【ACADEMY】社内文化的な問題を解消するための採用のヒント

MidbossのCade PetersonとOnward PlayのKim Shatzer氏が,会社が変わったことを示し,過去の過ちを繰り返さないようにするためのアドバイスを提供する。

 ここ数年,ゲームスタジオにおける有害文化の問題が,かつてないほどのスピードで明らかにされている。UbisoftからFunomenaまで,内部告発の波はインディーズゲームからAAAゲームまで押し寄せた。

 こういったスキャンダルが起こると,多くの場合,企業が行う必要のある改善と実装されるべき新しいポリシーについて即時の確認が促されるのだが,一度悪い話題がニュースに流れると,彼らはしばしば公の場でそれらの問題を再び認めることに消極的になる。

 しかし,例外は存在し,その1つがMidBossである。このスタジオの前CEOであるMatt Conn氏は,2018年に搾取的行為とセクハラで告発された(関連英文記事)。それ以来,Cade Peterson氏がCEOの座を引き継ぎ,スタジオの過去の文化的問題をかなりオープンに取り上げ ―GamesIndustry.bizのインタビューを含む― ,また,チームが破片からMidBossを再建しようと試みている。

 これは,ゲームに特化した人材紹介会社Onward PlayのマネージングディレクターであるKim Shatzer氏が,身をもって体験したプロセスでもある。

 「我々は,スタジオの文化とスタジオの人事問題の2つの側面を見ることができます」と,氏は語る。「我々は,『我々の評判はよくないので,もっと人材を集めるために修正する必要がある』という人材獲得の側面から見ていますが,志望者の立場からも,ゲームにおける文化の問題を見ることができます。彼らは,現場で見たこと,過去に経験したこと,上司から学んだこと,カルチャーにおける好きなこと,嫌いなことを話してくれるのです」

 社員が会社の文化に悩まされたり,トップダウンで作られた文化についていけなくなったりするのではなく,会社の文化に対してオーナーシップを持つ動きが活発になってきているのだと氏は語る。

 「そして,我々は今,それが従業員によって行われているのを見ています」と氏は続けた。「つまり,ミレニアル世代が職場のあり方を『これは我々にとって重要なことだ。もし,これが雇用主にとって重要でないというなら,私は辞める』といった具合に変えつつあるのです」

 「この業界がそのように変化したことを嬉しく思います。起きていた問題のいくつかは,人材獲得に起因していたようです」

 採用は,有害な文化を未然に防ぐ役割を担っていることは明らかだ。Shatzer氏とPeterson氏は,GamesIndustry.biz ACADEMYで,職場の問題から立ち直ったときに新しい人材を採用する方法について,次のように話している。


正しい変更を実施したことを確認する


 言うまでもなく,採用の優先順位を戻す前に,スタジオ内の問題に対処しておく必要がある。

 この記事では,主に自社を掃除したあとの採用のヒントに焦点を当てるが,Peterson氏は,社内で問題があった場合に変更を加えるための最初のステップに焦点を当てる。

敷物の下にゴミを掃き込んだり間違いを隠したりしないでください。 それは必ず戻ってきます。そして以前の悪い問題によって影響を受けた人々の士気は決して癒されません -Cade Peterson氏,Midboss

 「聞いて,認めて,謝って,そして,歴史が二度と繰り返されないように,構造とプロセスを変えるのです」と氏は語る。「ビジネスの運営方法を変更することでフォローアップすることで長期的に健康的な職場環境を確保することができます。敷物の下にゴミを掃き込んだり間違いを隠したりしないでください。 それは必ず戻ってきます。そして,以前の悪い問題に影響を受けた人々のモラルは,決して癒されることはないでしょう」

 Shatzer氏は,悪い種を取り除くことが優先されるべきであり,誤った言い訳をしないように警告している。

 「ゲームでは,すべてが専門的でニッチなため,悪い種があると,スタジオによっては,その種を本来あるべき期間より長く置いてしまうことがよくあります。あるいは,何かが報告されたときに見て見ぬふりをすることもあるのです」

 「この業界はストレスの多い業界です。ライブオペレーションがあり,納期や出荷日があり,技術の変化があり,計画を狂わせるような緊急性の高い業界です。このようなストレスの高い環境では,『理解できる人が見つからないから』『ゲームの出荷は半年後だから,半年後に解決しよう,でもこのゲームの出荷が先だ』というように,マネジメントスタイルが悪くなる可能性があります」

 「人事プロセスの強化は,最初の一歩です。マーケティングやリブランディングを行うことも,求職者や会社に,新しい視点で物事を捉え,モラルや価値観の一部を更新し,D&I(※ダイバーシティ&インクルージョン)活動を更新していることを知らせるための素晴らしい一歩でしょう。そのようなものを更新することで,自分たちが変化し,より良い方向に進んでいることを人々に知ってもらいたいのです」

 組織図を更新し,新しいリーダー(とくに人事チーム)を採用することで,より現場に近いところで支援できるようになる。また,常にコミュニケーションをとることも重要だと彼女は続ける。

 「大きなAAAスタジオで働き,さまざまな経験をした人たちを知っていますが,彼らはおそらく年に2回ほど,人事部のリーダーから多様性と包括性,メンタルヘルスへの認識について聞いたといいます。そして今,彼らは毎週それについて話し,そのための委員会を持ち,どのように改善できるかについて話しているのです」

これはプライドの月にロゴを虹色に変えればそれでいいというものでもありません。この役員はこの問題で失敗したからクビになった,このチームは新しいトレーニングを受けることになった,などなど,より深い説明が必要です -Kim Shatzer氏,Onward Play

 Shatzer氏は,このような変更は公的に行われる必要があり,そうでなければ,将来の候補者が,あなたが過去の問題に対処したことを知る術がないと付け加えている。

 「企業が悪い文化や有害な問題を克服するには,人材獲得だけでなく,本当に優れたPRチームと,『なぜ』を売り込んで変化を売りにできる優れたリクルーターがいることを示すことが重要です。とくに大きなスキャンダルがあった場合,多くのことを公表する必要がある。種類を問わず非営利団体に寄付をして,問題を解決しようとするだけではいけません」

 「また,これはプライドの月(※米でLGBTの誇りが宣言された6月)にロゴを虹色に変えればそれでいいというものでもありません。この役員はこの問題で失敗したからクビになった,このチームは新しいトレーニングを受けることになった,などなど,より深い説明が必要です。
このチームには新しいトレーニングを提供し,我々の倫理観や考え方,やり方を改善するなど,我々は,さまざまなタイプの人材を獲得するために,さまざまなソーシング戦略に投資しています」


トレーニングに投資する


 Shatzer氏が強調したように,採用の準備を整えるには,過去の失敗を繰り返さないために,管理職に正しい知識を身につけさせることも必要だ。

 「もし,管理職がX,Y,Zのどれかを行っているという文化的な問題があるのなら,それは問題です。管理職にはトレーニングが必要であり,直属の部下にもトレーニングが,人事チームにもトレーニングが必要です」と,彼女は語る。「その多くは,再教育とシステムの導入によってもたらされます」

 「スタジオでは,ダイバーシティ&インクルージョンのディレクターを雇い,人事部の副社長を雇い,人材派遣会社やコンサルタントをパートナーに雇い,Equity Gaming Project(参考URL)に公平性に関するトレーニングを依頼し,Take This(参考URL)という非営利団体に相談し,リーダー向けにメンタルヘルスやメンタルヘルスに関するトレーニングを行い,従業員がどんな状況にあるかを認識させています」

 「この業界は人材不足で,ゲームを素早く作れるデザイナーやエンジニアが足りません。テクノロジー企業は候補者をすくい上げているので,2回めのチャンスが得られない可能性があるため,最初は企業を志望者に正しく配置する必要があります」

あなたの会社では10年間同じ人材チームが採用していて,だから同じタイプの社員が入社してきたんですね。だから,今のような文化的な問題が起きているのです -Kim Shatzer,Onward Play

 氏は,この状況の「憂慮すべき部分」は,どのゲームスタジオも安全ではないということであり,その結果,すべてのスタジオが自分たちのプロセスを調べ,トレーニングに投資する必要がある,と付け加えた。

 「すべてのスタジオは,メンタルヘルスの意識向上について,どのようなトレーニングを行っているのか,また,どのようなことを行っているのか,深く掘り下げる必要があります。メンタルヘルスの意識向上に関するトレーニングはどうなっているのか,多様性や女性のリーダーシップの確保はどうなっているのか。また,採用チームや人事チーム,管理チーム,マーケティングチームだけでなく,技術サイドの女性にも十分な女性や多様性があることを確認するために,どのような取り組みをしているのか? 白人の男性だけがキャラクターやコンセプト,ゲームのデザインを作り,その視点だけがゲームに適用されることがないようにです」

 「人材獲得は,『そういえば,あなたの会社では10年間同じ人材チームが採用していて,だから同じタイプの社員が入社してきたんですね。だから,今のような文化的な問題が起きているのですよ』と私が最初に指摘する部分です」


過去の問題を隠さず,透明性を保つ


 文化的な問題のあとの採用に焦点を当てる場合,物事を正しく行うには,もう一度,コミュニケーションが不可欠な要素になる。正直であることを避けてはいけない。

 「我々は幸いにも,新しい人材の採用や仕事に関して,以前のMidBossの問題の影響をあまり受けていないと思っています。しかし,我々は小規模な企業です」

 「多くの人が以前の問題について尋ねることはありませんでしたが,そのような話が出るたびに,我々は率直にその経緯と,どのように物事のやり方を変えたかを伝え,我々は,人々が恐れや不安なしに才能を発揮できるような,協力的でポジティブな環境を築くことを目指していることを伝えました。そのような正直な姿勢は,ビジネスでは珍しいことですが,そうすることで人々が安心して我々に参加できるのです」

 Shatzer氏は,プロセスを開始するときに,すぐにそれを持ち出したがる採用担当者を意識していると語る。

Onward Playのマネージングディレクター,Kim Shatzer氏
【ACADEMY】社内文化的な問題を解消するための採用のヒント
 「ときには,候補者にこう言うそうです。『聞いてください,私は我々が昨年何かをしでかしたことを知っています。それでも,この会社には素晴らしい人たちがたくさんいるんです』そして,ニュースで聞いたことや,RedditやGlassdoorで聞いたこと,あるいは誰かが書き込んだことを,自分の経験でどう否定するかを説明するのです」

 「さらに,会社が行った変化に関する情報を共有することも重要です。求職者が応募してくると,会社が行った変更を目にすることがあります。ホームページやキャリアページには,その会社が行った変更が掲載されており,多くの場合,社会的地位の低い人々のために行った活動が強調されています。そして,求職者に『我々はこの業界に変化をもたらそうとしている』ということを示すために,自分たちが行ってきた取り組みについて話すのです」

 「面接のときに話すこともあれば,Webサイトやプレスリリースから話すこともあります。しかし,求職者は,その会社が自分のモラルや価値観に合わないと感じると,面接の電話すら受けなくなることがよくあります」

 これは重要な問題に触れている。文化的な問題を抱えたうえで,どのように求職者を惹きつけるのか,ということだ。

 「求職者の中には,『教えてくれてありがとう,でもあそこで働いたことのある友人にはひどいことを言われたから,あそこには応募しません』と言う人もいます」とShatzer氏は語る。「ときどき我々は『履歴書も,給与明細も,勤務開始日も書かなくてかまいません。電話番号を教えて,10分待ってください。そのスタジオの採用担当者と電話をつなぐので,彼らのチームが何を作っているのか,なぜあなたが彼らにとって素晴らしい存在になるのかを語らせてください』と言わなければならなくなります」

 「ときには,その採用担当者と,正式な面接ではないノンコミットメントコールをできることを売り込むことで(そして,会社がどのように改善し,どのように変化をもたらし,従業員に投資し,恩返ししているかを示すことができ),候補者を説得することができます」


採用戦略に多様性を取り入れる


 過去の問題から素早く立ち直るスタジオは,人材にもっと投資し,採用の網を広げ,より多様な求職者を連れてくるものだ,とShatzer氏は続ける。

Cade Peterson氏,CEO of Midboss
【ACADEMY】社内文化的な問題を解消するための採用のヒント
 「このような企業は,単に企業文化に合うというだけでなく,企業文化を付加するような人材を職場に迎えることで,企業文化をよりポジティブなものに変えることができるのです。そして,異なる声,異なる経歴,年齢,異なる経験レベル,異なる経験タイプなど,どんなものでも取り入れることです」と彼女は語る。

 「異なる背景を持つ人々を取り入れることは,文化の問題を解決するのに役立ちます。しかし,それはトップダウンであることは明らかです。ですから,採用担当者から『プロセスを変えたい』『文化を変えたい』『代理人を立てたい』などと言われることもあります。そして,ときには,ひどい訴訟や企業内部の危機が起こりますが,それについて多くの報道がなされることで,企業が本当に姿を変え,やり方を変え,より良くできるのです」


初日から正しい価値観を導入すること


 採用プロセスを経て,適切な候補者を見つけるには,最初からトーンを設定し,自分の行動に価値観を組み込み,悪い状況を長引かせないようにすることだ。

 「新メンバーには,不適切な行動に対してゼロ・トレランス・ポリシーがあること,問題が発生したらすぐに対処できるよう発言したりエスカレートしたりすることを伝え,初日からトーンを設定することが重要です」とPeterson氏は語る。「毒のある文化は最初から大きくなるわけではなく,時間をかけて徐々に大きくなっていくのです」

 Shatzer氏は同意し,人々は通常,文化の問題は管理から始まると考えていると語る。しかし,それはまた,あなたの新入社員とあなたが過去に採用をどのように扱ったかから始まる。

求職者はもちろん,ゲームスタジオと提携している人材派遣会社も,なにか違和感を覚えたり,我慢できないような発言があれば,いつでも立ち去るべきです -Kim Shatzer氏,Onward Play

 「あなたの会社には,どんなタイプの人材や候補者が集まっているのでしょうか? 有害な文化を持つスタジオから来た人を引き寄せてはありませんか。同じような人を何度も引き寄せていませんか? インディーズスタジオを立ち上げて1年も経つと,白人男性ばかりになっていませんか? 人材発掘の面ではなにをやっていますか?」

 話を終えたShatzer氏は,候補者側で最も重要な原則を強調している。「求職者はもちろん,ゲームスタジオと提携している人材派遣会社も,なにか違和感を覚えたり,我慢できないような発言があれば,いつでも立ち去るべきです」

 「そして,我々は以前にもそのようなことをしたことがあります。そのプロセスでは,あなたが望む人材を見つけることはできず,有害な文化の印を見ることができたので,我々は人材を送るつもりはありません」


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