【月間総括】年末年始商戦から占うコンシューマゲームの動向

 1月はいろいろな話題があったので,それぞれについてコメントすることとしたい。まずは2017年12月のゲーム機販売は,米国の調査機関NPDによると,Nintendo Switchがトップとなったようだ。PlayStation 4は11月の米国販売が過去最高だったとしているが,12月はXbox Oneにも後れを取ったようである(関連英文記事)。実際,SIEが発表した年末(感謝祭からクリスマスを含む期間)の販売数は590万台と前年同期比で減少した(関連英文記事)。いよいよ,ピークアウトが鮮明になってきたということであり,これでは11月の好調の意味は薄くなる。戦術的な勝利が戦略的にはなんら意味を持たないという格好の事例であろう。
 エース経済研究所では,SIEが米国のみを優遇する意図がまったく理解できない。その米国ですら,12月は成果を残せていない。
 前回の繰り返しになるが,SIEは対外的にはともかく,社内的には失敗を認める組織,文化作りを目指すべきである。失敗を認めないと知見が共有されなくなる。成功は運が絡み,知見としては有効でないことが多い。一方,失敗には明確な理由が存在することが多く,次に活かしやすい。
 PSVR,PSNOW,さらにスマートフォン用ゲームアプリを成功扱いにしている限り,事態は悪化する一方だろう。SIEに必要なのは失敗を認めることである。任天堂の経営陣とSIE,ひいてはソニー本社の経営陣との決定的な差がここにある。失敗を認められなければ,周辺機器やスマートフォンゲームアプリに加え,サービスでも続いている過ちを今後も繰り返すことになるだろう。

 さて,「MONSTER HUNTER: WORLD」が発売され,カプコンから500万本を超える出荷を達成したと発表された。国内外の正確な比率はないが,国内が強いとしており,PS4の内外比率(国内10%未満)よりは国内比率が高いようだ(約40%と発表された)。カプコンの戦略目標は海外で売ることにあるため,完全に目標を達成できたとはいえないように見える。それでも過去のシリーズより大幅に海外での販売が伸びたことは確かだ。カプコンの目標は概ね達成できたということであろう。このように,戦略目標と戦術,成果が一致したときにパフォーマンスは高くなる。そろそろ,次世代機の話が出てきてもおかしくないタイミングである。MONSTER HUNTER: WORLDで国内市場は活性化したが,PS4に対する注目はさほど集まらず,トレンドを変えたとはとても言い難い。やはり,トレンドを変えるには次世代機が必要で,SIEは適切な戦略目標を設定することであろう。

 次に任天堂である。Nintendo Switchの10-12月の販売(着荷)台数は,日米の実売台数から見て650-700万台と推測している(校正段階で724万台と会社側から発表があった)。この水準は発売2年目のPS4を上回る台数である。また,国内における年末商戦は,おそらく中国の工場から空輸が実施されたため,店頭には十分な在庫がある状態となった。販売数はNintendo Switch発売初週に次ぐ水準と非常に強いものだった。今年はNintendo Switchの販売が一段と伸びるはずである。任天堂がなすべきことは安定的な供給拡大である。世界的な半導体,電子部品需要のひっ迫で,調達が難しくなっており,早急な対応が必要となっている。
 1月11日には「ニンテンドーダイレクトミニ」が公開された。大型タイトルとして「ダークソウル」のリマスター版はあったが,小型タイトルが中心だった。このため,一部ではサプライズがなかったように受け止められたようだ。しかし,日本ファルコムの「イースVIII」が日本一ソフトウェアから発売されることになったことは大きなサプライズである。
 日本一ソフトウェアは,ニンテンドーDSから任天堂プラットフォームにコンテンツ供給を開始したが,あまり積極的ではなかった。要因は複数あるのだが,同社は開発者の権限が強い傾向があり,開発が容易でマニア受けのイメージが強いPlayStationを好んでいたことも一因である。しかし,PS4単独で発売した「ディスガイア5」は国内販売が会社側の期待を下回り,損益的に厳しいものとなった。しかも,PS4に最適化したため,PS Vitaに移植することができなかった。そこで,性能ではPS Vitaを大きく上回るNintendo Switchに移植することにしたのである。
 結果的にNintendo Switch版は大成功だった。欧米で発売した「ディズガイア5コンプリート」は17万本以上の出荷を達成し,先般,日本と合わせて20万本を上回る出荷となったことをプレスリリースした。同社サイトでも,日本ファルコム社長との対談を掲載するなど,同社は特定の層だけに受ける体制から多くの人に露出を増やすことで賛否両論を巻き起こす方向に舵を切ったようだ。
 日本ファルコムも,会社規模が小さく,PSプラットフォームに展開することしかできず,任天堂プラットフォームはライセンスが中心であった。日本一はすでに米国での移植を手掛けていたこともあり,今回のイースVIIIの展開になったというわけである。
 任天堂プラットフォームには展開されないと思われていたブランドが展開されることは,任天堂にとって大きな成果と言えるだろう。

