【ACADEMY】資金調達で避けるべき落とし穴

1047 GamesのIan Proulx氏が,見込み客を絞り込み,混乱を解消し,資金調達プロセスをスピードアップする方法を探る。

 これを読んでいるのは,次のステップに進む準備ができている人だろうか,会社を成長させるための選択肢を模索し始めたばかりのひとだろうか。あるいは,すでに進んでいるものの,交渉で少し圧倒されている人かもしれない。投資案件は非常に多くの種類があるので,どうすればいいのか混乱してしまうだろう。

 1047 GamesのCEOである私は,大学在学中にポータルシューティングゲームSplitgateを開発した。資金繰りに追われた学生プロジェクトから,忠実なファンベースを持つ本格的なPCと家庭用ゲーム機のライブサービスゲームになり,大手VCからの出資も受けたが,それには時間がかかった。

 小さくても成長しているセルフパブリッシャやデベロッパとして,この記事がほかの創業者が落とし穴を避ける手助けとなり,資金調達をする際の資料となることを願っている。願わくば,この記事が,見込み客を絞り込み,用語にまつわる混乱を解消し,プロセスを迅速化するのに役立ちますように。

 自分に合った取引のための資金調達が早ければ早いほど,製品やサービスの拡大を早く始めることができる。


【ACADEMY】資金調達で避けるべき落とし穴


はじめに


 私は,潜在的な投資家との会話は,常に自分たちのストーリーを語ることから始めたいと思っている。投資家は(少なくとも初期の段階では),あなたがどのようにして始めたのか,どのようにして現在に至ったのか,そしてなぜあなたが何をしているのかを知りたがっている。

 投資家はチームに信頼を寄せてくれているので,このような初期の話し合いでは,いくつかの「やるべきこと」と「やってはいけないこと」がある。

●あなたのストーリーがあなたのピッチ
 あなたの会社のストーリーを語ることは,会話を始めるのにとても簡単で自然な方法であり,相手の心をつかみ,うまくいけば興奮を呼び起こすことができるが,あまりにもカジュアルになりすぎないように注意が必要だ。投資家とのミーティングは,あなたが相手を見極めるのと同じくらい,あなたを見極めるためのものだ。

投資家とのミーティングは,あなたが彼らを評価するのと同様に,あなたを評価しているのだ

 あなたの会社のストーリーを,ピッチの中で魅力的で印象的なパーツにまとめてみよう。隠し事や嘘はいけないが,ポジティブな部分を強調し,ネガティブな部分は自分たちが認識し,対処していることとして位置づけるようにする。

 我々の場合は,学校を卒業したばかりで経験がほとんどないという事実よりも,「スーパースター」チームであることを強調した。また,多くのゲーム会社に欠けている,データに基づいたアプローチを強調して,多くの投資家に喜ばれた。

 今言ったことがあとになって響いてくることもある。

 投資家を興奮させるのに十分な情報を伝えるようにするが,伝えすぎないようにしよう。

 また,具体的な期待値を上げすぎないようにしよう。業績や財務予測について過度に楽観的な予想をして達成できなかった場合(おそらくそうなるだろう),1年後,進捗状況を伝えるために戻ってきたときに業績悪化したように見える状況を作ってしまっては大変だ。

 投資家は,なぜ当初の目標を達成できなかったのかと疑問に思うかもしれなず,今は不利な状況だ。

●ネガティブになってはいけない ―状況は良くないのだから
 どんな困難に直面していても,自信に満ちた姿勢が大切だ。ボディランゲージ,自信に満ちたピッチ,そして「これ以上はない」という態度は,適切な投資家を探すための長い初期段階には必要だ。

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直接のコネにはならない友人:関係作り,PR,弁護士,銀行員


 ベンチャーキャピタルとの初期の話し合いでは,広い視野を持ち,第三者の推薦の価値を知ることが重要なポイントとなる。最初の紹介にふさわしい人間関係を見つけるために,人脈のリストを深く掘り下げる。

 昔の知り合い,大学時代の友人,同僚などに連絡を取り,役に立ちそうなコネを持っている人を探そう。弁護士,銀行員,他の業界の投資家など,誰が良い紹介者になるか分からない。たった1人でもいれば将来の適切なパートナーを見つけることができるかもしれない。

●恥ずかしがらずに
 ネットワーキングは非常に重要だ。1つや2つのベンチャー企業だけに絞って将来のチャンスを閉ざさないように,できるだけ多くのベンチャー企業と話をしよう。しかし,多くのベンチャー企業からは,会うことはおろか,返事すらもらえないかもしれない。

 投資家へのピッチを練習すればするほど,何が投資家の心に響き,何がそうでないのかが分かってくる。また,投資家は,自分が投資を断ったとしても,あなたに他の投資家を紹介してくれることもあり,あなたのネットワークを大きく広げることができる。

