【ACADEMY】武器の性能が環境デザインやプレイヤーの動きに与える影響とは

Hood: Outlaws & LegendsのリードゲームデザイナーであるJamie Smith氏は,武器の仕組みが他の分野にどのような影響を与えるかを探求している。

 Hood: Outlaws & Legendsは,PaydayとGame of Thronesを組み合わせたような中世風の世界観を持つ,3人称視点のマルチプレイヤー強盗ゲームだ。5月10日に発売されるこのゲームでは,2つのチームが互いに対戦し,重厚な要塞となっている国家警備隊の建物の中にある富を盗み出すレースを繰り広げる。

 この記事では,4種のプレイアブルキャラクタークラスのうち,ロビン・フッドの伝説をよりダークに表現したような「レンジャー」に焦点を当て(参考URL),このキャラクターとその特徴であるロングボウのデザインが,どのようにして環境デザインと結びつき,ゲームの世界とそこに住む人々が直面する問題を克服するのに役立ったのかを紹介する。


競争への潜入


 弓矢を使った3人称視点のゲームで成功したものはたくさんある。Tomb Raider,Horizon Zero Dawn,The Last of Usなどだ。Hood: Outlaws and Legendsでは,操作性,フレーミング,トランジションなど,これらのタイトルが築いてきた強固な基礎を活用することが,もともとのアプローチだった。

弓矢を使った三人称視点のゲームで成功しているものはたくさんある。これらのタイトルが持つ基本的な機能を活用することが,もともとのアプローチだった

 しかしながら協力プレイや対戦マルチプレイでは,レンジャーは長距離を正確に射抜くスナイパーのような存在だ。ここで,我々の意図は当初の影響とは異なるものになっていった。

 一匹狼で長距離を得意とすることは,レンジャーのゲームプレイの中核を成すものだが,そのプレイスタイルには以下のような側面も考慮したいと考えた。

  • 1. ユーティリティ - グラップルポイント(※足場。登れる場所)からロープを垂らして新しいルートを確保したり,高い位置から敵のターゲットにタグを付けて状況認識を共有し,待ち伏せをすることで,チームメイトとの相乗効果が期待できる。これに加えて,攻撃と防御の両方のパワーポジションから援護射撃を行う。

  • 2. 満足感 - すべての矢は,Barrett .50口径ライフルの衝撃で着弾するような力強さを感じるべきだ。また,敵チームの逃走を防ぐための最後の手段として,プレイヤーがHail Mary(※超長距離射撃:バスケなどでの終了直前の大遠投のこと)を行う機会もあるはずだ。ストリーマーのハイライト映像に出てきてもおかしくないような技の数々だ。

  • 3. フロー - 障害物がないかのように移動し,勢いを維持し,プレイヤーの意図が妨げられないようにすることで,世界を楽に移動できる。最終的には,インタラクションや環境に邪魔されることなく,シームレスにアクションを実行できるようにする。

 以上のことから,我々は環境をどのように横断し,どのようにインタラクションするかを考えた。


環境への配慮


 Hoodの最初のプロトタイプは,Unreal Engine 4 で,さまざまなマーケットプレイスのパッケージを使用して,キャラクターやゲームの世界観を具体化することから始まった。まず大規模なマップを作成し,各チームが障害を克服するための仕組みを環境に導入したあと,チームをまとめる共通の目標を設定して,対立を促すことを考えた。

 たとえば,先に進むのに特定のキャラクターでなければ開けられない扉や,隠された宝箱の鍵の場所探し,戦略的なリスポーンのための捕獲ポイントの確保などだ。このプロトタイプマップは,のちにCitadelの基礎となり,強力な敵対的存在を収容する高密度のコンクリート要塞となった。

初期のホワイトボックスでは,環境のスケールとゲームのコアとなるメカニズムが定義された
【ACADEMY】武器の性能が環境デザインやプレイヤーの動きに与える影響とは

 レンジャーの役割は,環境を偵察してターゲットを特定し,それを殺害して敵の抵抗を制圧することであり,これらの側面の多くに苦労した。アートの観点からは,宝物を収める要塞のような構造物を作ることが意図されていた。これは物理的にも堂々とした大きさで,ワールドのほとんどの位置から見ることができる。

 しかし,高低差のある場所では,どのようにして素早く高所に移動するのか,どの高さから落ちると危険なのか,どの程度まで上から(あるいは下から)ターゲットを撃つことができるのかなど,ゲームプレイ上の課題が出ていた。これにより,レンジャーが周囲の状況を把握する必要性がさらに高まることになる。レンジャーの動きをさらに多様化させたいという欲求はあるものの,まだその鍵となる要素が明らかにならなかったのだ。

標高の変化に伴い,高い場所に素早く移動する方法について多くの問題が生じた

 ゲーム内には,プレイアブルキャラクターとノンプレイアブルキャラクターの両方が使用できる梯子があったが,中には使用するのに時間がかかり,ゲーム上の利点があまりないものもあった。ここで閃いたのだ。次のような目的のために,別のタイプの梯子を作ったらどうだろうかと。

  • デフォルトでは展開されていないが,投擲物によって起動できる
  • 一度起動すると,すべてのプレイアブルキャラクターが使用できるが,AIガードは使用できない
  • 登るよりも降りるほうが速い
  • 戦術的な利点や近道が得られる場所に設置される
  • 近くの周辺にいる敵AIの存在を最小限に抑える

 その後まもなく,グラップルポイントの最初のバージョンが誕生した。当初は緑の箱をモチーフにしたシンプルなものだったが,すぐに遠隔プレイヤーが別のルートに目を配ることが当たり前になった。これにより,敵陣の背後に回り込むことが可能となり,またロングボウを使ってチームメイトのための道を作ることができるようになった。

初期のプロトタイプで,グラップルのメカニズムが定義されていたが,ほとんど変更されていない
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 このデザインは,鳥の箱を撃つと種がこぼれるようなものだと説明していたが,のちに,突出した梁にロープを巻き付け,衝撃で落下させるデザインに改良された。Jack Sparrow式の発射ロープや,Arkhamシリーズのようにあらゆる高さの場所に掴まれるような機能も検討したが,最終的にはデザインのコントロールと環境への持続性を優先して,これらは中止した。

 ほかにも,ロープを矢として使用したり,展開したグラップルを格納したりするプロトタイプがあったが,同様の結果になった。しかし最終的には,レンジャーが要塞の中でも外でもチームのアプローチに影響を与える,より戦略的な役割を持つようになったことに満足している。現在ではレンジャーは同様なことを,敵を殺すための直感的なメカニズムを使用して行うことができるようになったが,これには導入で教えるのが簡単だという利点もあった。

ロープで巻かれたグラップルポイントは壁から突き出ており,視認性が向上している
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満足のいくサイトライン


 さて,シューティングの基本的な仕組みが決まったところで,問題となるのがサイトライン(見通し)とマップの多様性だ。これは,プレイヤーのスキルとドローディスタンスに応じて達成可能な最長距離を決定して,レンジャーがどのくらいの距離から射ることができるかという意味と,そしてパワーポジション(Hail Maryを決めるのに適した高度のある地形)の数という両方の意味を持っている。

敵のAI兵士は,人口密度の増加に伴い,ゲームプレイのリソースを削減するために存在しないようにフェードアウトされた

 レンジャーのニーズに合わせて,長い見通しとオープンスペースを備えたマップもあれば,曲がりくねった通路や視界の悪い制限の多いマップもある。

 有効射程距離の設定は非常に簡単だった。プロトタイプ段階でのプレイテストで,50メートル以上の距離ではプレイヤーがターゲットを誘導して,重力を補正する必要があるため難しいながらも,満足のいくショットになることが分かった。そこで,レンジャーの最適な到達距離は70mであると決定した。この距離であれば,高いスキルを持つプレイヤーがストリームで真の感動を演出できる。