 そして1月18日午前7時に任天堂は,新しい遊び「ニンテンドーラボ」を発表した。Nintendo Switchと組み立て式ダンボールを合わせて「釣り」「ピアノ」「リモコンカー」「ホーム」「ロボット」など新しい体験を提供するというものである。
 Nintendo Switchは,これまで課題だったゲームマニアに先行して売ることに成功した。故・岩田社長はDS以降,投資家やマスコミ,そしてプレイヤーに染みついたバイアス「任天堂プラットフォームはライトプレイヤー向け」を払拭することを公言していた。
 Nintendo Switchの優れたデザイン・プレイスタイルがそれを実現したと言えるだろう。その結果,昨年末までにゲーム好きのプレイヤーをほぼ獲得できたと会社側は考え,その先の一歩を踏み出したということなのである。その尖兵が「ニンテンドーラボ」である。先行して始まった日本以外の主要国でのアマゾンによる予約販売が好調だったこともあり,ヒットする可能性が高まっている。これでプレイヤー層が広がれば,Nintendo Switchはさらにバランスが取れたゲーム機として成功することになるだろう。

 すでに,何度か,エース経済研究所では,"形"仮説について述べてきた。エース経済研究所でも,Wii U世代までは信じられていたソフト優先の考えであったが,Nintendo Switchの成功と「マリオカート」「ゼルダの伝説 ブレスオブワイルド」の販売動向を分析した結果,ゲーム機の販売は「デザイン」と「スタイル」で決まっているとの結論に至った。昨年発表した際にいくつかの予測を行ったが,SIEが年明けMONSTER HUNTER: WORLDで盛り上げを図っているのに対して,その影響が非常に限られたところにしか出ていない。反対に,任天堂の話題はマスコミ,ネットを見ても広い範囲で話題になっている。据え置き機ではNintendo Switchを大きく引き離すトップシェアであるPS4が話題で負けているように見える。もう少し観測する必要はあるだろうが,攻守は逆転しつつあるのではないだろうか?
 Xbox One Xも11月,12月はXbox Oneシリーズではトップとなったが,Xbox Oneを値下げした効果が大きかったことを考えるとXbox One Xが成功したようには感じない。
 エース経済研究所では,一定の整合性が"形"仮説にはあると考えている。そしてニンテンドーラボだが,ダンボールで組み立てるコントローラは誰にでも分かりやすいものである。デザイン性にも優れており,遊んでいる姿も想像しやすい。一定の成功が得られると予想している。
 やはり,見ただけで分かるというのは重要な要素なのであろう。エース経済研究所では,かつてWii Uの予想を誤ったが,その時点では見た目やプレイスタイルの重要性を軽視していたと言わざるを得ない。大きな反省材料である。やはり,失敗を認め,次に生かすことが大切と言えよう。