【ACADEMY】プレッシャーのかかる環境でスタッフの福祉を優先するには

MetacoreのMaria Törnroos氏は,福祉なくしてパフォーマンスはあり得ないとし,その両方を最大化するためのヒントを示した。

 パンデミック発生当初,多くの人がゲーム会社は新しいリモートワークのルールにすぐに適応できると思っていた。なぜなら,多くのゲームデベロッパやデザイナーは,好きな場所でフレキシブルに独立して仕事をすることに慣れているからだ。

 しかし,現実はそうはいかず,ゲーム業界では疲労や燃え尽き症候群の事例が続出していた。そして,その重圧を感じているのはゲームスタジオだけではない。自己管理能力が高く,仕事への情熱にあふれた,つまりプレッシャーのかかる環境を特徴とするさまざまな企業で,従業員の福祉が低下していたのだ。

 Guerrilla Gamesは危機的状況を避けるために最新作の発売を遅らせた(関連英文記事)。Mozillaは全社的な「ウェルネスウィーク」のために全社を閉鎖した(参考URL)。Twitter(参考URL)や富士通(参考URL)は在宅勤務を常態化させている。

 従業員を幸せで健康にする特効薬はないが,ここでは,すべてのゲーム会社が職場の福祉とパフォーマンスを育むために始められる3つ+3つのことを紹介する。


リーダーが福祉を向上させる3つの方法


●マイクロマネジメントから信頼への転換
 自主性を重んじる文化は,ときに社員に過度の責任を負わせ,残業や燃え尽き症候群を引き起こす可能性があると非難されることがある。実際には,マイクロマネジメントやトップダウンの管理,自分の仕事のやり方に口を出さないことのほうおが,燃え尽き症候群や退職の原因になる可能性が高いのだ。

マイクロマネジメント,トップダウンの管理,自分の仕事のやり方に口を出さないことは,燃え尽き症候群や退職の原因になる

 信頼文化の構築は長い道のりであり,一朝一夕にできるものではない。それを成功させるために,マネージャーは人々がどのように行動するかについて,自分の思い込みをチェックする必要がある。もしあなたが,人は生まれつき怠け者で,監視する必要があると信じているなら,問題はあなたにあるのであって,彼らではない。

 期待することを伝え,チームメンバーが何が一番必要かを知っているとを信じよう。社員が会社の利益のために行動することが認められれば,それが自分の健康を優先させることであれ,アイデアを徹底的に調べてから行動することであれ,必要なルールは少なくなり,目の前のことに集中できるようになるのだ。

●誰が何をするのかを明確にする
 どんなに自主的で自律的なチームであっても,組織と方向性は必要だ。先ほどの話と矛盾しているように聞こえるかもしれないが,この2点は非常に密接に関係している。

 構造とは,何層もの階層図や100ページにもわたるルールブックが必要だという意味ではない。日々の仕事に関するガイドラインのようなものと,正しい方向に進んでいるか,企業文化を尊重しているかどうかを確認するための定期的なフィードバックがあればよいのだ。

人は生まれつき怠け者で,監視される必要があると考えるなら,問題はあなたにあって,彼らにではない

 構造を作る簡単な方法の1つは,各従業員の責任を明確に設定することだ。そして,もっと重要なのは,何が自分のテーブルの上にあるのか,そしておそらくは何がないのかを従業員に伝えることだ。何かほかのことをやらなければならないかもしれないという煩わしさを感じることなく,目の前の仕事に完全に集中できることは,即座にストレス解消につながるのだ。

●共有することで,共有の文化を築く
 信頼,構造,フィードバックはすべて,プレッシャーの高い環境における重要な福祉要素である心理的安全性に貢献する。

 心理的安全性の重要な構成要素の1つは,共有の文化だ。つまり,従業員が仕事のあらゆる側面について率直に話し,判断や報復を恐れることなく矛盾や問題を指摘することが奨励されるような場所だ。これの実現は,言うは易く行うは難しで,リーダーには模範を示して導くことが必要だ。

 また,福祉についてどのように話しているかを再検討してほしい。たとえば,熱があるときに帰宅を強制するように,疲れているときには休むように奨励しているだろうか? また,あなたはいつも最後に退社するのか,それとも仕事以外の優先事項があってもよいということを示すのか? 

【ACADEMY】プレッシャーのかかる環境でスタッフの福祉を優先するには

従業員が自らの福祉を最大化するための3つの方法


●福祉を優先させる
 ほかの誰もあなたのためにそれを行うことはできない。必要な境界線を設定し,自分の責任を明確にするよう求め,必要なときにはサポートを求めよう。締め切りに間に合わないと感じたら,1人で夜中に燃え尽きるのではなく,声を上げて,時間内に仕事を終わらせるよう助けを求めよう。

 自分が影響できることと,そうでないことを区別し,それらが自分の健康にどのような影響を及ぼすかを理解することを忘れないようにしよう。解決策ではなく,問題に焦点を当てることは,我々の福祉に悪影響を与える可能性がある。たとえば,最近起きた組織の変化に不満がある場合,それに対して行動を起こすか,適応して放っておくかを決めることができる。どちらの決断も同じように価値があり,あなたを前進させるものだ。

●回復のためのスケジュールを立てる
 たとえ好きで情熱を注いでいる仕事であっても,誰にでも長短の休みは必要だ。リカバリーとは,9時から5時までという厳しい勤務時間を守ることではなく,何が自分に合っていて,何が合っていないのかを見極めることなのだろう。

Metacoreの福祉&パフォーマンスリーダー Maria Törnroos氏
【ACADEMY】プレッシャーのかかる環境でスタッフの福祉を優先するには
 クリエイティブな仕事をする人は,時間を忘れて何時間も創作できるような,完璧なフローを常に求めている。そのフローを中断させるアラームが,休憩を促すためだけにあるとしたら,大きな障害になるだろう。1時間ごとに鳴る自己啓発アプリに頼るのではなく,週の初めに,今週はどうやって回復するか考える時間を持とう。会議の合間に30分歩くとか,その日最後のタスクの前に短いNetflixで休憩を取るとか? そして,どんなにくだらないと感じても,それをカレンダーに書き込んでおくのだ。

●尋ねること,決めつけないこと
 とくに,多くの同僚がリモートワークを希望している場合,大企業では人々の健康状態の変化に気づくのは難しいかもしれない。それでも,チームリーダーがみんなの状態を把握することは重要だ。それを知るには,ただ聞いてみるしかない。

 β版への移行,ゲームのキル,プレイヤーからのフィードバックなど,ストレスの多い状況において,ソーシャルサポートは大きな支えとなる。全世界が自分の肩にかかっているように感じたら,隣の人にそのことを話すと,すごく楽になるかもしれない。同じように,同僚が辛い思いをしていることに気づいたら,コーヒーを飲みながら様子を聞いてみよう。あなたが解決策を提示したり,心理カウンセラーになったりしなくても,状況を共有し,吐き出すだけで,相手のストレスレベルが改善されるかもしれない。


Maria Törnroos氏は,仕事と組織の心理学者(博士)で,モバイルゲームスタジオMetacoreで福祉とパフォーマンスのリードとして働いている。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら