【ACADEMY】詐欺師症候群に対処する

ZyngaのPhuong Phillips氏は,詐欺師症候群に悩むスタッフのために企業ができることを説明し,常に自分が詐欺師ではないかと恐れている人のためのヒントを提供している。

 詐欺師症候群は比較的新しい概念で,1978年に医学雑誌で初めて作られたものだ。

※詐欺師症候群:周りの評価が自己分析よりも高く感じられ,自分がみんなを騙しているような錯覚に陥ること

 「The Impostor Phenomenon in High Achieving Women: Dynamics and Therapeutic Intervention(高業績の女性における詐欺師症候群:そのダイナミクスと治療的介入)」という論文の中で(参考URL),著者のPauline Rose Clance氏とSuzanne Ament Imes氏は,「学問的にも職業的にも優れた業績を上げているにもかかわらず,詐欺師症候群を経験した女性は,自分は本当は優秀ではないと信じ続け,そうでないと考える人を騙してきました」と強調している。

 Phuong Phillips氏は,Zyngaの最高法務責任者を務めている。それ以前は,TeslaのM&Aの主任弁護士を務め,GoogleとNetflixのIPOにも携わった。しかし,大成功を収めたキャリアにもかかわらず,彼女は偽者症候群をよく知っているという。

 「私の場合は,難民としてアメリカに移住して,英語が第2言語であったため,文法的に間違っているのではないかという不安を常に抱いていたことに起因していました」と氏はGamesIndustry.biz ACADEMYに語った。「私は長年,人前で話すことをしていませんでした。なぜなら,『彼女の英語は完璧ではない。この人が専門家であるはずがない』と自分が詐欺師のように見えるのが怖かったからです」

そして何年もの間,私は詐欺師のように見られることを恐れて,人前で話すことを一切していませんでした

 「4,5年前までは,あるパネリストが法律の専門知識について話すのを聴衆として聞いていました。彼らは文法的に正しくなくても気にしていないので,私はそこに座って1人で笑っていたのです。彼らにできることなら,私にもできるはずだと思いました。なぜなら,私は英語が第2外国語でそれほど苦手ではなかったからです」

 伝統的に男尊女卑の業界に身を置く多くの女性にとって,詐欺師症候群は,常に部屋の中に女性が1人しかいないことに起因する場合もある。詐欺師症候群は,性別に関係なく,一般的に恵まれない環境にいる人に多く見られる現象でもあるのだ。

 「詐欺師症候群とは,女性が同世代の人たちと同じ部屋にいるべきではないと感じることです。なぜなら,自分には資格がない,自分の居場所がない,必要なスキルセットをすべて持っていないと感じるからです」とPhillips氏は続ける。「詐欺師症候群は男性にも女性にもあると私は考えています。しかし,我々の役割では,部屋にいる女性が我々だけであることが多いので,女性のほうが声高に主張する傾向があると思います。そのため,余計に重く感じられてしまうのです」

 詐欺師症候群には以下のような症状がある。

  • 絶え間ない自己嫌悪,自己卑下
  • 自分の業績を,他人や自分の能力以外の要因によるものと考える
  • 自分が人を失望させているのではないか,期待に応えられていないのではないかと不安になり,それを補うためにオーバーワークになりがちになる
  • 自分で決めた達成できない目標や,時間内に到達できない目標に向かって努力することで,失敗するように仕向ける

このタイミングで口をはさんではいけないのではないかと考えるのは普通のことです。しかし,すべての会議でそのように考えるのはどうでしょう?……

 「あなたも私も,部屋の中で何かを言いたくても口をつぐんでしまうことがあると思いますが,それは普通のことです。しかし,毎回の会議でそうしていることに気づいたら,そのときは 『よし,私はどの会話にも加わっていなのでここで何が起こっているのか見てみよう』と考えるべきでしょう」とPhillips氏は付け加える。

 「口をつぐむのはごく普通のことですし,今は口を挟むべきではないかもしれません。しかし,すべての会議でそのように考えることはできません。会社や会議に参加している人たちは,あなたの声を聞く機会を失っているのです。そのときこそ,『これは恥ずかしさの問題なのか,それとも自分の居場所がないから発言するのが怖いだけなのか,誰かに相談してみよう』と考えるべきなのです」

 Phillips氏は,個人的な問題として,また経営上の問題として,詐欺師症候群に立ち向かうためのヒントやアドバイスを紹介した。



採用プロセスから詐欺師症候群を排除する


 もしあなたが役員や他の従業員を管理する立場にあるならば,詐欺師症候群が花開く前に,その芽を摘む必要がある。そのためには,まず採用活動の方法を変える必要がある。

 詐欺師症候群は,応募の際に見る職務要件から始まることがある。「求人票を見ると,男性は『10個のうち2個は合格しているから,私はこの仕事に完全に適任だ』と言うでしょう」とPhillips氏は説明する。「一方,女性には完璧でなければならないという欲求があります。「私は10個の条件をすべて満たしていないので,資格が足りないから応募しないほうがいいかもしれない」と考え始めるのです。このようなダイナミズムは,キャリアを重ねるごとに大きくなっていきます」

Zyngaの最高法務責任者,Phuong Phillips氏
【ACADEMY】詐欺師症候群に対処する
 というのも,採用段階で詐欺師症候群を感じた候補者は,入社して仕事に就いてからもずっと偽者症候群を感じ続ける可能性が高いからだ。疑念が本当の意味で消えることはない。

 求人情報の中で選ぶ言葉は,詐欺師症候群の人が応募するのを思い留まらせるのに十分だ。Zyngaでは,求人広告のスペックを性別に関係なく表示するソフトウェアを使用している。かなり有名なものとしては,たとえばKat Matfield氏のGender Decoderがある(参考URL)。

 「ゲーム業界での経験を持ちの方」と求人欄に記載するのは簡単ですが,実際にはゲーム業界にはそれほど多くの女性がいないため,応募者が最初にそれを目にするだけで多くの応募者がブロックされてしまうでしょう。そこで我々は,求人票に目を通し,それが性別や人種に関係なく書かれているかどうかを確認するソフトウェアを開発しました」

 「このアイデアは,誰と面接するかという点で,ネットワークを広げるということです。私の場合は,元顧問弁護士か,少なくとも元上場企業の顧問弁護士としての経験があり,ゲーム業界での経験があることが条件の求人に応募していました。私はどちらも持っていなかったので,通常であれば私には資格がないと言われたでしょう。しかし,リクルーターは『いいえ,我々は本当にあなたにきてほしいのです』言ったのです。その結果,私はジンガで仕事を得ることができたのです」



スタッフに力を与える


●全員の声を反映させる
 ゲームの開発では,スタッフが意見を述べるための会議や場面が非常によくある。ゲーム開発はチームで行うものだからだ。

 しかし,このような場面では,詐欺師症候群が発生しやすくなる。なぜなら,会議で発言することは,自分の弱みを見せたり,批判されるように感じられるからだ。詐欺師であることがバレるのではないか,その秘密を部屋中にばらされるのではないか,という恐怖が常にあると考えてほしい。

自分の声が部屋で歓迎されていないと感じて,詐欺師症候群になることがよくあります

 マネージャーの役割は,スタッフがそのような気持ちにならないようにし,自分の声が尊重され,聞く価値のあるものであることを再確認させることだ。

 「自分の声が部屋で歓迎されていると感じられないために,詐欺師症候群になることがよくあります」とPhillips氏は語る。「マネージャーとして,誰かが黙っているのを感じたら,会議の前に声をかけてみましょう ―恥ずかしがっているのではなく,発言するのが怖いのです。こう言ってみてください。『このセッションにぜひ参加してほしいのですが,あなたはこのセッションに最適なのであなたの意見を聞かせていただけませんか?」と」

 「『私はあなたをサポートします。私はあなたをサポートするためにここにいて,あなたは素晴らしい人です』と言ってもらうことが,自信を高めるためにマネージャーがすべきことなのです。上司のサポートがあれば,詐欺師症候群は徐々に解消されていきます」

●社員グループやメンターシッププログラムのためのスペースを作る
 従業員主導のグループは,自分が会社の一員であると感じるための貴重なツールであり,長期的には詐欺師症候群を和らげるのに役立つ。また,これらのグループとメンターシッププログラムを組み合わせることで,10倍の効果が期待できる。

 Phillips氏はWomen at Zyngaグループのエグゼクティブチェアを務めており,そこにはいくつかのメンターシッププログラムも含まれている。

 「我々は,先輩女性と後輩女性をペアにして,中堅女性にはメンティーとメンターの両方を務める機会を与えています」と彼女は説明した。「もう1つのプログラムでは,キャリアの頂点にいる女性を対象とした16週間のエグゼクティブ・コーチング・セッションを提供しています。我々が発見したのは,多くの場合,昇進を妨げるのはコミュニケーションだということです。どうやって人とコミュニケーションをとっているのか,あるいはどうやって人とコミュニケーションをとっていないのかが問題です」

 「そこで我々は,各セメスターに約10人の女性に16週間のプログラムを提供しています。そこでは,実際にエグゼクティブ・コーチとペアを組み,昇進するために取り組むべきことを指導しています」

昨年,Women at Zyngaでは,Julian Guthrieの著書「Alpha Girls」にインスパイアされたパネルを開催した
【ACADEMY】詐欺師症候群に対処する

●優しさの文化を浸透させる
 最後に,マネージャーとして,優しさの力を過小評価してはいけない。また,従業員が良い仕事をしているときには,それを伝える必要がある。

 Phillips氏は,管理職は間違ったことを指摘することはあっても,よくやったことを褒めることはほとんどないと語る。

 「私はいつも上司に注意を促しているのですが,ただ素敵なメモを送るだけのことでも最近では滅多にありません」とPhillips氏は語る。「私が発見したのは,あなたがそうし始めると,それが一般的な文化となり,他の人もそうするようになるということです」

 「私は,ビジネスユニットから『リーガルチームのこの人が大活躍しているので,あなたに知っておいてほしい』という素晴らしいメールが届くので,とても誇りに思っています。これは,我々が会社で作ろうとしている文化であり,あなたの友人の間でも同じです。ちょっとしたメモでも,『今日はあなたのおかげで本当に助かった』と伝えてください。安っぽく聞こえるかもしれませんが,実際に効果があります」



