Twitch JapanのDirector of Contentが語る,国内ライブ配信市場の次なる3つのトレンド

 若い世代の「テレビ離れ」が顕著になっています。NHK放送文化研究所が2020年10月に実施した調査によると,平日にテレビを見ると答えた日本人は,16〜19歳で47%(同24%減),20代で51%(同18%減)にとどまりました。その代わり,若い世代はインターネット上のコンテンツを視聴するようになり,このことからNetflix,YouTube,Twitchをはじめとした配信サービスの台頭が浮き彫りになっています。

 とくにライブ配信はミレニアル世代とZ世代の間で,リアルタイムでつながる手段としてますます注目を浴びており,コロナ禍においても大きな盛り上がりを見せています。中でもTwitchは,常時250万人以上がサービスを利用し,1日の平均訪問者数は3千万人を越え,2020年の総視聴時間は1兆分に達しました。

 世界中で急成長しているこのライブ配信サービス。本稿では,2022年に日本市場で予想される3つのトレンドについて紹介します。


海外発のFPSの広がり


Apex Legends
Twitch JapanのDirector of Contentが語る,国内ライブ配信市場の次なる3つのトレンド
 操作するキャラクター視点でゲーム内の世界・空間を移動し,武器などを用いて戦う「FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)」。日本でもここ数年間で「PUBG: BATTLEGROUNDS」をきっかけに,これまでカジュアルゲームしかプレイしたことがない人達にも急速に広がってきています。中でも人気なタイトルの1つである「Apex Legends」は,Twitchでの2021年の国内の総視聴時間が前年より153%増加しています。また,もう一つの人気FPSタイトルである「VALORANT」も2021年のTwitchでの国内総視聴時間が前年より558%の増加を記録しました。

 この背景には,FPSのeスポーツ大会が国内外で大きな盛り上がりを見せたことや,トッププレイヤーが協力したり,バトルしたりする様子を楽しむ「観戦者」の数が大幅に増加したことがあげられます。その一例として,「VALORANT」は2020年6月の提供開始当初からすぐに多くの大会が国内外で開催されるようになり,その様子をトップストリーマー(配信者)が自身のチャンネルで実況配信(co-stream)を行ったり,VALORANTを実際にプレイしたりすることで,FPS未経験の視聴者にも裾野が広がっています。

 これに加えて,日本の芸能人が続々とFPSの配信をしはじめたことも,急成長の要因の一つです。2019年2月に提供開始した「Apex Legends」は,トップストリーマーはもちろんのこと,アイドルの山田涼介氏や芸人のダイアン津田氏も配信をはじめたことで,国内での注目が集まりました。また,StylishNoob氏やSHAKA氏をはじめとしたトップゲーマーや芸能界の有名人を集めた大会「VCC APEX」も定期的に開催されており,その様子が参加者のチャンネルを通じて配信されたことで,さらに人気を加速させています。このように,主にテレビメディアで活躍する芸能人にとっても,ライブ配信サービスでFPSをプレイしたり,トップストリーマーと交流したりすることで,オンライン上での存在感を高めることに一役買っています。2022年も「APEX LEGENDS GLOBAL SERIES」や「VALORANT Champions Tour」など,多くのFPSの国際大会が予定されており,今後もFPSジャンルは盛り上がりを見せるでしょう。


Vtuberの台頭

 デジタルエンターテインメントの未来の形として「メタバース」が注目されている中,現実とバーチャルの融合に対する抵抗感は社会全体で薄れてきています。日本でも,その境界線で活躍している,2Dや3Dのアバターを使って活動するVtuberがライブ配信の世界で旋風を巻き起こしています。

 漫画からアニメまで,日本にはあまたの2D/3Dキャラクターを生み出してきた歴史があります。さらに,個人のプライバシーに敏感な日本では,アバターを介することで,新人もベテランのストリーマーも恐れることなく,自分の意見を自由に発言でき,各々がエンターテイナーとしてのアイデンティティを確立できます。また2D/3D技術の進化により,アバターは小さな微笑みや瞬きも正確に反映できるようになっており,現実世界との隔たりをさらに埋めています。その結果,クリエイターがより自分らしい配信を気兼ねなく行い,それぞれのコミュニティとよりつながることが可能となります。

Sodapoppin氏のVstreamerの様子
Twitch JapanのDirector of Contentが語る,国内ライブ配信市場の次なる3つのトレンド
 このような背景もあり,Vtuberは日本の文化に自然に溶け込み,デジタル時代の新しいエンターテインメントの形として認知されています。「TOKYO IDOL FESTIVAL」に小森めと氏や花園セレナ氏をはじめとした大勢のVtuberが出演したり,おだのぶ氏が100人以上が受講したVtuberに関する講習を実施したりと,様々な分野で活躍する方々も見受けられるようになりました。さらに,Vtuberによるアイドルグループも続々と誕生しており,元アイドルの指原莉乃氏がVtuberアイドルをプロデュースするというニュースも最近話題となりました。個人単位でいうと,Nyanners氏やIronmouse氏など,普段からVtuberとして配信しているクリエイターに加えて,Sodapoppin氏のようなトップストリーマーもVtuberとしての配信に挑戦しはじめています。

 今やKPOPアイドルのほとんどがやっているように,カジュアルな環境でファンと交流して距離を縮めるために,ライブ配信サービスは効果的なツールとして当たり前に活用されつつあります。2022年,オンラインで新たなつながりを求めるストリーマーの間で,アバターを使ったゲーム実況はもちろん,他のユーザーとチャットしながら動画を視聴する「ウオッチ・パーティー」や「雑談」配信などが増えると見込まれており,今後もVtuberの動向には目を離せないことになるでしょう。


コロナ禍で急拡大した「雑談配信」の需要

 ゲーム実況の枠を超え,急成長しているのが雑談の配信です。KIRINZの調査によると,大学生410名に普段見る配信の内容を聞いたところ,「雑談」が33%で最も多い回答となっており,主に若年層で人気となっていることが分かっています。また,Twitchでも2021年,日本語の雑談配信が前年比で234%の上昇率を見せており,その伸びは今後も続くことが予想されます。

 雑談配信と一口にいっても,その内容は様々です。ストリーマーが部屋で食事をしながらファンのコメントに反応して世間話を行う配信もあれば,街歩きやハイキングを行い,視聴者に景色を楽しんでもらう配信もあります。後者の例として,2021年にTwitchで人気のスタンミ氏が富士山を登った様子をライブ配信し,外出自粛で遠出ができない視聴者に富士山の景色を届けたほか,スタンミ氏自身が登山する様子を配信したことで,視聴者の間で大きな盛り上がりを見せました。このようにオンタイムで視聴者と時間を共有し,ストリーマーと視聴者に共通の思い出を作れることが,雑談配信の大きな魅力の一つといえるでしょう。ゲーム以外の体験を視聴者と共有することで,「そういえば,この話覚えてる?」といった近しい友人と会話するような共通の話題を作り出すことができ,それによってコミュニティ内のつながりを強化できます。

 では,なぜ最近になって雑談配信の人気が急増したのでしょうか。その背景には,主に2つの理由が考えられます。

 1つ目の理由として,通信技術と配信機材の発展です。近年,通信・映像技術は著しく進化し,手持ちのスマートフォンからでも高画質の映像を配信できるようになったことがあげられます。通信基地局の増加によって通信が不安定な地域は減少し,ビデオ通話もごく普通の光景となっています。こうした技術の発展に後押しされ,モバイル端末で配信ができる「ライバーアプリ」と呼ばれるアプリが普及し始めています。とくに日本は他国と比べてもこのサービスが非常に多く,17Live,Instagram,Tiktok LIVE,LINE LIVE,kukulu LIVE,BIGO LIVE,HAKUNA,SPOON,ドキドキLIVE,Showroom,ふわっち,と枚挙にいとまがありません。

 また,先述のスタンミ氏の例からも分かるように,外出先での配信が簡単になったことも雑談配信の急増に寄与しています。スマートフォンや配信機材のバッテリー持続時間が伸びたことで,「長時間の配信は家からパソコンで」という従来の常識が覆され,雑談配信の内容が多様化した結果,人気に拍車をかけています。

 2つ目の理由として,単独世帯が増加したことに加え,コロナ禍における外出制限により,人々の孤独感が増したことにあると考えています。Z世代を対象にしたナナメウエの調査によると,回答者の約69%が外出自粛によって孤独感や寂しさが変化したと回答し,孤独感を解消する手段として半数以上が「SNS」,そして「動画視聴」を挙げています。こうした状況を見ると,雑談配信の人気も頷けます。雑談配信は動画であるだけでなく,コメントを通した双方向的なコミュニケーションが行えるという観点から,SNSにも似た要素を有しているからです。ゲーム実況でも双方向性のコミュニケーションは存在しますが,雑談配信はストリーマーがゲームに集中しない分,より視聴者との距離感が近い交流になりやすい傾向にあります。

 距離感といえば,「日常性」も一つのキーワードでしょう。ストリーマーは,ラジオ番組のように何か特別な企画を立案して雑談するのではなく,その場でお酒を飲んだり,料理をしたりと,普段の生活の様子を配信することがほとんどです。先述のFPSやVtuberを含め,様々なジャンルで配信を「ながら見」する視聴者が増えているなか,こうした雑談配信の気張らない様子は日常に溶け込みやすく,とくに「ながら見」に適したコンテンツといえるでしょう。視聴者は日常的に雑談配信を「ながら見」することで,日頃の寂しさを自然と癒すことができます。


国内エンターテインメントの新境地

 ライブ配信はエンターテインメントの新たな形として日本でもますます注目されています。ゲームやスポーツとは無縁の企業も,Twitchなどの配信サービスに参入することで,熱狂的なコミュニティにアプローチし,ブランドの認知度を高め始めています。誰もがコンテンツを制作し,配信できる現代,ライブ配信サービスは視聴者,クリエイター,そして企業にとって欠かせない存在になっていくことでしょう。

 しかし,ブランドがライブ配信で成功するための「万能の戦略」はありません。日本の企業がユーザー主導のエンターテイメントに独自のアプローチを展開し,ユーザーに対してより良い体験を提供するには,国内のトレンドを把握することが重要です。

「Twitch Japan」公式Twitter


北垣文江
2015年に日本オフィスの立ち上げメンバーとしてTwitchに入社。現在は日本担当コンテンツディレクターとして,ストリーマーが Twitch上でコミュニティを構築することを支援し,事業成長に貢献している。Twitch入社前は,League of Legends Japan Leagueの運営などを行い,esports業界に携わっていた経験を持つ。