 これは技術的な面でも参考になった。人口密度が高くなったため,敵のAI兵士は,ゲームプレイのリソースを削減するために存在しないようにフェードアウトされている。一方,プレイヤーのキャラクターは,見渡す限りに描かれているが,視覚的にも技術的にもその存在感は薄いものとなっている。

レンジャーのパワーポジションとなるオープンスペースの長い見通し
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 同じく70mという指標をもとに,各マップのスナイパーポジションをプロットしていった。露出して目立つ場所もあれば(レンジャーには明らかな弱点となる),嫌がらせにつながるような隠密な場所もあった。

 我々はプレイヤーのスキルを低下させたり,クラッチセーブ(※ホッケーなどで使われる神セーブのこと)の可能性を制限したりすることは望んでいなかったが,試合が膠着状態になったり,キャンプを募ったりする可能性があったため,早めに対処したいと考えた。この問題に対処するため,以下のようなさまざまなアプローチを取った。

懐かしきランボーにヒントを得て,レンジャーの能力を,着弾後すぐに爆発する空気の矢に変更した - 霧のポケットや暗闇でターゲットを認識するのが難しいなど,環境の可視性を調整した

  • 木箱や木などの障害物があると,目的地の一部しか見ることができない
  • 旗やボートなどの動的に動く小道具は判定時間を短くした
  • 意図的に見張り台から離れた場所に置かれた弾薬は,攻撃者の再配置を促し,防衛者に休息の時間を提供する
  • 敵が見えていても照準のレティクルが常に白いままであること(一部のゲームでは赤に変わる),茂みがターゲットを隠すのに役立つことから,射撃キャラクターの観察力を高める組み合わせとなっている
  • ハンタークラスのMarianneには,露出した部分を一時的に煙で覆うことができる投擲可能なギアアイテムを導入する

 上記に加えて,手すりの端を面取りすることで射撃時の快適性を向上させ,これまで主要な場所に頼っていたのを,より多くのマップを探索し,そこから射撃できるようにした。また,プレイヤーが弓を下ろす前にジオメトリに近づける距離を増やした。状況によってはクリッピングが発生することもあるが,ゲームプレイの必要性を考慮すると,これはより大きなメリットと考えられる。この変更を行う前は,ゲーム全体で壁が角ばっていたためターゲットするのが難しく,プレイヤーの照準が強引に制限されることがあった。

欄干の全面を面取りすることで,照準を合わせやすくした
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 また,他の対戦ゲームでもよく見られる問題として,「ピーキング」と呼ばれる角の周辺での射撃がある(※トリガーの瞬間だけ頭を出してすぐに引っ込めること)。これを使うと,プレイヤーが自分の姿を見られずにほかのプレイヤーを射つことができる。

 この問題を解決するために,ターゲットとその武器の両方が障害物のない位置に並ぶようにしなければ矢が障害物に当たるようにした。

赤色のインジケータは,ターゲットへの視線が遮られていることを示す
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 最後に,プロトタイプで初期に見られた動作として,「ミートシールド」がある。これは,敵のプレイヤーが,目標の運搬人をターゲットに打たれた矢をブロックしてしまうという,苛立たしくも意図しない防御戦術だ。視界が開けていても,レンジプレイヤーのスキルを無効にしてしまい,本来の目的である,満足のいく最後の一撃のアイデアを強化することができなかった。

 そこで,懐かしきJohn Ramboにヒントを得て,レンジャーの能力(当初はDishonoredのBlinkに似たテレポートダッシュ)を修正し,着弾後すぐに爆発して範囲内の人に大きなダメージを与える空気の矢とした。これはミートシールドが導入された直後から,ディフェンス側のプレイヤーにとって非常に危険なオプションとなった。なぜならば,近づきすぎるとチームメイトを殺す生きた起爆装置になってしまうからだ。


流れを維持する


 レンジャーで成功するためには,ポジションの優位性が鍵となるが,危険を逃れたり,ステルスで紛れ込んだり,弾薬を補充したりすることが優先されるときがある。Hood: Outlaws & Legendsの世界には,摩擦を最小限に抑えることを究極の目的とした,これらの行動を促すゲームプレイの要素が詰まっており,レンジャーは品質ベンチマークのテストケースとなった。

Rainbow Six Vegasのファストロープにヒントを得て,移動中にプレイヤーの勢いを維持することを考えた

 グラップルポイントは,各城からの直接の脱出ルートとなっており,プレイヤーはグラップルポイントにつかまって,シームレスな動きで下降できる。Rainbow Six Vegasのファストロープにヒントを得て,移動中,プレイヤーの勢いを維持しつつ,プレイヤーからコントロールを奪うような違和感のない方法で行うことを考えた。

 ブッシュは,世界各地に点在するステルス材料で,しゃがんだ状態のプレイヤーの動きを隠すことができる。しかし,ロングボウの場合はとくに解決すべき問題があった。それは,密集した葉がレンジャーの視線を遮ってしまうことだ。これは,ゲームの流れである「位置取り,調査,射撃」に影響する。

 他のゲームでは,キャラクターのしゃがみ状態を上げたり,カメラを垂直に調整したりすることが多いのだが,競技性を考慮して,代わりに技術的なアートソリューションを選んだ。これは,茂みのエッジをディザリングし,透明度を調整することで,プレイヤーのフォーカスポイントへの影響を軽減するものだ。

近くの葉をフェードアウトさせることで,照準の妨げにならないようにしている
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 ワールドには壁やフェンスなどの障害物が多数あり,それらを乗り越えたり,登ったりできる。その間,プレイヤーはもちろん無防備になるが,スピード感を維持できるかどうかが,数撃ちゃ当たるゲームの生死を分けることになる。とくに,岩のような小さくて目立たないオブジェクトの場合はそうなる。その多くは,膝の高さに満たないものでプレイヤーが引っかかると画面外に切り取られてしまうので,単純にコリジョンを無効にした。

マップ上に散らばっている弾薬箱は,プレイヤーの体験を妨げる不便なインタラクションとなった

 弾薬の管理はレンジャーのプレイスタイルに関連するスキルの1つだが,開発初期の段階では,マップ上に散在する弾薬箱がプレイヤーの体験を妨げる不便なインタラクションとなっていた。

 木箱の近くで補給を押さなければならないということは,チームがお宝を盗むのを手伝うという中心的な目的から注意をそらすだけでなく,プレイヤーに不必要なピットストップを促すことになる。これは事実上,弾薬不足のイライラに拍車をかける二重の罰となった。

 簡単な調整で,弾薬箱は滑走中にプレイヤーのインベントリに自動的に収集されるようになった。また,弾薬箱の位置を監査し,グラップルポイントや共通のルートの近くに配置するようにした。最後の仕上げとして,プレイヤーのインベントリが少なくなったときに,弾薬箱の輪郭を強調して視認性を高めた。これらの変更の直後,弾薬箱は回転ドアのように,目的地に向かう途中のありがたい便利なものになった。

弾薬箱は人の往来が多い場所に置かれることが多い
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開発の浸透


 ロビン・フッドのようなキャラクターに命を吹き込む機会を得られたことは,我々にとって誇りであり,特権的なことだった。競争上の制約やテーマ上の制約と,ゲーム上の意図が重なると,考えなければならないことがたくさん出てきた。ゲームの世界は,チームメイトにユーティリティのオプションを提供したり,窮地を脱するための満足のいく機会を提供したり,シームレスな移動を可能にすることで,これらの行動を補完した。

 我々は,自分たちの弓矢のメカニクスが業界のエリートと肩を並べることを常に望んでおり,控えめなチームサイズにもかかわらず,確かに自分たちを誇りに思っている。あとは観客の皆さんからの評価を楽しみにしている。


Jamie Smith氏は,Sumo Newcastleのリードゲームデザイナーだ。UbisoftとElectronic Artsに長く勤務し,主にTom Clancy's The DivisionとFIFAフランチャイズのデザイナーとして活躍していた。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら