Baldur's Gate 3の1年:失敗と成功の大冒険

LarianのCEOである Swen Vincke氏が語る,見えないルールの複雑さ,自らに課した高い基準,そして武器としてのサラミについて。

 前回,Larian StudiosのCEOであるSwen Vincke氏に話を聞いたときとは,世界が変わっている。

2020年2月,Larian StudiosはBaldur's Gate 3のリリースを開始したばかりで,Vincke氏はパリで開催されたプレスイベントでGamesIndustry.bizに,この代表的なIP(関連英文記事)での仕事について語ってくれた。

 このイベントは,その後ドイツとアメリカでも行われたプレビューツアーの一環で,PAX East 2020で締めくくられたのだが,これがLarianチームにとってその後約2年間で最後の対面イベントになるとは,知る由もなかっただろう。

 今回,Vincke氏に話を聞いてみると,Larianがフィジカルなイベントに復帰したEGXの直後に,実は氏はカナダにいて,世界中のLarianのスタジオを訪問するツアーに参加していたのだという。Vincke氏は,1年半の滞在を経て,丸々1か月かけてチームに合流した。パンデミックに伴う障害はまだ記憶に新しいが,チームが直面している最大のハードルは,ほかでもない自分自身へのプレッシャーにあるという。

今回のプロジェクトは,これまでの経験の中で最もチャレンジングなものです。なぜなら,洗練度を非常に高くするという我々の純粋な野心があるからです

 「最大の課題は,すべてをやり遂げることです」とVincke氏は語る。「このプロジェクトは,非常に多くの野心を持ち,非常に多くのバリエーションを持つ大規模なプロジェクトです。そして,あなたがシャーのクレリックであろうと,バーバリアン,パラディン,ドルイドのマルチクラスであろうと,誰もが楽しめるようにする必要があります」

 「範囲という意味では,最初はすべてをやりたいという野心を持っていますが,制作の現実を目の当たりにすると,「あれもダメ,これもダメ」となってしまうでしょう。そういうものなんですよ。我々にとって,このプロジェクトはこれまでで最もチャレンジングなものとなりました。なぜなら,洗練度を非常に高くするという我々の純粋な野心があったからです」

 Baldur's Gate 3は,1年前にSteamで早期アクセスを開始した。Larianの前作であるDivinity: Original Sin 2は,正式リリースまでに1年間の早期アクセス期間があった。しかし,BG3の場合はかなり時間がかかりそうで,Vincke氏はすでに今年中には完全に発売できないと話している。そのため,スタジオは早期アクセスの危険性を軽減する必要がある。

LarianはBaldur's Gate 3の新アップデートを公開し,新エリアと新クラスを発表したばかりだ
Baldur's Gate 3の1年:失敗と成功の大冒険

 「これは我々がよく考えることです」とVinckeは語る。「最大のリスクは,ある種の疲労感が報道関係者の間で出てくることです。人々が『おい,ずっと早期アクセスになっているけど,いつ出るんだ?』と騒ぐのが想像できるでしょう」

 「これについて私が言える最も重要なことを,チームにも同じように言っています。『早期アクセスにどれだけの時間がかかるかは本当に重要じゃないんだ。重要なのは,結果がどうなるかということだ』と。みんなが期待しているような体験ができるのであれば,それでいいのです。なぜなら,人々はこのゲームをプレイすることでとてつもない楽しみを得ることができるからです。それが最終的な目標ですから,それを正面に据えて,あとは時間をかけてやっていくだけです」

アーリーアクセスの期間は重要ではない,重要なのは結果だ

 「ゲーム作りは複雑で,これはとくに複雑なゲームなのです。時間短縮でできることはほとんどありません。我々は規模を拡大しており,このゲームにふさわしい開発を行うために,予想以上に多くのリソースを投入しています。今以上にできることはありません。ただ,時間がかかるだけです」

 Larianは,2月にギルフォードに新スタジオを開設し(関連英文記事),Turbulenzチームを獲得した。また,6月にはバルセロナにも新スタジオを開設し(関連英文記事),Nintendo Switch版Divinity: Original Sin 2を開発した。

 「この2つのチームは,すでに何年も一緒に仕事をしてきたチームであり,今後も一緒に仕事をしてくれることを確認したかったのです」とVincke氏は語る。「この2つのチームは,人材が豊富な地域に拠点を置いていました。我々が成長するためには,より多くの人材を集める必要があります。彼らを獲得して以来,彼らが我々のスタジオ全体を支える2本の柱であることが証明されています」

 「これは,私にとって最も簡単な決断の1つでした。なぜなら,考えるまでもなかったからです。この2つのチームは非常に優秀です。ゲーム業界でやっていける才能を持っているのですから,才能のある人がいれば,自分のゲームに取り組んでもらいたいと思うものです」

Larian は2021年2月にBaldur's Gate 3にドルイドを追加した
Baldur's Gate 3の1年:失敗と成功の大冒険

 Baldur's Gate 3の早期アクセスは,発売と同時に文字どおりSteamを破壊し(参考URL),技術的な問題が解決されるまでの間,何千人ものプレイヤーが本作を購入できない状態にするなど,これまでのところ大成功を収めている。発売直後のピーク時には同時接続者数が7万人を超え,その後も継続的にアップデートが配信されているため,熱心なファンが多いのも特徴だ。しかし,Vincke氏は成功は売り上げの数字では測れないと語る。

ゲーム作りは複雑で,これはとくに複雑なゲームなので,時間短縮でできることはほとんどありません

 「大多数のプレイヤーがゲームを楽しんでくれれば(成功と)言えるでしょう。文字どおりそれだけです。そして,その水準に到達したときには,我々もゲームを楽しんでいるということになるので,それが分かると思います。それが基準です」

 「それを達成できれば,我々は幸せです。それが達成できずに飽きてしまったら,とても不幸なことになるでしょう。だから,そうはさせません。これまでのゲームでも同じことをしていましたが,これこそが我々にとっての公式なのです。自分たちが何を作っているかは分かっています。しかし,やはり,ものすごく時間がかかるんです」と氏は笑う。

 「早期アクセスの結果として,またコミュニティの結果として,ゲームがより良くなっていることが最も重要なことであり,それこそが我々がこれを行っている理由なのです」

 Baldur's Gate 3は,近年復活を遂げているCRPG市場に参入した。これは,Dungeons & Dragonsの人気が高まったことと,LarianがDivinity: Original Sin 2で大成功を収めたことによるものだ。

我々は,このゲームに多くの愛とお金と努力を注ぎ込みました。なぜなら,本当に良いものであれば,人々はプレイしに来てくれるだろうと考えたからです

 「我々が作っているようなタイプのRPGの市場は巨大です」とVincke氏は続ける。「多くの人がこのタイプのゲームをプレイしていることに気付いていないだけだと思います。たとえば,Original Sin 2は本当によく売れました(関連英文記事)。これは,人々が友人に試してもらうことで実現しました。それがマーケティングキャンペーンだったのです。人々が他の人にプレイしてもらうことで,それが広がっていくのです」

 「そして,我々はもっとうまくやれると思っています。それがBG3でやろうとしていることであり,ゲームプレイの種類を広げることなのです。なぜなら,それはとてもシンプルだからです。問題や状況があって,男に話しかけて,いくつかの質問をして,彼がそれに反応して,できることがたくさんあって,そしてなんとすべてが燃えているんです。それは誰にとっても魅力的なことです」

 「ですから,(市場が)どのくらいの規模なのかということは気にしていません。我々はただ,この1つのゲームにたくさんの愛とお金と努力を注ぎ込んだだけです。なぜなら,本当に良いものであれば,人々は遊びに来てくれると考えたからです。必ずしもビジネスに適したアプローチではないことは承知していますが,もしプレイするために購入してくれる人が十分にいて,「いくらか」が投入している金額よりも大きければ,大丈夫ですし,我々はそのようにアプローチしています」

Larianは今年初めに,より高い確率で振れるようになるオプション機能「ローデッドダイス」を導入した
Baldur's Gate 3の1年:失敗と成功の大冒険

 Larian氏がBaldur's Gate 3の早期アクセスで実現していることの多くは,アクセシビリティと導入支援だ。そしてD&Dの複雑なルールを可能な限りシンプルな方法で伝えることにある。

 「我々には,これに取り組んでいるグループがあります。Baldur's Gate 3のようなゲームをプレイしたことのない新しいプレイヤーを集めて,何を説明する必要があるのかテストをしています。とてもルールが複雑だからです」

失敗も成功と同じくらい楽しいものにしたかったのです。そして,失敗の中には成功よりもはるかに多くの冒険があることもあります

 「ゲームは複雑であってはいけません。ゲームは複雑なものではなく,とても自然で直感的なものであってほしいと思っています。そのために,まだ出荷していないバックグラウンドで多くの作業が行われています。我々は,プレイヤーがこのルールを発見して直感的に使えるようにするために最善かつ最も簡単な方法は何かといったことに挑んでいます。この早期アクセスは,明らかに我々にとって非常に重要なプラットフォームなのです」

 「おそらく,我々がリリースするものを見たときに,あなたは初期段階のものと比べて次のように感じるでしょう。なんてこった,とてもとても使いやすいぞ。なにも考えなくても使えるじゃないか。理にかなっているぞ,と。これは,実際にD&Dをプレイしたときの体験と同じです。良いDMがいれば,300ページものルールを覚えなければならないようなことはありません。彼らはただ,こんなふうにするだけです。はい,あなたはダンジョンに入りました。ドアがあります。どうしますか?」

 D&Dのすべての側面がビデオゲームに簡単に変換されるわけではない。Larianは,Baldur's Gate 3の早期アクセス開始後,ダイス上積み機能のような興味深い変更を導入した。これは,より高い確率で振れるようになるオプション機能だ。

7月に開催されたLarianのLARPでのSwen Vincke氏
Baldur's Gate 3の1年:失敗と成功の大冒険
 これは,一見するとD&Dの本質に反しているようにも見える。しかし,ビデオゲームにおけるランダム性は,現実のランダム性とは異なる扱いをする必要がある。特定のルールを適応させつつ,ビデオゲームとしての魅力を高めるという,Larianが本作の開発で直面している課題の一端を垣間見ることができる。

 「これは,アーリーアクセスの結果であり,人々の反応を反映したものです。このゲームを作り始めたとき,D&Dの基本的な哲学の1つは,"ロールに従う "ということでした。そして,それが悪いほうに転ぶか良いほうに転ぶかで何かが決まるのです。しかし,それが楽しいんです。あなたは単にそうやって,何が起こるかを見極めるのです。我々は,失敗も成功と同じくらい楽しいものにしたいと思い,仕事を続けていました。そして,失敗の中には,成功よりもはるかに多くの冒険を見つけることもあります」

 「しかし,人間の心は必ずしもそのようには働かないことは明らかです。失敗したら彼らはリロードするのです。実際,我々がやっていたことのいくつかについては,非難を受けました。そこで我々は,80%の成功確率を見ても,本当に期待しているのは100%の成功なのだという人たちのために,オプションを用意しようと言ったわけです」

 「公平に見て,私も同じです。80%の確率と言われたら,失敗するとは思いません。それでも,5分の1の確率で失敗するということは,5本に1本は失敗するということであり,5本めはもちろん最も重要な一撃になると考えてしまうのです」

Baldur's Gate 3の1年:失敗と成功の大冒険

 そして,ビデオゲームにおいて,プレイヤーが最も重要な一撃に失敗すると,残念ながらデベロッパに反感を抱き,ネガティブなレビューを残してしまうことが多い,とVincke氏は指摘する。

Dungeons & Dragonsのような感覚で,1つ1つのルールに忠実に従うのではなく,……ただ楽しく過ごすことができるようにしたいのです

 Baldur's Gate 3では,正しいと感じられるように,目に見えない多くの作業が行われているが,その中には,プレイヤーにはまったく気づかれないものもある。

 「ダイス上積み機能は,確かに多くのプレイヤーに効果がありました」と Vincke氏 は続ける。「このゲームでは,システムの中核をなすサイコロが非常に重要です。しかし,その背景には,このような受動的なルールも存在します。我々はこの点をもう少し強調したほうがいいかもしれませんね」

 「Wizards(of the Coast) のあるDMがプレイしているのを見て,とても刺激を受けました。彼はひたすらサイコロを振り続けていたんです。みんな,何が起こっているんだ? 彼は何をしているんだ? という感じで,とてもいい雰囲気になっていました。それをプレイヤーにも感じてもらいたいのです。ゲームをプレイしているときに「何かが起きるかもしれないということだったんだ!」とか,リプレイして違いダイスの目だったときに,その背後に実際にはどれだけのものがあったのかを理解するといった感じで。そして,正味の効果は,我々がどれだけの労力を費やしたかを示すことではなく,突然,ちょっと待って,これは全部問題じゃないか,全部重要なことだったんだと気づくことなのです」

知らないかもしれないけど,こういうのがあって,サラミの二刀流ができるんだ

 「我々は,Dungeons & Dragons のような感覚を味わいたいと思っています。1つ1つのルールに忠実に従うのではなく,ダンジョンマスターが自動的にすべてをやってくれるような卓上でプレイする感覚がほしいのです。つまり,これは参入障壁を取り除いて,試せるように人々の鼻先に押し出してやれば,たいていはクリックしてくれるということなのです。BG3やDOS 2のレビューを見ると,『こんなことが楽しめるとは思わなかった。気が付いたら100時間やっていた!』というのがよくありますから」

 Larianは,Baldur's Gate 3が早期アクセスで発売されて以来,Baldur's Gate 3疲れが起こらないように全力を尽くしており,定期的に「地獄のパネル」を開催して,プレイヤーに最新のパッチを提供している。

 また,最新のアップデートを発表するためにLARP(ライブアクションロールプレイングゲーム)を開催した(参考URL)。プレイヤーの1人がサラミを武器として使用したところ,ファンからの反響が大きく,ゲーム内に登場することになったのだという。逸話のように聞こえるかもしれないが,これはLarianがこの早期アクセスにどのように取り組んでいるかを示す良い例だ。

「誰も頼んでいないのに。それが私の会社の好きなところです。ある日目が覚めたら,「サラミの武器ができた」と言った開発者がいたんです。「知らないかもしれないけど,こういうのがあって,サラミで二刀流ができるんだ」

 「もちろん,その特定のストリームを見た人だけが手に入れることができるのですが,それでもそれができるのは楽しいことです。もし僕がD&Dをプレイしていたら,実際にやってみたいことの1つですね。サラミを拾ってモンスターの頭を叩くんです。それがクールな部分であり,プレイヤーが何も期待していないところで,そのようなことがたくさん起こるんです。ゲーム開発は,こうありたいものです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら