【ACADEMY】ゲームユーザーリサーチとはどういう仕事か

GamesIndustry.biz ACADEMYでは,ユーザーリサーチ分野のベテランであるSteve Bromley氏に,その仕事の内容と,ユーザーリサーチャーになるためにできることについて話を聞いた。

 ゲームのプレイテストは,ゲーム業界では新しい分野ではない。我々は,すでにその仕事についての詳細なガイドを提供している(関連記事)。

 しかし,この15年間でこの分野は成熟し,ユーザーリサーチをはじめとするより専門的な分野が出現して,別の形式のプレイテストと平和的に共存するようになった。

 フリーランスのゲームユーザーリサーチャーであるSteve Bromley氏は,「ゲームユーザーリサーチャーの仕事は,基本的にプレイテストを専門化することです。つまり,学術的な専門知識,つまり広く科学とユーザー体験の専門知識を用いて,結果が信頼できる質の高い研究を設計し,その研究結果に基づいて重要なゲームプレイの決定を行うことができるのです」と説明する。

 Bromley氏は10年以上この分野で仕事をしている。PlayStationでは5年間,Horizon: Zero Dawnなどのタイトルの開発に5年間携わり,またインディーズデベロッパとも仕事をしていた。また,Bromley氏は,ゲームユーザー研究のメンタリング制度を立ち上げ,過去5年間で100人以上の学生をソニー,EA,Valve,Ubisoft,Microsoftなどの企業と提携させていた。

ユーザーリサーチャーはプレイテストを行い,プレイヤーがデザイナーの期待どおりの方法でゲームを体験しているかどうかを確認します

 「ユーザーリサーチャーは,プレイヤーがデザイナーの期待どおりの方法でゲームを体験しているかどうかを確認するためにプレイテストを行います」と氏は語る。「デザイナーが意思決定をする際には,プレイヤーが何をして何を理解するのか,プレイヤーに何を伝えなければならないのか,プレイヤーは正しいことに気づくのか,といったことを理解しています。しかし,それが本当に機能するかどうかは,実際にプレイヤーの前に出してみないと分からないのです」

 ユーザーリサーチャーは,顧客の反応を見てゲームをどう修正すべきかをデベロッパに伝えるのではなく,ビジョンと結果が一致しているかどうかを確認するのが目的だ。また,ユーザーリサーチはQAとは異なり,ゲームが技術的に壊れているかどうかを確認するものではない。

 テストの話を聞くと,「プレイヤーが難しいと言うのでゲームを簡単にする」か「ゲームの精神を変える」のどちらかが目的ではないかと不安になる人もいると思う。あなたが大勢のプレイヤーを部屋に集めて,「今年の子供たちはスケートボードのゲームが好きか,それともハリネズミのゲームが好きか」と質問し,「ああ,今年の子供たちはハリネズミが好きだから,ハリネズミのゲームを作るべきです」と答えるといった感じの,市場調査やフォーカスグループと混同する人もいるかもしれない。

我々は,デザイナーが何をしようとしているのかを理解することに細心の注意を払っており,ビジョンを変えようとしているわけではありません

 「どちらも我々がやっていることではありません。むしろ,デザイナーが何をしようとしているのかを理解することに細心の注意を払い,そのうえで,『あなたは自分がすべきことをしているのか』ということを確認しています。我々は,デザイナーのビジョンを変えようとはしません。たとえば,BloodborneやDark Soulsのように,ゲームが難しいことが分かった場合,我々はそれを理解したうえで,「このゲームは難しすぎるからやめよう」と言うのではなく,そのゲームが正しい種類の難しさであるかどうかを確認するのです。繰り返しになりますが,もしあなたがスケートボードのゲームを作りたいのであれば,それは素晴らしいことですし,我々はあなたに『スケートボードのゲームを作るな』とは言いません。自分が作ろうと思っているものを作れていますか?」

 ユーザーリサーチャーの日常業務は,調査の計画,実施,報告のいずれかだ。これらの調査は開発期間中いつでも行うことができるが,Bromley氏によると,彼のサービスが必要とされるのは,通常,開発の後半だそうだ。

 「研究の最初の段階では,デザイン担当者,プロデューサー,その他の決定権を持つ人たちと協力して,ゲームの現状と彼らが抱いている疑問の両方を理解します」とBromley氏は説明する。「彼らは何について確信が持てないのか? 最近取り組んだことで,うまくいくかどうか分からないことはないか? そして,このプレイテストや調査から何を学びたいのか,目的を明確にします」

 この時点から,目的を明確にしたうえで,慎重に調査を行う必要がある。プレイヤーと1対1で向き合い,プレーを見て理解しているかどうかを観察したり,何を考えているかをインタビューしたり,より分析的なアプローチをとったりと,さまざまな調査形式がある。

Steve Bromley氏
【ACADEMY】ゲームユーザーリサーチとはどういう仕事か
 たとえば後者は,ゲームからの遠隔測定と測定値を使って,プレイヤーが期待どおりの時間でレベルをクリアしているかどうか,期待どおりの時間で失敗しているかどうかを確認したり,プレイヤーが実際に体験していることが,デザイナーが考えている体験であるかどうかを調べたりする。

 「プレイヤーに質問をしたり,課題を与えたり,科学的な原則を適用することで,プレイヤーに偏見を持たせず,家庭で実際にプレイしているプレイヤーに見られるようなリアルな行動を得るように注意する必要があります」とBromley氏は説明する。

 「そして,セッションで行った観察,インタビューのメモ,ゲーム自体からの遠隔測定など,たくさんの生データを手に入れて,そのデータを解析して結論を出さなければなりません」

 通常,ユーザーリサーチャーは,ゲームの潜在的な問題点やプレイヤーが理解できなかった点を説明するレポートやプレゼンテーションを作成したり,ワークショップを開いたりして,デザイナーが正しい判断を下せるようにする。

 「基本的に,チームが,何が問題なのかを知りたい,どうすべきなのかを考えたいと思うようにするためのステップを支援する仕事です」とBromley氏は語る。


ユーザーリサーチャーになるためには,どのような教育や経験が必要か?


 「ユーザーリサーチャーの多くはアカデミックなバックグラウンドを持っており,心理学などの社会科学を専攻しています」とBromley氏は語る。

 「私はゲームユーザー研究の存在を知りませんでしたが,たまたま大学院でヒューマンコンピュータインタラクションを専攻していたので,ユーザビリティや人々がソフトウェアの使い方を理解する方法について学んでいました」と氏は語る。「幸運なことに,私が学んでいたブライトンにはゲームユーザビリティラボがあり,講師の一人がそのラボを所有していたので,そこで初めて経験することができたのです」

 「しかし,私自身が研究室で働いた経験から言うと,ユーザーリサーチャーは学部や大学院で何らかの科学の学位を取得していることが多く,『どうやって研究をデザインするか』『どうやって人にインタビューするか』』どうやって実験するか』などに興味を持っています。そして人にインタビューをしたり,テストをして,その結果をどのように応用できるかを考えていました」

どの分野でもユーザーリサーチャーになるのは,良い転職です。なぜなら,研究をどのようにデザインするかというスキルの多くが応用可能だからです

 Bromley氏は,このような社会科学的な背景と,ゲームの作り方や良いゲームデザインとは何かといった興味を組み合わせることで,ユーザーリサーチャーとして業界に入ることができると付け加えている。

 教育はともかく,その分野での実務経験をどこで得られるかは,Bromley氏がメンタリングスキームを運営するうえで直面する共通の問題だった。

 「我々がお勧めできることがいくつかあります。1つは,どの分野でもユーザーリサーチャーへの転職はよい方法です。しかし,ゲームの場合は,実際に経験を積むことを考えて,インディーズコミュニティでの活動をお勧めしています」

 「Redditのプレイテストフォーラム(参考URL)やItch.ioのプレイテストフォーラム(参考URL)のように,ゲームを作った人たちがフィードバックを求めてプレイテスターを募集しているところがたくさんあります。彼らは必ずしもユーザーリサーチの存在を知っているわけではありませんし,科学的かつ測定された方法でこれを行うことができるとは思っていません。しかし,彼らが助けを求めていて,開発中のゲームを持っているということは,あなたが彼らを助けられる適切な状態にあるということです」

 この分野に興味を持ちの方には,ゲームのフィードバックを得たいと考えているインディーズデベロッパに連絡を取り,次のように説明することをお勧めしている。「私は単なるプレイテストの参加者になるのではなく,学界で培った経験や本を読んだ経験を応用して,ユーザビリティのベストプラクティスに基づいたアドバイスを提供し,それを研究のオプションとして利用したいのです。これは非常に貴重な経験だと思います」

ゲームが実際にどのように作られているかを理解し,ユーザビリティスタディの実施方法についても学んでください

 Bromley氏は,Jesse SchellのThe Art of Game Design(参考URL)など,ゲームデザインに関する本を読むことも勧めている。

 「ゲームが実際にどのように作られているかを理解し,ユーザビリティスタディの実施方法についても学んでください」と氏は続ける。「そのためには,Just Enough Research(Erika Hall著)やDon't Make Me Think(Steve Krug著)といった2冊の良書があります」

 Bromley氏自身も,このテーマでHow to be a Games User Researcher(参考URL)という本を書いている。

 「研究の進め方を理解するために本を読んだり,ゲームデザインについての本を読んだり,実際にインディーズのデベロッパに連絡を取ったりすることで,素晴らしい候補者となり,これらの仕事が出てきたときに,実践的な経験と理論的な知識を持っていれば,より素晴らしい仕事ができるようになります」


良いユーザーリサーチャーになるには,どのようなスキルが必要か?


 ユーザーリサーチャーになるということは,多くの時間を人との会話や交流に費やすことになる。だから,必要なスキルの上位には,この社会的な側面と,効果的なコミュニケーション能力が挙げられる。

 「プレイヤーと会話ができるかどうか,それも公平な方法でできるかどうかです。つまり,自分の意見を言ったり,答えを導いたりするのではなく,プレイヤーが安心して意見を述べたり,自分の考えを説明したりできるような場を作り,もし行き詰っても自分がバカだと思わないようにすることです」

 「そのためには,ゲームデザイナーと多くの時間をかけて会話し,ゲームの意図を理解する必要があります。また,最後には,ゲームがうまくいっていないことを納得させなければなりません」

公平な立場でプレイヤーと話ができますか? 自分の意見を言わず,答えを導いたりしないで?

 また,分析的な思考も非常に重要だ。デベロッパが提示した「チュートリアルが機能するかどうか分からない」という疑問を,プレイヤーに課すべきタスク,プレイヤーに尋ねるべき質問,プレイヤーがきちんと理解しているかどうかを知る方法に変換する能力が必要だ。

 「漠然とした目標を具体的なタスクに落とし込むために,その分析を応用できることは,あなたがしなければならない本当に核心的なことです」とBromley氏は続ける。「そして,同じ分析を反対側でも行うのです。あなたは研究を行い,たくさんのデータを手に入れましたが,誰もそのデータ全体に注意を払うことはありません。あなたの分析能力を使って,生のデータを『誰かに聞いてもらい,何かをしてもらえるような,本当に面白く,本当によく説明された5つのポイント』に変えなければならないのです」


採用状況とキャリアアップの機会は?


 ユーザーリサーチの仕事は,社内での仕事と代理店での仕事が混在している。Bromley氏は,若手レベルの仕事を見つけるのは「それなりに困難です」と指摘する。

 「というのも,ユーザーリサーチは成長分野でありながら,まだゲーム制作の中核とは見なされていないからです。そのため,チームを持っているのは大規模なスタジオだけで,小規模なスタジオでは,チームを持っていたとしても1人か2人の非常に優秀なリサーチャーだけで,ジュニアレベルの人材を募集することはありません」と氏は語る。

 「だからこそ,学術的・理論的な経験を積むだけでなく,実際にインディーズのデベロッパと仕事をすることをお勧めします。多くの人はそれをしなかったり,そこまでやらなかったりします。ですから,(それをするということは)面接に臨んだときに,あなたが特別な候補者であることを意味します」

さまざまなアクセスニーズを持つ人々がゲームをプレイできるようにすることに興味がある場合,アクセシビリティに重点を置いた職務に移行するためにこれを利用する人もいます

 キャリアアップという点では,ジュニア,ミッドレベル,シニアユーザーリサーチャーと進んでいくことはもちろん可能だし,この部門に留まることもできる。上級レベルの違いは,「より多くのプロジェクトにオーナーシップを発揮する」傾向にあることだとBromley氏は語る。

 「初期の段階では,ゲームの最後にいくつかのテストを実行するだけかもしれませんが,経験を積み,チームとの関係が深まるにつれて,開発の初期段階でより多くの影響力を持つようになり,それらの研究を早めに実行できるようになるのです」

 ユーザーリサーチの仕事は,他の仕事にも応用できるスキルを与えてくれる。

 「たとえば,さまざまなアクセスニーズや障害を持つ人々がゲームをプレイできるようにすることに興味がある場合,ユーザーリサーチを利用してアクセシビリティを重視した仕事に就く人もいます」

 「また,もっと一般的な制作の仕事に就く人もいます。ユーザーリサーチャーであるということは,自分の研究を進めるために,他の人が取り組んでいることを理解する必要があるからです。その結果,優れたプロデューサーになることができます。なぜなら,やはりすべての分野を理解し,それらすべてをまとめる必要があるからです」

コミュニティを意識して,積極的に働きかけ,そこにあるすべての支援を利用することは,本当に重要です

 制作についてもっと詳しく知りたい人は,GamesIndustry.biz ACADEMYが最近公開したガイドを見てほしい(関連英文記事)。

 最後にBromley氏は,ユーザーリサーチのコミュニティは小さいけれど,とても活発だと指摘する。興味のある分野であれば,ぜひ仲間に声をかけてみてほしい。

 「The Games Research and User Experience Special Interest Groupというグループがあり(参考URL),非常に活発なDiscordを運営していて,イベントやカンファレンス,ネットワーキングなどを行っています」と氏は語る。「ユーザーリサーチャーの数はそれほど多くありませんので,大手企業で働いている人たちに直接触れることができ,業界で起こっている最新の議論を知ることができます。また,業界に参入する際には,履歴書の審査やポートフォリオの審査など,多くのサポートを受けることができます。たとえば,メンタリングスキームもこのコミュニティの一部です」

 「このコミュニティを意識して,積極的に連絡を取り,そこにあるすべての支援を利用することは,本当に重要です」


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