ARはVR市場の未来であるのか?

VRの,没入性があり過ぎるほどの性質は商業的な可能性を制限しかねない。ARはその溝を埋められるテクノロジーになりえるのではないだろうか。

 今年に入ってコンシューマ向けに仮想現実(Virtual Reality/VR)の市場が本格的に立ち上がったが,この分野での多くの企業の好意的な予想や投資とは裏腹に,代替現実(Augmented Reality/AR)がそのお株を奪い去る勢いで急速に台頭している。

 先日,バルセロナで開催されたDICE Europeにおいて,Unity Technologiesのチーフ・マーケティング・オフィサーであるClive Downie氏が登壇し,一つの大胆な予想を行った。それは,10年以内には10億人もの人々が,VRコンテンツに日常的にアクセスするだろうというものであった。

10年以内にVRコンテンツに日常的にアクセスする10億人もの人々は,モバイルデバイスを使っているだろう
Clive Downie, Unity

 Downie氏は,現在のVR市場は「失望のギャップの中」にいると認識しており,インストールベースとコンテンツの双方で不足気味であるものの,「まだまだ我々が消費者に約束したコンテンツ内容からはほど遠い」として改善の余地が高いと話す。いずれにせよ,VRスペースで権勢を誇るUnityにとっては,このテクノロジーがいずれ世界に大きな影響を与えることになると100%確信しているようである。

 「モバイルデバイスは,我々を今まで以上に近づけてくれます」というDownie氏は,続けて「素晴らしい機器であるViveやRiftにケチを付けるつもりはないのですが,現実的にいって,モバイルデバイスは今後も中核的なプラットフォームになっていくはずです。私が先に言ったことに注釈しておくと,「10年以内にVRコンテンツに日常的にアクセスする10億人もの人々は,モバイルデバイスを使っているだろう」ということです。

 Downie氏はまた,今年5月にアナウンスされたGoogleのDaydream(関連記事)のようなイニシアチブが,その10億人という数字を達成するための大きなカギになると話す。もちろん,これにはモバイル向けのさらに洗練されたVRコンロトーラが登場するという前提も必要となるが,Googleのような企業規模とAndroidの持つエコシステムの大きさという二つの武器があってこそ,大異変が起こりえるというわけだ。もし,Androidプレイヤーが5年に1度だけデバイスを買い替えていくというだけでも,10年後には10億人がDaydreamに対応できていると論じる。「これはVR市場にとって大きなことなのです。Daydreamは大きな変革をもたらします」とDownie氏は話した。

 VRの熱狂的な信奉者としてDICE Europeに登壇したのはDownie氏だけではなかったが,その中でもDownie氏の楽観的な視点とは真逆の意見を述べていたのが,モバイルアプリの開発メーカーであるFlaregamesのCEO,Klaas Kersting氏で,VR市場は日に日にニッチな市場に近づいていると語る。「VRは非常に没入性の高いものですが,それがゆえにソーシャル性を導き出しにくいのです」というKersting氏は,「何かを頭に被って,自分の周囲の世界をすべて遮断してしまうというのか,こうしたVRデバイスの持つ致命傷でもあるのです。どんなに小さく,服装の一部として取り込まれようとも,その致命的な没入性から逃れられるものではありません」と続けた。

VRは人を体験に引きずり込み閉じ込めます。それは本当にクールなものなのですが,おそらくはずっと低い商業的関心しか得られないでしょう
Tim Cook, Apple

 また,Kersting氏は,「誰も重たいデバイスを頭に付けて動き回りたくないですし,もちろんそれは技術的には改善されていくとはいえ,解決するのにはかなり長い時間を要するはずです。それが多くの消費者広く利用されるようになるのは,我々が思うよりもさらに長い時間がかかるわけです」と話していたが,これはDownie氏の意見と同調する部分があり,少なくともVRデバイスが進化し続けている間は,スマートフォンがさらに魅力的なデバイスとしてのクオリティの高さを保ち続けるというわけだ。OtherWorld InteractiveのAndrew Goldstein氏は,今年7月に開催されたConnect USA(英語関連記事)の際に,「モバイルVRは,モバイルデバイスである以前にVRデバイスです。少なくとも私が遊んでみるとスマホゲームではなく,VRゲームであるという感覚になります。スマートフォンで遊んでいるのではなくRiftのような体験に近いのではないのでしょうか」と語ったが,いずれにせよ公平に質問を投げかけてみると,10億人のDaydream対応スマートフォン機種のプレイヤーが,どれだけVRの世界に引き込まれていくのかというのが大きな前提になるであろう。

 Kersting氏はVRの特性を否定的に見ている一方で,もう一つの新たに台頭するテクノロジーについては好意的に考えているようだ。彼は「もう一つの没入性の高い新しいテクノロジーとして,現実世界とゲーム世界を混合するもの,ARレンズやARグラスのようなものに期待できると思います」とも語っているのだ。

 ARデバイスがVRヘッドセットを淘汰していくという予想は以前から提示されていたことであり,例えば今年のChinaJoy(英語関連記事)で多くの観衆の前に登壇したEpic GamesのTim Sweeney氏は,「ARは我々の世代では最大の技術革命になるだろう」と予言している。Sweeney氏であれば,ARデバイスが要求するすべての進化を遂げる前に,VRテクノロジーがどれだけの余力を残しているのかも予想できるのだろうか。そうすれば,RiftやVive,Gear VR,そしてDaydreamなどのVRヘッドセットのメーカーが,Kersting氏が述べるようなソーシャル性や行動学的な障壁を乗り越えようという無駄な努力をする必要を減らすこともできるだろう。例えばARテクノロジーを柱にするスタートアップ企業のMagic Leapは,VRとARの交代時期が5年でやってくると考えているのだ(英語関連記事)。

ARは遥かに興味深く将来性のある方向です。技術的にも,人間の文化という意味においても
John Hanke, Niantic

 こうして見渡すと,VRからARへの転換は業界においては一般的な視点であると言えるのではないだろうか。先日,AppleのCEOであるTim Cook氏はテレビ報道番組のGood Morning America(英語外部リンク)に出演し,ARテクノロジーについて「双方のテクノロジーを比べると,どちらに将来性があるかは明らかだ」と話し,その理由として「VRテクノロジーはプレイヤーを囲い込んで没入性を高めるという非常にユニークな体験を与えてくれるが,長期的な商業的興味を考えるのは難しい。それほど多くの人の関心は引き付けられないだろう」と,Kersting氏と同じようなことを挙げていた。

 さらにNianticのJohn Hanke氏も,ARテクノロジーが最終的な勝者になるとオープンに語る論者の1人であり,Recode Podcast(英語外部リンク)において,「ARは遥かに興味深く将来性のある方向です。技術的にも,人間の文化という意味においても」と語っており,「VRの状態では,プレイヤーは自分をほかの人から孤立することで楽しめるのであり,現実を強化することをデザインの目的とするARとは大きく異なるものです。ショッピングの途中でもゲームをしていても,単にコンテンツを楽しむだけでも,外に出てほかの人と共有できるのです」とし,「ARは我々の生活を豊かにしてくれるものなのです」と結んでいた。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら