2016年度ゲーム業界決算状況その1(プラットフォーマー編)
2016年のゲーム業界各社の年度決算が出揃った。株式上場を行っている企業は数多いわけだが,まずはプラットフォーマーだけを抜き出して業界の最新地勢図を概観してみよう。
■ソニー
全社的には減収減益となっている。利益面で見ると,金融,映画,ゲーム,音楽が上位になり,モバイル・コミュニケーション,ホームエンタテインメント&サウンド(テレビ,AV機器など),コンポーネント(電池,記録メディアなど)といった製造業種は赤字という状況だ。昨年減損処理により大きな損失を出していた半導体部門は黒字化しているが,電池事業の譲渡など製造業種はいっそうの縮小が続いている。このところ毎年のようにオリンパスやエムスリーなどの株式売却で数百億円規模の利益があるはずだが,有価証券売却(純額)ではそれをかなり下回る数字になっており,かなりの額の売却損を出していることも分かる。
ゲーム部門の売上高と営業利益を見ると,売上高は低下したものの利益は大きく上昇している。これは本体価格の引き下げで売上高は低下したが,コストダウンで利益率自体は向上していることと,利益率の高いネットワーク販売のソフトウェアが好調なためとされている。
さらに細かく見ていくと,比率的にネットワークが伸び,今年はさらにその他の部分も伸びていることが分かる。なお,なお,グラフの「ハードウェア」にはゲーム機本体,「ネットワーク」はPSN会員費やダウンロード版販売,「その他」にはパッケージソフトや周辺機器が含まれる。
ハードウェアは,ここ数年で見ると横ばい傾向にあるが,2016年第2四半期にはPS4の価格改定版とProの発売があり,例年と比べて一時的に売り上げが増加している。以降は,価格引下げの影響もあって売上高自体は微減している。ただ,その部分の金額を14%増し(旧価格)にしてみると,ほぼ横ばいとなり,台数自体は前年とほぼ変わらないことが分かる。ネットワーク売り上げの増加に伴って減少傾向にあると思われるパッケージ販売だが,今回の数字からだけでは状況が判断がつかない。その他にはPlayStation VRが含まれるので,その他自体は全体的に増加している。
ネットワークでのソフトウェア販売などがどの程度の割合なのかを推定するために大雑把なグラフを作ってみた。PS Plusの会員数は散発的にしか発表されていないので,現状の会員数を知ることは難しい。ここでは発表されている時期と数字を直線補間したものを代替として用いて,12か月契約相当の費用を支払っていると仮定して固定収入を推測し,残りのものをダウンロード版販売と見なしている。パッケージソフトの売り上げと周辺機器の売り上げ比率も不明なので,ここでは暫定的に「その他」を丸ごと色分けしているが,そこに周辺機器などが含まれている。グラフは当然ながら正確なものではないが,大きく外れているということもないと思われるので,参考程度に見ておいてほしい。
次で紹介する任天堂と比べるとダウンロード販売比率が段違いに大きい。これはデジタル配信に力を入れていることもあるだろうが,自社販売のパッケージソフト数も関係しているかもしれない。
■任天堂
昨年比で売上高は微減,営業利益ベースでは10.7%のマイナスとなった。今年度は期末にNintendo Switchの発売が予告されていたものの,事業計画自体はかなり慎重なものとなっていたので,計画に対しては上ブレを示している。純利益は非常に高くなっているものの,これはシアトルマリナーズの一部株式売却益とPok醇Pmon GO関連の収入が大きく寄与している。
コンサバな見通しだった今年度で予想外だったのは,やはりPok醇Pmon GOのヒットだろう。直接任天堂が関わった製品ではないが,ライセンス収入だけでもかなりのものとなっていると思われる。第3四半期のニンテンドー3DSの売り上げ増は,この時期に発売されたポケモン新作にも大きな追い風となっている。
ポケモンなど子会社の収益は,持分比率に応じて「持分法による投資利益」として営業外収益に計上される。これは個別に計上される場合とされない場合があるので,個別計上されない場合の「その他」を含めて最近の推移を見てみた。
途中で「その他」がマイナスになっているのは,有価証券償還益として個別計上されたりしているためだ。今年で見ると,任天堂の営業利益は300億円弱である。それに対し,持分法による投資利益が200億円以上となっている。持分法による投資利益がすべてポケモンからのものではないことを念頭に置いても,今年のそれがかなり大きなものであることは推測できる。
今年最大のトピックはNintendo Switchの発売だが,第4四半期末に発売されているため,今回の決算には1か月分の数字しか乗っていない。現状では作っただけ売れている状況であり,ハードウェアとソフトウェアの安定供給ができるかが注目される。
