袖なしジャケットに80年かかる?:PUBGのLoot Box確率開示が示唆する問題点

一方,新しいプレミアムクレートでは最もレアなアイテムの入手に1562.5ドル(約17万4000円)かかる。

 大ヒットとなったPlayerUnknown's Battlegroundsの開発チームは
特定のアイテムをゲーム内Loot Box(※PUGBGではLoot Crate)で獲得する際の尤度(ゆうど≒確率)を公開した。

 このような数値は通常GamesIndustry.bizで取り扱うものではないのだが,ゲームの圧倒的な人気を考えるに,これらをよく調べてみる価値はあるだろう ― とくに市場で最大のゲームでLoot Boxの利用がより顕著なものになってきているので。

 最初に,Blueholeがこれらのドロップ率をすべて一般公開したという事実は,デベロッパがこのようなマネタイズモデルを取り巻く冷笑 ― いうまでもなく,マーケットプレイスやプラットフォームホルダーからの透明性に対する要求の高まり ― を意識した変化を示唆するものである。

 2016年を振り返ると,中国政府はすべてのデベロッパにLoot Boxに含まれる全アイテムの獲得確率を明示することを義務付けた(関連英文記事)。一方,Appleはちょうど昨年のクリスマス前にApp Storeでこれに追随している(関連英文記事)。

 次期パッチのリリースノートでPUBGチームは2種類の新たなLoot Crateを解説している(参考URL) ― Biker Boxと有料のDesperado Boxだ。Ars Technicaによると後者はアンロックに必要なゲーム内通貨(Killや勝利などのゲーム内の業績で得られるBattle Point)と2.5ドルのKeyの両方を必要とする(参考URL)。

 Biker Boxで最も一般的なアイテム ― 赤い長袖シャツや茶色のスクールシューズ ― は15%の出現率となっている(言い換えると20個のCrateから3個)。最もレアなアイテム ―袖なしバイカーズジャケットとチェック模様の布のマスク ―は0.01%の出現率しかない。入手には1万回の試行が必要になる(※期待値として)。

 付け加えると,PUBGでは週に6個までのCrate購入制限が実装されている。Ars Technicaの推測によると,ジャケットを手に入れるための1万個のCrateを買うには4166週間 ―もしくは約80年―かかるという。

 お金持ちのプレイヤーがレアな武器をアンロックしてバランスが崩れるのを防ぐための購入制限だとしたら,おそらく理解は得られるだろうが,これらのアイテムはすべて衣装なのだ。プレイヤーがより自由にCrateを開けることを妨げる決定はちょっと混乱を招く。

 フルプライスの家庭用ゲームではLoot Boxはかなり一般的になってきているのだが,このようなドロップ率の公開制限は行われていない。例として直近の四半期での大作を見てみよう。EA,Activision そしてUbisoftはStar Wars Battlefront II,Call of Duty WW2そしてAssassin's Creed Originsのそれぞれで。Crateからのアイテム獲得尤度を公開していない。

 面白いことに,Activisionの子会社となるBlizzardはドロップ率を公開していることで知られている。OverwatchのLoot Boxは7.4%(500個中37個)でレアなLegendaryアイテムが含まれており,Hearthstoneでは20パックに1個のLegendaryアイテム,230パックに1個のGolden Legendaryアイテムをプレイヤーに与えている。PUBGのジャケットの1万回に1個よりはかなり少ない(※必要な試行回数がという意味だと思われる)。

※Overwatchなどのドロップ率公開は,EpicやLegendaryというカテゴリ単位の出現率であり,個々のアイテムに関するものではない。

 もしかしたら,有料のDesperado Crateならばもっと有利な確率じゃないかと思う人もいるかもしれない。しかし,最も一般的なアイテムの出現率は8%だ(25回で2個)。最もレアなアイテムはBiker Crateよりちょっとだけ有利な設定で,0.16%(625回で1個)となっている。 ―週に6個2.5ドルの箱を開けたとしても,プレイヤーは豹柄の布マスクを手に入れるのに5年と1562.5ドルかかる。

 最終的に,新たなDesperadoないしBiker Crateのどちらもプレイヤーがアンロックできる可能性が40%しかないのでは意味がない。 −むしろ彼らはゲーム内で入手できる確立されたBoxをアンロックするだろう。

 もちろん,要点はこれらがすべて衣装だということだ。ゲームを楽しむには不可欠なものであり,そして(Biker Crateの場合は)無料で入手でき,それゆえクレジットカードの支払いが見つかって親に払い戻しを要求されるような問題は抱えていない。

 しかし,デベロッパがドロップ率を考え直す価値はあるだろうか? すべての人がすべてのアイテムを入手できるようなコンテンツシステムを作成することは不可能ではない。 ―タイトルが提供しているすべてのロックを解除したようなものは,間違いなく何人かのプレイヤーは競合タイトルに逃がしそうではあるが。

 それでも,このPUBGの,プレイヤーにアバターのコスチュームオプションを与えるためにしてはちょっと不必要でなないかと思われるような数値を分析すると,デベロッパは何年間もユーザーをゲームに引き付けておきたいと願っている。それはそうだ。しかし80年はないだろう。(確かにこれはDesperadoから特定のジャケットに対してのみ適用される極端な数字だが,ゲームの人気の影響なしにでももう少し短くできるように思われる)

 さらに重要なのは,各国政府がだんだんビデオゲームがどのようにマネタイズしているかに気づき始めており,規制の話が表面化してきていることだ(関連英文記事)。パブリッシャは自分たちのビジネスモデルがどれくらい公正なものと思われているのかを認識する必要がある。現在も続く,Loot Box(ガチャ)が賭博になるのではないかの議論を鑑みると(関連英文記事),625回に1個の確率ではおそらく業界の支持は得られないだろう。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら