【月間総括】前途多難なPS5と盤石なSwitch

 今月はまず,ソニーグループが5月末に開催したIRDAYについて触れたい。ゲーム事業を担当するジム・ライアン氏の説明では,6月にはスタンダードモデル(ディスク付きモデル)の逆ザヤが解消される見通しであることが明らかになった。逆ザヤは50ドル程度あると見ていただけに,非常に良いニュースではないだろうか?
 ただ,デジタル・エディションはドライブ機構のコストを考慮しても,まだ70〜80ドルは逆ザヤなのではないだろうか。出荷比率が10%強と推測しているので,PS5全体で,逆ザヤの解消に至るには時間がかかると思われる。

IRDAY資料より
【月間総括】前途多難なPS5と盤石なSwitch
【月間総括】前途多難なPS5と盤石なSwitch

 このほか,気になるのが一人当たりのフルゲームに対する支出がPS4比較で15%も減少していることだ。ジム・ライアン氏は,F2Pにユーザーがシフトしているとコメントしているのだが,F2Pタイトルはユーザーが多くないと成り立たないビジネスモデルなので,PS5はワンオブゼム(多数のプラットフォームのひとつ)になってしまうかもしれない。

 ソニーグループとディスカッションしていると,PS5の魅力的なタイトルでユーザーをけん引しているとのニュアンスで話をしているので,やや矛盾する結果になっていると思う。AAAタイトルの開発費は一段と高騰しており,もはやAAAタイトルは,開発費が1億ドルではすまなくなっていると推測しているので,1タイトル当たりの販売価格を上げるか,販売数量を伸ばす必要がある。このままPS5世代で購入数が減少すると,サードパーティーの採算性が悪化してしまうだろう。

 F2Pでソニーグループのゲーム事業収益が拡大するのは結構なことだが,PS5の相対的な地位は下がってしまう。スマートフォンまでマルチに対応するF2Pタイトルは,PS5の魅力を引き出すのは難しいのではないだろうか。この点の改善が,SIEにとっては重要なポイントになるだろう。

 ここはゲーム業界の話をする場なのであまり触れていないが,アニメがソニーグルーブのIRDAYでも,会社側,投資家側の非常に大きな注目を集めている。エース経済研究所では常々,2030年代には日本のアニメが世界を席巻すると予測しているが,その兆候は,「鬼滅の刃」のヒットに見られるように出始めている。
 また,フランスで若者向け文化クーポン(主たる目的は観劇や博物館だったようだ)の消費先が日本の漫画だったという報道があった。2000年ごろに生まれた世代の共通項として,日本のアニメや漫画に違和感を持たなくなっている点があるように思う。

 このまま推移すると,世界同時公開のアニメ映画が登場してもおかしくない。しかも,購買力が増すことから二次元系のアニメがコミックス,映画,ゲーム市場を席巻するだろう。にもかかわらず,今回のプレゼンでもコメントとしてはアニメと言っていても,資料にアニメ系タイトルがないのは問題かもしれない。表現規制は同社の将来に良くない影響をもたらしかねないと思うのである。

 次に6月13日から開催されたE3 2021では,ソニーグループ傘下のSIEが出展していなかったため,「Nintendo Direct | E3 2021」の話を中心に進める。

 E3前に新型Switchが発表される可能性があるといった事前報道もあったが,本稿執筆時点でも,特に発表はない。
 今年のE3はオンライン開催だったこともあり,今一つ盛り上がりに欠けたようである。
サードパーティーもソニーグループや,任天堂の発表で初公開することが多くなっていることを考えると,ソニーグループが出展しない時点で,こうなることはやむを得なかったのかもしれない。

 「Nintendo Direct | E3 2021」は,スマッシュブラザーズの追加キャラ,メトロイド新作,そしてゼルダの伝説ブレスオブワイルド続編(タイトル名は未発表)と,今年から来年にかけてコンスタントに大作が用意されていることが分かり,悪い内容ではなかったと思う。

 すでに発表されている「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」のリメイクと新作「Pokemon LEGENDS アルセウス」,さらに「スプラトゥーン3」も控えており,1000万本級タイトルが目白押しといった印象である。

 しかし,株式市場の翌日の反応は大幅に下落という形になった。これは,ここ10年で見ても,E3期間中のNintendo Directの翌日は軟調なことが多かったので,いつも通りと言えなくもない。また,「Nintendo Direct | E3 2021」で今年発売のタイトルは出尽くしたと見られがちであるし,新型ハードもないとなるとやむを得ないところであろう。

 新型Switchに関しては,任天堂の戦略にかかわる重要製品だと見ている。下のグラフにあるように,Switchの推移は従来のゲーム機と比べてもかなり異質だ。年間(暦年)の販売台数は毎年増えており,2020年は約600万台だった。しかも,4年目にもかかわらずである。5年目もすでに285万台を販売している。このペースだと昨年並みの販売は十分に狙えそうに見えるが,ピークアウトも懸念されている。PS4も5年目には減少に転じており,過去のゲーム機を見ても,ここでさらに前年を上回ったケースはおそらくないためである。

 任天堂はできるだけ勢いを維持したいと考えているようだ。一度落ちた勢いを回復させるのはかなり難しいので,ここは新型投入のチャンスであるように思う。しかも,ユーザーの期待はE3前に高まって,肩透かしを食らった格好なので,ここで発表されれば,デザイン次第では十分に受け入れられるだろう。

 PS5は,やはり普及台数が少ない。グラフの他機種は2〜3月発売なので初年度は比較として適当ではないが,6月中旬で56万台だと年間でPS4の2年目121万台にぎりぎり届くかというところだ。本来なら年末商戦にかけて供給増が期待されるが,ソニーグループは世界全体ベースでPS4の1480万台以上の売上台数を目標としているので,日本市場のソニーグループ内でのシェア低下も考えると,出荷が増えるかどうかは分からない。

 ソニーグループからは,日本市場を大事にしていると何度かコメントをもらっているが,SwitchやかつてのPS2の出荷・実売数量から見ると,寂しい限りである。

暦年ベースでの日本の実売台数推移

出典:ファミ通