VRはコミュニケーションツールになるのか? カラオケでのVRルーム体験レポート

 すでにお伝えしているように,2017年7月6日からテクノブラッドとスタンダードによるカラオケ店舗でのVRサービスが開始される(関連記事)。そこではどんなサービスが展開されるのか,事前に体験する機会があったので早速行ってきた。
 サービスが開始されるのはJOYSOUND品川港南口店で,1階と3階にそれぞれ1室ずつVRルームが新設されている。今回試したのは3階の部屋で,1階のほうがちょっと広いとのことであった。ルームスケール設定はだいたい2m四方くらいとのこと。

 まずVRルームの部屋の構成を簡単に説明しておくと,四角い部屋の4面のうち両脇の2面には壁沿いにソファが並べられている。残りの1面はカラオケ機器や大型ディスプレイが集中して配置され,VR用PCも脇に置かれている。そして残りの1面には,緑の布が掛けられている。つまり中央部には空間が空けられており,そこでルームスケールのVR体験ができるわけだ。テーブルがないので,食べ物を頼むと微妙に困ることもあるかもしれない。

部屋の前方と後方
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 テレビ側にはカメラもついており,グリーンバックの手前側にあるものとVR空間をクロマキー合成して大型ディスプレイに映し出すことができる。VRヘッドセットを付けた人がどんなVR空間にいるのかをギャラリーが確認できるようになっている。緑色の服は着ていかないほうがいいだろう。

 この部屋は「VRも」できる部屋なので,もちろんセレクターの切り替えで普通のカラオケも楽しめる(セレクター2つの切り替えが必要なので注意)。

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 提供されるVRサービスは現在のところ5種類だ。

●VR SPORTS
 VR SPORTSには4種のスポーツゲームが含まれている。
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 まずはボクシングから紹介しよう。起動すると,まず目の前に並んだグローブを選択する画面となる。ある程度VRゲームに慣れた人でないと戸惑うシーンかもしれないが,手を伸ばしてグローブを掴めばよい。これが難易度選択となっている。似たような操作はほかのゲームでも出てくるので覚えておこう。
 で,右手のグローブを相手のグローブにチョンと当てるとラウンド開始となる。
 操作はボクシングなので殴ればいいわけだが,グローブはもちろん攻撃と防御を兼ね備えている。狙うのは主に頭と腹になるが,相手も防御を固めているので,カウンター狙いが有効な感じだった。スウェイやダッキングで物理的に避けることも可能だ。
 結構体力を使うゲームでもあり,本気で腕を振るとなにかと危険なので,必ずストラップを手に通して楽しもう。

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 ボウリングは見たまんまのボウリングで,操作といっても,基本は右手側にあるボール置き場からボールをつかんでレーンに投げるだけ。ボールの重さもさまざまだが,どの程度違いがあるのかは不明だった。もちろん重い球でも軽い球でも,VRだと手に持って投げる分にはなにも変わらない。
 で,適当に投げてみるとガーター,ではとスパットを見て投げてもガーター。実際のボウリングだとナチュラルにフックがかかる人のほうが多いとは思うのだが,このゲームではあまりかからない。というかかかってる気配がなかった。リリース時の手首の返し次第だとは思うのだが,少なくとも私の場合はまったく曲がらなかったので,素直に直線で狙う感じのほうがうまくいった。

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 カートは,今回のゲームで唯一着座でプレイするタイプのものとなっている。両手はハンドルを握った状態で表示され,手の動きでハンドルが切られる。右手側トリガーがアクセルで左手側トリガーがブレーキとなる。両方押すとバックという仕様だが,走行時には両方押しても単にブレーキになるだけのようだ。
 両手を回すという操作自体は直感的なのだが,手をどれくらい動かすとハンドルがどれくらい回るといったあたりがいま一つ直感的ではない感じだ。まあ,それも慣れではあろう。最初は壁に突っ込んでばかりいたが,3周めになるとスムースに周回できるようになった。難度にもよるかもしれないが,EASYでは基本的にフルアクセル&ノーブレーキでドリフトだけで周回できるようだった。

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 サッカーではゴールキーパーの体験ができる。セットプレイからの直接ゴールを阻止するのが前半,後半はPK戦だ。試したのはEASYモードなので蹴ると同時に横っ飛びみたいなことにはならないのだが,いきなり曲げてきたりするので侮れない。
 トリガーを押すと指を曲げることもできるのだが,キャッチは本当に難しい。パンチングで跳ね返すだけでもセーブには違いないので,まずは確実に弾けるようになるのが目標だろうか。

 スポーツゲームのすべてについて言えるのは,体感ゲームであり操作感覚は実際の体の感覚に近いものではあるが,ゲームならではのクセというかコツはあるので,早めにそれを掴むのが肝要だ。
 また,カートはともかく,スポーツゲームだけあってそれなりに体力を使う。とくにボクシングはガチでやると一汗かくくらいの運動量になる。わいわい楽しむなら緊張感のあるサッカーが楽しめそうだ。

●SEIYA
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 SEIYAはVRリズムゲームである。飛んでくる歌詞にタッチして歌を完成させるというゲームになっている。飛んでくる歌詞はひらがなの文字や★などの記号になっており,左右の手で触れるとその歌詞が歌われるという仕掛けだ。
 難度は曲ごとに決まっており,星4つくらいが楽しめるとのことだったのでHARDと書かれた曲を試してみたのだが,確かにさほど難しくはない。細かい操作が必要になる一般的な音ゲーと比べて,手を伸ばして触れるという直感的な操作なので,初見でも結構いけるはずだ。
 そこそこ運動量も多いので,一人できて1時間やりまくるとちょっとしたエクセサイズになるかもしれない。見た目にも多人数向きといえるだろうか。

●Tilt Brush
 Tilt Brushは,Googleの開発によるVRのお絵描き(彫刻?)ツールであり,ゲームではないのだがVRの楽しさを教えてくれるツールでもある。VR界隈では定番のツールといえるだろう。
 なにぶん,空間に絵を描いていくツールだけに絵心のある人が扱えばかなり盛り上がりそうだが,そうでないと見栄えのするものは難しいだろう。これは少しメンバーを選ぶコンテンツかもしれない。

●Project LUX
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 LUXはゲームではなく,VRを使ったアニメーション作品である。狼と香辛料の支倉凍砂氏が主催する同人サークルによるVRアニメーションで,3DレンダリングされたキャラクターがVR空間でストーリーを繰り広げていく。今回は機械製の義体を遠隔操作する主人公と少女との出会いの序盤だけさらっと体験してきた。なので,全体的なストーリーなどは分からない。設定などについては,こちらを見ていただけば理解が進むだろう。

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 全編で1時間ほどかかるとのことだが,着座するとプレイヤーの胴体部で視界がさえぎられることがあるので立位で眺めるのが基本となる。コントローラは使用しないが,視線によって選択をする場面はいくつかあり,マルチエンディングになっているらしい。チャプターごとに視聴もできるようなので,何度かに分けて楽しむのもアリだろう。大勢でやるよりは,フリータイムに一人で行ってがっつり楽しむのに向いたコンテンツだろうか。

 感想というか余談を少し。
 2次元のムービーではあまり気にならないと思うのだが,キャラクターが立体化して出てくると腕の細さが目に付いた。立体視では,目と肘だと目のほうが横幅があることが如実に分かってしまうのだ。極度に細い手足というのは常識的に考えると不自然なのだが,イラストなどの表現ではそういった誇張はさほど目立たない。目立たないとはいえ,指みたいに細くすれば不自然には見えるだろう。動画で動かすと肉付きを考えてデザインし直されることもありそうだ。3Dだともっと注意が必要で,VR(立体視)だとパースが付くので,大きさというのは場合によってはクリティカルになる。どこまでが自然に見えるかの閾値というのは表現方法によって異なるのだろう。今回の場合,意図的かどうかは知らないが,視差が大きめで遠近感が過剰気味だったので,距離によるプロポーションの変化も大きめになっていた。
 ということで,この作品に登場する女の子はイラストに忠実なモデリングがされているのだが,VRではそれまで目立たなかった不自然さが浮かび上がる。キャラクター自体は可愛いのだが,そのままではVRには向いていないように思われた。
 バンダイナムコがサマーレッスンでアニメキャラクターを却下したというのは,いろんな意味で正しい判断だったんだなあと思い起こした次第だ。

