【ACADEMY】Forza Horizon 5における正しいアクセシビリティの実現

Playground Gamesが,レーシングフランチャイズの最新作をこれまで以上にアクセシブルにした手法を解説する。

 昨年11月の発売以来,Playground GamesのForza Horizon 5は,そのアクセシビリティの高さが際立っている。

 すでに用意されている豊富なオプションの中でも(参考URL),昨日発表されたアップデートでは,ゲーム内のカットシーンでアメリカ手話とイギリス手話に対応した(関連英文記事)。

 この発表に先立ち,クリエイティブディレクターのMike Brown氏とシニアレベルデザイナーのAaron McAree氏が,GamesIndustry.biz ACADEMYで,ゲームにおける正しいアクセシビリティの実現方法について話してくれた。


アクセシビリティをゲームの重要な柱にする


 Playgroundは,Forza Horizon 5のアクセシビリティについて,コンセプトの段階から計画を進めており(ゲームの舞台であるメキシコが正式に決定される前からだ,とMcAree氏は振り返っていた),そして,開発全体を通じて重要な柱としたという。

 「シェアードワールドやエクスペディションなど,ゲーム全体を支える巨大な機能がありますが,アクセシビリティもその1つです」とBrown氏は語る。「これは,我々やリーダーグループにとって本当に重要なことであるということをチームに示すもので,これを保護し,別枠にしています。そして,イニシアティブを切ることはできません。ゲームの重要な部分として宣言しているのです」

ある機能について議論するとき,それをアクセシビリティのレンズを通して見るのは私の責任です -Aaron McAree氏, Playground

 アクセシビリティをゲームの中核に据えることで,他の機能と同じように,あらゆる段階でアクセシビリティについて議論できる。

 「私が何かの会議に出席して,特定の機能または特定の領域について議論しているとき,アクセシビリティのレンズを通してそれを見るのは私の責任です」とMcAree氏は付け加える。「そして,何か問題が見つかったら,『Ok. これは我々がやりたいことだが,これには疑問符がつくかもしれない』という会話を始めるのです。アクセシビリティのレンズを通してどのようにそれを見るのか,そして,少しでも必要な変更があれば,それをどう行うのか」


専門家の導入


 Playgroundは,当初からアクセシビリティコミュニティのメンバーなど,同社が「対象分野の専門家」と呼ぶ人たちを招き,そのプロセスを指導してもらっていた。これにより,たとえば,実際にはそうでないかもしれないのに,ある解決策がすべての人に有効であるといった仮定がなされることを防ぐことができる。

 「そして,そのような課題が何であるか,どうすれば改善できるかを知る専門家になるためには,その経験が必要なのです」とBrown氏は続ける。「このようなことには,謙虚な姿勢で臨まなければなりません。人々の課題が何であり,それを解決するために何が必要なのかを,おそらく自分は正確に知らないのだと思わなくてはいけません」

人々の課題が何であり,それを解決するために何が必要なのかを正確に知らないのだと思いなさい -Mike Brown氏, Playground

 「知っていると思い込まないことです。なぜなら,ゲームコミュニティには,このようなことを喜んで話してくれる人たちがたくさんいるからです。彼らに聞けば,自分の経験,本当に楽しいこと,本当に大切にしていること,直面している課題などを話してくれるはずです。そのような人たちと直接話すことで,本当の洞察を得ることができ,実際に人々に影響を与えるようなゲームへの変更を行うことができるのです」

 スタジオとアクセシビリティの専門家との関係は,基本的なニーズが理解されたとき,あるいはゲームが発売されたときに終わるものではない(そして,そうあるべきではない)。それは,オープンエンドの議論である必要がある。

 「これは,アクセシビリティコミュニティとの継続的な会話です。というのも,最初に多くの選択肢を用意したのと同じようなものが,ほかにもいろいろと出てくると思われるからです」とMcAree氏は語る。「これらの項目をクリアしたのですから,次に来るのはもっと重要な項目です。ですから,ある分野にどれだけの資産を取るのかという予算があるのと同じように,そのバランスを取りたいのです」

 Brown氏は,ゲーム内でより多くのレースを計画することと変わらないと語る。「レースのアイデアは,作りきれないくらいあります。ただ順位をつけて,どれが一番ゲームに利益を与えてくれるかを考え,出来るだけ多く作るのです」

PlaygroundはForza Horizon 5のカットシーンにアメリカ手話とイギリス手話を追加した
【ACADEMY】Forza Horizon 5における正しいアクセシビリティの実現


各機能の選択肢を用意することを意識する


 アクセシビリティは,決して万能ではない。だから,必要な場合には,提供する機能のバリエーションを用意するようにしてほしい。たとえば,Forza Horizon 5の色盲オプションは,UIのみ,またはゲーム全体で有効にできる。

 「前作では,画像全体に影響を与える色盲フィルタだけでした」とBrown氏は語る。「この変更を行った理由は,やはり専門家の意見を聞いたからです。
色覚異常の人が実際に道を歩いたり,車を運転したりすると,木は木にしか見えないのだそうです。現実の世界にある有機的な木には,何のフィルタもかかっていません。それでもそれが,すべて本物に見えるのです」

 「ですから,我々ができるだけ現実に近い形でメキシコを再現することにしたときに,彼らは,環境の色を変える必要はないと言ってくれました。それは,すべて本物に見えたのです」