詐欺師症候群に悩む人へのアドバイス


●自信をつけるためにサポートネットワークに頼る
 詐欺師症候群は,最もシンプルで最も複雑な解決策を持っている。それは,自信をつけることだ。

 しかし,「言うは易し,行うは難し」なので,私生活でも職場でも,「自分は本当に価値のある有能な人間だ」という確信を得るためには,味方が必要になる。キャリアを成功させるためには,適切なサポートネットワークを持つことが重要なのだ。

実際のところ,「自分が持っているもので,他の人が持っていないものは何か」と考えてみると,それは非常に長いリストになります

 「肯定することは,我々が前に進むためにとても重要です」とPhillips氏は語る。「信頼できるネットワークや友人グループとの緊密なつながりを持ち,『私は詐欺師症候群ではないか,絶対におかしいのではないか』と問いかけることだ。と問いかけるのです。そして,完全に透明性のある正直な友人たちに,そのことについて話してもらいましょう」

 「もう1つは,誰にでも自分の専門性があり,自分の得意分野があることを思い出すことです。私がこの仕事に適しているのには理由があります。私はXYZではないかもしれませんが,私には私の特性があり,それを生かすことができます。ポジティブなことに焦点を当てなければなりません。我々にとってそれが難しいことであることは分かっていますが,実際のところ,もしあなたがじっくりと腰を据えて,『他の人にはできない,私の持ち味は何だろう?』と考えたなら,そのリストは実際には非常に長いものになるでしょう。自分がサポートを必要としていると感じている場所に応じて,四半期ごと,あるいは年に一度,その確認を行うようにする必要があります。他の人が持っていないスキルセットを自分が持っていると信じることで,何とか自分の中に自信を持たせなければならないのです」

●自分の成果を定期的に確認する
 自分のスキルを定期的に見直すだけでなく,自分の勝利を見直すことも必要だ。詐欺師症候群を患っていると,自分が達成したことを誰かのおかげと思ってしまうことが多く,自分の成果をはっきりと確認することができない傾向にある。しかし,Phillips氏はそれを解決する方法を知っている。

 「月に一度,履歴書を更新してください。転職のためではありません。その月に自分がやったことを思い出すためです。年に一度の人事査定までには,その月に行ったすべてのことがリストアップされていて,箇条書きになっているのを見るのはとても楽しいものです。上司に自分の成果を説明する際にも非常に役立ちます」

履歴書を更新してください。転職するためではなく,その月にやったことをすべて思い出すために

 これは,氏がZyngaで指導している女性たちに勧めているエクササイズで,彼女たちのほとんどが,このエクササイズが自分にとって非常に良い変化だったと言って戻ってくるそうだ。

 「彼女たちは以前,『私は何もしていない』と思い込んでいました。しかし,月次ベースでこれを行うと,自分が会社でどれだけのことを成し遂げたのか,また,従業員として,リーダーとして,あるいは自分が目指しているものが何であれ,自分がもたらしたものに気づくことができるのです」

 「興味深いのは,自分がやっていることすべてには気づかないということです。また,それは必ずしも仕事に関連したものである必要はありません。プライベートなことでも,履歴書に書き加えたいことがあるかもしれません」

 詐欺師症候群がなくなることはあるのかと聞かれると,Phillips氏は即座にこう答えた。「絶対にありません」

 「なくならないと思いますよ」と氏は笑う。「今の自分の状況を考えると,座っているだけで『私はここで何をしているのだろう』と思うことがあります。ゲーム業界のことは何も知らないのに,ここでアドバイスをしているのです。しかし,一歩下がって考えてみると,彼らは私を信頼し,私が法律を知っていることを信頼しているのだと気がつきました。他の人ほどゲーム用語を知らないかもしれませんが,弁護士ではない人にも自分の考えを明確に説明できます。これは私にとって,とても誇りに思えるスキルです」

 「私はいつもそれを取り戻します。私は難民の移民でした。難しい言葉を使うつもりはありません。私はただ説明するだけで,あなたがそれを理解してくれれば,我々は同じページを見ていることになります。常に自分を高めようとしているので,それがなくなるとは思えません。詐欺師症候群の一部を私は良い方向に解釈しています。それは,私を謙虚にし,好奇心を持ち続けさせ,学び続けることができるからです。リーダーとしての自分,弁護士としての自分,経営者としての自分を向上させるためには,他に何を学べばいいのでしょうか? 詐欺師症候群はネガティブなイメージがありますが,ときにはポジティブなイメージもあるのです。常に上を目指すことができますから」

 「疲れますよ。しかし,それは人間の本質の一部だと思います。成功したいと思っている人は,もっと上に行かなければならないと常に思っているのです。詐欺師症候群で重要なのは,自分がそれにかかっていることを認識することと,他の人がそれにかかっていることを認識することです。このような状況にあるのは自分だけではないと気づくことができれば,自分自身についてより良く感じることができるでしょう」

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