ビデオゲーム開発の修羅場を回避する方法とは

「楽しんでいるチームはよいゲームを作ります。そしてゲーム制作も楽しくなるでしょう。そうでない場合,ポイントとなるのはなんでしょうか?」

 今週(※先週)はビデオゲーム業界で頻繁に発生する話題を繰り返すことに終始していた。修羅場の問題だ。

 週に100時間労働(※Red Dead Redemption 2の開発で週100時間を超える労働が行われたことを指す:関連英文記事)というのはゲーム開発で普通のことではないとはいえ,納期間際に複数の追加シフトを配置することは珍しいことではない。

 修羅場というのはスタッフにとってそれほど悪いものでもないのだが,ビジネス面ではよくないものだ。過剰労働で疲弊したスタッフは通常時以下の働きとなるということに対しては多くの証拠がある。私自身が11年ほど前にQAスタッフとして働いていた頃,Ratchet & Clank: Tools of Destructionのバグをある日の午前3時に報告したのだが,翌日完全に書き直さなければならなかった。まったく読めたものではなかったのだ。修羅場はチームにとって悪いものであり,ビジネス的にも悪いものだ。

 しかしながら,これらの問題を回避することは簡単だ。単純に言えば,それは「ひどいプロジェクト管理」は誰の得にもならないというところに帰結する。ひどいプロジェクト管理とはどんなものだろうか? よいプロジェクト管理とはどんなものだろうか? 残業や修羅場をできるだけ減らすためには,どんなコツや秘訣が使えるのだろうか?

 先週,我々はBest Places To Work in the UKを発表した(関連英文記事)。すべてのゲーム開発者が苦悩しているわけではないことを思い起こさせてくれるタイムリーなイベントだった。それぞれの部門での受賞者のなかで,大部分が「修羅場ゼロのポリシー」と「なんとしてでも修羅場を避ける」ことを誇っていた。そこで,我々はいくつかの企業に,修羅場の発生を防ぐアドバイスを全世界に共有する気はないかとたずねてみた。

 以下は彼らが語った内容である。


Wish Studios(小企業部門での受賞者)のCasper Field氏


 「私がキャリアを築いた20台の頃は,かなりひどい状況で働いていました。90年代にジャーナリストとしてスタートして,毎日12〜14時間労働を常態化していました。きつい締め切りのときは夜通し仕事をしていましたが,仕事を成し遂げるためにはそれが必要でした。しかし,何年か経って私は気づきました。この問題はよく発生する問題の組み合わせに帰結するのです。私はこれらを次のようにまとめています。(しばしば経験の足りない)管理職によるずさんな計画と,チームの人員不足,製品の過剰な仕様,そして上からないし外部からの要求を押し返すことを中間管理職が拒否するないし無力であることです。これらの要素の組み合わせは,通常,致命的となります」

 「遅くまで働けば問題を解決できるという神話が生まれてきました。公平に言って,それが1日か2日といった非常に控えめに行われる場合,残業は危機の回避に役立つでしょう。しかし,長期にわたる場合はまったくもって正解ではありません。解決策は,分別を持って計画し,仕様を削り,十分な人員を雇って,今後は外部からの圧力に対してNoといっても大丈夫だということを学ぶことです」

 「同様に,あなたはこれらの解決策の一つだけに偏ってはいけません。組み合わせる必要があります。95%のユーザーがほとんど気づかないような“COOL”な要素を実装するために残業する価値がありますか? その要素は開発チームのほかの部分にどんな影響を与えますか? 私に言わせれば,それは時間の無駄かもっとひどいものであり,プロジェクト全体にとって明らかなリスクとなります。私が思うに,蓄積された疲労が響いてくると,仕様策定に関わる意思決定はより混乱したものとなり,より非論理的なものになります。私には分かります。なぜなら私自身がやってきたことですから」

「個人的な問題が山積みになり,それを解決するために必死になっているような修羅場では,チームメンバーが“英雄的”になる危険な思い違いが出てきます。これは完全に有害で信じられないほど危険なものだと分かりました」

 「チームに対して正直であることも必要です。― 10時かそれより遅く始業するのはCOOLに思えるかもしれませんが,それでは6時半かもっと遅くまで残ることになります ― 作業日はまだあります。これが我々が望んで標準的な9時から5時半を労働時間とし,1時間を昼食時間にしている理由です。昼食時間には昼食を取ったり,社外に出たり,少なくても画面の前から離れて台所で座っていることが推奨されています。学校や旅行のために30分早いフレックスも認めていますが,それはそれです。出社し,1日分働いて,家に帰り,自分の生活をしてください。同様に,“残業して”ピザを食べることは,通常,あなたが本当には働いていないことを意味します。あなたは単にオフィスに座って,たいしたこともせずにまあまあ美味しいものを注文して食べているだけです。午後10時に書かれたコードやチェックされたアートに含まれるバグが,通常の営業時間のものと比べてどれくらい多いか知っていますか?」

 「個人的な問題が山積みになり,それを解決するために必死になっているような修羅場では,チームメンバーが“英雄的”になる危険な思い違いが出てきます。これは完全に有害で信じられないほど危険なものだと分かりました。説明責任や計画,文化について言えることはありますか? もしこのような行為が必要だと思っているなら,なんでしょうね? 誰かがひどい失敗をして,まったく“英雄的”でもない ― これはプロセスの失敗を示しています。とてもほめられたものではありません。若く経験の足りないチームメンバーとして始めたばかりの頃に戻ったとしても,私は二度と何週間も1日12時間夜通し働くような状況に置かれたくはありません。20年経って,私はそういうことを続けているところがまだ存在すると知りました。我々の業界がそれを受け入れられないと明確にしたのはずいぶん昔の話です」


Hutch (中規模企業部門での受賞者)のShaun Rutland氏


 「修羅場を避けることは我々の業務方針の基本です。何百万人もの日間アクティブユーザーを抱えるモバイルのFree-to-PlayでGame-as-a-Service企業として,我々はチームを幸福で生産的にする必要があります。ですので修羅場は発生しません」

 「楽しんでいるチームはよりよいゲームを作り出します。そしてゲーム制作も楽しくなります。我々には,スタッフに開発文化と生産的で創造的でモチベーションを保てる環境を保証する責任があります。プレイヤーからくる緊急仕事だけでも1日12時間,週に7日分にたっぷりの仕事があります。私たちに迷いはありません。ですので単純に発生しえないのです。修羅場についてはまったく妥協しない姿勢を取っています」

 「結局,修羅場とはフィーチャークリープ(※仕様が固まらないこと),設計の繰り返し,甘い計画もしくは,最も多いのがAll-or-Nothingな設計のアプローチ(これはしばしばトップダウンで降ってきます)の結果です。リーン開発(※無駄を排除した開発体制)を理解することは,プレイヤーに価値があるものは何かを理解することであり,すべてにおいて製品の主要な品質に優先順位をつけることであり,あなたのチームが顧客を理解しており実行できると信じることです。我々はβプログラムやアーリーアクセス,いまや一般的となったソフトローンチによって,以前より多くのアクセスをプレイヤーに行っています。言い訳はできません」 

「結局,修羅場とはフィーチャークリープ(※仕様が固まらないこと),設計の繰り返し,甘い計画もしくは,最も多いのがAll-or-Nothingな設計のアプローチ(これはしばしばトップダウンで降ってきます)の結果です」

 主要なTipsを挙げておきます。

1.修羅場は計画の選択肢として機能しないと理解しているリーダーシップチーム。Game-as-a-Serviveを開発しているなら,ローンチしてコミュニティのサポートを始めると負荷は増大し進化していきます。もしローンチ前にチームが燃え尽きていたら,成功はおぼつきません。

2.ビジネスのリーダーは手本になって主導する必要があります。ウイークデーの夜やウイークエンドに重要なメールを出すことは避けて,休日や長期休暇を推奨してください。次の大きなアイデアは休息から生まれ,士気の高いスタッフが休日から帰ってきます。

3.Hutchでは,リーン開発方法論を採用しています。我々はビジネスとプレイヤーにとっての価値をできるだけ迅速に見つけます。もし時間のかかる何かに取り組んでいるなら,我々はそれをより小さな管理できる仕事の単位に分解します。我々のチームには正直に評価することを推奨しています。計画での正直なボトムアップのアプローチによって,チームは正しい選択を行い,自分たちの仕事と時間を管理することができるのです。

4.ボトムアップによる計画は,スタッフが作業にかかる時間を定義しているということを意味します。それゆえ,見積もりは責任のあるものとなります。スプリントの振り返りはチームに計画の正確性を顧みることを可能にします。これは将来の計画をよりよくしていきます。

5.アジャイルとリーン開発に適合することは,よりよい計画と仕事のライフバランスを確保するうえで役立ちます。

 
 すべてに言えるのは,我々は完璧ではないということです。我々のチームは,彼らの意思でときどき長時間労働をします。なぜなら彼らがそれが必要である,ないしそうしたいと思っているからです。なのでこれについてはまだ取り組む余地があります。チームに彼らのタスクを定義させ,計画に責任のある包括的な文化を育むことによって,彼らは自分たちの仕事の負荷に責任を持つようになります。我々はサービス会社ですので,ときどきエンジニアから時間外のサポートが必要になります。我々はチーム間で持ち回りにして,過度の労働時間にならないように確認しています。

 しかし要約すると,あなたはリーダーに基本的に修羅場というのは長期運営では機能しないものだということを理解させる必要があります。GaaSは納期に支配され,機能肥大化した開発から離れるためには理想的なものです。そして自分たちの作業予定を自分たちで決める権限と責任を持つチームは最終的によりよい計画とよりよい仕事をすることになるのです。

我々は,この件に関してthe Best Places To Work Awardsの受賞者からのさらなる回答を順次追加する予定だ。

※追加分のCriterionの記事はこちら

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら