【ACADEMY】ゲームデベロッパが人材危機に対応するには
ゲーム業界はここ数年,ものすごいスピードで拡大を続けており,2021年の総売上高は1803億ドルとなり,2020年からさらに1.4%増加している。
パンデミックに支えられて,ますます多くの人々が,必要な楽しみと社会的つながりを求めてゲームに目を向けるようになっている。消費者は,コンテンツへの支出を増やし,常にアップグレードされた体験を求めるようになってきたのだ。このような状況は,ゲーム業界にとっても大きな問題だ。より大きく,より良く,より複雑なビデオゲームへの需要に応えるため,業界への投資は過去最高のものとなっている。
急成長する業界の需要や,他のクリエイティブな分野との競争できる人材が,単純に不足している
しかし,業界の飛躍的な成長を阻む要因の1つに,人材不足がある。アーティスト,エンジニア,プロデューサーなどの人材が,急成長する業界の需要や他のクリエイティブな分野との競争についていくには,単純に十分ではないのだ。ゲーム会社は現在,より多くの人材を調達してスキルアップを図り,この業界でのキャリアが充実し,刺激的で,長期的で,多様な道が用意されていることを強調しようとしている。同時に,この業界は内省の時を迎えている。情熱にあふれ,伝統的に男性が支配的だったこの業界では,近年,人々により良いものを提供する必要性がより強く認識されてきている。それは,ワークライフバランスを確保するための措置を講じることであったり,悪行に挑むことであったり,ゲームコミュニティや社会全体をよりよく反映する多様な労働力を持つことであったりする。完璧にすることはできないかもしれないが,より良いものにすることはできる。ここでは,素晴らしい職場を作るのに役立つベストプラクティスをいくつか紹介してみたい。
1. 明確化された文化への追加とマッチングを求める
文化は変化しやすいものだ。企業文化が明確に定義されているというのは,人々の理想的な仕事体験に共鳴する指針や共通の語彙を持っているということだ。明確な企業文化は,人々が職場でどうあるべきかを規定する型ではない。そして,採用の際には,企業文化に「フィット」するのではなく,「マッチ」するものを探すという観点で考えることが有効な場合もある。
たとえば,Virtuosでは,信頼,積極性,卓越性という指針的な価値観を持っており,我々と一緒にゲームをより良くしてくれる人材を探している。つまり,純粋にチェックリストに基づいて採用を決定するのではなく,これらの価値観に合致し,当社の文化や能力をさらに高めてくれる人を歓迎するのだ。
明確な文化がないもの:人々が職場でどうあるべきかを規定する型
これによって,我々は集団思考を避けて,ベースレベルから継続的に多様性を構築し,さまざまな意見,スキルセット,生活経験を活用できるようになる。より多様な才能のプールから人材を採用するためには,もっと早い段階からゲームへの関心を高め,仕事に対する認識を変える努力をする必要がある。そのためには,教育機関との積極的な連携や,キャリアフェアでのプレゼンス向上が必要だ。
経済的な問題や固定観念などの障壁を取り除くことにも投資し,奨学金制度や,前述のキャリアフェアから我々が作るゲーム(すなわち,若い人材と業界との最初の接点となるもの)に至るまで,外部と接するすべての媒体で労働力をバランスよく反映している。
2. 人材育成アプローチのローカライズと定期的な最適化
研修や育成といったものすべてに対応できる万能な手法などはない。人材育成は型にはまったものだという認識とは裏腹に,この業界ではお馴染みのコンセプトアートのプロセスと同様に,探索的で創造的な側面が強くなる可能性がある。
グローバルで指針となるフレームワークを用意しつつ,チーム構成や興味,組織のニーズに応じてローカルでプログラムを調整することが,またもや有効なのだ。学習方法は人それぞれだ。人材を成長させるためには,人材が成長するためのリソースと手段を提供することだ。
これらの手段は,誰もが何らかの形で継続的に成長し,学ぶことができる環境作りに貢献できる。Virtuos Montrealでは,経験や年功序列に関係なく,自分の技術を磨くという共通の意欲を持つアーティストのチームを作ることに努めている。その結果として,若いアーティストが熱心に学び,経験豊富なアーティストがほかのアーティストを指導し,キャリアのスタートを助けることに満足し,逆指導の恩恵を受けるようなダイナミズムが生まれることを期待している。
そして,成長文化を醸成するためには,柔軟な姿勢で取り組み,社員のフィードバックから学び,反復プロセスで人材開発アプローチを定期的に最適化することが重要だ。
3. 意図的に声を届ける
職場で純粋に投資され,関わりを持ち,大切にされていると感じるかどうかを評価するうえで,人の声が聞こえるかどうかは重要な基準となることが多い。ほとんどの企業では,匿名の従業員アンケート,レビューセッション,タウンホール投票などの形で,定期的なフィードバックシステムを導入しているだろう。また,コーヒーチャットや定期的なチェックインなど,より非公式なチャネルで補完されることもよくある。しかし,このような取り組みの効果は,次の2点にかかっている。つまり,フィードバックは活用されているか? そして,従業員は自分たちの利益が守られていると信じて発言できるか? だ。
魔法の公式はないかもしれないが,積極的な意図を仮定し,不手際を認め,良い仕事を認識することで,長い道のりを歩むことができる
信頼は文化と同様,抽象的で複雑なものであり,とくに職場の場合はそうだ。信頼とは,長期にわたるポジティブな経験の積み重ねであり,企業の価値観を多くの人々が共に働く中で表現したものだ。そして,このような時代だからこそ,コミットメントと共感がより明確に伝わる必要があるのだ。魔法の公式があるわけではないが,積極的な意思を持ち,不手際を認め,良い仕事を認めることは,大きな意味を持つ。信頼関係を構築するための優れた方法は,単に我々が何をするのかを述べ,我々が言ったことを実行することだ。四半期ごと,年次ごとの業績評価に加えて,マネージャーからのフィードバックツールを導入し,チームメンバーが体系的,直接的,かつ匿名で評価や提案を行えるような別のコミュニケーションチャネルを提供するようにした。これにより,フィードバックのループが完成し,マネジメントの継続的な改善が可能になる。
表彰は,業績賞与,プロジェクト終了やマイルストーンのお祝い,賞賛,Virtuos Insiderなどの人材スポットライトイニシアチブの形で行うことができる。Virtuos Insiderというのは,社員とそのキャリアや経験を紹介するインタビューシリーズだ。
すべてを楽しく,ゲームにする
ゲーム業界の発展を目の当たりにし,世界中の多くの人々に喜びを与えるコンテンツを創造できる,このユニークな立場にいることは光栄なことだ。しかし,この業界は,情熱的でありながら,燃え尽きやすいことでも知られている。
我々全員がより良いバランスを見つけ,より楽しくゲームを作り,安全で快適な環境の中で,人々が最高の仕事をし,その過程で楽しむことができる空間を一緒に作り上げることができればと願っている。
そして,年齢,性別,人種,志向,経歴,その他を問わず,ゲーム業界でのキャリアを考えている人たちには,ワクワクしながら自分の夢を追いかける力を感じてもらえたらと思う。
David Cheung氏は2019年にVirtuosに入社し,モントリオールオフィスのスタジオマネージャーとして,高品質なコンセプトアートに特化したスタジオを率いている。現在の職務に就く前,Cheung氏はSyn Studioで研究ディレクター,Ubisoft Montrealでプロダクションマネージャーを務めていた。
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)