外山圭一郎:連載「50歳からのゲーム会社の作り方」第1回


 2020年12月3日,「SILENT HILL」や「SIREN」,「GRAVITY DAZE」といったヒット作のディレクションを手がけてきたクリエイターの外山圭一郎氏が,ソニー・インタラクティブエンタテインメントを離れ,新会社「Bokeh Game Studio」を設立したという発表が行われた。これまで大手ゲーム会社に所属していた外山氏が,どうやって会社を設立したのか,また,そこにはどんな思いがあったのかなどを語っていく。

・2020年春:胎動

「横浜港沖に停泊中のクルーズ船において,約10人の新型コロナウイルスの感染が確認され……」

 どこか対岸の火事のような気持ちであった新型コロナが,じりじりと身近な不安として迫っていた。楽しみにしていた台湾旅行もキャンセルした。SIEのオフィスでは,コロナ対策としてまず座席レイアウトの変更が行われた。品川に越して以来10年変わらず過ごした席からの移動で,なかなか違和感が拭えない……。

 このコラムを書いている今現在は2021年。設立したBokeh Game Studioがいよいよ本格始動し,二度目の緊急事態宣言下での窮屈さはありながらも,手応えを感じる日々を送っている。その僅か1年ほど前,激動の2020年の始まりは,まったく想像し得なかった閉塞感でいっぱいであった。

外山圭一郎:連載「50歳からのゲーム会社の作り方」第1回

一人ポツンとどうしていいか分からず途方に暮れる。そんな将来は容易に想像できた


 そもそもは避けようのない年齢的な課題である。遂に50歳を迎えたわけだが,同じ時代を過ごしたクリエイターの知人,友人たちは独立,もしくは大手メーカーで要職に就く人が相次いだ。
 自身を鑑みると,これは個人的にはありがたいことではあるのだが,管理職とは無縁の,生粋の企画原案&ディレクター一筋。しかし会社員であるからには,あと10年も経てば定年退職となる。花束と拍手で送り出され……そして一人ポツンとどうしていいか分からず途方に暮れる。そんな将来は容易に想像できた。

 さらにSCEから,本社を米国に移したSIEへと変わって以降,組織的に大きな変化が続き,そこに新型コロナの混乱も拍車をかける。目まぐるしく状況が変わっていく中で「自身にも大きな変化が必要」という焦燥感は一層大きくなっていた。

 そして先んじて独立を果たした友人,知人たちからのアドバイス。曰く,
「新興のサブスクリプションプラットホームが活発化し,コンテンツ制作者の選択肢が広がっている。」
「クリエイティブ支援の投資ファンドなども立ち上がっている。IPを自身で維持する事も現実的に。」
 等々を受け,遂に足を踏み出す決心がついた。

「新興のサブスクリプションプラットホームが活発化し,コンテンツ制作者の選択肢が広がっている」等々を受け,遂に足を踏み出す決心がついた

 職場以外への外出もまばらになったある朝,久しぶりの渋谷で2名の同僚と待ち合わせた。大倉純也佐藤一信。同じように変化の志を持ち,後にBokehの起業メンバーとなる2人であるが,この時はまだ各々具体的に動向を決めているわけではなく,まず知見を広げよう,という趣旨で集まっていた。

 最初の一歩は,比較的最近「何かの際にはぜひ!」とご挨拶を交わさせていただいた「asobu」さんへの訪問。インディクリエイター支援のために情報やワークスペースなどの提供を行っているコミュニティで,ほんの数か月前に立ち上がったばかりである。
長年組織的に充実した大きな会社に所属して,現場以外は本当に右も左も……という我々の「独立するとしたら何が必要でしょうか」という身も蓋もない質問に,一から丁寧にレクチャーをいただいた。

 一般的には,プロトタイプが既にある状態で話を始めるケースが多いという。我々の場合ゼロの状態からのスタートとなるので,まずはプロトタイプ,せめてイメージ映像を制作するための資金調達が最大の課題である。もちろんそんな貯金はない……。
 企画書のみ,いわゆる紙ベースでの企画提案だけでは昨今厳しいのは間違いないが,我々の場合はある程度知名度,実績があるということで,話に乗ってくれるところもあるのではないか,という見解をいただいた。

 そして,資金調達の基本として「エクイティ(株式資本)」と「プロジェクトファイナンス」(これらの詳細については,次回以降の回で詳しく書きたいと思います)。
比較的ハードルが低い「プロジェクトファイナンス」を模索する道が,我々には合うのではないかとのこと。当然「プロジェクト,企画」を持っていることが必須要件となり,それはSIEとは無関係でなければいけないが,もちろん今はない……。

取り急ぎ思い付く5〜6程度のコンセプトを,それぞれパワポ1枚にまとめたペラ企画集を作る


 自宅に帰ってあれこれ思案する。スタートの規模感は,当面10名前後が現実的な精一杯,ゲームイメージの映像に加えてコアメカニックのテックデモは何とか確保したいが……。などと考えながらモバイル向けからコンソールを意識したものまでスケーラビリティを意識しつつ,取り急ぎ思い付く5〜6程度のコンセプトを,それぞれパワポ1枚にまとめたペラ企画集を作る。佐藤,大倉両氏に送って意見をもらい,2作に絞ってさらに一段掘り下げていくことにした。

 そうこうしているうちにSIEの制作部署は原則出社禁止の完全テレワーク体制となり,自宅に籠る日々となった。空き時間に黙々と企画書を作り込む。ビジュアル作成の作業も久しぶりで,リハビリは大変だがやはり楽しい。

 家族以外の人に会うことも,外出することもほとんどない静かな日々の反面,ニュースでは,マスクや消毒液の買占め騒動,緊急事態宣言,遂にはオリンピックの延期の報も流れ,混迷は深まるばかり。これからいったいどうなるのであろうか……。


外山 圭一郎(とやま けいいちろう)
Bokeh Game Studio 代表取締役 CEO/Creator。ホラーゲーム「SILENT HILL」のゲームデザイン&シナリオ/ディレクターを務めたのち,SCE(現SIE)に入社。「SIREN」や「SIREN2」など,立て続けに傑作ホラーを世に放つ。また,「GRAVITY DAZE」では2012年度の日本ゲーム大賞で大賞を受賞するなど,名実共に日本を代表するゲームクリエイターとなる。

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※次回の掲載は2021年3月18日頃を予定しています