「GCCを現場の生の声を届けるイベントに」関西発のゲーム開発者団体「DECA」インタビュー

 昨年度末,大阪のゲーム開発会社による新たな業界団体「DECA」が発足した。DECAは,正式名称を「一般社団法人デジタルエンターテインメントクリエイター協会」といい,関西エリアのゲーム開発会社の連携を強めるために生まれた組織である。
 大きな役割としては,2018年3月30日開催予定の関西最大のゲーム業界向け大規模勉強会「GAME CREATORS CONFERENCE '18」の主催を務める団体だ。
 本稿では団体の設立理由とその目的,またイベントの開催にかける思いについてインタビューを行った。
 対応してもくれたのは代表理事の松下正和氏,理事の大下岳志氏香川 悟氏久禮義臣氏秦泉寺章夫氏田口昌宏氏槙石 隆氏の7名だ。

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DECA公式サイト


DECAの成り立ち


――まずは,DECAが設立された背景について教えてください。

松下正和氏
松下氏:
 きっかけは,2016年から開催している「GAME CREATORS CONFERENCE(以下GCC)」です。
 これまで有志の運営チームとしてイベントを開催してきましたが,年々回を重ねるごとに規模が拡大していき,その中で,きちんとした団体にしようと考えたことが始まりです。
 GCCは参加者が1000名に迫る規模になりますので,費用の管理と協賛の拡大などを見据えて,一般社団法人としてDECAを設立しました。メンバーは,これまでGCCの実行委員であった者がそのまま入っています。
 今後もGCCの運営を中心に,それに付随する懇親会の開催などを通じて,関西のゲーム産業に関わる各種団体を結ぶハブになることを目指しています。

――GCCの開催が柱になりつつ,そのほかの勉強会や各団体の橋渡しの存在を目指すということですね。

松下氏:
 はい,そうです。目先ではGCCがメインになりますが,すでに何度も関西で行われている「関西ゲームデベロッパ交流会(GIP West)」や,「関西ゲーム勉強会」などのイベント間の流動性を作ることができればと思っています。

――GCCのほかにも規模の小さい勉強会,交流会,ワークショップなどの構想はありますか?

松下氏:
 昨年,DECAの設立を発表したところ,さっそく大学さんなどからも問い合わせをいただいていまして,なにか一緒にできないか考えています。また,ゲームクリエイターを目指す学生に対しては,価値のあることをやってきたいとメンバー間で話しているところです。

槙石氏:
槙石 隆氏
 これまでのGCCでも,学生さん同士のつながりが懇親会で増え,大学の先生とのつながりができたりなどがありました。
 登壇がきっかけで,新しく勉強会シリーズが開催されたような事例もあります。今後はそうした動きがDECAの存在によって体系化され,より加速されていければと思っています。

――DECAがWebサイトなどで関西のゲーム産業の動きを告知していくことはありそうですか?

松下氏:
 外国の方とかゲーム業界の方にいっぱい学生を送ってる中で,まだまだゲーム会社さんとのつながりを模索している学校さんも多くあります。
 そういった学校さんと会社さんをつなげるハブになればと考えていますし,情報を発信できたりとかっていうのはまさに望んでいるところですので,検討していきたいです。

――その他,関西ではUnreal Fest Westや,BitSummitなどがありますが,これらの団体との連携も考えていますか?

松下氏:
 もちろんできたらいいと思いますが,まだ模索中です。
 せっかくできたコミュニティですので,その中でお互いの知らないところにお互いの情報を届けていくことができるかなと。コミュニティそれぞれの相互作用を助けることができればと思っています。


Game Creators Conference '18の開催について


――今回のGCCは3回めになりますが,規模は拡大方向となるのでしょうか。

松下氏:
 はい,かなり大きくなります。最初にGCCを始めたときは本当に「勉強会」という形で,いくつかの貸し会議室を並行して使うぐらいの規模でした。
 そこから昨年の第2回では,18セッション,参加者550名とかなり大きな規模になってきました。今回のGCC18では,セッション数は24,参加者も1000名近くを見込んでいます。
 合わせてスポンサーブース増やしますし,この規模のイベントは関西では他に類を見ないと思います。

――前回は「チケットが買えなかった」という声が多かったと聞きました。

松下氏:
 はい,そういったお声を多くいただいてしまいました。
 最初に売り出した500枚がすぐに売り切れてしまい,追加で50枚発売したのですが……。それもほどなく完売したので,実際はもっとニーズがあったと思っています。
 今年も会場は同じ「グランキューブ大阪」になりますが,前回の経験からもう少しチケットを販売しても大丈夫だということが分かりましたので,多めに販売する予定です。
(筆者注:チケットは好評販売中。http://www.gc-conf.com/

――GCCには,どのような方に参加してほしいですか?

秦泉寺氏:
 まずはもちろん,関西圏の開発会社さんに参加してほしいと思っています。CEDECの場合は関東開催ですから,関西の会社に勤める若い人はなかなか会社の許可を得にくく,自腹参加という方がいらっしゃいます。
 まず距離の面から,関西の勉強会であれば非常に参加しやすくなります。ぜひこれを機会に「業界カンファレンス」に参加してもらって,こういう場にくることの有効性が広まることでCEDECを含めたほかのカンファレンスにも参加しやすくなるのではないかと思います。

田口氏:
 CEDECに会社の費用で参加する,というのはそこそこ決裁権がある方ではないと難しい現状があります。
 関西で開催されるならば,まず近いですし,交通費も安くて済みます。基本的にはゲーム業界のクリエイターの方に参加いただいていますが,ゲーム業界を目指す学生さんにもたくさんきてほしいですね。

――そのほか,もっときてほしい職種などはありますか?

久禮義臣氏
久禮氏:
 そうですね,例えばサウンド関係の方にもっときてほしいなと思っています。
 関西の開発会社でも,サウンドの事例がたくさんありますので,今回はそれをお見せできる機会になればと思っています。

大下氏:
 今回は開発者向けというか,事例の話も非常に多いです。
 これまで以上に関西の開発者の方,現場の方にきていただけたらいいかなと。今回はとくに開発者です。

松下氏:
 実行委員のメンバーもいろいろな職種の人間で構成されていますから,セッションのバリエーションは広く取ろうとしています。

――イベントタイトルは「GCC」ですが,近隣のxR系などとの関わりは想定されていますか?

松下氏:
 はい,幅広く取っていきたいと考えています。例えば今回はアーティスト系セッションとしてアニメーションの話もありますし,ゲームに近いエンターテイメント系の技術については,ぜひとも講演をお願いしたいと考えています。

槙石氏:
 講演者候補を探すときはアカデミック系の方にも声をかけています。DECAとして産学連携を強くするためにも力を入れています。

――講演のトラック数も一つ増加しますね。

松下氏:
 はい。1トラック増える分については,基本的にスポンサーシップセッションのトラックにする予定です。
 ゲームエンジンや各種ツールの会社さんによる本格的なセッションは関西では希少な機会でもあります。
 GCCの継続した開催を踏まえたときに,しっかりスポンサーさんにも参加してもらうことは大事ですし,もちろんそのサービスやツールを使っている方が,貴重な情報を持ち帰ることができる機会にしたいです。

槙石氏:
 GCCの全体的なテーマである「現場に近い話が聞ける」というところをなるべく意識してもらうようにお願いしています。

秦泉寺章夫氏
秦泉寺氏:
 スポンサーセッションでは事例をベースにしたものかつ,内容もGCCならではの「生々しい感じ」でお願いしています。関東では言えないようなところでも,関西ならここだけの話で言っちゃう! みたいな雰囲気があったら面白いなと(笑)。

DECA一同:
(笑)

秦泉寺氏:
 関西ゲーム勉強会のときは多かったんです。ここだけ話。第1回のGCCも結構そういう感じで,SNSシェア禁止の話をしてくれる方もいます。

――先行していくつかのセッション内容が公開されていますね。

松下氏:
 実行委員に一緒に入っていただいているカプコンさんからは,今回「大逆転裁判」シリーズのディレクターのタクミさん(巧舟氏)にご講演いただきます。GCCらしいユニークな講演になると思っています。

久禮氏:
 GCCは講演者をDECAのスタッフ自ら声をかけにいくスタイルで揃えています。ですので,依頼をする段階で「くだけたスタイルで話してください」とか,この内容でお願いできますか,という柔軟な依頼がしやすいです。
 この背景が,GCCでの「関西らしさ」を作っているのではと思います。

――関西に根ざす企業さんの傾向として,デベロッパさんが多いというところもありますか。

田口氏:
田口昌宏氏
 関西ではデベロッパが本当に多い半面,お互いに事例の話がしにくい事情があります。いわゆる守秘義務ですね。
 ただ,ここ最近は関西でもいろいろな側面から横のつながりが増えてきたので,お互いの話ができるようになってきたと思っています。
 CEDECの運営にかかわっている人間も2名いますし,CEDECは去年からタイムシフト配信が導入されましたよね,あれは関西に住む面々からするととても嬉しい施策でした。


 これまで,関西では会社間のつながりが結構弱いと感じていました。
横のつながりというか,情報共有する場はもちろん増えてきたと思うのですが,「デベロッパさんが中心」であることが,一つの要因としてあったのではと思っています。
 関西で一カ所に集まって,同じような悩みをもっている人たちはたくさんいるんだよなという思いを共有できる場を作りたい。
懇親会をかなり大きな規模でやっているのも,この目的のためです。

――懇親に関しては,もとから「関西ゲームクリエイター交流会」の定期的な開催がありましたね。こちらが合流という形ですか?

香川氏:
 いえ,合流したというわけではないです。「関西ゲームクリエイター交流会」は,別途継続して行っていく予定です。

 GCCの源流として,「KANSAI CEDEC」というイベントが4年前にありました。そこで非公式の懇親会をやらせてもらって,その流れでGCCの運営にも合流しました。
 「関西ゲームクリエイター交流会」は個人的にやってる側面もあるので,その経験を活かしてGCCの懇親会も担当している……という形です。もちろん私だけがやっているわけではなくて,全員で取り組んでいますが。

松下氏:
 今回の懇親会は500名を越えるような「大」懇親会になります。
 会場選びにも力を入れていまして,グランキューブ大阪の隣であるリーガロイヤルホテルの大きな広間で開催する予定です。豪華で大人数,料理もおいしい懇親会をお約束します。
 前回の懇親会が非常に好評だったので,今回もご満足いただけるよう頑張っています。

秦泉寺氏:
 500人のデベロッパさんと話せる機会ってなかなかないと思いますよ。

――カンファレンスと同じぐらい,人同士の交流を大事にしてるということですね

田口氏:
 関東でも同じかもしれないのですが,関西ではお酒や食事の場でお互いの親交を深めることを大事にしていますので。


GCC18の「現場にフォーカスした講演内容」とは?


――先ほども話に上がった「現場にフォーカスした講演内容」というのは,具体的にどのようなことでしょうか?

松下氏:
 開発現場の具体的な事例を取り上げたセッションです。これまでの傾向からもこうした事例紹介スタイルが喜ばれていまして,アンケートの声からも「現場の生の内容がいい」,という声が多くありました。

――セッション内容は事例中心になると。

松下氏:
 はい。とくに新しいタイトルの事例などは,時期的な要因もあり珍しい話が聞けるかと思います。
 素晴らしいなと思っているのは,エンジニアリング系で「格闘ゲームにおける2.5D表現への挑戦」というセッションがあります。アークシステムワークスさんの「GUILTY GEAR Xrd -SIGN-」「ドラゴンボール ファイターズ」ですね。

――発売したばかりのタイトルの話ですね。

松下氏:
 そしてもちろん,カプコンさんからは「モンスターハンター:ワールド」のセッションもあります。Aimingさんの「CARAVAN STORIES(キャラバンストーリーズ)」も,新しいタイトルの事例ですね。

――学生さん,独立系のデベロッパさんへの呼びかけはありますか。

松下氏:
 学生さんにはぜひきてほしいですね。普段は聞けないような話,例えば大手の開発会社さんがどのような意図でタイトル開発に取り組んでいるかなど,開発者自身から話が聞ける貴重な機会になると思います。
本当に刺激として凄くよいと思いますね。

久禮氏:
 とくに,INEIさんによるコンセプトアートに関してのセッションは,かなり貴重かと思います。以前一緒にお仕事させてもらったことがありまして,近年は「コンセプトアート」の重要性と,社外への依頼が日本でも増えてきていますので,コンセプトアート自体今後どう扱っていくかとか,INEIさんのような会社とどうやって一緒にやっていくなどの話があります。

――海外のセッションはどうでしょうか?

香川氏:
香川 悟氏
 はい,GCCのためにBlizzardのアニメーション担当の方にきていただきます。「Overwatch」ですね。海外においてはアニメーターが当たり前に習う基礎的なものが,どう現場で活きてくるのか……という実例を語ってもらう予定です。
 なかなか日本のアニメーターにとっては刺激的なセッションになるんじゃないかなと。

――セッションについては,動画公開などの計画はありますか?

松下氏:
 できるといいのですが,まだちょっと具体的な方法については話し合っていません。オフレコ話もあるよ,というコンセプトと組み合わせが悪いこともありまして。
 シンプルに当日来てください,という思いです(笑)。チケットが販売されているので,ぜひ皆さん買ってくださいという気持ちです。


DECAの今後のビジョン


――最後に,GCCも含めてDECAのビジョンとして「今後ここを頑張っていきたい」というコメントをいただけますでしょうか。

香川氏:
 これまで「交流会」は個人的な活動にすぎなかったのですが,こうして社団法人としてより大きな規模で活動していけることにわくわくしています。規模が大きいというのはそれだけ大きな出会いがありますので。
 また,飽きられない交流会にしていけたらなと思っています。

田口氏:
 僕は参加することに意味があると思っています。横のつながり,仲間を見つけられる機会を大事にしていきたい思いが常にあります。去年参加できなかった人も,怖がらず参加してほしいですね。

松下氏:
 DECAはできたばかりの組織でして,初めて手掛けるイベントが「GCC18」になります。
 今後もいろんな関西での活動,勉強会,をやっていきたいですが,まずはGCC18を我々としても全力で成功できるよう運営していきます。
 これが落ち着き次第,いろいろな展開が発表できたらいいなと思っています。
 今後ともDECAの活動に期待してもらうとともに,GCCにぜひとも足を運んでほしいなと思います。

秦泉寺氏:
 僕はDECAでしかできないことをやりたいと思っています。
 とくに産学連携です。学生さんを巻き込んで,全国的に展開できることをやっていきたいなと思っています。
 例えば福岡GFFのアワードコンテストに出展できるようなことをするため,学生さんがほかの専門学校から選抜メンバーを集めてスクールを開いてGFFのコンテストに関西のDECAチームとして乗り込むとか,具体的になにかできればと思います。

――関西で勉強している学生さんを育て,全国や世界へ! ということですね。

槙石氏:
 GCCはとても規模の大きい勉強会です。それで勉強会自体が人とのつながりを重要視している面もあります。
 この人のつながりを活用して,ほかにも中規模,小規模,ワークショップとか,いろんなスタイルの勉強会がどんどん広がっていくことで,より個人のニーズにあった情報共有の場が開かれていいければ一番うれしいですね。
 ここで軸になってDECAのHPに,いろんな項目が増えてくのが今後の目標です。

――個人的に,DECAを通じて開発会社さんや学生さんがそうした活動の情報を素早く得られるようになると嬉しいなと思います。

大下岳志氏
大下氏:
 DECAについては,発足からまだ1か月経っていませんが,学校さんからもお問い合わせをいただいています。実感として,関西でゲーム業界のハブになる場所を皆さんが求めていたのだなと思ってます。なにか一緒にできることあったら,ぜひ話を聞きたいです。

槙石氏:
 母体がしっかりして規模が大きくなってくると,学校さんが声をかけやすくなりますね。

久禮氏:
 今年で3回めですから,「そろそろこの時期GCCあるよね」という形で定番化してほしいという願いがあります。
 今回からDECAという団体でイベントを開催するかたちで,DECAも定番化して認知が広まってほしいです。
 個人的には教育分野にすごい興味をもっているので,学生さんと一緒になにかできないかなと期待しています。

 先ほどのコンテスト構想もそうです。どのような形になるかはまだ分からないですが,DECAから学生さんを育てる仕組みを提供して,実際関西で育った人間が関西のデベロッパになる,というきっかけになってほしいと思います。

――ありがとうございました。

「GCCを現場の生の声を届けるイベントに」関西発のゲーム開発者団体「DECA」インタビュー

DECA公式サイト

GAME CREATORS CONFERENCE 公式サイト