時差ぼけがひどかったのだが,投資家候補がいることは分かっていたので,ベッドから起きてエスプレッソを飲んで出かけた

 我々の場合,Lakestarは実際に我々のラウンドへの参加を約束してくれた最初の投資家だったが,そのきっかけは,2019年に開催されたスタートアップ/テックカンファレンス「Slush」のミート&グリートで,私が見知らぬ人たちのグループに近づいて話しかけたことだった。時差ぼけがひどく,その夜のイベントにはほとんど参加していなかったのだが,投資家になりそうな人たちが来ていることは知っていたので,ベッドから起き出してエスプレッソを飲んで出かけた。

 会場には知り合いがいなかったが,できるだけ多くの人と会話をした。その中の1人が,熱心なHaloプレイヤーであり,Lakestarのパートナーでもあった。Lakestarチームとの長い付き合いの始まりだった。Lakestarチームは,投資をしてくれただけでなく,他の多くの潜在的な投資家やパートナーを紹介してくれ,最も重要なこととして,資金調達を完了するまでの非常に困難な道のりをナビゲートして,我々の擁護者となってくれたのだ。

●パブリシティは第三者のお墨付き
 PRやパブリシティは,早い段階で信頼性を高めることができる。また,肯定的なメディア記事という形で第三者に支持されることで,投資家を「イエス」のカテゴリーに押し込むことができる。

 第1回の資金調達に先立って,我々は初期の牽引の兆しを示すことができた。たとえば,Splitgateの可能性を語ったゲーム専門誌のプレビュー記事や,15000人以上のアルファ会員の登録などだ。

Ian Proulx氏
【ACADEMY】資金調達で避けるべき落とし穴
 我々のチームにとって重要だったのは,エンジェル投資家に興味を持ってもらって必要な牽引力と信頼性を得るために,スクラッピーでクリエイティブであることだった。

●良い弁護士を雇う
 最後に,良い弁護士が必要だ。取引を成立させるのは大変な作業だ。また,ディリジェンスロッカーを常に最新の状態にしておくことも重要だ。そうすれば,クロージングの際に,何十ものファイルや人を探す必要がなくなる。

●(まだ)銀行員を雇ってはいけない
 初期の段階でチームに入れてはいけないプロの助けは,投資銀行家だ。銀行はのちのラウンドで役立つこともあるが,初期段階の投資家はあなたと直接取引したいと考えている。銀行は,あなたが資金を調達する能力があるかどうかを知りたがる。なぜなら,資金調達はCEOにとって非常に重要なスキルだからだ。

 このような理由から,銀行が代理を務めている会社への投資は検討しないアーリーステージの投資家を何人も知っている。

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大きな魚を捕まえようとしているが,それは正しい魚か?


 恐怖心から資金調達にイエスと言ってはいけない。あなたにとって意味のある取引だからこそ,イエスと言うべきだ。

恐れから資金調達にイエスと言ってはいけない。あなたにとって意味のある取引だからこそ,イエスと言うべきだ

 我々が検討した資金調達には,パブリッシャとの取引,VC,戦略的投資家の3種類がある。それぞれに長所と短所があるが,長期的な目標を共有できる人と組むことが大切だ。

 我々の場合,長期的なビジョンが分かりやすく伝えられ,理解された。つまり,複数のヒット作を持つマルチゲームスタジオになり,最終的には株式を公開したいと考えていたので,VCが最適なルートだった。自分が何者で,どこに向かっているのかを知り,それを自信を持って売り込むことは,非常に有効だ。

●自分のビジョンを自信を持って語る
 投資家はあなたのエレベーターピッチを聞く必要がある。魅力的で,簡潔で,自分のビジョンと一致したものにしよう。初期の興味を失わないように,このような会話をする前にピッチを書き留めておこう。

 1047は,自分のIPを持ち,自分の会社を作りたいと考えている。戦略投資家とVCの両方に話を聞いたが,戦略投資家の場合,彼らの関心は我々とは一致しなかった。我々は,買収されることを望んでいるのではなく,自分たちの力で大きくなりたいと考えていた。これには正解も不正解もなく,あなたの目標が何であるかによると思う。


求愛フェーズ:やるべきこと,やってはいけないこと,できること,できないこと


●やるべきこと
 常に売り込むこと。できるだけ多くの投資家と話をしよう。より多くの人と話をすればするほど,その中の一人が投資に適した相手である可能性が高くなる。

●やるべきでないこと
 ほかの投資家との会話を孤立させないこと。ほかの投資家と話していることを秘密にしてはいけない。これは「バズ」を作るために重要だ。投資家のコミュニティは思っている以上に小さく,どの投資家がお互いを知っているかは分からない。

 言ってもいいこと,言ってはいけないこと,言うべきでないことなど,基本的なエチケットや倫理観を知っておくことは,長期的に見ても有効だ。橋を燃やしてはいけないが,その取引が自分に合わない場合は,その場を離れる準備もしておこう。

 ほかの投資家との会話を封じ込めないようにする。ほかの投資家と話していることを秘密にしてはいけない。

●できること

潜在的な投資家に最新情報を提供し,あなたの進捗状況に興奮してもらうことは重要だが,同時にあなたの案件が長く続かない可能性があることも伝えよう

 投資家にとっては,しばらく様子を見たほうが得策であることがほとんどで,誰も最初に投資を申し出る人にはなりたくないものだ。それが厄介なのだ。常に明確で正直でなければならず,自分の会社を可能な限り最高の形で「売り込む」ようにする必要がある。

●できないこと
 一度オファーを受けたら,その条件をほかの投資家と共有したり,取引をしたりすることは倫理的に許されない(ただし,ほかの投資家に「オファーを受けたので,早く決断しなければならない」と知らせることはできる)。

【ACADEMY】資金調達で避けるべき落とし穴


負けを認め,引き際を見極める


 案件のクロージングには,平均して約1か月,あるいはそれ以上かかることもある。幸いなことに,我々の投資家は仕事がしやすかったので,高度な条件に合意したあとは,何度もやりとりや交渉をする必要はなかったが,必ずしもそうとは限らない。撤退のタイミングを見極めることで,大きな違いが生まれる。

 ある投資家は,条件に合意したあとでも,何か月もかけて再交渉してきた。会話のたびに新たな変化が生まれているようだった。最終的に,我々はその場を離れることにした。それまでに費やした時間を考えると難しい決断だったが,当社にとっては最良の決断だった。

 条件交渉はプロセスの大部分を占め,長引くこともあるが,そんなときこそ,優れた弁護士を雇うことがあなたの経済的な将来にとって重要になる。我々の経験から,投資家がタームシートに盛り込もうとする可能性のある楽しい(というか恐ろしい)ことをいくつか紹介する。あなたの状況や将来の目標によっては,これがあなたの会社にとって破滅的なものになるかもしれない。

●コールオプションは初心者向けではない
 戦略的ゲーム投資家が入れようとするものに,コールオプションがある。
これは,将来,今日設定した価格で会社を売却するというオプションだ(※多くの場合は現在設定した価格で将来株式を購入できる権利だが,意味的には同じようなものかもしれない)。いくつかの理由から,これは絶対に避けなければならない。

 コールオプションは株価の上限を決めるものだが,実はそれ以上に悪い意味を持っている。コールオプションがあると,事実上,二度と資金調達ができなくなる。私がシリーズBの投資家であれば,コールオプションを持っている最初の投資家に所定の価格で買収されてしまう可能性があるため,資金が2倍,4倍になることを期待して,あなたの会社に投資することはない。

 株価を制限するだけでなく,オプションの保有者以外からの将来の投資を排除することになる。


●黄金の手錠

 投資家は,投資したあともしばらくはCレベルのリーダーシップが維持されることを望むだろう。あなたもそうであることを望む。

 あなたの個人的な目標に応じて,オプションの再投資を約束したり,何年もの契約条項に署名したりすることへの快適さのレベルは異なるかもしれない。投資家にとって,リーダーシップチームがしばらくの間は存在することを知ることは合理的だが,あなたが同意してもよいと思う内容にはバランスがある。

●交渉によるデッドロックの回避
 ここでは,すぐに決めてはいけない条件をいくつか取り上げたが,クロージングは一般的に交渉のプロセスだから,できる限り行き詰まりを避け,可能な限りWin-Winを目指そう。

 投資家の中には,創業者のことを考えずに,できるだけ良い条件で取引しようとするWin-Loseネゴシエーターがいる。このような投資家とは一緒に仕事をしたくない。もし,貪欲で過剰な要求をする投資家が相手で,代替手段がない場合,あなたは厳しい状況に置かれるだろう。結局のところ,何も得られないというリスクを冒す余裕があるかどうかということだ。

 1年前,我々はまさにそのような状況に陥った。ある投資家が取引をやり直そうとしたため,6か月間交渉したが,納得のいくものが得られなかった。最終的には膠着状態に陥った。ほかに選択肢がなかったので,この案件から手を引くのは辛い決断だった。しかし,幸いなことにそれが功を奏し,同じ目標を持った素晴らしい投資家と長期的なパートナーを得ることができた。

 もし取引を中止して立ち去ることになっても,橋を燃やして険悪な雰囲気のまま去ることは避けよう。常に人間関係を維持することが重要だ。この業界は狭いので,誰と一緒に仕事をすることになるか分からない。

 以上,求愛とクロージングの段階での重要なポイントを紹介した。このようにして出会った投資家とは,常に連絡を取り合うことが大切だ。案外早く次の投資家が現れるかもしれない。資金調達の初期段階で潜在的な落とし穴を知っておくことで,よりスムーズに,より早くラウンドを成功させることができるだろう。


Ian Proulx氏は,オンラインポータルゲームSplitgateを開発した1047 GamesのCEO兼共同設立者だ。生涯現役のゲーマーであり,ファーストパーソンシューティングゲームやゲームPortalの熱心なファンでもあるProulx氏は,スタンフォード大学の学生時代に授業のプロジェクトとしてSplitgateを開発した。1047 Gamesは,北カリフォルニアに本社を置く分散型のスタジオだ。

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