【ACADEMY】ゲームスタジオを始める際に考慮すべき5つのポイント

Fundamentally GamesのElla Romanos氏が,ゲーム開発のスタートアップのためのトップヒントを紹介する。

 ゲームでの起業は厳しいものだ。とくにゲーム業界では,創業者は新卒者であれ,業界のベテランであれ,ビジネスの経験がまったくないか,ほとんどないことが多い。

 ゲーム制作の経験が豊富で人脈を持っている人もいれば,ゲーム制作の商業的な経験がないままスタートする人もいる。どのような経歴であっても,創業者は未知の世界に足を踏み入れることになる。創業者は,仲間やパートナー,利害関係者から学び,アクセラレータやメンタリングスキームなど,業界で利用できるさまざまな優れたサポートプログラムを利用することもできる。

 ゲーム業界で14年間に3つのビジネスを立ち上げた私は,これまでに多くの教訓を学んできた(多くの場合,失敗を通して!)。その中から5つのヒントを選ぶのは簡単ではなかったが,私が最初のビジネスを始めたときに誰かに教えてもらいたかった5つのことを紹介したい。


#1 共同創業者とビジョンを共有する


 ビジネスを始めるということは,人生を左右することだ。これは大きなコミットメントであり,起業する人ならば誰でも,その理由や実現したいビジョンを持っている。しかし,そのビジョンを具体的に定義することは,自分自身にとっても難しいことであり,そのビジョンを他の人に明確に伝えることはさらに難しいことだ。

起業は人生を左右する。起業する人は皆,その理由と実現したいビジョンを持っている

 創業者全員がビジョンを共有しているのを確認するのも大切だが,そのビジョンがチームやステークホルダーに明確に伝わるようにすることも重要だ。そのためには,まず,「成功とは何か」を話し合うことから始めよう。

 成功にはさまざまな形があるが,スタートアップ企業にこの質問をすると,たいていはビジネスの成功に焦点が当てられる。起業は個人的な試みであっても,あなたの個人的な目標はビジネスの目標と同様に重要だ。なぜなら,その目標は必然的に彼らの将来に影響を与えるからだ。

 たとえば,あなたの個人的な目標が世界一のゲームデザイナーになることだとしたら,それはあなたが作りたいゲームの意思決定に影響するかもしれない。しかし,共同設立者の個人的な目標が金持ちになることだとしたら,それは彼らに異なる意思決定をさせるかもしれない。このような個人的な目標を理解していないと,ビジネスの中で対立が生じてしまうだろう。そして,オープンなコミュニケーションがなければ,長期的にはビジネスそのものを危険にさらすことにもなりかねない。

 では,各人にとっての成功とは何かをどのように定義すればよいのだろうか。共同出資者それぞれに,商業的,創造的,個人的に成功とは何かを書き出してもらうのも有効な方法だ。共同設立者によって,それぞれの成功タイプに複数の考えがあってもかまわないが,全員がそれぞれのタイプに少なくとも1つの考えを記入することが重要だ。

 そして,それぞれのポイントを比較して議論し,そこから,商業的,創造的,個人的にどのような成功が必要なのかを皆で合意するようにする。成功の尺度は,具体的であることが重要だ。たとえば「家賃を払えるだけのお金を稼ぐ」は目に見えないが,「最低でも年間10万ポンドを稼ぐ」は目に見える目標だ。


#2 リスクに対する許容範囲を決める


 これは,各共同創業者にとって個人的な質問であり,事実上,成功を測ることとは逆の意味を持つ。この質問は,あなたがビジネスにおいてどれだけのリスクを取ることができるかという,あなたのボトムラインに関するものだ。なぜ個人的な質問かというと,事業におけるリスクは,創業者にとっての個人的なリスクだからだ。大きなリスクを取って失敗したら,貯金のない共同創業者は家賃を払えなくなるかもしれないが,長期的な利益の可能性を考えれば,喜んでリスクを取ることができるだろう。

Ella Romanos氏
【ACADEMY】ゲームスタジオを始める際に考慮すべき5つのポイント
 しかし,リスクに対する欲求は固定的なものではない。事業を始めるときに定義できるようなものではなく,それが変わらないと仮定できるものでもない。共同創業者が,創業時にリスクを冒すことを厭わなかったとしても,それが卒業したばかりなので何のコミットメントもなく,うまくいかなくても親元に戻れば暮らせることが分かっているからだとしたらどうだろうか? その時点での潜在的な上振れには価値があったとしても,3年後には結婚して子供ができ,住宅ローンを抱えることになったらどうだろうか? とくに若い創業者の場合,個人的なコミットメントはすぐに変わってしまうものだ。

 スタートが遅い創業者の場合,リスクはより予測しやすいかもしれない。一方で,すでにコミットメントを持っている創業者は,最初からリスクが高く,それが初日からビジネスにおける意思決定に影響を与える可能性がある。

 では,この問題にどう対処すればよいのだろうか? まず,個人の状況と自分の利益についてオープンに話し合うことから始めよう。そのうえで,共同設立者のチームとして,事業計画や目標に反映させていく。継続的に,個人的なことについてオープンなコミュニケーションをとることが重要だ。

 このようなことを話し合う時間を作り,個人的な問題を共同創業者に相談できるようにしておくことが重要だ。これはリスク許容度だけでなく,精神的な健康やストレス(新興企業では避けられない!)など,より広範で同様に重要な考慮事項にも関係する。また,単に共同創業者間の関係が良好であることも重要だ。


#3 現金の管理


 起業したばかりの人はご存じだと思うが,現金は王様だ。ビジネスが軌道に乗ってくると,損益計算書や貸借対照表を気にするようになるかもしれないが,実際には,スタートアップ時に気になるのはキャッシュフローだ。今,銀行にいくらあるのか,そして何よりも重要なのは,あと何か月で資金が尽きるのか,ということだ(これは一般的に「ランウェイ」と呼ばれている)。

リスクに対する欲求は固定されたものではなく,ビジネスを開始するときには定義できず,それが変わらないと仮定できるものではない

 共同設立者がこれらの質問に対する答えを常に知っていることは非常に重要であり,また,意思決定の重要な基盤となるため,この情報が信頼できるものであることも重要だ。しかし,スタートアップ企業はさまざまなことに忙しく,ゲームを作れるときにキャッシュフローにばかり目を向けていることはないだろうから,信頼できる徹底したキャッシュフロー管理プロセスを持つには時間がかかる。

 最初に時間をかけてプロセスを設定することで,キャッシュフロー管理を信頼性の高い,時間のかからないものにできる。その結果,十分な情報に基づいた意思決定を行い,エラーを減らし,問題を早期に発見できるのだ。

 では,どのようにしてこのようなプロセスを設定するのだろうか?

 Xero(※オンライン会計ソフト)のようなシステムを使って,最初から収入と支出を管理しよう。経理担当を雇う余裕があれば,雇う価値があるかもしれないが,それができない場合は,自分で基本的な簿記のトレーニングを受けてほしい。Udemyなどの安価なオンラインコースで基本的な知識を身につけることができる。

 次のようなことができるキャッシュフロー管理システムを確立しよう。

  • いつ資金が尽きるかを明確に把握できる
  • これまでの実績に加えて,予測値を追加できる
  • 最低でも月に1回,定期的に更新することで,信頼できる情報を得ることができる
  • レポートの出力
  • モデルシナリオ。たとえば,新しいアーティストを雇った場合,ランウェイに何が起こるかなど

最初に時間をかけてプロセスを設定することで,キャッシュフロー管理を信頼性の高い,時間のかからないものにできる

 これをExcelで行うこともできるが(私も以前はそうしていた),エラーが発生しやすく,更新にも時間がかかる。Fundamentally Gamesを立ち上げたときにFloatを見つけたが,これがゲームを変えるきっかけになった。

 FloatはXeroから実際の数字を引き出すツールだ。これは視覚的に理解しやすく,経営状況が一目で分かり,レポートを出力してくれる。また,素晴らしいシナリオモデリングツールもある。そして何よりも,月に2,3時間程度の更新作業で済み,私に提供される情報は信頼できると確信できるのだ。


#4 フラストレーションをチャレンジに変える


 新興企業の創業者は,常に問題に直面している。お金,プロジェクト,顧客,人事,パートナーなど,自分が責任を負うべき無数の分野に関する問題だ。

 レンガの壁のようなものに直面すると,本当にイライラしてしまうだろう。とくに,Catch 22に陥っているように感じるときは。

※Catch 22(22条の罠):米空軍の職務規定で精神異常を理由に除隊を申し出ると,自分の精神が異常であると判断できる人は精神異常でないとして除隊できないジレンマから,どうしようもない状況を指す。

 新興企業でよくあるCatch 22の例としては,投資家,パブリッシャ,クライアントなどに仕事や資金を求めてピッチをしているのに,実績がない,プロジェクトが進んでいないなどの理由で相手に信頼されず,ピッチに勝てないというものだ。しかし,仕事や資金を得ずに,どうやって実績を作ったり,プロジェクトを進めたりするのだろうか? 

 では,そのような状況にどのように対処するのだろうか? 長年,多くの創業者を見てきた私の認識では,最も成功しやすい創業者は,そのような状況でも自分や世の中に不満を抱くのではなく,このようなCatch 22に正面から向き合い,克服すべき課題として扱っている人だと思う。


#5 長い目で見る


 ほとんどのゲーム会社は,素晴らしいゲームを作りたいと思って設立されている。つまり,創業者は創業時に作りたいゲームのアイデアを持っていて,それは彼らの夢のゲームであることが多いのだ。

 しかし,創業時には,経験,リソース,資金,あるいはそのすべてが不足していることがほとんどだ。だから,夢のゲームを最初のゲームとして急いで作ることは,最善の選択ではないかもしれない。それよりも,そのゲームを正当に評価できるだけの経験とリソースを得てからのほうがいいだろう。

 成功したゲームデベロッパの多くは,一夜にして成功したわけではなく,最初のゲームがヒットしたわけでもない。むしろ,失敗から学び,小さく始めて,時間をかけて積み上げてきたのだ。長い目で見ることは,自分の夢や願望を実現するためのより良い方法であることが多いのだが,今すぐにその夢に飛び込みたいと思っている多くの人(私も含めて)にとっては,それは直感的に理解できないことなのだ。

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Ella Romanos氏は,ライブサービスゲームパブリッシャFundamentally Gamesの共同設立者であり,COO(最高執行責任者)を務めている。元々プログラマであった彼女は,14年間に亘りゲームスタジオ,チーム,プロジェクトの構築と管理を経験し,ゲームを市場に投入する際のリソース,資金調達方法,プロセス,商業上の考慮点などを深く理解している。

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