[Unite]Unite 2017 Tokyo開催,基調講演から見るUnityの現状と最新機能
開催初日朝に行われた基調講演では,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン日本担当ディレクター大前広樹氏などによってUnityの現状とイベントの概要などが紹介された。ここではその基調講演の模様をお伝えしたい。
アナウンスされていたものが次々と動き出すUnityの現状
最初の物理ベースレンダリングを搭載した5.0自体が前バージョンから非常に大きなアップデートであったのだが,アップデート内容をまとめたスライドを見ると,その後も着実にアップデートを続けており,改めて見ると追加される内容は日を追うごとに増えていっていることが分かる。
なお,Unity 5は3月に発表された5.6を最終版として,以降は(おそらく6月のUnity Europeに合わせて発表されるであろう)Unity 2017に引き継がれる。最初のバージョンはUnity 2017.1であり,2017.2,2017.3……と続いていくようだ。こちらのインタビューでは四半期に一度を目安に更新していくといったUnity CEO John Riccitiello氏の発言もあるので,今後は定期的に更新されていくのであろう。
さて,各種フィーチャの追加と並んでUnityが推し進めていたのはマルチプラットフォームの強化だ。Unity 5になってからだけでも非常に多くのプラットフォームが追加されており,とくにVR/AR展開では,ほぼ標準的なツールとして活用されるようになっている。GoogleのDaydreamやCardboardにもネイティブ対応し,Unity 2017.2ではARプラットフォームのTangoにも対応する。MicrosoftのHoloLensにはすでに対応済みで,さらにARプラットフォームのVuforia(Unity 2017.2でUnityに統合予定),Facebook Spaceなど,とくにAR/MR系では圧倒的な強さを誇っている。HoloLensのアプリだと91%がUnityで作られているそうだ。
また,最近Unityが力を入れているのがコンシューマゲームへの対応であるという。Nintendo Switchではローンチ時に5タイトルがUnityで製作されたものとなったなど,メーカーと協力して非常に早期から開発環境を用意する体制ができあがってきている。
次に大前氏が挙げたのは教育関係だ。同社はUnity Educationプログラムで教育関係者に無償でライセンスを提供する施策を進めているが,日本国内では現在,99校がこれを利用しており,2万1331本のライセンスが提供されているという。また,昨年発表されていたUnityの認定試験などに向けて学習用のコースウェアが整備され,本日(5月8日)から利用可能になったことが発表された。Unity開発者試験の日本語化も注意深く進められており,認定トレーニングセンターの開設など,昨年発表された施策がいよいよ動き出すといった感じだ。
そのほか,教育関係での展開を進めるに当たってのトピックとして紹介されたのは,ゲームデザイナー安原広和氏がユニティ・ジャパンに参加したことだった。そして氏が中心になって作られているのが「小学生から学べる あそびのデザイン講座」だ。これはUnityを使った「ゲームの作り方」である。単にUnityの使い方ではなく,作成したプロジェクトがゲームとして成立するような,プログラムをゲームたらしめている部分はなにかを教えていくような教材となるという。小学校の授業で使われることを想定しており(もちろん小学生でなくても使えるが),現在,15回分の学習用教材と教員向けの指導ガイド,そしてUnityのプロジェクトデータから構成されるものが準備中であり,7月から無料で順次公開予定だとのこと。
さらにUnityユーザーをつなぐUnity Connectの日本版が本日より開始されたことも発表された。Connectはゲーム開発の人材を見つけるためのコミュニティであり,エンジニア,デザイナー,アーティストなどが自身の作品をアップロードしてアピールできる場でもある。すでに日本でもDeNA,コロプラ,,BeXide,GEMDROPS GAME STUDIOSなどによって活用が行われており,日本語版の公開によってますます多くの会社で使われるようになることが期待されている。
グラフィックス関係の最新ツール
まず,紹介されたのはライトエクスプローラだ。これはシーン内のすべてのライトの情報を一望できるツールで,そこからライトの状態を変更できるようになっている。サンプルとして表示されたデモではすべてのライトが「Baked」になっていたが,これをリアルタイムにすれば,光源は動的に扱われ,さらに5.6から追加されたという「Mixed」にすれば,通常の陰影は焼き込みで処理しつつ,動的な物体にはリアルタイムの影を落とすといった複合処理ができるという。その際には,影の中の影は重ねないといった処理が適用される。
また,新たなツールであるプログレッシブライトマッパーも紹介され,ライトの色を変えると,瞬時,とまではいかないがかなり高速に画面のライトマップが更新されるというデモも披露されていた。ライトの変更終了の直後には画面の色が変わるが,よく見ると細かい部分はじわじわと修正されていくのが分かる。プログレッシブと名付けられている所以だろう。
視界に入る範囲のみ処理するなど,ライト設定のプレビューは非常に高速になっており,作業効率はさらに上がっていくことが期待される。
NavMeshはより便利に
続いて紹介されたのはキャラクター移動AIツールのNavMesh関連だ。Unity 5.6では複数のNavMeshに属性を付けて扱うこともでき,会場では横幅の広いキャラ向けのNavMeshと横幅の狭いキャラ向けのNavMeshが設定されたシーンが紹介され,横幅の広いキャラが途中でつっかえる様子などがデモされていた。また,新たに導入されたNavMeshLinkでは複数のNavMeshを接続する際に,接続部の幅が設定できるようになった。
2種類のNavMeshが適用されている |
OffMeshLinkとは異なりNavMeshLinkでは幅を設定できる |
そのほか,NavMeshのついた状態でプレファブ化が可能になり,壁と通路のパーツでできたプレファブを用意しておけば,簡単にランダムマップが作れるようなことも紹介されていた。
自動生成されたナビゲーション付き迷路 |
迷路が更新されるとNavMeshも更新される |
カットシーンは自由自在。映像ツールとしてTimeline
ここで再度大前氏が登壇し,映像周りの話題が紹介された。
昨年のUniteで注目されたものの一つに,マーザアニメーションプラネットがUnityをレンダラとして使用して,ハリウッドクオリティのCG映像を制作したという「The GIFT」の事例があった。さらに昨年のUniteで紹介されたプロジェクトの一つでUnity 2017での正式実装が期待されている(現在は試験実装)ものにカットシーンエディタのTimelineがある。
ユニティ・ジャパンがマーザに「今度はリアルタイムでやってみませんか」ともちかけたところ,The GIFT以前に独自エンジンでリアルタイムの取り組みをしていたことがあるとのことで,それをTimelineを使って作り直そうということになった。その結果が「Ultimate Bowl 2017」というプロジェクトだ。会場では,その映像が紹介された。
リアルタイムなので,映画並みのCGクオリティとまではいかないだろうが,リアルタイムである証拠として,Timelineのエディタ画面を使ってポストエフェクトやシーン割りなどを変更してみせるデモが行われていた。単体で映像作品として仕上がっているカットシーンが作成できるツールということで,大いに注目される。このプロジェクトデータは5月に公開予定とのこと。
さらに映像関連では,カメラワークを制御するCinemachineの紹介がMeijer氏から行われた。同社の技術でもADAMのアセットを使って3体のアンドロイドが単に歩くというシーンが作られ,これをカメラワークでどう見せられるのかなどが紹介された。
Timeline上に複数のカメラ設定を割り当て,それに従ってカメラワークが切り替わる様が示された。2つのカメラ位置の補間も可能で,サイドから背後にかけての回り込みなども簡単に指定できる。
カメラはオブジェクトに追従し,この例だと目の部分に設定された黄色い点が一定の窓の範囲にある場合はカメラは動かず,青い部分に達すると追従してフレームが動くといった挙動となるという。フレームの切り方などは随時変更できるので,リアルタイム画面を見ながら手早い編集が可能だ。また,キャラクターの動きに対してカメラが指定された挙動を示すので,たとえばキャラクターの動きを変えた場合でもカメラ設定は(必ずしも)変更する必要はない。
興味深いのは,状況対応型のカメラ切り替えのシステムだ。昨今のカットシーンはゲーム進行からシームレスに移行するケースが多いため,ゲーム中の行動により地形やオブジェクトデータがどのような状態になっているか事前に判断できない。たとえば設定しておいたカメラの前に障害物が立ちはだかるケースもあるだろう。そういった場合に,影響を受けにくいカメラ位置を保険として指定しておけば,Cinemachineが自動的に判断して,指定のカメラ位置で支障がある部分だけをそちらに切り替えてくれるのだ。
2D機能もパワーアップ
Unity 5.6にはそのほかにも多くのアップデートがある。Uniteではそのような最新機能に関するセッションも多く行われていた。Uniteの講演の多くは後日Webで公開される予定なので,今回参加できなかった人はそちらの公開を待つのもよいだろう。