[CEDEC 2020]次世代に向けたUnreal Engineの動向まとめ

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 CEDEC 2020の2日め,Epic Games Japanによる「Unreal Engine Next-Gen Games」という講演が行われた。これはオンラインで行われたUNREAL FESTで語られていた内容を日本語化したものだ。内容自体はほぼ同じだったので,すでにご存じの方も多いだろうが,ここでUE5の特徴などをまとめておきたい。個人的な英語力の問題もあるのだが,英語版に字幕を付けたり,字幕を自動翻訳したものよりも日本語版のほうがはるかに分かりやすかった。講演はEpic Games Japan篠山範明氏だ。
 なお,今回は省略する講演の後半では,どのようにUE5デモが作成されたのかというアートディレクターの話が和訳して紹介されていた。日本語版も公開されそうな気はするのだが,英語(日本語字幕)版はYouTubeでも視聴可能だ。

 まずはUnreal Engineの現在の状況からだ。次世代ゲーム機に対応するのは現在リリースされている4.25からとなる。4.25では,次世代機の特徴ともなっているSSDの高速性を生かすため,I/O部分が書き直され,全体にロード処理などが高速化されているという。これまで時間のかかっていたシェーダマップ読み込みなどは,読み込み時間がほぼゼロに短縮されたという。同技術を用いたFortniteの場合,ロード時間が1/3に短縮されたとのことだ。正式リリースに向けてさらなる改善が行われるという。
 このあたりについては,Epic Games Japanが日本語での記事を2本準備中とのことなので,公開に期待しよう。

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 Niagaraは正式版が搭載され,デバッグ支援ツールInsghtでは,CPUやGPUの負荷といったもの以外にアニメーション処理や通信の状況なども可視化されるようになった。
 そして「限りなく冬に近い秋」に4.26がリリースされる予定だ。

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 次世代開発環境となるUE5は2021年のリリースが予定されている。

 UE5ではリアルで広大な世界を描写することが目標とされており,それにはどのような技術が必要かが検討されたという。
 グラフィックス面では,すでに話題を呼んでいるNanite(ほとんどの人は「ナナイト」と発音しているが,アートディレクターのJerome Platteaux氏は「ネイナイト」と読んでいた)が筆頭だろう。
 ハイディテールなオブジェクトを作成するときには,ポリゴン削減やノーマルマップ書き出し,UV編集,その際にDCCツールで大きなオブジェクトを扱えないのでオブジェクト分割,そしてLoD作成などが必要だったという。

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 しかし,UE5のデモで使われた武神像では3ds Maxで作成し,Zbrushでスカルプティングしたデータがそのまま読み込まれている。Naniteはそのようなストレージ上にある高解像度データを逐次読み出して(ストリーミングして)レンダリングするシステムだ。LoDデータは作られないという。

1体で3300万ポリゴン,右のシーンでは500体の像が設置されており,それだけで160億ポリゴンのシーンとなる
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 武神像は約3300万ポリゴンのデータだ。これくらい詳細になると,ほぼノーマルマップは必要なくなる。実際にはこの像にもノーマルマップは使用されているのだが,それは,細かな傷などはスカルプティングよりそちらのほうが調整しやすいという理由によるものだ。制作側のやりやすいようにエンジン側が対応しており,それをゲームでそのまま使用できる速度で描画可能となる。UE5デモ自体は30fpsでレンダリングされたものだが,現状でもNanite部分自体は4.5ms程度しかかかっておらず,60fpsにも十分に対応できる性能だ。

 なお,映像は4Kで出力されているものの,レンダリングにはダイナミックレゾリューションが使われており,平均で1400p程度の解像度であるとのことだ(※スライドで表示されているピクセル数を16:9換算すると約1200pになる)。おそらく解像度が落ちてもほとんどの人は気が付いていないだろう。

 Naniteが扱うのは現在のところ,非透過のリジッドボディのみである。実際のゲームシーンのほとんどはそういったもので構成されているので,Naniteが導入されることでのメリットは大きそうだ。ただ,動くオブジェクトの扱いは可能であり,オブジェクトの破壊などにも対応できる。草や木などは既存のシステムを使ったほうがよいとのことだ。
 そういった既存のシステムとNaniteとの混在も可能なので,ベース部分をNaniteで作って,動的なオブジェクトなどを追加していくことになるのだろう。透過オブジェクトについてはNanite側で対応策を考えているとのことだ。

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 ハイディテールデータをそのまま使うにも関わらず,Naniteがこのデモで使用しているストリーミングされるジオメトリデータは768MBと比較的少なめだ。ディスク上の圧縮では,ランタイム時の圧縮以上にアグレッシブな方法が使えるため,現在もEpicで試行錯誤が行われているという。正式リリース時にはさらに小さくできるようになっているのだろう。

 UE5のビジュアルでもう一方の花形であるライティングシステムLumenは,完全に動的なグローバルイルミネーションを実現している。無限のバウンスをサポートし,ライトマップ不要,ベイク不要でほぼリアルタイムに処理が行われる。

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 現在は開発中で30fpsでの動作となっているが,リリース時には60fpsで動作可能なものを目指すという。先に書いたデモが30fpsだというのはNaniteではなくLumen側の性能によるものだということだろう。現状で鏡面反射などは非サポートということなのだが,次世代機だと鏡面反射はおそらくレイトレが主流になるのだろうからあまり問題はなさそうだ。

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 こういったUE5デモのようなクオリティの映像を作るにあたって,問題となってくるのは高品質なアセットの調達だろう。そこで重要な役目を担うのがQuixelのMegascansだ。Epic Gamesに買収されたQuixelの高品質3Dアセット数千種類が無料で使い放題となるのだ。Quixelはでっかいスキャナを持ち込んで世界中で素材データを収集している会社だとかで,岩や木などの自然素材の3Dアセットでは抜群の品質を誇っている。
 提供されるアセットにはゲーム用と映画用の2種類があるのだが,UE5デモでは映画用のアセットを使用しているという。そのクオリティのデータをリアルタイムで動かす力があるということだ。

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 VFXではNiagaraが使われるが,パーティクル間通信などで非常に複雑な動きの制御もできるようになっているという。現在Epic Games JapanではNiagara入門用の動画が準備中であるという。また,

 キャラクターというかデジタルヒューマンでUEは多くの実績を上げているが,アニメーションシステムにさまざまな改良が加えられている。コントロールリグをスクリプトで動かしたりボーンをプロシージャルに制御することもできるという。コントロールリグについては,Epic Games Japan岡田和也氏による解説動画が公開されている。またさらなる詳細についてはChris Murphy氏による動画もお勧めとのことだ。

 とくに注目したいのはストランド(房)ベースのヘアシミュレーションだ。これは4.24で試験的に導入され4.25で改良されているものだが,以下の動画を見ればその自然さが分かるだろう。


 このヘアシミュレーションにも使われているのが,新世代の物理演算システムChaosだ。
 Epicでは,ゲームをもっとインタラクティブなものにしたいということで,破壊シミュレーションなどを派手に打ち出しているが,Chaosは破壊専用の物理エンジンというわけではない。ネットワークゲームで,ちょっとしたタイミングの違いなどから端末間で起こる物理シミュレーションに差異が出ないようなネットワーク対応の物理エンジンを目指して開発が進められているという。従来のPhysXはUE5では廃止される。

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 サウンド関係では,Audio Mixerを使うことでさまざまなプラットフォームで一貫した処理ができる。プラットフォームごとにあった機能の差異をここで吸収しているのだ。

 また,オープンワールド向けの機能がエディタに組み込まれ,水や道路,雲といったものを直接扱えるようになる。多人数での作業にも対応するという。さらにUE5で搭載されるFoundationは,「インスタンス可能なサブレベルのようなもの」だそうで,階層構造を持った「部品」を構成して管理できるものだ。建物や町といった単位で再利用できる。
 そのほか,次世代機で予想されるコンテンツの巨大化に対応すべく,作業工程のあらゆる部分での高速化が進められているとのことだ。

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 気になるUE4からの移行は,「UE4の通常のアップデートでの移行作業よりは大変になるが,その10倍大変ということはない」といったレベルのものだとのこと。基本的にはUE4のプロジェクトを読み込めるので,いつ移行しても大丈夫いうのがEpic側の考えのようだ。
 FortniteはUE5リリース前にUE5版をリリースするという。そこでさまざまな問題を洗い出すわけだ。
 2021年初頭のプレビュー版公開,そして2021年末の正式公開に向けて,UE5は着実に動き出している。次世代エンジンがもたらす制作環境や新たなビジュアルに期待したい。

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