エフェクトデザイナーの登竜門,BISHAMONエフェクトコンテスト結果発表

 2019年3月2日,マッチロック主催による「BISHAMONエフェクトコンテスト」の結果発表&授賞式が都内で行われた。同社名がマッチロックになる前から行われているコンテストだ。残念ながら諸々の事情で毎年開催というわけにはいかず,2018年度は同社10周年という節目に当たるものの開催を見送る予定だったのだとのこと。しかし,主にゲーム専門学校関係からの強い要望があって開催が決まったのだという経緯が,同社代表取締役社長の藤本文彦氏から語られた。学生部門の応募数は過去最多となった半面,一般部門については募集期間が短かったことや休暇時期をはさめなかったこともあって応募数自体は減ってしまったが,例年並みに質の高いものが集まったという。

マッチロック代表取締役社長 藤本文彦氏
 さて,ゲーム用のエフェクトツールというのは,伝統的に大手会社は自社製ツールを使っており,プロジェクトによってはゲームエンジンのものを使う必要があるなど,標準となるものが見えにくい。そんな状況だが,単体ツールで最も有名かつ日本のゲーム業界で使われているのは間違いなくBISHAMONだろう。だが,名前を見たことがある人は多いだろうが,どんなツールか知っている人は実はそう多くないかもしれない。「パーティクルについて高度なことがいろいろできるツール」なんだろうと漠然と思っている人がほとんどではないだろうか。
 軽く説明しておこう。実は,BISHAMON自体は,特段に凄い機能を誇っているわけではない。

 昨今ではゲームエンジンがパーティクルツールに力を入れてきている。UnityのShuriken,Unreal Engine 4のCascadeやNiagaraなど,こちらも名前を聞いたことのある人は多いだろう。
 これらのツールで,単純なパーティクルの指定はプロパティなどで簡単にできるのだが,ちょっと凝ったエフェクトを作り込もうとすると,多少なりともプログラムコードやブループリントが出てきたりするするものだ。コードを書く人にはそのほうが自由度が高くてよいのだろうが,エフェクトデザイナーの多くはアーティスト寄りの,できればコードにはまったく手を触れたくないという人なのだ。
 BISHAMONは最初からそういったアーティスト層をターゲットに作られており,コードのようなものにはまったく手を触れずに複雑なエフェクトが構築できるツールとなっている。これが業界の高評価を得ている秘密だ。

授賞式会場となった中野サンプラザ
 採用企業が多いということで,「BISHAMONを扱える」というのはゲーム企業にとって即戦力候補ともいえる資格に相当する。このようなコンテストの受賞者というのは,一定の箔付けともなっているようだ。一部のゲーム系のスクールでもカリキュラムに採用されており,積極的に応募しているところもある。

 コンテストの概要を紹介しておこう。今年のテーマは「攻撃魔法のアレンジエフェクト」となっており,規模別に大・中。小で初級魔法から全壊な感じまで(?)の3パターン(シチュエーション別で最大6パターン)のオリジナルエフェクトを作成するというものだった。テーマ的には,ビジュアルエフェクトを思いつきやすいものだったのではないだろうか。ゲーム系の学校からは少しガチな課題にしてくれといった要望もあったそうで,エンジン負荷や背景の色などに影響されない,実用的なゲームエフェクトの作成が求められていた。

 そんなコンテストを勝ち抜いたのは以下の7名だ。

●学生部門
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 学生の部で最優秀賞を受賞したのは,久保綾香さんの「氷魔法」だ。募集時期などの季節柄か(?)受賞作品を見てもなぜか氷関係の魔法が目立ったのだが,久保さんの作品は比較的オーソドックスだろうか。小・中・大の3パターンがそれぞれ異なる傾向のエフェクトで構成されていたのが印象的だ。
 ほかには,締め切りとなる11月に合わせて,ハロウィンのカボチャ頭を題材にさまざまなエフェクトを展開した「トリック・オア・トリート」,隕石が降り注ぐメテオが小規模で大規模だと銀河系大爆発というスケールで展開する「Meteor Showers・Grand Meteor・Supernova」,ポップな色調で可愛くまとめられた「Star」が入選した。

●一般部門
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 一般の部で最優秀賞となった「HPいただきます!」は,HPドレインを,サメのようなモンスターが「食う」という表現で実装したエフェクトである。かじられるたびにハートが小さくなるなど,芸の細かいところも評価されていたようだ。
 ほかには,飛び出すツララや砕ける氷塊など氷の質感がウリの「IcicleMeteo」,こちらも氷の表現が評価された「Ice Attack」が入選をしている。

 授賞式では,学生部門と一般部門の優秀賞と最優秀賞,計4人の表彰が行われた。藤本氏よりトロフィーと合わせて副賞が贈られた。

左から藤本文彦氏,あおいろさん,はるみさん,久保綾香さん,tktkさん,高梨 真氏

 授賞式後は軽食と藤本氏や審査員を務めた,まこデザインのクリエイティブアートディレクター高梨 真氏らを交えた歓談が行われたが,ゲームエフェクト業界の状況などについての話に皆興味深げに耳を傾け,質問などを行っていた。
 高梨氏からは,エフェクトデザイナーというのはエンジニアと並んでゲームの最初から最後までずっと関わっていられる職種であることが紹介されていた。BISHAMON以外にUnityのShurikenやUE4のCascadeなど,プロジェクトごとに違ったツールでの作業が求められることもある。どれもできるのが理想だが,必ずしもすべてに精通している必要もないようではあった。
 業界内での需要は非常に高く,食いっぱぐれることはなさそうだった。半面,「エフェクトデザイナーの上位職は何になるのか?」というのは藤本氏も長年の疑問となっているのだそうだ。映像的なイメージ力から演出系への適性は高いが,それがすべてのエフェクトデザイナーが目指すべき道かというと自信がなさそうだった。高梨氏によると普通のアーティストよりはエンジニアに近いとのことで,なにかと溝のできやすい両者の架け橋となるテクニカルアーティストへの道もありそうだとのことだった。タイムラインの扱いに慣れているのでカットシーンなどもエフェクトデザイナー向きの仕事になるそうだ。
 そのほか,「プロシージャルか,手描きか」など興味深い話題もいろいろ飛び出しており,ゲームエフェクト専門集団ならではの濃い時間が展開されていた。

●久保綾香(HAL大阪 ゲームデザイン学科 3年)
 学生部門で最優秀賞を受賞した久保さんはゲーム系の専門学校ハル大阪に通う学生だ。なお「ゲームデザイン」専攻だが,企画的な「ゲームデザイン」ではなく,ゲームでアーティスト系の「デザイン」を学ぶCG系の学科であるそうだ。普通の「CG学科」というのもあるようだが,ゲームの世界観なども含めてデザインを志向する学科のようで,久保さんも世界観などに関わっていきたいと意欲を示していた。
 同校は今回,2人の入選者を出していたので,BISHAMONに力を入れている学校なのだろうと思っていたのだが,通常のカリキュラムではゲームエフェクト自体の授業は設定されておらず,専科という形でBISHAMONを使った講習が行われているのだそうだ。4月からBISHAMONに触り始めて,11月のコンテスト締め切りまで半年ちょっとという経歴だ。
 今回は「ゼルダの伝説 ブレスオブワイルド」や「ドラガリアロスト」といった具体的なゲームで使えるようなエフェクトを作ったそうだ。イメージしていたものの再現度では,4割くらいと少々辛口の自己採点をしていた。応募後もバージョンアップは続けており,現在のものは少しエフェクトが追加されているとのこと。
 大規模魔法は拡大して見せてもらうと,かなり細かく作り込まれており,絶えず動いてキラキラ感を出している。剣が突き刺さったときの重量感などに気をつけたとのことで,剣が刺さったときの微妙な揺れなどにこだわったという。