ハードウェアについては,年間1000万台の生産計画を発表して重要に応える体制であり,ソフトウェアについては任天堂自社の大きめのタイトルを定期的に出す販売計画を発表している。もちろん3DSやWii Uのローンチでもコンテンツ供給の計画は立てられていたわけだが,ことごとく後ろ倒しになっていた。さすがに今回は外さないことを願いたい。
機種ごとの動きをまとめたのが次のグラフだ。上がハードウェアの台数ベース(単位万台),下がソフトウェアの販売本数(単位万本)となっている。
●プラットフォーム別売上高推移
値段が違うものなので並びで比較することに意味はないのだが,全体的な傾向を見るうえでは参考になるところもあるだろう。現状,絶好調な感じのSwitchも数字の上ではまだまだこれからといった感じである。こう見ると,今期1000万台の出荷予定というのは,かつてのWiiやDSと比較すると規模感は小さく,立ち上がりが鈍かった印象の強い3DSと同じくらいのペースとなるのが分かる。
ところで,今期の決算短針では2016年度の第4四半期だけ販売実績数値の扱いが変更されている。このような資料で年度中に扱われる指標数値の種類や区分が変更されることは珍しい。具体的にはハードとソフトの区分けがなくなり,地域セグメント情報が詳細になっている。同社がなぜこれだけ地域セグメント情報を重視しているのかは不明だが,その売上高合計の推移を示すグラフを作ってみた。
特徴的なのは,最新四半期では北米の売り上げがかなり上がっている部分だろう。以前,弊誌に連載をしている安田氏が独自に同社にヒアリングをした結果,Nintendo Switchを北米優先で出荷している旨を聞き出していたが,それを裏付ける数字といえるのではないだろうか。
残念ながら,ハードとソフトの売り上げ内訳などが非公開になったものの,変わらず公開されている数値がある。それはダウンロードコンテンツの売上高だ。せっかくなのでどの程度の比率なのかを見ておこう。ここでは便宜的に,ソフトウェア売り上げのうち,ダウンロード売り上げを除いたものをパッケージ売り上げと仮定している。
ご覧のとおり,ダウンロード販売の比率はかなり低い。利益率だけを追求していればこういう比率にはならないだろう。
Switch用ゲーム売り上げ546万本のうち,ゼルダの伝説が276万本なので残りは270万本となり,ゼルダ以外のAttach Rateは1を下回る。判明しているものでは,ボンバーマンRの50万本以上,4月末時点ではあるが1-2 Switchが100万本近く,いっしょにチョキッと スニッパーズが35万本ということなので,これら以外のタイトルで100万本といったところだろうか。今後,このプラットフォームで任天堂以外のプレイヤーがどれくらい利益を上げられるかも課題となるだろう。
スマートデバイス事業については,200億円程度の売り上げだ。Miitomoに続いて,本格的なゲームが2作品投入された。Super Mario RunとFire Emblem Heroesだ。これらにはそれぞれ違うビジネスモデルが採用されているが,決算説明会資料によるとSuper Mario Runについては「徐々にではありますが、購入者数も 増えています」,Fire Emblem Heroesについては「満足のいく売り上げ水準に到達しています」といった評価がなされている。
健康産業などの話題がまったく出なくなっているが,とくに中止の報も出ていないので水面下で進められていると思われる。長年続いてきた事業規模の縮小はさすがに今年で底を打ったと思いたいところだ。
■Microsoft
ゲーム関連の数字が公開されなくなって久しいMicrosoftだったのだが,今年の決算ではゲーム関係の売上高のみ公開されていたので参考までにグラフを掲載しておこう。
公開されているのは,MicrosoftのFY2017Q1〜Q3の範囲の数字だが,Q1〜Q3の四半期売り上げは前年比のGAAPでそれぞれ,-5%,-3%,+4%だったとのことなので,前年分の推定値も追加している。単位は100万ドルだ。なんとなく以前より売り上げが大きく伸びているようにも見える。以前とは区分けが異なるので直接の比較には適していないのだが,Windowsベースのゲーム売り上げが加算されているにしても,意外な結果となっている。
これだけだと規模感が分かりにくいので,直近3四半期の3大プラットフォーマーの売上高をまとめてみたのが次のグラフだ。単位は億円となっている。
Xboxの不調でソニーに差をつけられ,Switch発売で任天堂に追いつかれつつあるといった感じだが,今年はProject ScorpioやWindows Mixed Realityなどの展開で大化けする可能性もある。今後の展開に期待したい。
