もしかしたら,骨折してもお気に入りのゲームをプレイし続けたいと思うかもしれず,普段からメガネをかけてプレイしていたり,ゲームの効果音ではなく他の音楽を聴くのが好きな人もいるかもしれない。

 Elden Ringに話を戻すと,障害者コミュニティの一部から寄せられたいくつかの指摘は,難度とはまったく関係がなく,むしろゲームをプレイする身体能力に関するものだ。たとえば,プレイヤーはキーをリマップできるが,片手プレイを可能にするようにリマップすることはできない。ダッシュとスプリントを同じ入力キーで使用するモビリティの問題があり,またデュアルボタン入力も,やはり両手が必要だ。視覚障害者向けには,字幕が表示されるものの,サイズ変更ができないことや,色覚障害者用のオプションがないことが残念だ。


ゲームを簡単にするのではなく,フェアにすること


 高難度の問題は,ゲーマーが諦めてしまうことではなく,身体的な運動能力に関する問題だ。障害者が競技に参加するために十分な速さで反応できるよう,プレイデザインのレベルアップをもっと考慮する必要がある。結局のところ,身体障害者のプレイヤーは,いくら練習しても改善されないほど身体的に無理があるのに,どう頑張って切磋琢磨できるのだろうか。

 たとえば,敵から少し距離を置いて戦える魔法クラスの使用や,追加で助けを呼び出すなど,プレイヤーの助けになるようなゲームデザインの選択がなされているのは,Elden Ringの功績といえるだろう。また,Soulsシリーズの中で最もプレイしやすい作品ではあるが,AAAタイトルであることを考慮すると,まだ多くのことを提供できるのは明らかである。

Elden Ringに対する障害者コミュニティからのコメントは,難度よりもむしろプレイするための身体的能力に関するものである
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過去2年間の変化


 近年はAAAからインディーズまで,優れたゲームや選択肢が登場しており,最近では技術的な進歩以外でも,考え抜かれた特徴も出てきている。

アクセシビリティの要件を過度に単純化した「イージーモード」に落とし込むことは,アクセシビリティとは何かということについての根本的な誤解である

 2020年に発売されたThe Last of Us: Part 2は,AAA級ゲームにどこまでアクセシビリティを盛り込むことが可能かの基準を引き上げるものだったが(参考URL),2021年は,アクセシビリティにおける技術的成果にとってとくに素晴らしい年だった。60以上のアクセシビリティ設定が用意され,運動機能や聴覚に焦点を当てた拡張オプションや,弱視や全盲のプレイヤーに役立つまったく新しい機能が盛り込まれていたのだ。

 また,Playground GamesがForza Horizon 5で行った徹底的なアクセシビリティの統合にも注目する必要がある(関連記事)。シネマティックカットシーンにおけるアメリカ手話とイギリス手話のサポート,オフラインゲームプレイモードによるスロー再生,視覚ハイコントラストモード,その他多くのオプションが盛り込まれている。Gamers and Disabilityコミュニティのメンバーと協力して,直面している問題を特定したことが,実を結んだのだ。

 また,2019年に発売されたCharles McGregor氏による素晴らしいインディーズタイトルHyperDotもある。氏は「#HyperDotA11y」という実験的な研究プロジェクトを開始し,障害のあるコンテンツクリエイターとタッグを組んでゲームのストリーミング配信や体験談を語り,そのフィードバックをもとにアップデートを特定したのだ。このゲームの特徴は,ゲームをプレイするための柔軟なオプションが充実していることだ。


アクセシビリティの要件は,プリプロダクションの段階で考慮する必要がある


 アクセシビリティについて早くから考えておけばおくほど,オプションをゲームデザインにシームレスに統合することが容易になる。ゲームの規模(およびチーム)によっては,多くのアクセシビリティ機能を追加する時間や予算がないかもしれないが,たとえ小さなものであっても,ないよりはましだからだ。

 多くの場合,ゲームにアクセシビリティのオプションを含める最善の方法は,コアメカニクスを明確に分析し,これがプレイヤーにとってどのような障壁になり得るかを検討することだ。それは,ゲームに対する基本的な理解を示し,ユーザー体験とユーザー層について批判的に考えることでもある。これは,単純なオンとオフの切り替えよりも深いものだが,それは良い出発点になりえる。

 読者の皆さんには,Gaming Accessibility Guidelines(参考URL)を読んで,実際に障害を持つプレイヤーと接することを強くお勧めする。英国だけでも1400万人の障害者がいるのだが,彼らのニーズが見落とされていることが非常に多いのだ。また,障害や疾患を持つゲーマーの66%がゲームに関する障壁や問題に直面していると答えていることからも(参考URL),必要な努力はお分かりいただけると思う。

 認知度が高まるにつれ,アクセシブルなゲームの未来にとって,良い方向へ向かっているように感じられる。Elden Ringにまつわる言説は,なぜそれが重要なのかを明確にする良い機会となり,願わくば,単に難度モードだけでなく,もっと多くのものがあることを伝えたいと思う。


参考文献・視聴物



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Sarah Doyle氏は,デザインとUXの幅広いバックグラウンドを持つKids Industriesのクリエイティブプロデューサーで,子供向け製品のインクルーシブでアクセシブルな実践を提唱している。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら