【月間総括】ゲーム機に襲い掛かる半導体不足の荒波

 今月は決算の話と,ゲーム機の品薄がなぜ深刻なのかという話を進めていきたい。

 まず,ソニーグループであるが,ゲームに関しては増収減益となった。2020年の第2四半期はPS5発売前だったので,単価が高いPS5の上乗せを考えると当然増収となる一方,製造原価負担が重く,サプライチェーンの混乱で輸送コストも大幅に上昇している状況では,減益は想定通りというところである。

 注目されるPS5は330万台の売上(着荷)台数となった。上期累計では550万台であった。この水準は,PS4の2年目上期620万台を下回っている。決算説明会でも想定に届かなかったというコメントがあったので,生産ができていないのは明白だと考えている。

 年間の売上(着荷)台数1480万台以上は据え置きとしているが,ブルームバーグが生産台数を1500万台程度に引き下げるという報道をしていた。
 生産から輸送に1〜2か月掛かるという話は当連載でも紹介したが,生産が1500万台程度では,売上(着荷)台数の1480万台達成はかなり難しい印象だ。ソニーグループとのディスカッションでも1480万台以上の目標達成には,相当の努力を要するとコメントしていた。
この問題については,Switchも含めて後半で語ることにする。

 以前指摘した不可思議なアクティブユーザー推移は,第2四半期も100万人減少であった。減少幅は小幅となったものの,PS5の出荷が増えているにもかかわらず,ユーザーの接触は減っている。日本ではユーザー離れが顕著になっていて,夏場のファミ通のヒットチャートにはPSのタイトルが上位30位以内にまったく入っていないという状況だった。ダウンロード販売に移行しているとの見方もあろうが,時折発表されるサードパーティのダウンロード込みの販売本数を見ていても,大きく販売が伸びている印象がない。

ソニーグループのゲーム事業アクティブユーザーとフルゲーム販売本数

出典:ソニーグループ決算資料

 さらにコールオブデューティーの最新作も,英国で初動が不調という記事があった。コンシューマゲームの販売が今一つの印象をぬぐい切れず,パッケージゲームにユーザーが興味を示していないように感じるのである。
 国内でも,縦マルチで展開されているタイトルを見ると,PS5がPS4版に劣後することが多い。Switchではゼルダの伝説が最初からWiiU版を大きく上回った状況と明らかに違っていると考える。
 もしソニーグループがエース経済研究所の見解を否定するのであれば,ぜひPS5のフルプライスゲームの動向を開示してもらいたいものである。

 また決算説明会でも,ソニーグループはアドオン(F2Pなどの課金のこと)の売上が好調であることを盛んに説明していたが,アドオン系のタイトルはコンシューマからスマホまで幅広く展開されているものが多いので,そもそも矛盾しているように感じてしまう。

 ソニーグループは自社でフォトリアルな大作を展開するほか,ベセスダはその後買収されて思惑と変わってしまったと思うが、「デスループ」に代表されるようにPS独占のタイトルで囲い込みを図っていたはずである。

 これは大作こそがゲーム機の販売を決めるという考えだったはずなのに,今になってアドオンが好調と言われると非常に強い違和感を覚える。もし,ソフトこそがゲーム機の販売を決める決定的要因であるならば,このような事態が発生するとは思えないのである。

 アドオンが好調なのは,むしろエース経済研究所が主張する空き容量問題に起因しているのではないだろうか。F2P系タイトルは課金と容量に因果関係がないので,空き容量が少ない影響を受けにくいと考えれば説明は付く。
 このあたりの矛盾についても説明がほしいところであるが,おそらく難しいであろう。

 次に任天堂の決算である。こちらは第1四半期に続き減収減益であった。Switch本体の販売が減少したことが要因である。年初に「今年もピークアウトが囁かれることになるだろう」と予想した通りの動きである。
 Switch本体は第2四半期に大きく落ち込むのもエース経済研究所では想定していた。理由は単純でOLEDモデルに需要がシフトするため,第3四半期に需要が集中すると見ていたからである。

