【ACADEMY】インキュベーターを運営するには

Tentacle Zoneが新たな一群に向けて準備を進める中,プログラムディレクターのNisha Valand氏は新しいゲームスタートアップをサポートするためのアドバイスを提供した。

 インキュベーターは通常,知識の共有,メンタリング,投資家やパブリッシャへのアクセス,ワークスペースなどを通じて,新しいスタートアップ企業の基盤を支援するために設立される。

 しかし,インキュベーターにはお決まりの公式があるわけではなく,設立を検討している場合は,自分のスタジオや組織にどのような設定が有効かを検討することが重要だ。

 Payload Studiosは,ロンドンで独立系ゲームスタジオ向けにTentacle Zoneというコワーキングスペースを運営しており,すでにこのモデルの柔軟なバージョンを持っている。Tentacle Zoneの入居者は,Spilt Milk Studios,Robot Squid,Marvelous Gamesなど,初期から後期までのスタジオで,しばらく前から入居者向けのイベント,メンタリング,知識共有セッションを実施していた。

 2021年2月には,過小評価されたグループのアーリーステージのファウンダーを対象としたTentacle Zoneインキュベーターを立ち上げた(参考URL)。ロックダウン中だったため,プログラムを完全にバーチャルにするしかなかったのだが,これによってロンドン以外の人々にもリーチでき,イギリス,ポーランド,イタリアからの創業者をサポートできたため,実際にメリットとなった。今年もインキュベーターはバーチャルのままで,より多くの海外からの応募者を集めることを目標としている。

 この記事では,独自のインキュベータープログラムを運営するために必要なことを探っていきたい。


パート1: インキュベーターを運営する前に考えるべきこととは?


 インキュベーターの運営を検討する際には,誰を支援することに興味があり,何を達成させたいかという目的を設定することが重要だ。

Nisha Valand氏, Tentacle Zone
【ACADEMY】インキュベーターを運営するには
 我々の平等,多様性,包括性に関する戦略は長期的なものなので,以下のような,過小評価されたグループの創業者の支援に焦点を当てたいと考えていた。POC,社会経済的背景が低い人,LGBTQ+,代表的なジェンダー(シス女性,トランス女性,トランス男性,ノンバイナリー,その他の非シスジェンダーのアイデンティティ),障害者,神経多様性のある人などだ。

 プログラムの期間について考える必要がある。我々は4か月を選び,デザイン,開発,制作,ビジネス,ファイナンス,マーケティング,ピッチング/スピーチなど,さまざまなテーマで毎週業界座談会や講演会を開催した。また,創業者は,割り当てられたメンターと話し,必要に応じて業界を紹介され,それぞれのニーズに合わせた人脈を得ることができた。

 プログラムをどのように締めくくるかを検討する。1年めの終わりに,我々は一群の仕事のショーケースビデオを作成し,Rezzed Digitalで上映した。創業者たちは,業界や投資家,一般の人々に自分たちの仕事を紹介することができ,ライブストリームでは視聴者の質問に答えることができた。

 インキュベーターを運営したい理由と,それが自分のスタジオにどのような利益をもたらすかを明確にすれば,実際に実現する可能性は高くなる。我々の共同設立者であるRuss ClarkeとVincent Scheurerは,昨年メンターを務め,設立者と一緒に仕事をすることで自分たちも多くのことを学んだ。双方向の知識交換ができるし,お返しができるのであれば,それは正しいことのように感じる。

サイドプロジェクトではないことを忘れないで:成功させるためには,チームと予算が必要だ

●あなたが提供できるものは何か?
 自分が提供できるものは何なのかを考えてみよう。インキュベーターは通常,シードファンドを提供しないが,もしあなたが何らかのファンドを設立できる立場にあるのなら,初期の段階で資金を注入することは非常に価値のあることだろう。

●誰と一緒に仕事をするのか?
 インキュベーターを設立する際には,他のデベロッパや業界団体と協力したいと思うかを検討しよう。これらの企業には,平等,多様性,インクルージョンを提唱するキーパーソンがおり,同じ考えを持つ人々と働くことは,大きなやりがいをもたらす。

 インキュベーターをサポートしてくれる企業を見つけることは,学びを共有し,業界の講演者に報酬が支払われるようにリソースを追加し,我々のアウトリーチができるだけ広く,多くの創業者に届くようにできることを意味する。

●支援の手を差し伸べることのできるネットワークはあるか?
 2021年のインキュベーター群と振り返りを行ったが,彼らはメンターを,プログラムに参加して最も役に立った点の1つとして評価していた。多くの業界のプロフェッショナルが,自分の時間を還元し,創業者をサポートしたいと望んでいるのを目の当たりにしてほっこりとした。

 同様に,このプログラムは完全に業界主導で行われており,ゲーム開発の旅を実現するために45人以上のメンターとスピーカーのサポートに頼っていた。自分たちの経験を共有することで,創業者たちが同じような落とし穴を避けられるように,あるいは課題を克服できるように導いてくれるのだ。これらの人々は,創業者のゲームやビジネスの発展を後押しし,創業者をサポートするために定期的に集まってくれた。

あなたのネットワークの中で,どのデベロッパや他の専門家が,あなたのスタートアップ企業と知識を共有できるかを考えてみてほしい

●他のインキュベーターと違うユニークな点はどこか?
 ゲーム業界には多くのインキュベーターやアクセラレータが存在するので,それらの取り組みと競合したり重複したりしないことを目指すとよいだろう。たとえば,我々のインキュベーターは,ゲーム業界ではあまり知られていないバックグラウンドを持つファウンダーにフォーカスしており,参加費も無料にしている。


パート2:インキュベーターを運営するために必要なものは何か?