(参考)2015年度ゲーム業界各社決算まとめ(その1)
■ソニー
全社的には減収減益となっている。利益面で見ると,金融,映画,ゲーム,音楽が上位になり,モバイル・コミュニケーション,ホームエンタテインメント&サウンド(テレビ,AV機器など),コンポーネント(電池,記録メディアなど)といった製造業種は赤字という状況だ。昨年減損処理により大きな損失を出していた半導体部門は黒字化しているが,電池事業の譲渡など製造業種はいっそうの縮小が続いている。このところ毎年のようにオリンパスやエムスリーなどの株式売却で数百億円規模の利益があるはずだが,有価証券売却(純額)ではそれをかなり下回る数字になっており,かなりの額の売却損を出していることも分かる。
ゲーム部門の売上高と営業利益を見ると,売上高は低下したものの利益は大きく上昇している。これは本体価格の引き下げで売上高は低下したが,コストダウンで利益率自体は向上していることと,利益率の高いネットワーク販売のソフトウェアが好調なためとされている。
さらに細かく見ていくと,比率的にネットワークが伸び,今年はさらにその他の部分も伸びていることが分かる。なお,なお,グラフの「ハードウェア」にはゲーム機本体,「ネットワーク」はPSN会員費やダウンロード版販売,「その他」にはパッケージソフトや周辺機器が含まれる。
ハードウェアは,ここ数年で見ると横ばい傾向にあるが,2016年第2四半期にはPS4の価格改定版とProの発売があり,例年と比べて一時的に売り上げが増加している。以降は,価格引下げの影響もあって売上高自体は微減している。ただ,その部分の金額を14%増し(旧価格)にしてみると,ほぼ横ばいとなり,台数自体は前年とほぼ変わらないことが分かる。ネットワーク売り上げの増加に伴って減少傾向にあると思われるパッケージ販売だが,今回の数字からだけでは状況が判断がつかない。その他にはPlayStation VRが含まれるので,その他自体は全体的に増加している。
ネットワークでのソフトウェア販売などがどの程度の割合なのかを推定するために大雑把なグラフを作ってみた。PS Plusの会員数は散発的にしか発表されていないので,現状の会員数を知ることは難しい。ここでは発表されている時期と数字を直線補間したものを代替として用いて,12か月契約相当の費用を支払っていると仮定して固定収入を推測し,残りのものをダウンロード版販売と見なしている。パッケージソフトの売り上げと周辺機器の売り上げ比率も不明なので,ここでは暫定的に「その他」を丸ごと色分けしているが,そこに周辺機器などが含まれている。グラフは当然ながら正確なものではないが,大きく外れているということもないと思われるので,参考程度に見ておいてほしい。
次で紹介する任天堂と比べるとダウンロード販売比率が段違いに大きい。これはデジタル配信に力を入れていることもあるだろうが,自社販売のパッケージソフト数も関係しているかもしれない。
ソニーIR情報ページ
■任天堂
昨年比で売上高は微減,営業利益ベースでは10.7%のマイナスとなった。今年度は期末にNintendo Switchの発売が予告されていたものの,事業計画自体はかなり慎重なものとなっていたので,計画に対しては上ブレを示している。純利益は非常に高くなっているものの,これはシアトルマリナーズの一部株式売却益とPok醇Pmon GO関連の収入が大きく寄与している。
コンサバな見通しだった今年度で予想外だったのは,やはりPok醇Pmon GOのヒットだろう。直接任天堂が関わった製品ではないが,ライセンス収入だけでもかなりのものとなっていると思われる。第3四半期のニンテンドー3DSの売り上げ増は,この時期に発売されたポケモン新作にも大きな追い風となっている。
ポケモンなど子会社の収益は,持分比率に応じて「持分法による投資利益」として営業外収益に計上される。これは個別に計上される場合とされない場合があるので,個別計上されない場合の「その他」を含めて最近の推移を見てみた。
途中で「その他」がマイナスになっているのは,有価証券償還益として個別計上されたりしているためだ。今年で見ると,任天堂の営業利益は300億円弱である。それに対し,持分法による投資利益が200億円以上となっている。持分法による投資利益がすべてポケモンからのものではないことを念頭に置いても,今年のそれがかなり大きなものであることは推測できる。
今年最大のトピックはNintendo Switchの発売だが,第4四半期末に発売されているため,今回の決算には1か月分の数字しか乗っていない。現状では作っただけ売れている状況であり,ハードウェアとソフトウェアの安定供給ができるかが注目される。
ハードウェアについては,年間1000万台の生産計画を発表して重要に応える体制であり,ソフトウェアについては任天堂自社の大きめのタイトルを定期的に出す販売計画を発表している。もちろん3DSやWii Uのローンチでもコンテンツ供給の計画は立てられていたわけだが,ことごとく後ろ倒しになっていた。さすがに今回は外さないことを願いたい。
機種ごとの動きをまとめたのが次のグラフだ。上がハードウェアの台数ベース(単位万台),下がソフトウェアの販売本数(単位万本)となっている。
●プラットフォーム別売上高推移
値段が違うものなので並びで比較することに意味はないのだが,全体的な傾向を見るうえでは参考になるところもあるだろう。現状,絶好調な感じのSwitchも数字の上ではまだまだこれからといった感じである。こう見ると,今期1000万台の出荷予定というのは,かつてのWiiやDSと比較すると規模感は小さく,立ち上がりが鈍かった印象の強い3DSと同じくらいのペースとなるのが分かる。
ところで,今期の決算短針では2016年度の第4四半期だけ販売実績数値の扱いが変更されている。このような資料で年度中に扱われる指標数値の種類や区分が変更されることは珍しい。具体的にはハードとソフトの区分けがなくなり,地域セグメント情報が詳細になっている。同社がなぜこれだけ地域セグメント情報を重視しているのかは不明だが,その売上高合計の推移を示すグラフを作ってみた。
特徴的なのは,最新四半期では北米の売り上げがかなり上がっている部分だろう。以前,弊誌に連載をしている安田氏が独自に同社にヒアリングをした結果,Nintendo Switchを北米優先で出荷している旨を聞き出していたが,それを裏付ける数字といえるのではないだろうか。
残念ながら,ハードとソフトの売り上げ内訳などが非公開になったものの,変わらず公開されている数値がある。それはダウンロードコンテンツの売上高だ。せっかくなのでどの程度の比率なのかを見ておこう。ここでは便宜的に,ソフトウェア売り上げのうち,ダウンロード売り上げを除いたものをパッケージ売り上げと仮定している。
ご覧のとおり,ダウンロード販売の比率はかなり低い。利益率だけを追求していればこういう比率にはならないだろう。
Switch用ゲーム売り上げ546万本のうち,ゼルダの伝説が276万本なので残りは270万本となり,ゼルダ以外のAttach Rateは1を下回る。判明しているものでは,ボンバーマンRの50万本以上,4月末時点ではあるが1-2 Switchが100万本近く,いっしょにチョキッと スニッパーズが35万本ということなので,これら以外のタイトルで100万本といったところだろうか。今後,このプラットフォームで任天堂以外のプレイヤーがどれくらい利益を上げられるかも課題となるだろう。
スマートデバイス事業については,200億円程度の売り上げだ。Miitomoに続いて,本格的なゲームが2作品投入された。Super Mario RunとFire Emblem Heroesだ。これらにはそれぞれ違うビジネスモデルが採用されているが,決算説明会資料によるとSuper Mario Runについては「徐々にではありますが、購入者数も 増えています」,Fire Emblem Heroesについては「満足のいく売り上げ水準に到達しています」といった評価がなされている。
健康産業などの話題がまったく出なくなっているが,とくに中止の報も出ていないので水面下で進められていると思われる。長年続いてきた事業規模の縮小はさすがに今年で底を打ったと思いたいところだ。
任天堂IR情報ページ
■Microsoft
ゲーム関連の数字が公開されなくなって久しいMicrosoftだったのだが,今年の決算ではゲーム関係の売上高のみ公開されていたので参考までにグラフを掲載しておこう。
公開されているのは,MicrosoftのFY2017Q1〜Q3の範囲の数字だが,Q1〜Q3の四半期売り上げは前年比のGAAPでそれぞれ,-5%,-3%,+4%だったとのことなので,前年分の推定値も追加している。単位は100万ドルだ。なんとなく以前より売り上げが大きく伸びているようにも見える。以前とは区分けが異なるので直接の比較には適していないのだが,Windowsベースのゲーム売り上げが加算されているにしても,意外な結果となっている。
これだけだと規模感が分かりにくいので,直近3四半期の3大プラットフォーマーの売上高をまとめてみたのが次のグラフだ。単位は億円となっている。
Xboxの不調でソニーに差をつけられ,Switch発売で任天堂に追いつかれつつあるといった感じだが,今年はProject ScorpioやWindows Mixed Realityなどの展開で大化けする可能性もある。今後の展開に期待したい。