出典:ファミ通

 実際,Switch全体の販売はOLEDモデル投入以降,上図のように非常に好調である。落ち込んでいたように見えたのは,OLEDモデルが魅力的なので買い控えされていただけだったと考えて良さそうだ。
 エース経済研究所では,ユーザーの購買行動の決定は,性能ではなく,視覚情報で行われると考えている。実際のデータもそう考えていいように見えるのだが,依然として性能や価格で決まると考えられているので,このようなズレが発生するのだろう。

 では,OLEDモデルの好調さはどの部分の視覚情報から来るのだろうか? おそらく,狭額縁がユーザーに受けたからだと考えている。テレビも2010年代にドライバICの小型・高性能化が進むと急速に狭額縁となった。マクロ的に見たとき多くのユーザーは額縁があると不快に感じるようである。今回も同様のことが起こったのではないだろうか。
 であれば,現行の液晶モデルを低温ポリシリコンにして,狭額縁化してはどうだろうか。現行のSwitchは発売から5年近くが経過し,やや古くなっている。低温ポリシリコン化で,販売の勢いを増すことができそうである。

 任天堂の業績に話を戻そう。第3四半期は,ポケモンのリメイク2作,第4四半期には新作のアルセウスが発売されるので,昨年度の下期より,今下期のほうが業績は大幅に拡大しそうだ。十分に普及し,それでもさらに勢いがあるSwitchの本領が発揮されるだろう。

 ここからは,ハードの問題を考察しよう。

 PS5は上期が想定を下回ったとソニーグループの決算説明会でも説明があったことは述べた。通期も1480万台以上の目標は達成が相当厳しそうである。
 上記の通り,ブルームバーグは生産計画が1500万台程度に下方修正されたと報道した。読者におかれては,1500万台生産できるなら,1480万台以上の達成は可能と思われるかもしれない。しかし,生産と売上台数には輸送というキーワードがある。現在,船での輸送はコロナ禍で大変な制約がかかっている。地域でコンテナの偏りがあったり,アメリカやイギリスではトラックの運転手が不足していたりして,運ぶことが難しくなっている。
 予定よりも税関のチェックなどで時間を要するケースも出ていて混乱している。つまり,輸送時間がかかることでラグも大きくなっているのである。
 そんな中,PS5は中古市場での価格が10万円を超えたという報道もあり,ユーザーが手軽に買えるとは言い難い状況だ。

 Switchも2550万台の販売(着荷)台数計画が2400万台に下方修正された。これは半導体不足が原因としている。2021年前半は最先端品の不足が指摘されていたが,今は40ナノmクラスの古いプロセスを利用したパワー半導体などの小型品が不足しているようである。
このクラスの製品は,設備投資負担が重く,新規投資で能力増強が難しい。しかも,シリコンウェハも,現状でフル生産が続いているが,需要に追い付いていない。
 さらに在庫が少なくコロナ禍で減産に追い込まれた自動車産業が,在庫を増やす動きがある。こうなると在庫を積み増す動きが一巡するまで,相当時間を要すると見ている。

 エース経済研究所では,この状況は長引くと予想している。シリコンウェハの増産には多額な資金が必要かつ,設備投資に時間がかかる。そのため,早期の改善は難しい。しかも,渡航制限の継続で旅客便が飛んでおらず,半導体や電子部品の輸送に支障がでている。この状況は少なくとも2022年前半までは続くだろう。

 任天堂はSwitchを中盤と定義しているので,そろそろ次世代機も考えないといけないタイミングである。立ち上げのタイミングで大量に用意できなければPS5のように,ユーザーの関心が低下してしまいかねない。エース経済研究所では,次世代機の対応は,生産性,環境配慮が重要視されるようになると見ている。より小さく大量に供給ができるような方向に進化するだろう。