 これは,時間,サポート,お金に尽きる。Payload Studiosの経営陣,従業員,そしてTentacle Zoneの住人は皆,このインキュベーターという取り組みを信じていた。これには,Tentacle ZoneのWebサイトのリブランディングや,プログラムを提供するためのチームの時間とリソースが含まれている。

インキュベーターを運営する理由と,それがスタジオにどのような利益をもたらすかを明確にすれば,実際に実現する可能性は高くなる

 サイドプロジェクトではなく,成功させるためにはチームと予算が必要なことを忘れてはいけない。理想的なのは,デベロッパ向けのイベントプログラムを運営した経験があり,プログラムの品質について正直に話してくれるアドバイザーチームにアクセスできる人だ。

 インキュベーターを可能な限り包括的なものにするために,専門家を交えて計画のストレステストを行うことをお勧めする。検討すべきことは以下のとおりだ。

  • バーチャルにすることで,誰でも参加できるようにする
  • 各講演や座談会を録音する
  • 英語を母国語としない人のための字幕を用意する
  • 新しい視点や経験をもたらす多様なメンターや業界の専門家を起用する


パート3:インキュベーターの立ち上げ


 パートナー,業界のメンター,講演者のネットワークを背景に,インキュベーターの立ち上げが広く普及することを期待しよう。

 我々は,ソーシャルメディア上でインキュベーターの情報を共有していた。イギリス,ヨーロッパ,中東,アフリカ,アジアのGMT〜+4時間帯にあるアーリーステージデベロッパを対象にしていたので,それらの市場のキーパーソンから協力を得ている。常に多くのニュースが飛び交う中,多くの人に広めてもらうことはとても有効だった。

 どんなサポートが受けられるのか,誰がこのプログラムに関わっているのか,より多くの潜在的候補者に知ってもらうことで,より多くの応募を得られる可能性がある。我々は新しいWebサイトを立ち上げ,Twitterで積極的に情報を発信し,最近ではTwitterでライブQ&Aを開催して,応募者が時間をかけて応募する前に必要なあらゆる質問に答えていた。

 また,応募フォームも使いやすいものにする必要があり,できる限りフレキシブルに対応できるようにした。たとえば,文章を書くのが苦手な人は,動画のみで応募することも可能だ。ほかにもスタジオが希望する応募方法があれば,積極的に取り入れてほしい。多様な応募者が集まることを念頭に置くと,応募方法に関しても「一長一短」があるのだ。


パート4:インキュベーターを運営する


 事前にコンテンツのスケジュールを細かく計画し,スピーカーやメンターへのブリーフィングに必要な資料をすべて作成しよう。参加者全員を拘束するのは大変な作業だが,参加者がアクセスできるコンテンツの全貌を事前に把握することが不可欠だ。また,インキュベーターが始まると,セッションの運営とファシリテーションだけで超多忙になる。

インキュベーターは大変な仕事だが,やりがいもあるので,恐れずに挑戦してほしい

 誰もが忙しいので,コンテンツが参加者の期待に応えているか,適切なレベルに達しているか,定期的に参加者と個別に確認することが重要だ。必要であれば,調整したり,新しいコンテンツを追加したりすることに前向きであること。また,誰もが自分に合った方法でコンテンツに参加し,アクセスできるようにすること。各人の性格や好みのコミュニケーション方法,忙しい仕事のスケジュールなどに配慮してほしい。

 外部の専門家やメンターなしで,応募者自身がネットワークを作り,お互いにピアサポートを提供する時間を多く持つようにする。2021年の参加者は皆,これがインキュベーターの最もやりがいのある重要な部分であり,形成されたネットワークと友情は,インキュベーターが終了した現在も続いていると感じている。


パート5:継続的なサポート


 公式プログラム終了後も,一部のメンターはデベロッパとのセッションを継続した。卒業生とはDiscordで定期的に連絡を取り合い,アカウンタビリティグループ(Peer to Peerサポート)を継続するよう促している。

 インキュベーターのデベロッパの中で,コホートとそのゲームを宣伝する機会があれば,彼らにアプローチし,業界のイベント/メディアの機会を共有している。創業者たちは現在,Tentacle Zoneのコミュニティの一員となっている。

 インキュベーターが,あなたのスタジオや,あなたが支援しようとしているグループにどのような利益をもたらすか,理解していただけただろうか? インキュベーターは大変な仕事だが,非常にやりがいのある仕事でもあるので,怖がらずに挑戦してみてほしい。


Nisha Valand氏は,ロンドン中心部で運営されているコワーキングスペース兼バーチャルインキュベーターのTentacle Zoneのプログラムディレクターを務めている。Tentacle Zone Incubator 2022への応募を希望する人は,Webサイトを見てほしい(参考URL)。応募の締め切りは,2022年4月8日だ。

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