●四の連鎖
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 四の連鎖はVRホラーゲームだ。墓場(?)に肝試しに行ってはぐれてしまったプレイヤーは,手には懐中電灯とスマホを持ち,あたりを探索する。基本的に移動はなく,周囲にいろいろ現れるモノが主役となる。細かい内容を説明するのは興醒めなので,こういうのがお好きな人はぜひ試してみてほしい。
 ホラーというと,怖いというより予測不可能なところから「ばぁ〜」と驚かせるようなものが多いのだが,今回体験した限りでは,この作品に関してはそういう要素はまったくなかった(説明書きを見る限り,いくつか見落としていたものもあったようだが)。実際に提供されるのは今回体験したものよりも怖いバージョンになるとのことなので,いろいろ要素は追加されるのかもしれない。
 内容的に多人数向きか,一人で行ってひっそりやるのがいいかは判断が難しいところだが,ネタバレ防止でディスプレイを消して順番にやるとかはアリかもしれない。


VRの大衆化はカラオケから進むのか


 体験して少し残念だったのが音響システムだ。今回のVRルームはギャラリーと一緒に楽しむものということもあってか,ヘッドフォンなしで部屋のスピーカーを使って音声を聞く形式だったのだが,当然というべきか,音の定位が画面方向の左右に固定されてしまうのだ。カラオケなので7.1chシステムなどが用意されているわけではないのは分かるのだが,ここはぜひコンテンツと整合性の取れた方向での立体音響にしてほしいところである。
 あと,グリーンバックを前に動くプレイヤーと合成された画面の配置は,部屋の両脇からではちょっと見づらいのではないかという気もする。画面の大型化や他画面化が行えればベターといった感じだ。

VRはコミュニケーションツールになるのか? カラオケでのVRルーム体験レポート

 さて,なんにせよカラオケ店舗でVRというのは面白い試みだ。機材などを考えると遊び放題で30分あたり+200円というのは破格といっていいと思う。今後どんどんコンテンツが増えていくとのことなので,一度試して終わりではなく,継続的な利用も見込めるようになるだろう。
 低料金でできる理由の一つが,人件費がかからないことであろう。VR体験施設では,係員が付き添うことがほぼ必須となっているが,今回は通常のカラオケ機器と同様にアテンドなしでの運用を行う方針だという。
 ゲームはメニューだけで起動できるようにランチャーが作られており,プレイ方法はインストラクションカードにまとめられている。それだけで大丈夫かというと多少不安はあるのだが,ある程度慣れた人が増えてくればうまく回っていくのだろう。

VRはコミュニケーションツールになるのか? カラオケでのVRルーム体験レポート
 VR機器を所有している人は分かるだろうが,ルームスケールのセットアップはスペース的に結構大変で,今後VRヘッドセットがさらに低価格化してきても,日本では運用スペースの確保が難しい人も出てくるだろう。これはViveに限った話ではない。RiftでもTouch登場以降は似たような問題を抱えている。
 そうした中で,VR用のテーマパークであったり,専門施設であったりといったものが登場してきており,さらにはゲームセンターでVRを体験できる筐体などが登場しつつあるが,一部を除いてはルームスケールの体験は提供されていない。VRを楽しむための空間の確保は難しいのだ。
 空間ないし個室の提供という意味では漫画喫茶やカラオケという既存のサービスがあり,VRとの親和性は高い。スペース的に,漫画喫茶に向いているのはVirtual Gateも進めている着座型VR体験であり,カラオケに向いているのが今回のようなルームスケールだというのは間違いないだろう。
 カラオケ店舗でも広い部屋でないと設置できない,テーブルが置けないなどのデメリットが発生するなど,一長一短があり,すべての部屋へ導入というのは難しいだろうが,これが普及していけば飲み会のあとの新たなコミュニケーションツールとして面白い位置を占めることになりそうだ。

Virtual Gateカラオケ公式サイト