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●あおいろ(トライデントコンピュータ専門学校 CGスペシャリスト学科 3年)
 あおいろさんはコンテストが始まってからBISHAMONに初めて触ったとのことで,BISHAMON自体の経歴はきわめて浅い。それでも先生に聞いたりで作品を作り出している。
 今回,とくに頑張った部分はカボチャが地面から登場する場面だという。参考にした本には,輪切りにしたオブジェクトを順次出していくような手法が紹介されていたそうなのだが,それでは滑らかな挙動にはならないため,透明度の違うテクスチャを切り替えて実装しているそうだ。そのほか,よく見ると,カボチャの顔も笑ったものと怒ったものの2パターンが使い分けられている。
 大規模魔法の後半では,「シンゴジラの爆発みたいな」イメージで爆発時に一瞬の静寂を挟んで「ドドドッ」といった地鳴りのような音を上げる大爆発を目指したとのこと。そういった効果音がないため分かりにくいところもあるが,制作時は音を意識して演出をしているとのことだった。

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●はるみ
 今回の受賞者の中では唯一,プロのゲームエフェクトを仕事としている人だ。業界への売り込みを狙える学生と違って,プロの場合のモチベーションはなんなのかを聞いてみると,力試しで応募した過去のコンテストで,より質の高いものを作っている人を見て負けたくないという気持ちになったのだそうだ。
 過去の傾向として,ちょっと捻った作品が評価されていると感じていたそうで,今回は魔法の属性の部分を捻って,HPドレイン系にしたという。苦労した部分はと聞くと,審査コメントですべて挙がっているとのことだが(審査員は非常に細かいところまでチェックしている),複数のサメ(?)が噛み付いたときなどの描画プライオリティが,角度によってはおかしくなって,その調整にとくに苦慮したそうだ。テクスチャの使用数を極力減らす,フォルダ名などにも気を使うなど,全体に細かい配慮がうかがえた。
 仕事でBISHAMONを使う機会はそう多くないみたいだったが,ゲームエフェクトの基礎がわかりやすいため,新人がきたらまずBISHAMONを勧めたいと語っていた。

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●tktk
 現時点ではプロのゲーム制作者というわけではなく,業界志望の人だ。ゲームエフェクト全般に興味があるようでいろいろツールを研究中であり,その一環でBISHAMONも使っている感じだろうか。Houdiniなどもいじっているとのことだったので,アーティスト系が大半だった今回の受賞者中ではちょっと特異な存在ともいえるかもしれない。
 BISHAMONは「絵を描ける」ことを半ば前提としているツールなのだが,tktkさんはどちらかというと描けない側の人で,テクスチャはほかのツールで作成してBISHAMON上で利用するといったアプローチを取っていた。今回は,別のツールで表現方法を研究していた「氷」を素材に,魔法表現を行っている。
 今回の課題にあった「白い背景でも黒い背景でも使えること」という部分にはいちばん真摯に取り組んでいた作品だろう。通常合成,加算合成など,合成処理については工夫をしているようだ。ツララを消すときに一瞬黒くなる部分など,まだうまく制御できていないところもあるとのことだが,アセット制作のデキやツールの使いこなしも含めて高レベルでまとめているといえるだろう。

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 一般の部で最優秀賞を獲得したはるみさんが,ちょっと捻ったモノが評価されているという印象を語っていたが,選考する側ゲームエフェクトのプロなので,おそらくビカビカ・バリバリは見飽きているだろう。課題に対しての発想力や表現の幅が問われているように感じた。同時に,細かい部分までチェックされており,丁寧な仕事はちゃんと評価されている。はるみさんも,以前のコンテストでフォルダ名を分かりやすくしている人が評価されていたので,同じように心がけたという。次回コンテストを目指す人は,ぜひ参考にしてみよう。

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