産学一体でこそできることとは? 第2回VR研究会レポート

産学一体でこそできることとは? 第2回VR研究会レポート
 2019年1月23日,都内で第2回VR研究会が開催された。
 第1回のレポートでも触れているように,このイベントはゲームを中心としたものではない。しかし,日本国内におけるVR産業の総合的な進展を目指したものであり,その動向を伝える意味で取り上げてみたい。

 会の冒頭で,デルジャパン最高技術責任者を務める黒田晴彦氏は,VRが発展途上であることを挙げ,だからこそ可能性に満ちていると語り,その将来性に大きな期待をかけていた。そしてこれから立ち上がるVRを,いい意味でジャパンプレミアムな産業に育て上げることを目標にこの研究会が開催されるようになったわけだ。
 しかし,新しい産業であるからこそ,ビジネスにつなげることは難しい。その「0から1」を作る作業には「好奇心」が重要だとして,最も好奇心に満ちた場所,すなわち学術会の協力が必須だと判断し,第1回と第2回の研究会ではVR学会に基調講演を依頼している。VR研究の最先端ではなにが行われているのかを持ち帰って,ビジネスにつなげてほしいと語っていた。
 0から1に立ち上がったビジネスを1から10にしていくのは産業界の仕事だとしつつも,単独の会社だけではなしうるものではない。このイベントはデルの主催によるものだが,産学共同のVR展開を進めていることは1社では不可能だということで,デルの名前は出さずに広く産業界・学術界の参加を募っている。

研究会への賛同企業も増えている
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日本でのVR研究の現状は


 ということで,最初の講演を行ったのは東京大学の青山一真氏だ。氏は,電気刺激で加速度などの感覚を作り出す人として知られている。ゲーム関連のイベントでもいくつか講演しているので,研究内容を目にしたことのある人もいるかもしれない。

 青山氏については,大阪大学時代の研究での記事もいくつか掲載されたことがあるのでそちらを紹介しておこう。

GCC'17レポート:頭部への電気刺激で重力,そして視覚や味覚まで「本当に感じる」VRの世界へ

[CEDEC]味や満腹感,さらには重力も自在に作り出せる? アカデミックな人たちが研究する視覚だけじゃないVRの最前線


加速度などを司る前庭部に刺激を送るゲームデバイスも開発されている
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 今回の氏の発表のうち,自身の研究に関する部分は,内容的には以前のものとほとんど差はない。講演時間の関係で,むしろGCCの記事のほうが詳しいくらいだろう。ただ,視覚のあたりでそちらに出てない情報があったので,そこだけ補足しておこう。
 さて,感覚器が集まる顔を中心に電気を流していると,ときどき光るものが見えることがあるという。従来は被験者に怖がられるので,それがなるべく出ないように調整していたそうなのだが,逆に積極的に視神経に干渉して表示デバイスを作れないかという研究も行われている。アップデート情報としては,現在,「V」や「T」といった文字型の図形を表示することに成功しているという。まだまだ道は遠いが,将来的にはこれを使った超軽量なHMDが登場することもあるのかもしれない。

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 さて,話の本題となるのは,氏が所属する東京大学のバーチャルリアリティ教育研究センター(VRセンター)についてだ。これはVRにおける日本の主導的立場を維持するために,研究開発や活用の主体となる組織が不可欠であるとのことで東京大学に設置されたものだ。

 VR学会がある国は日本とフランスの2か国だけだそうで,VR研究における日本の位置づけはかなり先進的なものとなっているという。昨今ではVR研究は各国も力を入れてきており,現状の優位性を保ったまま推進するため,今後の産業でも重要になると目されているVRでの研究拠点が作られたわけだ。

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 「教育」研究センターとあるのは,研究施設というだけでなく,教育分野を中心に,その成果を活用することを目指すことを示している。VRの基礎研究と主に教育分野での応用を模索する組織であるわけだ。

 東京大学では元々数多くのVR研究が行われており,参加する教授陣の専門分野を見ても,創造情報学,知能機械情報学,基礎文化研究,機械工学,精密工学,公共健康医学,人間環境学,学際情報学,身体情報学と実に多彩だ。「FutureのFrontierをFusionで創出する」と掲げているように,多くの学科で行われていた研究を融合させることで新たな発展を導いていくのだろう。
 ちなみに,教授陣以外で専任研究員(専任助教)は現在のところ青山氏のみとのことだが,これは候補者が多すぎて選ぶのに時間がかかっているためとのこと。そのうち国内のVR研究の総本山的な位置づけの組織になりそうだ。

 VRセンターではプロジェクト制が敷かれており,現在0,1,2の3種類のプロジェクトが走っているとのこと。

=プロジェクト0:VR教育系
 体感型教育,遠隔授業など
  • プロジェクト1:VR基礎研究
  •  VRの各種基礎研究
  • プロジェクト2:VRメディア研究
  •  VRコンテンツ,VRコミュニティ,サービスなど

 研究者は,自分が好きなプロジェクトに任意で参加していく形態のようだ。

 青山氏からは,東大などで行われているVR研究の内容が紹介されていたので,それを簡単にまとめておきたい。

 廣瀬・谷川・鳴海研究室は永遠に直進できる「無限回廊」や普通のクッキーをチョコクッキーに変える「メタクッキー」など,多くの有名な研究を残している。扇情的な鏡というのは,カメラで写した映像を鏡のように表示しつつ,表情を笑顔に変えたりすることで,見ている人のメンタルによい影響を与えることもできるものだそうだ。

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 篠田・牧野研究室は,超音波デバイスのアレイで空間に触感をもたらす研究やリアルタイム運動解析などを行っているという。

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 割澤研究室は,ナノスケールのモノから数メートルスケールの大きなものまでさまざまなモノ作りを行っており,人間に負担をかけない自動化技術を研究している。

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 石川研究室は,プロジェクションマッピングの研究を行っており,卓球で打ち合っているピンポン球の表面にも正確にプロジェクションマッピングを行える技術を有している。

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 相沢研究室ではさまざまな研究が行われているが,ニューラルネットワークを使って,顔画像に対して推奨する化粧を提示するシステムや,テレビの放映前にスタッフ構成やSNSでの前評判から視聴率を推定するシステムなどを作っているという。

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 東大以外では,青山氏もいた大阪大学の前田研究室が真っ先に挙げられていた。プロフェッショナルの視野とビギナーの視野を重ね合わせてやると,ビギナーはプロフェッショナルの視野を追っているだけで技術が身に付くのだという。模倣型の体験教育システムでは,腹腔鏡手術などの,難度の高い手術の学習で利用されている。

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 慶應大学の南澤研究室はテレイグジスタンスや遠隔操作の研究が行われている。利用者の技術を遠隔地のロボットで再現してやろうという研究だ。

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 明治大学の宮下研究室は非常に多くのHuman Computer Interactionに関する研究が行われており,たとえばサンプリング書道では書道の達人の止め払いなどの筆致をサンプリングして,ユーザーの筆捌きに反映させることができる。

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 筑波大学の岩田研究室は,歩行に関する研究で有名だ。人の歩く方向に先回りして敷石のようなロボットが動き回り,人間はその場に留まったままあらゆる方向に歩けるシステムや巨大ロボット風の歩行装置などが開発されている。

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 そのほかにも多くの研究が行われているとのことで,より詳細なことについては3月23日から大阪で開催されるIEEE VR 2019 OSAKAへの参加がお勧めされていた。

 VR研究というと海外では視覚に偏重しているらしいのだが,日本ではいろんな感覚について(氏が筆頭なのかもしれないが)の研究が行われており,国内の開催だと展示会場に持ち込まれるので絶対面白いのでと,広く参加を呼びかけていた。まあ,ゲーム業界的には,GDCの直後でかなりキツい感じではあるのだが。

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エンタープライズ用途で選ばれるUE4


 続いてエピックゲームズジャパンの岡田和也氏からの同社のエンタープライズ分野での取り組みに関する講演が行われた。前半で述べられたのはUnreal Engineの基礎情報であり,ここでは割愛する。
 後半ではUE4のVRでの活用例やUnreal Studioが紹介されていた。同社はRift DK2からVR開発に対応しており,ARではARkitやAR Coreに対応し,AppleのイベントでもUE4が多用されているという。

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 事例としては自動車業界からの問い合わせが多いとのことで,VR空間内でクルマを見たいという要望が多いのだという。各社でバーチャルショールームのような試みが各社で行われている。実写に近い画質でカスタマイズや模様替えなども簡単にできることが好評を博しているようだ。

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 建築業界での活用では,早くからIKEAがVRに対応しており,部屋を動き回って,部屋の内装をリアルタイムに変更できるアプリを開発している。

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 また遠隔地の多人数をVR空間に集めてのミーティングに対する需要も大きいという。同社のイベントの模様が紹介されたが,ニューヨーク,パリ,ロンドンにいる建築家が建設予定の建物の中でミーティングをする様子が示されていた。

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 VRヘッドセットを使わないVRとして紹介されたVR CAVEは,前・左右・上にプロジェクタで映像を映し出す部屋であり,VRヘッドセットなしでVR風の見せ方ができるという(立体視用と思われるメガネは着用していたが)。

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ARでの活用事例。AR表示でいろいろな角度から眺めることのできるアプリが多く作られているが,ミニカーのように表示するものもある
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 Unreal Studioは,産業向けのUnreal Engine+αのパッケージで,CADデータなどのリアルタイムでは処理の難しいデータを扱うためのDatasmith,学習コンテンツ,さまざまなマテリアルやテンプレートを含んでいる。基本的な動作のテンプレートも用意されている。

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 とくに強調されていたのはDatasmithだ。CADデータはとにかく正確かつ完全に作られている。リアルタイム表示には向いていないデータだ。そのまま読み込んで動かすこともできなくはないかもしれないが,VRで動かすといったことまで視野に入れると現実的ではない。

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 見た目をなるべく変えずにデータ量を削減しようとすると,CADツールとゲームエンジン双方の知識が必要となり,かなり難度が高く,かつ面倒な作業が必要となる。これに対応し,CADデータをUE4のデータに変換しつつ,データの軽量化も自動で行ってしまうのがDatasmithだ。データを軽量化し材質設定も自動で変換してくれるようで,非常に簡単にリアルタイム化ができる。エンタープライズ用途では必須の機能といえるかもしれない。UE4の生産性の高さはUnreal Studioでも継承されているわけだ。

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 そのほか,分野別にビデオチュートリアルが用意されているので導入難度はかなり下げられている。また,その分野で使われそうな操作が実装されているテンプレートが用意されているので,CADデータを用意すれば簡単に高水準のVRアプリが作れるらしい。

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 そのほかUnreal Studioでサポートされている機能として,複数のディスプレイ出力に対応したnDisplayや遠隔地とのやり取りに対応したMulti User Viewer Template,素材を張り替えたりできるVariant Manager,サーバー側でレンダリングして非力な環境でも高画質な結果を確認できるPixel Streaming,指定場所の太陽の状態を再現できる太陽位置計算機能などが用意されている。また,建築業界から要望の多かったRevitのBIMデータにもすでに対応済みとのことだった。

 同社の今後の予定としてはリアルタイムレイトレーシングや新世代のVRヘッドセットへの対応を進めるほか,各種業界のフィードバックをもとにしたUnreal Studioの改良に努めていくという。
 公開直後に比べて機能が充実し,無料で試せる現状はUnreal Studioを始めるにはよいタイミングだとまとめていた。


GPUはTuling世代へ


 NVIDIAの田中秀明氏から昨年のSIGGRAPHとQuadro RTXなどの紹介が行われた。SIGGRAPHの話は割愛して,Quadro RTXの話から
SIGGRAPHのタイミングで発表されたTulingアーキテクチャによる新GPUは,リアルタイムレイトレーシングに対応したRT Coreを搭載していることはすでにご存じだろう。
 前世代のPascalアーキテクチャのチップとの比較写真が表示されたが,圧倒的な大きさの違いがあることが分かる。製造には12nmプロセスが使われているが,これ以上大きなチップは作れないとのこと。次世代は7nmプロセスで作られるとのことだったので,うまくいけば低価格化と高性能化が同時に図られることが期待できる。現状のRTXに手が出ないという人は次世代を楽しみにしておこう。

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 Quadro RTXで最上位のQuadro RTX 8000は,実に48GBものグラフィックスメモリを搭載している。さらにNV-LINKでつなぐと96GB使える。

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 ちなみに,旧世代の24GB搭載カードでは,オフライン演算したレイトレの中間データをグラフィックスメモリ上に展開しておき,リアルタイムでレイトレVRのようなことができるとアピールされていたりもしていた。しかしGPU上で本物のレイトレができるようになると,そういった用途も少なくなるだろう。
 そう考えると48GBなどなんに使うんだという気もしないではない容量なのだが,この48GBのカードがいちばん売れているのが日本なのだという。とある国営放送局が,8K映像では24GBでもきついとのことで48GBを搭載したグラフィックスカードを待ち望んでいたのだそうだ。
 8K=フルHD解像度比で16倍のデータ量ということは,48GBあっても,3GBのグラフィックスメモリでフルHDのレンダリングをするようなものか。そりゃ心待ちにするだろうなあ……。
 DisplayPort 1.4も4つ用意されているので「8Kディスプレイ2台に出力できます」と田中氏はアピールしていた(DisplayPort 1.4対応の8Kディスプレイはまだ存在しないらしいのだが)。

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VR向けの搭載機能一覧。VirtualLinkは,USB Type-C形状のケーブル1本で,VRヘッドセットに映像とUSBによる制御情報,そして電源供給をまとめて行うポートの規格だ
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建築現場で活躍するVR


 前回の研究会で好評だった建築系のVRの活用例として,今回は福井コンピュータとユタカ工業の事例が紹介された。前回の研究会で紹介されていた山口土木もユタカ工業も福井コンピュータのTREND-CORE VRというソフトを利用している。
 福井コンピュータの浅田一央氏は,建築業界の現状と同社のVRの取り組みについて解説していた。「3K」な職場ということで若手労働者の減少や技能職の高齢化などから,建設業界では今後大規模な人手不足が予想されており,作業のいっそうの効率化が求められている。

建設業では29歳以下は1割しかいない
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 業界としては,ITによる業務環境の改善は急務となっている。それが国の進めているSciety 5.0(狩猟社会,農耕社会,工業社会,情報社会に続く5番めの社会構築を目指した指針)やi-Constructionにもつながっている。福井コンピュータはその最前線ともいえるところで奮闘しているようだ。

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 続いてユタカ工業の福士幹雄氏が,同社でのVRの活用について解説した。
 研究会で紹介されたユタカ工業のVR活用方法は,同じツールを使うだけあって山口土木と似ていた。先ほどのi-Constructionの図にもあった流れに似ているというべきかもしれない。ドローンで空中から現地をレーザー計測して,工事内容をVRで事前に確認してといった作業の進め方はひとつの完成形なのだろう。

●道幅拡張工事の例
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 ユタカ工業では,VRに限らず,さまざまな方法で「見える化」を進めているという。スマホやタブレットでAR的に見せたり,360度映像と簡易ゴーグルで見せたり,普通のPC画面でも確認できたり,VR空間内で写真を撮って共有したりといった具合だ。

ドローンによるフライバイ映像(左)と工事現場の3Dモデル(右)。3DモデルはWebブラウザから拡大・回転などが自在にできる
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 青森は今の時期だと1mくらい雪に埋もれているとのことで現場を確認するのは大変そうだが,VRを使えばすぐに現地を確認できる。VRを使うメリットはかなり大きいといえる。

 なんか前回の山口土木といい,日本の土木業界はまったく安泰ではないかという錯覚にも陥りそうだが,実はここまでできている業者というのは日本中でも5社くらいしかないのだそうだ。
 前回プレゼンを行った山口土木の 氏も講演に出席していたが「初めて同じことを考えている人を見ました」語っていた。福井コンピュータが,そのためのソフトをリリースしていても,それくらいレアな事例ではあるらしい。

 なぜこういったことのできる土木業者が少ないのか聞いてみると,与えられた工期が短くて,ちゃんと3Dデータを起こしているとそれだけで工期が終わってしまうからだそうだ。もちろん,作業の図面は作られるのだが「図面が正しいことなどはない」というのが,その場にいた各社の共通した見解だった。国が進めようとしている図面の「3D化」はまだまだ達成されていないようだ。Sciety 5.0というより,Society 4.0がようやく進められている段階という気もしないではない。

 そういえば,学生時代に工学部の連中がひーひー言っていた製図の実習では,機械学科などでは歯車などを超精密に描かされて0.1mm単位で精度が求められるのに対し,建築学科の製図だと適当に四角形を描いて,角度のところに「90度」と書いて縦横の辺に「5m」と書いておけば,どんなに歪んでいても正方形と見なされるという話を聞いたことがある。不動産屋で間取り図には必ず「現状が優先します」の注意書きがあるように,図面は参考程度で細かいことは現場でなんとかしてもらう業界なのだろう。
 なんにせよ,図面の3D化を前提に,ドローンやレーザースキャナでの現場のデータ化など,プロセスの高速化にノウハウがありそうだ。


期待と不安のMRデバイス「Meta 2」


 さて,発表会後の懇親会会場では,MRヘッドセット「Meta 2」が持ち込まれてデモを行っていたので,ちょっとだけ紹介しておこう。
 Metaが製造しているMeta 2は,MR用の表示デバイスである。2560×1440ドットの画面を持っており,視野角も広めで,Hololensで「狭い」と感じていた人にとってはまさに福音となるデバイスかもしれない。ヘッドセットには前面に深度対応のカメラを搭載し,左右に手の動きを取るためのカメラが装備されている。

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 できることはだいたいHololensやMagic Leapと同じなのだろうが,それらがスタンドアロンで動作するものであるのに対し,Meta 2はPCベースのMRヘッドセットだという違いがある。

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表示される棚に手を突っ込んで,オブジェクトを引っ張り出すデモ。オブジェクトとのインララクトもできる
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 使ってみると,画面は広視野角であり,一言でいって素晴らしい。「これ使えるなら(PCを)背負うよ?」と思わせるものがある。インタフェースの操作は両手で行うのだが,手の認識が若干クセのある感じだった。表示されるインタフェースをつかんで操作することが多いのだが,つかむ動作が判定されにくかったのだ。デモのあとで聞いてみると,手首のあたりまで見えていないと誤動作が増えるとのことだった。使用時にはシャツなどは少しまくっておくと認識率が向上するようだ。

 かなりよさそうな製品なのだが,問題は,製造元のMetaが現在,倒産した/倒産してないといった騒ぎになっているので,先行きが不透明だということだろう。
 Hololens 2が未発表な現時点では,Meta 2はスペック的にかなりインパクトのある製品だ。スタンドアロンではなく,PCと組み合わせるといった点も特徴となる。バックパックPCと組み合わせると,何度か紹介されている建築現場などでは最強のツールになるかもしれない。かなり面白そうな製品なので,できればポシャらずに日本でも発売されてほしいものだ(現状でも買えなくはないのだが)。