【月間総括】はたしてマルチタイトルはNintendo Switchに対応してくるのか

 2017年4月14日(日本時間),米国任天堂は,「Nintendo Switch:以下Switch」の米国での初月実売が90万6000台と,任天堂歴代ハードで最高の初動になったと発表した。また,同時発売された「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」が92万5000本の販売と装着率が100%を超えた(関連記事)。 

 これは極めて異例な状況である。エース経済研究所では,国内株式しかカバーしていないため,国内のデータしか持ち合わせていないが,装着率が同梱版以外で30%を超えることは珍しく,自身の経験でもローンチでここまで高かったものの記憶がない。
 前回,国内におけるゲームハードの成否についてお話ししたが,エース経済研究所では米国やそれ以外の国でも同様のハードルが存在すると考えている。
 少なくとも米国では成功したWiiを上回ったことで,このハードルを超えた可能性が高いだろう。世界市場の約半分を占める米国市場での成功は,グローバルでも成功できる可能性が高まったことを示唆するものと捉えている。
 国内では,やはり供給不足が続いている。4月16日までの実売台数は約65万1000台となっている。この水準は,PS4やPSVITAを上回っているものの,Wii Uを下回っており,とてもうまくいっているとは言い難い状況にある。
 ただ,興味深いのは,Wii Uを下回っているにもかかわらず,国内では販売が低迷しているとの報道がほとんど見られないことだ。この要因は,二つあると考えている。一つはPSVRもそうだったが,店頭に在庫がなく品薄の状態にあること,もう一つは任天堂の株価が上昇傾向にある点である。
 しかし,実は両者とも国内販売の好調さとは関係がない。先に挙げたPSVRが好例だが,店頭になくても出荷量が少なければ普及しているとは言えないのである。エース経済研究所が初動で販売が低迷すると挽回できないのではないか? との仮説を挙げているのは,プレイヤーがほしいと感じたときに入手があまりに難しすぎると関心が低下してしまうためである。また,普及台数が少ないと,サードパーティはソフトが売れたと実感できず,開発意欲の低下につながる。
 さらに,株価については,業績への寄与という観点からすると,欧米で約70%強の売上高を占める同社にとって日本での好調,不調が株価に与える影響は相対的に小さいのである。このようなことから,データ的にはWii Uを下回っていても,販売不調の話題が見られないのであろう。

SwitchのSoC
【月間総括】はたしてマルチタイトルはNintendo Switchに対応してくるのか
 ここからはSwitchのハードウェアについてお話ししたい。発売から1か月が経過しており,すでに分解記事などが出ているものの(関連記事),ハードウェアの詳細についてはいまだ公式な発表は行われていない。

 エース経済研究所が過去に出した自社のレポートでは,Switchは14/16nmFETを採用したPascalアーキテクチャのTegraで高速シリアルバスを搭載しているものではないかと予想していた。SoCに関しての詳細はいまだ不明であるが,20nmのMaxwell世代のものであるという噂が根強く,EETIMESの記事によればチップ内部の調査によって20nmベースのTegra X1と同じチップであることが明らかになったという(参考URL)。検証内容が明らかにされていないのでこれが正しいとは言い切れないが,公式に素性が公開されていない以上,Maxwellベースのものである可能性も考慮すべきだろう。

 ただ,公式には「カスタマイズされたTegraプロセッサ」となっているので,Tegra X1とまったく同じである可能性はほぼない。さらに内部のアーキテクチャにも手が入っている可能性がある。
 前述のEETIMESではピン数が少ないことをもって性能の低さとしているが,そもそもSoCというものは必要な電子回路を1チップでまとめるものなので,高度にカスタマイズされたものほどピン数は必要なくなるのが普通である。また,Tegra X1は自動運転などの本格的なComputer Visionを主眼としたSoCであり,カメラ制御などの機構を標準搭載しているが,Switchであればそういったものは不要だ(一部イメージ処理は行っているが)。最適化してゲーム機用のロジックを詰め込んでいると思われる。

 なお,Tegra X1にはFP16アクセラレーションが実装されているため,アーキテクチャ的に,最新のPascalとの差はさほど大きくないと考えている。仮にTegra X1をベースにしたMaxwellアーキテクチャのGPUコアだったとしても,PC用のMaxwellよりは少し進んだ内容となっているのだ。
 シリアルバスに関しては,ほぼ想定通りのものが実装されていると考えているが,目視では確認できないため,詳細は不明のままとなっている。また,搭載メモリはLPDDR4 4GBであった。

 GPUコアをMaxwellベースと仮定して性能をPS4と比べると,メモリ容量は半分,演算能力は4分の1程度と推測される(FP32時。FP16時は半分程度)。4分の1というとずいぶん大きな差に聞こえ,これではマルチ対応が難しいとの懸念も生じてくる。
 実際のところどうなのかをサードパーティにヒアリングしたところ,汎用エンジンで開発している中堅メーカーではまったく問題なく,性能をフルに使う傾向がある大手においても,小幅の手直しで対応可能との回答であった。AAA級のタイトルでも,フレームレートや内部解像度の低下,一部オブジェクトの削減程度で対応できるとしており,Wii Uに比べると工数は大幅に短縮できるようだ。WiiやWii U,3DSでマルチ対応が難しかったのは演算能力やメモリ容量というよりは,アーキテクチャが違うことによる壁が大きく,マルチ化のコストが増大してしまうことにあったと,エース経済研究所では考えている。Wiiは当時最新のプログラマブルシェーダを採用しておらず,Wii UのCPUは非主流のPowerPCアーキテクチャでGPUは他社と同じAMD製であってもGCNアーキテクチャ以前のものであり,3DSは特殊な固定シェーダを使っていたためと考えるのが妥当のようだ。
 とくに米国では,ハードの普及率がソフト対応の鍵になるケースが多い。任天堂がSwitchの供給を欧米優先としているのはこれが影響していると考えている。アーキテクチャ的な問題が小さい以上,今後はマルチタイトルも増えてくることになるのだろう。