 「しかし,我々が行ったデザインでは,色が情報を伝えたり,スクリーン上の情報を読みやすくするために使われており,そこは,色覚異常の人が損をしているところでした。なぜなら,そこにある情報を解析できないからです。そこで,その部分を分離することで,前作のような機能はそのままに,UIの色彩言語をデザインしたときに,いつでもその色彩言語を使えるようにし,明確に適用できるようにしました。しかし,ゲーム内では現実の世界と同じように,あるいはできる限り近く見えるようにできます」

クリエイティブディレクター Mike Brown氏
【ACADEMY】Forza Horizon 5における正しいアクセシビリティの実現
 Forza Horizon 5に手話を導入したこのようなバリエーションを提供したいという思ったのも,アクセシビリティの専門家に相談したからだ。

 「我々の脚本は,全体で12万語ほどありました。人がたくさん話す大きなゲームなので,かなり大掛かりな作業でした」とBrown氏は語る。「その発端は,専門家が我々を訪ねてきたことでした。彼らの中に難聴の人がいたのです。そのとき,彼は『聴覚障害者にとっての母語は手話なんです』と言いました。彼らは英語の内的独白を持っていません,なぜなら実際に英語の話し声を聞いたことがないからです」

 「そして,私が字幕を読むときは,ただそれを読んで,頭の中でその単語を聞き取っています。しかし,その言葉を聞くことができない人にとっては,その言葉を聞くことはできないのです。英単語を手話という母国語に変換するためには,認知的な翻訳が必要になります。それを処理しながら,カットシーンの続きを吸収するという難題があるのです。だからこそ,手話通訳者が重要であり,テレビにも登場しているわけです」

 ゲームに手話を実装することは,時間がかかる作業であり,また,これまで行われたことがなかったため,ゲーム関連のコンテンツを専門に扱うPlaygroundが呼べるような会社はなく,簡単なことではなかったという。

 「台詞を録音するために誰かを録音ブースに入れるのは,かなり短時間で行われます。通常はかなり短期間で機材を調達できますが,今回はフルカメラ一式が必要です」とBrown氏は続ける。「ヘアやメイクも必要です。適切な服装をさせなければいけません。撮影の全要素があるんです。そしてもちろん,そのすべてを撮影しなければなりません」

シニアレベルデザイナー Aaron McAree氏
【ACADEMY】Forza Horizon 5における正しいアクセシビリティの実現
 「これらはすべて,ゲーム本編のライティングとレコーディングをすべて終えたあとで行わなければなりません。そのため,発売予定がズレ込むことになったのです。というのも,おそらく,これまでのゲームや映画でもそうだと思うのですが,ゲーム中のセリフの一部を,かなり遅くまで調整していたからです。しかし,通訳を雇う前に,すべてをロックする必要がありました。そこで,彼らをカメラの前に立たせるために,あらゆる作業を行ったのです」


Xboxアクセシビリティガイドラインを参照する


 Brown氏は,Playgroundがアクセシビリティの野望を実現するために必要なリソースを持っていることを認めている ― これはほとんどのスタジオがアクセスできないようなものだ。

 しかし,参考になるガイドラインは公開されている(GamesIndustry.biz ACADEMYでは,以前この話題を取り上げ,アクセシビリティの専門家に,どのようにアプローチすべきかを尋ねている:関連英文記事)。

 「他のスタジオのこと,そして彼らができること,できないことについて,私は正確に話すことができません。しかし,それなりに高予算のファーストパーティスタジオであれば,これをやると言って支持を得られる要素があると思うのです」とBrown氏は語る。「というのも,これはおそらく多くのデベロッパが直面することですが,ゲームの中にあるものを見るときや機能セットを見て,『これはどれだけの人にアピールできるのか』と考えるだろうことも事実だからです」

 「また,アクセシビリティの設定は,必ずと言っていいほど,『やらなくても,それほど多くのプレイヤーに影響はない』と自分に言い聞かせているのではないでしょうか。そうすると,『色覚異常の人はそれほど多くないだろう』と思ってしまい,アクセシビリティへの投資を行わなくなるという罠に陥ってしまうのです。そして,デベロッパは,他のことに投資する価値があると自分自身を納得させることになります。大規模なファーストパーティスタジオである我々は,他のデベロッパが直面するような難しい選択をする必要がなく,我々が望む他のものやアクセシビリティを手に入れることができるのです」

 McAree氏は,すべてのデベロッパが利用し,参照できるようにMicrosoftのWebサイトに掲載されているXboxアクセシビリティガイドライン(参考URL)を挙げている。

 「もし私が誰かの立場になったとしたら,おそらく1人の作業員が,自分のゲームにオプションを追加したいと思っても,正直どこから手をつけていいか分からないかもしれません」と氏は語る。「そのような人たちが利用できる素晴らしいリソースがあります。また,字幕をより効果的に表示するにはどうしたらよいかといった,推測や疑問の多くは,MicrosoftのWebサイトに掲載されており,誰でも利用できるようになっています。ですから,もっと多くの人がそれを利用するようになればいいと思います」

 議論の最後に,Brown氏は,より多くのデベロッパがアクセシビリティの道を歩み始めることを望むというMcAree氏の意見に同意した。

 「すべてのゲームがすべてのアクセシビリティ機能を持ち,すべてのゲームがそのすべてを考慮して設計されているような世界があれば,それは素晴らしいことだと思います。しかし,それは強制できることではないでしょう。代わりに,人々にやりたいことを促し,人々に電話をかけ,決定を下し,技術に投資するように促す必要があると思います」


James Batchelorによるインタビュー

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら