「株式会社24Frameの内情暴露日誌」第16回:レッド・デッド・プレゼンテーション


今にして思えば「さくらちる」という予言だったのでしょうか
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 時に西暦2009年,大都会の寒空に放逐された我が身をあわれに思いつつ,友人の温情にすがることで一夜の宿にあやかりました私,友野祐介。
 実際はこの先一夜どころか結構な日数をこの友人宅に居候することになるのですが,そんな未来は露ほども知らず,今日はいよいよというテンションで某大会社でのプレゼンに向かっておりました。一口に大会社と言いつつも,それがどのくらいの規模で何をどうしたものか,というかこの時点では本日いきなりのプレゼンがあることすら知らずに「軽く一度お話でも」とのメールのコメントを鵜呑みにして,乗りなれぬ東京メトロ(地下鉄)に揺られていたのであります。
 地上に出て,散りやまぬ桜吹雪の中を歩くにつけ,やがてその某会社の威容がその全貌を顕にしてきます。

 威容と申しましたが,私の前職であるレベル○ァイブという会社は九州でもなかなか内装にキアイの入った会社でありまして,自分にあてがわれた机がn百万円するシロモノであったり,社内に小さな映画館があったり,その他諸々内装に結構な予算が割かれた場所だったりもしましたから,ちょっとやそっとの門構えには驚きはすまい……と高をくくっていたところ,これはタイプ的には初めて立ち入る様式美的なビジネス建築,ヴァルター・グロピウスもびっくりのバウハウス風建築なのでありました。

 レベ○ファイブが内装におけるキアイ満点だと言っても,「イナズマイレブン」のシナリオプレゼンが行われたのも掘りごたつのおしゃれで遊び心を忘れない会議室であったりと,わりとアットホームというか,ゆったりした空間だったりしたのですが,どうやら今回はちがうようです。

 某社のミーティングルームに通され,メディアで見たことのあるプロデューサーさんと初めてお会いしつつ,送りつけた企画書をお褒めいただき軽く談笑したあとに「じゃあこれから会議室に移動して,役員も含め,各部の代表に内容を説明していただけますか?」ときたもんだ。

 この悪質なドッキリの如き罠配置に,僕の答えが「お任せください!」でも「承知しました!」でもなく「あの……その前にいトイレ行っていいですか?」だったことも致し方のない成り行きと言えましょう。

トイレに行っても片腹が痛い
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 トイレに案内されたあと,窓から逃げようかとの考えが頭をよぎりつつもそこが5階であることを思い出して断念。
 そして通された「会議室」は,先述の威容を煮詰めてミート・キューブにしたかのような様相で,マジで立場のありそうな方々がずらりと並んだその光景はヒエロニムス・ボスの快楽の園を想起させつつもその内実は地獄絵といった雰囲気は満点で……,要するに最後の審判の予感です。

 あたり前のことなのでしょうが,そもそも皆さんスーツをお召。それに比べて入居以来掃除をしたことがないという友人の下宿から這い出してきた貧乏学生のような佇まいである僕と皆さんが相対した時点で100対0のコールドゲームは確定です。

 後にこの地平線が見えてきそうなほど広大な会議室を別件で訪ねることになるのですが,その時は「ほかの会議室が空いてなくて」という雑な理由で広大ながらもたった二人用に使われてしまうような場所でもあったようですが,この時はそんなことは知る由もなく。

こんな感じのところで一介の貧民に何ができるというのか
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 かくして始まるプレゼン。これはもうゴッドハンドに生身で立ち向かうガッツの心境と状況です。いやまあ自分がガッツならまだいい。正確には名前も出てこない鷹の団の一員かどうかも怪しい平民というのが正しい。

 ワンチャン「このゲームのこんなところが面白いんですよ!」という類の話をするのかと思いきや「実行にあたっては弊社スタッフも混在することが予想されるのでこの人月設定は楽観的すぎるのでは?」とか,「今回の投資における利回りは3か年で何%ほどを見積もることが可能なのでしょうか?」などと聞かれて「知りません」とは言わないにせよ,流暢に受け答えすることなど不可能を通り越して,今の時代ならパワハラに該当する勢いです。

 「なんとか回収はして……損はさせないんじゃないかと……」などと答えようものなら「我々の目的は回収ではなく利益の確保です。利益がないのであればそのお金は銀行に預けていたほうがマシですからね」と,いかにも仕事の出来そうなスーツの女性に切り替えされる始末。目からウロコを落とす暇もなく,僕のエンドゲームはThe Endしたのでありました。


居酒屋で一体自分は何を話したのか? 記憶は闇の中……
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 その後,引きつり顔が消えきらぬままにプロデューサーを含めたクリエイティブ・チームの方々と近くの居酒屋で酒を酌み交わし,その日の記憶はもうありません。

 それはそれとして,話はまだ終わりません。
 せっかく上京したのであれば,訪問先はできるだけまとめて多く行っておきたい,という若者なら誰もが考える今回の貧乏旅行計画。
 「明日の会社はキャトルコールさんか……。新中野にあるらしいが……それなら友人の下宿がある中野からは近いから多少遅く起きても大丈夫だ」という学生気分の抜けない懲りない性分とともに,東京の夜は更けていくのでした。続く!


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